ソニー「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」は、焦点距離800mmをカバーする、Eマウント用のフルサイズ対応・超望遠ズームレンズ。2025年5月1日時点での価格.com最安価格は32万円台(税込)です。この価格に納得できる性能があるのなら、超望遠を求めるソニーユーザーにとって、まさに“買い”の1本と言えるでしょう。今回は、そんな本レンズの実力を探っていきたいと思います。
フラッグシップミラーレスカメラ「α1 II」と組み合わせて「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」をテストしました
まずは、「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」のサイズ感を見てみましょう。
本レンズのサイズは119.8(最大径)×346(全長)mmで、重量は約2475g。焦点距離800mm対応の超望遠ズームレンズですので、相応の大きさと重さではあります。800mmの超望遠ズームではキヤノンの「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」(最大径102.3×全長314.1mm、2050g)が先行して発売されていますが、少なくともそれよりは大きくて重いということになります。
相応のサイズ感ではありますが、実際に見てみると思ったよりもコンパクトであることに気づきます
しかし、本レンズはインナーズーム方式を採用しており、広角端の開放絞り値はF8とこのクラスとしては比較的明るめに設定されています。インナーズーム方式はズームしてもレンズの全長が変わらないため、なにかと扱いやすさを感じますよね。また、本レンズは重量バランスがよいので、頑張れば手持ちでも案外撮影できてしまいます。望遠端800mmの超望遠ズームとしては、コンパクトに設計されていると考えてよいでしょう。
ズームリングに施された400mmから800mmの指標。これを見ただけでもワクワクしてしまいます
本レンズは、ソニーの最高峰「G Masterレンズ」に匹敵するような、充実の操作系が備えられていることも大きな特徴です。
鏡胴側面のスイッチ類は豊富に取り揃えられており、「フォーカスモードスイッチ」「フルタイムDMFスイッチ」「フォーカスレンジリミッター」「手ブレ補正スイッチ」「手ブレ補正モードスイッチ」と6種類もあります。このうち「フルタイムDMFスイッチ」は、コンセプトのよく似た超望遠ズーム「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」には非搭載だったもの。オンにすることでAF時でもフォーカスリングを操作できるようになります。
非常に多彩なスイッチ類。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」では非搭載だった「フルタイムDMFスイッチ」が追加されました
超望遠ズームらしく鏡胴の上下と左横の計3か所に「フォーカスホールドボタン」を装備。フォーカスホールド以外にも、好みでさまざまな機能を割り当てることができます。
3か所の「フォーカスホールドボタン」は、縦位置でも横位置でも押しやすい位置に装備されています
見るからに分割して取り外せそうな三脚座なのですが、実際には完全に固定されていて取り外すことはできません。しかしその分、三脚座としての剛性感は高く、実際に三脚に固定して撮影してみても、確かな安定性を感じることができます。また、三脚座を鏡胴の上側に回すことができますので、手持ち撮影の際にじゃまになることもありません。
超望遠レンズで重要な三脚座は剛性が高く、三脚に固定した際にしっかりとした安定感が得られます
付属のレンズフードにも注目です。「Gレンズ」のフードは「G Masterレンズ」に比べてランクが劣るものが多いという印象でしたが、本レンズには立派なフード(ALC-SH181)が同梱されています。
もしかしたら「Gレンズ」のレンズフードとしては初でないでしょうか? レンズ本体にフードをしっかり装着できるロックボタンが装備されています。さらに、PLフィルターや可変式のNDフィルターを調整するための、フィルター窓もしっかり装備。これでバッチがオレンジ色なら誰も「G Masterレンズ」と区別がつかないでしょう。
付属のレンズフードは「G Master」並みの立派さ!
ロックボタンを装備しています!
望遠レンズではありがたい、フィルター窓まで備えられています
操作性や剛性については従来の「Gレンズ」を上回り、「G Masterレンズ」に迫るほどの本レンズですが、肝心の描写性能、特に解像性能はいかほどの実力があるのでしょうか。確認してみたいと思います。
広角端400mmの絞り開放F6.3で撮影しました。望遠域での撮影のため背景がそれなりにボケていますが、合焦部分を確認してみると、非常に高い解像感を示していることがわかります。そのすばらしさは、明確に比較したわけではないものの、「G Master」の単焦点レンズ「FE 600mm F4 GM OSS」と比べてもほとんど遜色がないといった印象です。
しかし、被写界深度から少し離れたところのボケ具合はちょっと乱れ気味……。高い解像感を提供してくれてはいるものの、こうしたところは「G Masterレンズ」に、あるいは単焦点レンズに及ばない部分だなと感じました。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、400mm、F6.3、1/250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、14.1MB)
続いて、望遠端800mmの絞り開放F8で撮影しました。画像を確認すると、これまた「おお! 『G Masterレンズ』に勝るとも劣らぬ高い解像感」となるのですからすばらしい結果です。ただし、望遠端においてもボケについては単焦点「G Masterレンズ」に及ばず、やや自然なボケ味とは離れてしまうものでした。そうはいっても十分にハイレベルな画質であることに違いはありません。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、12.8MB)
AF性能については、リニアモーターを2基搭載ということで試用前から期待はしていました。カワセミの動きをとらえようと撮影に出かけた結果、期待を上回るすばらしい性能を確認できました。カワセミを画面内に入れることさえできれば、非常に素早く合焦くれるうえに、その後も安定してピントを合わせ続けてくれたのです。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8、1/3200秒、ISO10000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、14.9MB)
以下の作例は、水中から飛び出したばかりのカワセミを撮影したもの。シャッターを押して1コマ目の画像です。後ろ向きで飛び出したことと捕食に失敗していたことは残念でしたが、突然に飛び出してくるような被写体にも、素早くピントを合わせられることがよくわかるのではないかと思います。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8、1/3200秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、15.3MB)
今回組み合わせた「α1 II」や「α9 III」にはプリ撮影機能が搭載されているため、鳥の飛びたつ瞬間のようなシーンでも本レンズは活躍してくれます。AF速度が速いので一瞬の動きによく反応してくれるためです。以下の作例は、飛び立った瞬間のカワセミをプリ撮影で押さえたものです。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8.0、1/2000秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、12.4MB)
本レンズは、ありがたいことに純正のテレコンバーターに対応しています。1.4倍の「SEL14TC」装着時は1120mm、と2倍の「SEL20TC」装着時は1600mmまで焦点距離を拡張でき、遠くの小さな被写体をさらに大きく写せます。
「SEL14TC」を装着すると焦点距離は最大1120mmに。開放絞り値は1段暗いF11になります
「SEL20TC」を装着したときの焦点距離はなんと最大1600mm! ただし、開放絞り値は2段暗いF16にまで落ち込んでしまいます
以下で、レンズ単体、「SEL14TC」装着時、「SEL20TC」装着時それぞれの望遠端で撮影した作例を見てみましょう。
まずは、テレコンバーターなしの焦点距離800mmでカワセミを撮ってみました。いくら超望遠800mmとはいっても、被写体が小さくかつ遠くにいる場合は「さすがに小さくしか写せないな」などと思ってしまいます。野鳥撮影は意中の鳥にこちらから近づくのではなく、相手がこちらに近づいてくるのをひたすら待つのが本道だと言いますが、現実的にそれはなかなか難しいものです。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8、1/250秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、10.0MB)
「SEL14TC」を装着してみたところ、少し大きく写すことができました(撮影距離はほとんど同じ条件です)。しかしこの「少し大きく」が、遠くのものを少しでも大きく写したいときに、撮影者は大きなありがたみを感じるというものです。開放絞り値がF11はハッキリ言って暗いですが、このくらいなら直射光条件下でしたらなんとか動く被写体にも対応できそうです。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、1120mm(「SEL14TC」使用)、F11、1/160秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、9.8MB)
「SEL20TC」を装着して撮影してみました。しっかり大きく写せます。「やったぜ!」と思いたいところですが、1600mmともなると画面に被写体を収めるだけでひと苦労。おまけにわずかな振動で写真がブレてしまいますので、大型の三脚と雲台の使用は必須になります。
開放絞り値がF16と暗いこともあって、リモートコマンダーやスマートフォン用のアプリ(Imaging Edge Mobile)などを使い、リモート撮影を行うことも頭に入れておいたほうがよいかもしれません。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、1600mm(「SEL20TC」使用)、F16、1/60秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、10.0MB)
何ということもないキジバトを写した写真ではありますが、本レンズの描写性能の高さがよく表れていると感じて掲載します。超望遠ズームらしからぬ描写性能は確かなもので、背景ボケのなかに狙った被写体をクッキリと浮き上がらせてくれています。「G Master レンズ」に勝るとも劣らないすぐれた解像感こそが本レンズの醍醐味と言えるでしょう。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F8、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、9.9MB)
いっぽうで、最短撮影距離で本レンズを運用しようとすると、普段接写ではあまり使わない焦点距離だけに距離の取り方に四苦八苦してしまいます。本レンズの最短撮影距離は、広角端が1.7mで、望遠端が3.5mと長いワーキングディスタンスを必要とするだけに、一般的な使い方だと「え!? 思ったよりも被写体に近づけない」となってしまうかもしれません。
しかし、最大撮影倍率は0.23倍と実用的な性能を有しています。ちなみに広角端400mmのほうが撮影倍率は高いようですので、近いものを大きく写したいなら広角端が有利です。そのあたり、実際の使用感が考慮されているようですね。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、400mm、F6.3、1/250秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、8.7MB)
以下の作例は、動物園でフラミンゴを撮影したもの。簡単に撮れそうに思えますが、実際は楽しんでいるご家族や、ほかの撮影者のじゃまをしないように遠巻きで撮影しなければならないことが多いです。そんな時に威力を発揮してくれるのが、本レンズの望遠端800mmという超望遠域。この作例は手持ちで撮影していますが、高性能な手ブレ補正効果のおかげで、一般的に言われる「焦点距離分の1秒」という低速シャッター速度限界を超えた1/200秒というシャッタースピードでもブレなく撮ることができました。すぐれた手ブレ補正機能にはエールを送りたいところです。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、800mm、F11、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、10.9MB)
以下の作例は、広角端400mmで接写しています(ただし最短撮影距離ではありません)。広角端が400mmから始まるだけに、ファインダーを覗いたときの普段とは違う画角の違いに手間取ってしまうかもしれませんが、そこはズームレンズですので自由に画角と構図を決めればよいと思います。
α1 II、FE 400-800mm F6.3-8 G OSS、1600mm、F9、1/160秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(8640×5760、8.2MB)
「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」を試用してみて印象に残ったのは、結果として望遠端の800mmと広角端の400mmばかりを使っていたということ。普段、ズームレンズを使うときには、レンズの中間域も使いましょうと啓蒙しているつもりの筆者にとっては反省すべきところでした。
400mmから800mmというのは、これまでに体験したことがない焦点距離域だったため、正直なところ、少しとまどってしまうところがありました。しかし、ミラーレスが一般的となって、超望遠での撮影がより身近になってきているのは事実。我々は、今までになかった焦点距離域での撮影に慣れなければならないときに差しかかっているのかもしれませんね。
そんな思いで価格.comを検索してみたら、最安価格は32万円台(2025年5月1日時点)となっていました。「あれ? 800mm対応のフルサイズレンズとしては(高いけど)意外に安い!」というのが正直な感想です。実際には撮影対象を選ぶところはありますが、「フルサイズでの超望遠の夢」を叶えてくれる ”僕らの” 超望遠ズームこそが本レンズなのではないかと思いました。