例えば、見渡す限り田んぼののどかな風景。例えば、大勢の人が行き交う渋谷の交差点。その時に感じた周囲の景色をそのまま写真に収めたい! と思ったことはありませんか? ところが、写真に撮れば、写るのはファインダー越しから見える景色だけ。その周りから感じる全体像を映し出すことはできません。
そんなカメラに対する物足りなさを感じている人にぴったりなカメラが……、あるんです! それは、リコーの「THETA(シータ)」というコンパクトデジタルカメラ。なんでもワンシャッターで上下左右ぐるりと360度の風景を撮影できてしまうのだそう。でも……、本当にそんなことが可能なの? 半信半疑で試してみることにしました。
ワンシャッターで、目の前に広がる風景を360度ぐるりと撮影できる新感覚なカメラ「RICOH THETA m15」
手にした「RICOH THETA m15」は、カメラというよりリモコン? なぜならファインダーも、撮った画像を見るモニターもないからです。こんなので本当に撮影ができるのでしょうか?
本体サイズは42(幅)×129(高さ)×22.8(奥行き)mm、質量は約95gとコンパクトで軽量。これなら毎日のお出かけにも持ち歩けそうですね。カラーはピンク、水色、黄色、白の4色展開。どれもかわいくて迷ってしまいます
なるほど、説明書を見て、その構造が分かりました。本体の両サイドから飛び出ている球体のレンズ。この魚眼レンズが、左右それぞれ180度強の風景を撮影し、それをリコー独自の技術によって内部で1つの画像に繋ぎ合わせて、360度の景色が再現できるというわけです。カメラ本体を見てもわかるように、“アレコレ考えず、まずはシャッターを押してみて!”といった感じで、操作は至って簡単。電源を入れて、シャッターボタンを押すだけです。しかも、構えや構図など考えなくても、とにかく360度写ってしまう。逆に写り込まないようにすることの方が大変かもしれません。
本体右サイドには操作ボタンが配置されています。上から電源ランプ、電源ボタン、無線ボタン、無線ランプの順に
本体底には、右からリセットボタン(小さな穴)、三脚穴、USB端子があります
充電する時は、付属のUSBケーブルでパソコンなどに接続して行います
画面に自分の手や顔を入れたくないという場合(360度撮影なのでどうしても入ってしまう)は、三脚を利用するとよいでしょう
とにかく軽くてコンパクトな本体。携帯電話を持つような感覚で、常にバッグに入れて持ち歩いても苦になりません。また、いかにもカメラという形ではないので、さりげなく撮影ができそうなのもよし。しかも、ワンシャッターで360度の世界が撮れてしまうのですから、「これはすごい!」と早くも興奮している筆者。どんな写真が撮れるのかワクワク!
……と、その前に1つやっておきたいことがあります。それはスマホやPCに専用アプリ(無料)をダウンロードしておくこと。シータは本体だけで撮影ができますが、従来のデジカメのように撮った写真をその場で見ることができません。写真を見るには、スマホやPCで専用のアプリをダウンロードし、アプリを使って閲覧・選択します。アプリ上で全球体をスワイプ、ピンチすることで、好きな角度から被写体を見ることができます。さらに、「RICOH THETA」の全天球画像の編集の特化したアプリ「THETA+」では、トリミングやフィルター(5種類)のほか、一定間隔で何度か撮影した全天球写真を組み合わせた「タイムラプス動画」の作成も可能になっています(2015年9月1日〜)。
なお、本体で撮影をすると360度すべてが写ってしまうため、自分自身も必ず写り込んでしまいます。それがイヤという人、または景色だけを楽しみたいという人は、本体を三脚などに設置し、スマホのアプリを使って離れた場所から撮影することができます。また、本体自体では撮影モードを設定することができませんが、アプリを通してシャッタースピードや露出調整をすることができます。というわけで、「シータとスマホは常にセットで使用」と思っていた方がいいでしょう。
日頃、デジカメやスマホのカメラで撮影することに慣れている筆者には、その点がちょっとめんどくさく感じてしまいました。できれば、本体で撮った写真をすぐに確認できるといいのに。でも、そうなると、多分今のコンパクトサイズはキープできなくなってしまうのでしょう。「シータとはこうやって使うものなのだ」と割り切って早く慣れてしまう方が賢明かもしれません。実際、使っていくうちにそれほど面倒には感じなくなりましたから。
シータで撮影した写真は、アプリからfacebookやTwitterなどのSNSへ投稿し、家族や友達と共有することもできます。受け取る側にアプリがなくても、SNSへのアップロード機能を使うと、自動的に専用サイトへのリンクが貼られ、リンクを通して誰でも画面を動かしながら見ることができます。
専用アプリ(無料)をダウンロードすればリモート撮影やマニュアル撮影が可能。離れた場所からの撮影もできます。撮った写真はWi-Fiを使って、スマホの画面で確認
撮った写真を見る時は、見たい画像をセレクト。指でクルクルさせながら、いろいろな角度から見た写真を楽しんで!
撮影する時はこの緑色の画面に。中央のシータマークがシャッターボタンで、その下の太陽マークで露出補正ができます。右へ動かすと明るく、左へ動かすと暗くなります
【作例:日本家屋を撮影】
まずは、いつも撮り慣れているわが家を撮影。縁側と和室の仕切り部分にカメラを固定させて撮影してみました。すると、いつもはまともに見ることもない天井などが写っていてとても新鮮!
【作例:昭和な市場を撮影】
駅前の市場にて。元々レトロな感じの場所なのですが、球体になるとさらに建物の隅々までがわかり、時代を感じさせます
「RICOH THETA m15」のおもしろさは、球体というカタチを楽しめるだけでなはく、これまで気がつかなかった風景の細部を知ることができること。例えばそれは、普段何気なく過ごしている家の天井の模様だったり、一緒にいる人の表情だったり……。その新鮮な気づきがワクワク感となって、“もっといろいろなものを撮りたい!”という気持ちにさせます。
大勢の人がいるところを撮影したら、一人ひとりはどんな動きをして、どんな表情をしているのだろう? 森の中を撮ってみたらどんな写真になるのだろう? 虫や小動物のような小さな生き物には、どんな景色が見えるのだろう? などアレコレ想像します。そして、実際に撮ってみると、「えーっ!? こんな風に写るんだ!」と驚くことがいっぱい。
【浴衣撮影イベントの様子を5分間隔でインターバル撮影】
手持ちで撮影すると、自分が入ってしまうので、今回も壁にクリップで固定させて撮影。5分間隔でインターバル撮影を設定し、自然な動きを捉えてみました。人がたくさん入っている写真を撮りたくて、ちょうど浴衣撮影イベント中の古民家におじゃますることに
【作例:「古民家で浴衣撮影イベント」を撮影】
被写体としては、人物がいる方が断然おもしろい! でも、画素数が低いため、画像がどうしても荒くなってしまうのが残念……。そこが改善できれば、単なる記念写真ではなく、作品づくりとして使用する人も増えるのでは?
【森の中で撮影してみる】
緑が気持ちいい箱根の森の木々の中で、自然を撮影してみることに
【作例:360°森!】
肉眼で見ても素晴らしい風景ですが、360度映し出すことでさらに神秘的な世界に
【シータを草むらに設置して、離れて覗いてみると】
虫や小動物などの小さい生き物たちはどんな世界が見えるのかな? と思い、シータを草むらに置いて、少し離れたところからスマホで撮影。端から見るとかなり怪しい人です(笑)
【作例:シータ目線】
人間から見ればちょっとした茂みが、ジャングルのように映し出されています!
【箱根神社の鳥居を撮ってみる】
芦ノ湖の湖畔にある箱根神社の鳥居を「RICOH THETA m15」で撮ってみる
【作例:芦ノ湖と鳥居】
鳥居がおもしろい形に! こういうシーンがシータ向きかも!
「これはおもしろい!」。「RICOH THETA m15」を使ってみた筆者の率直な感想です。なんせ被写体がぐるり360度すべて写ってしまうのですから! そんな高度な撮影をしてくれるのに、操作は至って簡単。しかも、カメラ本体は軽くてコンパクト。その上、筆者の大好きなピンク色もあります(笑)!
撮るごとに楽しく、新たな発見もある天球体カメラ。価格も3万円台(2015年9月1日現在/価格.com内)と買えない金額ではないので、我が家に1台あってもいいかなとかなり前向きに考えています。
ただ、いっぽうで進化を希望する点もいくつかアリ。まず、もう少し高画質にして欲しいこと。そして、暗い場所ではちょっとノイズも気になるし……。「RICOH THETA m15」で撮った写真は、写真としてはかなりユニークでおもしろいけれど、やはり画質については“もう一声!”という感は否めないので、どうしても記念写真レベルになってしまい、正直作品撮りにはキビシイ。せっかく創造性を豊かにするカメラなのだから、そのあたり、もう一歩踏み込んでもらえるといいのになぁ〜と思いました。
それと、気軽に持てるサイズ&軽さはいいけれど、レンズカバーがなかったり、ストラップが付いていなかったりと、扱いに気をつけなければならない点。別売りでストラップ用のアタッチメントが発売されていますが、三脚穴に取り付けるタイプのため、三脚を多用する筆者には「なんでここに付けるのよ?」とかなり疑問です。
そんなわけで、不満点もありますが、「それでもやっぱり欲しいかも!」と思ってしまうのは、撮っていて楽しいから。今後のバージョンアップを待つか、只今、買い時を検討中。
※追記※
2015年9月4日、「RICOH THETA(リコー・シータ)」の上位モデルとして、「RICOH THETA S」が発表されました(10月下旬より発売予定)。最大の進化点は、画像の高解像度化と、 転送速度の高速化(最大で約4倍)。スマートフォンやタブレットとのWi-Fi接続時に、ライブビュー表示が可能になりました(静止画撮影時のみ)。「RICOH THETA S」と「RICOH THETA m15」は併売となるそうです!