注目製品○×レビュー

キヤノン「EOS 7D Mark II」 ― 話題のハイスペックAPS-C機に弱点はある? ―

APS-Cサイズのセンサーを搭載するデジタル一眼レフとしては久しぶりの超注目モデルとなるキヤノン「EOS 7D Mark II」が、2014年10月30日に発売となった。高性能オートフォーカス&高速連写を実現したハイスペックカメラで、発売前から話題性が高く、予約が殺到。発売から3週間程度が経過したが、まだ手に入りにくい状況が続いている。11月21日時点の価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの売れ筋ランキング、注目ランキングを見ると、両ランキングで1位をキープしており、今後もこの高い人気は継続しそうだ。ここでは、この話題のカメラを試用してみたうえで、○(いいところ)と×(気になるところ)をレビューしたい。

なお、EOS 7D Mark IIの特徴は、製品発表時の新製品レポート『キヤノン「EOS 7D Mark II」誕生!“IMAGE MONSTER”が飛躍的に進化!』をご確認いただきたい。

発売前から話題を集めていたEOS 7D Mark II。ボディサイズは148.6(幅)×112.4(高さ)×78.2(奥行)mmで、重量は約910g(CIPAガイドライン)/約820g(ボディのみ)

ストラップ取り付け部やバッテリカバー、外装カバー合わせなどに従来比で約4倍の個数となる部材を再設定し、防塵・防滴性能を強化している

○(いいところ)
高性能オートフォーカス&高速連写を実現し、動体撮影に強い

・ワイドエリアなオートフォーカスが便利。追従性も高い
・専用レバーでエリア選択モードをダイレクトに変更できる
・約10コマ/秒のクラス最高レベルの高速連写を実現
・シャッターフィーリングがよく、操作感にすぐれる

EOS 7D Mark IIは非常に見どころの多いデジタル一眼レフだが、使ってみて、このカメラの最大の特徴となるのは、オートフォーカス性能の高さだと実感した。2014年11月21日現在、専用位相差AFセンサーを搭載するデジタル一眼レフとしてもっとも多い測距点となる65点の新開発オートフォーカスシステムを採用している。65点すべてがオールクロス仕様(F5.6光束対応)で、中央1点はF2.8とF5.6光束対応クロス測距(デュアルクロス測距)の高性能センサーだ。中央1点は、EOS 6Dと並んでEOSシリーズ最高スペックとなる「EV-3」(開放F2.8レンズ装着時)の低照度限界を実現しているほか、開放F8に対応しており、エクステンダー装着時に開放F8になる場合でもクロス測距が可能だ。測距点の数だけで比較すれば、61点測距システムを採用するフラッグシップモデルEOS-1D XやEOS 5D Mark IIIを超えるシステムになっている。

ただし、デュアルクロス測距の数(EOS 7D Mark IIは1点、EOS-1D XとEOS 5D Mark IIIは中央部5点)や、F4対応+F5.6対応クロス測距の数(EOS-1D XとEOS 5D Mark IIIは20点)などの基本性能を比較すると、さすがにEOS-1D X、EOS 5D Mark IIIを完全に超えるシステムとは言いがたい。EOS 7D Mark IIでポイントとなるのは、オートフォーカスが可能なエリアの広さだ。オートフォーカスの画面カバー率に関しては、APS-Cセンサーを採用するEOS 7D Mark IIのほうが、35mmフルサイズセンサー採用のEOS-1D XやEOS 5D Mark IIIよりも有利。EOS 7D Mark IIでは、ファインダーの周辺に近いところでも、オートフォーカス撮影が可能となっている。これが、これまでのキヤノン製のAPS-Cデジタル一眼レフにはなかった部分。ライバルとなるニコンでは、従来より、測距点の数が多く、広いエリアをカバーするオートフォーカスシステムを採用してきてたが、キヤノンでは、APS-Cデジタル一眼レフにおいては、これまで、測距点をひし形に配置する伝統的なシステムを継承してきた。EOS 7D Mark IIでは、この部分が見直され、画面の中央だけでなく、より広いエリアでオートフォーカスを利用できるようになったのだ。

EOS 7D Mark IIのファインダー内を撮影した画像(※ファインダー内をデジカメで撮影したものになります。実際のファインダーの表示をそのまま撮影できているわけではありません)。65点のすべてがオールクロス仕様のオートフォーカスシステムで、ファインダーの広いエリアでオートフォーカスを利用できる

EOS-1D Xのオートフォーカスシステムとの比較。測距可能エリアは、EOS 7D Mark IIが約16.5×6.4mmで、EOS-1D Xが約18.0×8.0mmだが、APS-Cセンサーを採用するEOS 7D Mark IIは、35mmフルサイズセンサーを採用するEOS-1D Xと比べて、ファインダー内のAFエリアのカバー率が広くなる

EOS-1D Xと同様、最新の「AIサーボAF III」を採用。EOS-1D Xとは設定項目が少し異なるが、AIサーボAFの特性をカスタマイズできる

オートフォーカスに関する細かい設定も調整できるようになっている

オートフォーカスに関する細かい設定も調整できるようになっている

さらに、EOS 7D Mark IIは、オートフォーカス性能の高さに加えて、より高速な連写に対応するのも見逃せない。EOS-1D Xの最高約12コマ/秒(AF・AE固定であれば最高約14コマ/秒)にはかなわないが、従来のフラッグシップEOS-1D Mark IVに匹敵する最高約10コマ/秒の連写が可能となっている。これは、EOSシリーズの現行ラインアップにおいて、EOS-1D Xに次ぐスペックとなっている。連続撮影可能枚数も、JPEGで約1090枚、RAWで約31枚、RAW+JPEGで約19枚(UDMA7対応CFカード使用時)と多く、連写が継続するのもポイント。従来モデルEOS 7Dの最高約8コマ/秒(JPEG約130枚、RAW約25枚、RAW+JPEG約17枚、UDMA対応128GB CFカード使用時)、下位モデルEOS 70Dの最高約7コマ/秒(JPEG約65枚、RAW約16枚、RAW+JPEG約8枚、UHS-I対応8GB SDカード使用時)を大きく上回る連写性能となっている。

最高約10コマ/秒の高速連写を実現。連写のコマ数を変えることも可能

最高約10コマ/秒の高速連写を実現。連写のコマ数を変えることも可能

今回、飛行機や電車といった動体撮影でEOS 7D Mark IIのテストを行った。オートフォーカスについては、使用するレンズにもよるのだが、初動が速く、追従性も高い。ピントが外れた後の復帰も速く、総じて非常に高性能なシステムになっている。撮り方にもよると思うが、オートフォーカスのカバーエリアの広さは、動きの速い動体を撮影する場合に威力を発揮する。サーボAF(AIサーボAF III)での被写体追従が画面周辺まで粘ってくれるので、被写体を見失うことが少なく、動きに対してあわてることなく撮影を続けられる。画面の中央で被写体を追う場合に比べて、AFロックからのフレーミング、構図決定をよりすばやく行えるイメージだ(AFロックの使用頻度も減るイメージ)。追従しながらのフレーミングがしやすく、シャッターをすばやく切ることができる。少なくとも、従来モデルEOS 7Dと比べると、動体撮影でのオートフォーカスは格段に使いやすくなっている。レリーズタイムラグも、EOSシリーズのAPS-Cモデルとして初めて、フラッグシップEOS-1Dシリーズと同じ約55msを実現しており、レスポンスにもすぐれる。

また、背面に新設された専用レバーの操作で、オートフォーカスのエリア選択モードをダイレクトに変更できるのも、思った以上に便利だった(※初期設定では、AFフレーム選択ボタンを押してからの操作となる)。ポイントは、専用レバーがマルチコントローラーと同軸に配置されていること。レバーでのモード変更と、マルチコントローラーでのエリア変更を右手親指のみでスムーズに行うことができるのだ。「構図が決まっているのでオートフォーカスのエリアを絞りたい」「不規則な動きをする被写体なので広いエリアで追従したい」「暗いシーンなのでもっとも高性能な中央1点でピントを合わせたい」といったように、撮り方に合わせてオートフォーカスのモードとエリアを変えたい場合に、よりスムーズに操作・変更できるようになっている。

このほか、EOS 7D Mark IIでは、シャッター音が軽くて静かなのも特徴。もう少し硬めの音が好みの方もいるとは思うが、高速連写時のシャッターフィーリングはとてもよい。視野率約100%のファインダーも見やすく、使ってみて操作フィーリングに不満は感じなかった。撮影モード、ホワイトバランス、ドライブモード、AF動作、測光モードなどあらゆる情報をファインダー内で確認できるようになっているのもポイントだ。

専用レバーでオートフォーカスのエリア選択モードをダイレクトに変更できるのが便利

専用レバーでオートフォーカスのエリア選択モードをダイレクトに変更できるのが便利

ファインダー内表示をすべてオンにした状態。EOSシリーズとして初めて透過型液晶デバイスを採用し、撮影情報の表示数が大幅にアップした

フォーカシングスクリーン(スーパープレシジョンマット)の交換に対応する

フォーカシングスクリーン(スーパープレシジョンマット)の交換に対応する

画質面では、撮像素子に、EOS 70Dと同画素になる有効約2020万画素のCMOSセンサー(APS-Cサイズ)を採用。EOS 7D Mark II用に設計された新開発センサーだ。映像エンジンには、EOSシリーズとして初めて「DIGIC 6」を採用(2基構成の「デュアルDIGIC 6」を採用)。感度は、静止画/動画ともに常用でISO100〜ISO16000に対応し、拡張で、静止画はISO25600相当(H1)とISO51200相当(H2)を、動画はISO25600相当(H1)を設定することもできる。

実際の画質は、次ページ以降をご確認いただきたいが、高感度については、細かいノイズをうまく処理して、シャープさを保つ傾向にあるようだ。粒の大きなノイズが少し残るのと、ISO1600あたりからダイナミックレンジが狭くなるのが気になるところだが、APS-C機の最新モデルとして納得のクオリティを実現している。EOS 70Dからの劇的な進化は感じられないかもしれないが、従来モデルのEOS 7Dからは大きな画質向上が感じられる。

静止画撮影時は最高でISO51200相当まで対応

静止画撮影時は最高でISO51200相当まで対応

オート感度の範囲や低速限界も設定できる

オート感度の範囲や低速限界も設定できる

ボディ内のレンズ光学補正は、歪曲収差補正を設定できるようになった

ボディ内のレンズ光学補正は、歪曲収差補正を設定できるようになった

フリッカーレス撮影機能を新たに搭載している

フリッカーレス撮影機能を新たに搭載している

×(気になるところ)
バッテリー性能がやや気になるものの、スペックではほぼ不満なし

・バッテリー性能がややもの足りない
・タッチパネル&可動式のモニターを採用してもよかったかも……

EOS 7D Mark IIは、マイナスポイントの少ない高性能なカメラだ。あえて気になる点をあげるとすると、それはバッテリー性能になる。撮影可能枚数は、容量が1800mAhから1865mAhにアップした付属の新バッテリーパック「LP-E6N」(従来のLP-E6と互換性あり)の使用で約670枚(常温、ファインダー撮影)。スペック的には申し分ないのだが、EOS 70Dの約920枚、EOS 7Dの約800枚(いずれも常温、ファインダー撮影)と比べると、連写性能がアップして短い時間での撮影枚数が増えることもあってか、EOS 7D Mark IIではバッテリーの減り方が速いように感じた。このカメラはバッテリーグリップを利用するニーズが高いので、バッテリーグリップ装着時はあまり気にならないかもしれないが、カメラのみで連写撮影を続けていると、バッテリーの減り方が速く感じるかもしれない。

これ以外の部分だと、液晶モニターがタッチパネル非対応で固定式なのも、ややもったいないと感じるところではある。さまざまな意見があるとは思うが、EOS 70Dと同様、センサーの画素が撮像と位相差AFの機能を兼ね備える「デュアルピクセルCMOS AF」の搭載によって、ライブビューでのオートフォーカスが速くなった。その点を考慮すると、EOS 70Dのようにタッチパネル対応で可動式のモニターのほうが、特に動画の撮影がやりやすくなる。ファインダーで動体撮影を行うことを重視したカメラであるため、こうした付加機能は必要ないのかもしれないが、使い方の幅を広げるという意味では、使ってみて「あってもよかったのでは」ないかと感じた。

撮影可能枚数は、新バッテリーパック「LP-E6N」の使用で約670枚(常温、ファインダー撮影)

撮影可能枚数は、新バッテリーパック「LP-E6N」の使用で約670枚(常温、ファインダー撮影)

約104万ドットで固定式の3.0型(3:2)液晶モニターを採用。メニュー周りの操作は、マルチコントローラーとサブ電子ダイヤルで行う

上面のボタンは、EOSシリーズの上位モデルらしく、1ボタン2機能の仕様(細かいところでは、ボタンに割り当てられている機能の表記が左右逆になった)

CFカード(タイプI準拠、UDMAモード7対応)/SDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC、UHS-I対応)のデュアルスロットを採用

まとめ

フラッグシップ機EOS-1D Xに迫るような高性能なオートフォーカスシステムと、クラス最高レベルとなる高速連写を実現したEOS 7D Mark IIは、飛行機、鉄道、鳥、スポーツなどの動体を撮影するのに適したデジタル一眼レフだ。キヤノンがEOS 7D Mark IIの商品カタログとして、総合カタログのほかに、「野鳥版」「鉄道版」「スポーツ版」「飛行機版」「野生動物版」「モータースポーツ版」といった被写体別のバリエーションを用意していることからも、このカメラが動体撮影をメインとして開発されたことが伝わるはずだ。2014年11月時点では、APS-Cデジタル一眼レフではライバルというライバルはいない。現時点では、最強スペックのAPS-Cデジタル一眼レフと言ってもいいだろう。

EOS 7D Mark IIのボディ単体の価格は、価格.com最安価格(2014年11月18日時点)で20万2,000円程度。2014年11月18日時点では、コンシューマー向けのAPS-Cデジタル一眼レフとしてもっとも高価な製品となっている。ただし、動体撮影用としてフル活用するのであれば、EOS-1D Xに迫るような高速性がこの価格で手に入るのはコストパフォーマンスが高いと感じるはずだ。いっぽう、風景やスナップ、テーブルフォトでの利用がメインなのであれば、EOS 6Dなどのフルサイズ機がもっと安く手に入る状況であることも考慮すると、APS-C機でこの価格は高く感じることだろう。

このカメラに価値を感じ、購入後の満足度が高くなるのは、やはり、高性能オートフォーカスと高速連写を求める、本格的な動体撮影を行っている方だろう。具体的には、EOS 7Dを持っていて後継機を(長い時間)待っていたのであれば、購入して損はないはずだ。EOS-1Dシリーズを所有している方であれば、サブ機として手に入れておきたいところである。

ここまでの高性能を持つカメラであると、EOS-1D Xとの性能の差が気になるという方もいることだろう。価格.comのクチコミ掲示板でも、EOS 7D Mark IIとEOS-1D Xを比較する書き込みが見られる。EOS-1D Xは価格.com最安価格で約52万円と、EOS 7D Mark IIと比べて約2.5倍高い。価格差に見合うかどうかは別にして、使い比べてみた限りでは、EOS 7D Mark IIとEOS-1D Xは、当たり前ではあるが、まったく違うカメラであると思う。EOS 7D Mark IIはAPS-C機の最高峰であり、EOS-1D XはEOSシリーズ全体の最高峰なのである。EOS-1D Xは、有効約1810万画素に抑えた35mmフルサイズセンサーを搭載し、高感度画質にすぐれているというだけでなく、操作性や堅牢性など、さまざまなところで作り込み度が高い。オートフォーカスも、EOS 7D Mark IIのようにワイドエリアではないが、中央に高密度に集まっており、しっかりとカメラで追えていれば、一度捉えた被写体を離さないという能力はEOS-1D Xのほうが高いと思う。現行ラインアップの中では、EOS 7D Mark IIは「EOS-1D Xにもっとも近いカメラ」と言ってもいいかもしれないが、トータルで見ると、プロフェッショナル向けのEOS-1D Xにはかなわないところがある。比べられること自体がすごいことなのだが、EOS 7D Mark IIは、あくまでも、ハイアマチュア向けの動体撮影カメラとして最高レベルの製品であると思う(もちろん、プロフェッショナル用途にも耐えられる性能であると思う)。

最後に、興味深いデータがあったので紹介しておきたい。価格.comでのEOS 7D Mark IIのライバルランキング(ライバルとして価格.com上で比較されている製品を示すデータ)をチェックしてみると、キヤノンではEOS 5D Mark III、EOS 6D、ニコンではD750、D810といった35mmフルサイズ機と比較しているユーザーが多いことがわかった。APS-C機ではEOS 70Dや旧モデルのEOS 7Dがその後に続いている。さらにその下に位置しているのがEOS 1D-Xだ。EOS 7D Mark IIの性能の比較対象としてEOS-1D Xはあがってくるものの、実際の購入時に比較しているのは、連写性能で劣るフルサイズ機が多いのである。ニコンからEOS 7D Mark IIの対抗馬となるモデルがまだ出ていない状況なので、他に比較するものがなく、価格帯で検索している方が多いのかもしれないが、これはちょっと意外な結果であった。

EOS 7D Mark IIの発売日の週(10/27週)でのライバルランキング。35mmフルサイズ機が上位に位置している

EOS 7D Mark IIの発売日の週(10/27週)でのライバルランキング。35mmフルサイズ機が上位に位置している

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