「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」は、ニコンとしては初となる開放F1.2の明るさを持つ大口径・広角単焦点レンズ。美しいボケと広角表現の両方を楽しめるのが特徴だ。ここでは、主にポートレート撮影を通じて感じた、本レンズの魅力に迫りたい。
フルサイズミラーレスカメラ「Z8」に「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」を装着。本レンズにはレンズフード「HB-110」やレンズケース「CL-C2」が付属する
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影。アクティブD-ライティング:しない、ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:する、美肌効果:しない、人物印象調整:しないに設定しています。
「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」は、すぐれた光学性能を誇る「S-Line」シリーズの広角単焦点レンズ。もちろんフルサイズ対応で、F1.2という明るい開放絞り値が最大の特徴だ。ニコンはこれまで「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」と2本のF1.2レンズをラインアップしてきたが、ここに「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」が加わった格好だ。
サイズは約90(最大径)×150mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで)で、重量は約1060gと1kgを超える。正直、かさばるし重いわけだが、それに値する高スペックモデルということだろう。使う前から期待が高まる
本レンズにはカスタマイズ可能な2つのL-Fnボタンやコントロールリングが搭載されていて、このあたりは「S-Line」らしいところ。レンズ先端でリングに見える部位は滑り止めのゴムになっている
本レンズは開放F1.2という明るさにまず目が行くが、やはりこれを35mmという広角域で利用できることに大きな魅力がある。滑らかで美しいボケを取り込みながら、流れるような奥行き感を演出できるのだ。被写界深度の深い印象が根強い広角表現では、このやわらかい描写は既存のイメージを覆す非常に有効なスペックと言えるだろう。
明るい広角単焦点レンズは気軽に前後ボケを演出できる。本レンズはピントの合った部分はしっかりシャープで解像感がある。やわらかい部分とのメリハリが、広角表現では効果的な立体感を生む。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/6400秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(8256×5504、17.5MB)
ポートレートでは標準から中望遠域の焦点距離を利用することが多く、それゆえ広角域をうまく活用できると圧倒的にバリエーションが増える。
広角レンズを利用する際に、まずポイントになるのが寄り引きだ。ポートレートでは“寄り”を意識することで、総じて入り込む背景量が増えダイナミックな描写になる。遠近感を強調した画作りも魅力だ。
また、35mmという焦点距離はポートレート撮影では非常に扱いやすい。広角すぎないから、人物と周囲の要素をバランスよく配置できる。
ローポジションから狙った。ここでは広く情景を取り込むことで街の様子をしっかり描写。絞りを開き、人物をしっかり浮き上がらせた。開放F1.2だからこそできる表現だ。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/26000秒、ISO100、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
撮影写真(5504×8256、19.6MB)
標準域で撮っているような感覚でモデルを膝上で切り取った。周囲の入り方も広く、ダイナミックな描写になった。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/13000秒、ISO100、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
撮影写真(8256×5504、19.0MB)
ぐっと近づき撮影。広角域で寄ると臨場感が出る。本レンズの最大撮影倍率は0.2倍だが、思いどおりに寄れている印象だ。背景の入り込む範囲が広く、顔もデフォルメされやや細く見えている。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.3、1/2500秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
奥から手前に伸びる路側帯の白線がぐっと伸びて強調され、ダイナミックな描写に。こうした表現も広角域だからこそ可能だ。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/2500秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
寄り引きを意識することで、たった1本の広角単焦点レンズでもさまざまなバリエーションで撮影できる。広角っぽさを強調してみたり、標準や中望遠っぽく切り取ることができるのだ。これは35mmという絶妙な焦点距離だからこそ成せる技であることも強調しておきたい。
ここでは、改めて本レンズの開放F1.2の描写力に関して見てみよう。以下に掲載する作例はF1.2で撮ったものだが、引き気味のバストアップでも、奥行きのある背景を選ぶことでこれだけ大きな背景ぼけを演出できる。そして、注目したいのがピントの合った部分の解像感だ。瞳部分が非常にシャープで印象的。ねむさもにじみも見られない。このあたりはさすがといったところだろう。
奥行きのある背景で撮影。35mmならではの開放感がある。ちなみに、今回の撮影ではヴィネットコントロールを「標準」にしているが、絞り開放時の周辺減光がほどよく自然で人物を引き立てている。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/3200秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
本来広角域はボケが演出しにくい。しかし、本レンズであれば、前ボケも自分の思いどおりに表現できる。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/1250秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
人物に寄ったことで、背後のボケが大きくなっている場面。柵に光が反射し、美しい玉ボケを取り込むことができた。35mmの広角域でもこれだけ浅い被写界深度を実現できるのはすばらしい。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/3200秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
逆光下で撮影したが、周辺部まで画像は鮮明で美しい。本レンズは逆光耐性にもすぐれている。レンズや鏡筒機構部品の形状を最適化し、有害な光の反射も排除している。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/5000秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
動きながら撮影した。当然ながら、AF性能もすぐれていてストレスがない。ここまでの作例すべてに言えるが、カメラ側の瞳AFと連動して、絞り開放でも安定してピントを瞳や顔に合わせ続けてくれている(サングラスの際は、サングラスにピントをしっかり合わせてくれた)。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/6400秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
ちなみに、ポートレートでは背後に入り込む要素によって、人物の見え方が大きく変化する。広角域35mmの場合、余計なものも背後に入り込みやすく、その分構図は難しくなるのだが、本レンズはF1.2まで開ける。そのため、煩雑で主題の存在感を削ぐような背景があっても、ぼかしていくことでこれを軽減、または排除できる。広角域だからこそ、レンズは明るいほうが利便性は高まるのだ。
また、撮影時は晴れていてF1.2という開放絞り値は使いづらい状況だった。しかし「Z8」が1/32000秒までの電子シャッターに対応していたことで、自分好みの描写が難なく気軽に実践できたことは重要なポイントだった。
本レンズは、街中のスナップレンズとしても有効だ。ここでも寄り引きがポイントになる。引けば、建物や自然風景などは広くダイナミックに描写できるし、寄れば、ぼけを利用したやわらかい表現も楽しめる。
絞り値F8で撮影。全体的に高解像ですばらしい。35mmだと手前から奥までF8でも十分全体にピントを合わせてシャープに撮れる。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F8、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(5504×8256、26.4MB)
寄り引きの仕方で、標準レンズっぽい画角を演出できるのも35mmの魅力だ。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F5、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(8256×5504、30.2MB)
ぐっと被写体に近づくことで、35mmならではの独特の遠近感とともにボケを表現できる。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/4000秒、ISO100、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:風景
撮影写真(8256×5504、16.4MB)
本レンズの最小絞り値F16で撮影。正直、あまり使う機会のない数値だが、輪郭部の小絞りぼけも最小限に抑えられている印象だ。
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F16、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(8256×5504、25.9MB)
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.3、1/4000秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/1250秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
撮影写真(8256×5504、14.7MB)
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/1600秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F1.2、1/8000秒、ISO100、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(8256×5504、16.4MB)
Z8、NIKKOR Z 35mm f/1.2 S、F5.6、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:AUTO1、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(8256×5504、22.2MB)
「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」のレビューをしてきたがいかがだっただろうか。搭載スペックは文句の付けどころがなく、真にすぐれた1本となっていた。
気になる点としては、やはりその価格と携行性だろうか。価格的には393,880円(税込、4月17日現在の価格.com最安価格)となっていて、前述のように重量は1kgを超える。
しかし、たとえば本レンズをポートレートレンズと考えた場合、先にリリースされている「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」や「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」と組み合わせることで、非常に充実したポートレート撮影が実践できるようになる。価格も携行性も、作り出せる画を考えれば順当だろう。そういった意味では、本レンズはほかのレンズ群との組み合わせ方によって、その価値が大きく変化する気がした。「NIKKOR Z 35mm f/1.2 S」を用いるからこそ引き出せる個性は必ずあると思った次第だ。
モデル migiwa