本格的な電気自動車時代の到来を前にして、古式ゆかしき内燃機関エンジンの味わいを少しでも多く噛みしめたいと願う自動車ライター、マリオ高野です。
今回は日本車史上最強の高性能を誇るスーパースポーツ、日産「GT-R」を紹介します。
高速巡航での圧倒的な走りっぷりは異次元レベル。クルマというより兵器に近いと感じる戦闘マシン感に浸れます
R35型と呼ばれる日産GT-R。
ごくごく簡単に歴史を振り返れば、2001年の東京モーターショーにコンセプトカーとして初めて出展。当時の日産の経営再建計画を象徴するプロジェクトのひとつとしてデビューしたのでした。日本市場に導入されることが発表されたのが2003年、市販車としての発売は2007年まで待つことになりましたが、満を持しての発売ということで性能は徹底的に煮詰められ、世界のスーパースポーツカーとの真っ向勝負で互角以上の速さを発揮。0-100km/h加速やサーキットのラップタイムなど、性能指標の多くの項目で、世界トップクラスの数値をマークしました。
その後改良を積み重ね、エンジンの最高出力はデビュー当時から90〜120馬力も向上。14年経った今もなお世界トップクラスの走行性能を誇り、限定車は高い倍率で抽選となるなど人気も衰え知らず。中古車相場は14年落ちの初期型でも500万円以上、高年式車では新車価格を超えるものもあり、名実ともに日本のスーパースポーツカーとして君臨しています。
エクステリアのデザインは、新鮮味こそないものの古くささを感じさせず、ほかのどのスーパーカーにも似ていない孤高の存在感が独自のオーラとして感じられるものがあります
最初のコンセプトカー時代から考えると20年も経っているというのに、クラシカルな感じがしないのはすごいことですね
前身モデルにあたるスカイラインらしさを継承したデザイン。このリヤビューも永遠に飽きのこない魅力があります
そんなR35型GT-Rに乗ってみると、衰え知らずの人気ぶりも即座に納得できる、トンでもないスーパーカーであることが実感できました。まず、やはりパワーユニットがとてつもなくすばらしい。エンジンの構成パーツや技術はレーシングカー用のものがふんだんに採用され、ただクルマを速く走らせることのみをひたすら追求した潔さが、今となっては痛快の極みです。
速く走るためだけに生み出された豪快にして精密に制御される巨大な爆発エネルギーを全身で感じつつ、4輪を介して地面に刻みつける感覚。現状の電動駆動ではまだ得られず、これがやがて失われるかもしれないものだと思うと、本当に貴重です。
レーシングカーで採用される技術を惜しみなく盛り込んだ珠玉のユニット
1機ごとに組み立てた職人の名前がプレートに刻まれます
インテリアもデビュー当初から戦闘マシンのコクピット感が演出されていたので、実際の戦闘機と同じく、14年程度では色あせて映ることはありません。革製品は職人の手作業により組み付けられます
本領を発揮させるには国際規格の大きなサーキットへ行くしかありませんが、とてつもない走行性能の何%かを静かに発揮するだけでも得られる猛烈な充実感がまたすごい。この14年でパワーアップしたと同時に、デビュー当初はやや物足りなかった官能性もすさまじく向上しています。
スーパースポーツカーとしては世界に先駆けて採用したデュアルクラッチも、変速フィールの洗練度が劇的に向上しています。いっぽうで、「R」モードに入れると相変わらずレーシングカー並みのダイレクト感が得られ、非日常マシン感を盛り上げる大きな要素に。
ミッションの走行モードの変化幅は非常に大きく、「R」モードでは動力系統のフィーリングがレーシングカー的にダイレクトなものとなります
あまりの高出力のため、ホイールやタイヤにも高い性能や耐久性が要求されます。性能に比例して、ブレーキパッドなど消耗品の交換費用も高額に
トランク内部の容量は315L。一般的なセダンと比較すると狭い部類に入りますが、スーパーカー級の中では広いほう。サイズにもよりますが、ゴルフバッグ2本がギリギリ詰めます
ある程度のノイズ侵入は許してしまいますが、BOSE製高性能オーディオの音質をじゃまするほどではありません。
1.8トンに迫る大きな車重により、街乗りでは重戦車のような感覚ですが、フロントエンジン車ながらトランスアクスル効果もあってフロントヘビー感はほとんどなく、峠道へ行くと存外な軽快感に驚かされるというギャップも魅力的です。
ブレーキもレーシングカー的な成り立ちなのに街乗りでの制動フィールに不満はなく、初期型では感じられた普段使いがおっくうに思える要素はほぼ排除されています。その分値段も高くなり、一番安いグレードでも1,000万円を超えるようになりましたが、それも納得の雲上カーぶりに感激の連続でした。
次期型はあるのかないのか、あったとしてもどのような内容になるのかはまだわかりませんが、少なくとも最新のR35GT-Rは、設計年次の古さなどどうでもよくなるほど特殊な存在なので、機械遺産的な価値の高い国産スーパーカーだと再認識した次第です。
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。