フルモデルチェンジをしたクルマに「MT(マニュアルトランスミッション)」の設定があると、それだけで幸せな気持ちになる自動車ライター、マリオ高野です。
2021年冬、クルマ好き界隈はホンダのF1ワールドチャンピオン獲得に湧きましたが、ホンダは市販車の販売においても一部のクルマ好きから賞賛されております。それは、2021年夏にフルモデルチェンジを受け、11世代目として登場したホンダ・シビックに「MT(マニュアルトランスミッション)」の設定を継続したからです!
新型となり、さらに車格がアップして各部の質感も向上。ヤンチャなシビックもすっかりオトナのクルマに成長しながら、運転の楽しさを味わってもらうべくMTを残したホンダの心意気はすばらしいのひと言。
F1撤退分のエネルギーは電気自動車関連の開発に注がれると言いますが、そんな中で内燃機関動力の象徴でもあるMTを大事にする姿勢には、賞賛するしかありません。
個性的なフロントマスクデザイン。サイズは大きくなってもロー&ワイドな雰囲気はシビックの伝統です
ミニバンやSUVほどには便利でなく、コンパクトカーのような手軽さはなくとも、中型ハッチバックスタイルは稀有な存在感を放っています
欧州の高級車によく見られる「シューティングブレーク」のようなフォルム。荷室の容積も十分確保しています
乗ってみると、これがまた多くのクルマ好きをうならせる、出来のよいMTではありませんか!
上級車アコードと見紛うほど立派になったボディに搭載されるのは、いまどきらしく排気量が小さめの1.5リッターVTECターボエンジン。これが驚くほどパワフルで、高回転域でのトルクの盛り上がりも明確に感じられるなど、ホンダのユニットらしくメリハリの効いた特性が与えられました。
エンタメ性に富んだこの活発なエンジンと、極上レベルの操作フィールが得られるMTシフトの組み合わせがもたらす走りは、まさに痛快の極み。
このパワートレーンの味わいだけで十分満足できますが、車体とサスペンションの作りもまた秀逸であり、乗り心地とハンドリングがとても高いレベルで両立できています。車体のフォルムから少し狭さを感じるのでは?と想像してしまうリヤシートも、十分な広さを確保するなど、室内パッケージングにも文句なし。
高速巡航時の静粛性や快適性の高さは、かけ値なしに上級車格と言えるレベル
大人5名乗車状態での登り坂でも力強いパワーユニット(最高出力:182PS/6,000rpm ・最大トルク:240Nm/1,700rpm)。CVTモデルであっても変速やダイレクト感も違和感はなく、総合力の高さを誇ります
明るく開放的で、質感の高い内装もポイント。かけ心地、ホールド性ともにとても印象がよかったフロントシート。山道での軽快なハンドリングを楽しむ際のサポート力は文句なしです
ハニカム基調のエアコン吹き出し口など新しい試みも見られます
操作時の手応えのよさを徹底追求した6MT
クラッチの操作感も含めてMT初心者にも扱いやすく、MTの楽しさを誰でも実感できます
FFの実用車らしからぬ235/40 R18サイズのタイヤは、グリップ感、乗り心地ともに秀逸
運転支援システムなどの安全性も抜かりなしということで、上級グレードEXの約350万円という価格も不当に高いとは思えません。
この半額ほどで買えた頃のシビックを知る中年世代にとっては、少しとまどう車格感と価格ながら、乗れば乗るほどよさが実感できるので、内容からするとむしろバーゲンプライスであることに気が付くでしょう。FFの実用車としては最高級の、甘美なドライブが味わい尽くせるのでありました!
高速巡航時はどっしりとした安定感、峠道ではキビキビとした軽快感が得られます
2ペダルCVTの出来も文句なくすばらしいのですが、エンジンの感触をよりダイレクトに味わえるMTで、ホンダの「F1」を感じてみようではありませんか!
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。2台の愛車はいずれもスバル・インプレッサのMT車。