バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

コーナリングに集中できる絶妙な特性。スーパースポーツなのに扱いやすいヤマハ「YZF-R7」

スポーツタイプのバイクでの頂点に位置する「スーパースポーツ」に、新たに加わったヤマハ「YZF-R7」。発売前に開催されたサーキットでの試乗会で筆者はすでに試乗しており、その高い運動性能と安心して走れる扱いやすさを体感しているが、今回は公道での乗り味を日帰りツーリングで確かめてみた。

「MT-07」をベースに、別イメージで仕上げられた車体

サーキットを視野に入れ、フルカウルで覆われたボディに高性能なエンジンを搭載したスーパースポーツは、多くのライダーにとって憧れの存在だが、1,000ccクラスの4気筒エンジンは最高出力が200PSを超えるものもあり、パワフル過ぎる走行性能、前傾のきついライディングポジションは、ライダーに緊張を強いる場面が多い。そこに登場したヤマハの新型「YZF-R7」は、スタイリングは完全にスーパースポーツながら、同社の688ccの2気筒エンジンを搭載する「MT-07」をベースとすることで、スリムなシルエットと低回転域から扱いやすい特性を実現。スーパースポーツには200万円を超える価格のモデルも少なくないが、ベースマシンのフレームやパワートレインを活用することにより100万円をギリギリ切る価格に抑えられたのもポイントだ。

サイズは2,070(全長)×705(全幅)×1,160(全高)mmで、重量は188kg。メーカー希望小売価格は999,900円(税込)となっている

サイズは2,070(全長)×705(全幅)×1,160(全高)mmで、重量は188kg。メーカー希望小売価格は999,900円(税込)となっている

新型「YZF-R7」のベースとなった「MT-07」。重量は184kgで、メーカー希望小売価格は814,000円(税込)だ

新型「YZF-R7」のベースとなった「MT-07」。重量は184kgで、メーカー希望小売価格は814,000円(税込)だ

新型「YZF-R7」に搭載されている688ccの直列2気筒エンジンは、73PS/8,750rpm、67Nm/6,500rpmを発揮。同社のアドベンチャーマシン「テネレ700」にも搭載される、低回転域からのトルク特性にすぐれたパワーユニットだ

新型「YZF-R7」に搭載されている688ccの直列2気筒エンジンは、73PS/8,750rpm、67Nm/6,500rpmを発揮。同社のアドベンチャーマシン「テネレ700」にも搭載される、低回転域からのトルク特性にすぐれたパワーユニットだ

MT-07をベースとしたスリムなシルエットだが、カウルのデザインは「YZF-R」シリーズのイメージを継承しており、精悍で戦闘的な雰囲気に仕上げられている。スクリーンなどのパーツも「YZF-R1/R6」などと共用することで、シルエットを統一しながらコストを抑制(転倒した際の補修コストも抑えられる)。また、こうした見た目だけではなく、装備やディメンションなどもMT-07とは異なる部分が多い。フロントフォークは剛性の高い倒立式とされ、車体姿勢もやや前下がりになっている。そして、フロントブレーキにはラジアルマウントのキャリパーを装備し、マスターシリンダーにブレンボ製のラジアルタイプを採用しているのも相違点だ。なお、ハンドルとの角度が完全に90°になる“純ラジアル”のマスターシリンダーを採用するのは、YZF-R7が市販車では初だという。

YZF-RシリーズのアイコンであるM字ダクトを継承。モノアイ的なヘッドライトに、シャープに切れ上がったポジションランプを装備する

YZF-RシリーズのアイコンであるM字ダクトを継承。モノアイ的なヘッドライトに、シャープに切れ上がったポジションランプを装備する

スリムなシルエットは、バンク角や空力特性を確保するためにも有効だ。特に、地面に近いアンダーカウルをアルミ製としたのがポイント。マフラーとのクリアランスをギリギリまで詰めることで、深いバンク角を実現した

スリムなシルエットは、バンク角や空力特性を確保するためにも有効だ。特に、地面に近いアンダーカウルをアルミ製としたのがポイント。マフラーとのクリアランスをギリギリまで詰めることで、深いバンク角を実現した

フロントは倒立フォークの採用に加えて、対向4ポットのラジアルマウントキャリパーをダブルで装着。レースマシンにも採用される設計で、剛性が高い

フロントは倒立フォークの採用に加えて、対向4ポットのラジアルマウントキャリパーをダブルで装着。レースマシンにも採用される設計で、剛性が高い

ブレンボのロゴが付くラジアルマスターシリンダーを採用し、タッチとコントロール性を上げている

ブレンボのロゴが付くラジアルマスターシリンダーを採用し、タッチとコントロール性を上げている

リアのサスペンション自体はMT-07と共通だが、YZF-R7はリンク機構を専用にセッティングすることで、ややリアが上がったディメンションとしている。この結果、キャスター角がMT-07に対し1.1°立ち、前輪への荷重を増やしたことでコーナリング時の安定感が向上。同時に、フォークオフセットを5mm短縮してトレールを同等に維持することにより、直進安定性も確保した。また、機敏でスポーティなハンドリングを実現するため、スイングアームのピボット部には新たにアルミ製センターブレースを追加し、ピボットまわりのねじれ剛性を向上させている。

水平に近い角度でマウントされるリアサスペンション自体はMT-07と共通だが、リンク機構とバネレートが異なる

水平に近い角度でマウントされるリアサスペンション自体はMT-07と共通だが、リンク機構とバネレートが異なる

ピボット部を挟み込むように装着されるブレースは、フレーム剛性を高めるとともにデザイン的なイメージを変えることにも成功している

ピボット部を挟み込むように装着されるブレースは、フレーム剛性を高めるとともにデザイン的なイメージを変えることにも成功している

YZF-R7がサーキットでの走行を視野に入れていることが感じられる部分として、ガソリンタンクについて言及しておきたい。ガソリンタンクはライディングポジションに大きく影響するパーツだが、YZF-R7では樹脂製タンクカバーを設けることでデザイン的な自由度を確保。ヒザの当たるニーポケットをえぐったような形状とすることでホールド感を高め、サーキットの直線などでカウルに潜り込むように伏せる姿勢になった時に、ヘルメットのアゴ部分が収まりやすいようにガソリンタンク上面を凹ませている。ほかにも、ネガポジ反転液晶画面で視認性を高めたフルLCDメーターも専用デザインとされるなど、細部へのこだわりが伝わってきた。

専用デザインのタンクカバーはニーグリップしやすい形状。トップの凹みは、ヘルメットが収まりやすくするための配慮だ

専用デザインのタンクカバーはニーグリップしやすい形状。トップの凹みは、ヘルメットが収まりやすくするための配慮だ

クリップオンタイプのハンドルや専用設計のトップブリッジなど、ライダーのやる気を高めるコックピット

クリップオンタイプのハンドルや専用設計のトップブリッジなど、ライダーのやる気を高めるコックピット

伸側と圧側の減衰調整も可能なフルアジャスタブルのフロントサスペンションを採用

伸側と圧側の減衰調整も可能なフルアジャスタブルのフロントサスペンションを採用

タイヤサイズはフロントが120/70ZR17で、リアが180/55ZR17。スイングアームは湾曲したデザインで、マフラーはショートタイプだ

タイヤサイズはフロントが120/70ZR17で、リアが180/55ZR17。スイングアームは湾曲したデザインで、マフラーはショートタイプだ

ローレットが刻まれた金属がむき出しの作りとされたステップ。バンクセンサーの長さが目立つ

ローレットが刻まれた金属がむき出しの作りとされたステップ。バンクセンサーの長さが目立つ

クイックシフターは標準では装備されず、アップ側のみオプションで追加できる

クイックシフターは標準では装備されず、アップ側のみオプションで追加できる

シートは座面の前側を絞り込み、足つき性を確保。タンデムシートは小さく、スーパースポーツであることを感じさせる

シートは座面の前側を絞り込み、足つき性を確保。タンデムシートは小さく、スーパースポーツであることを感じさせる

縦長のテールランプはYZF-Rシリーズに共通するもので、スマートなシルエットに貢献

縦長のテールランプはYZF-Rシリーズに共通するもので、スマートなシルエットに貢献

ちなみに、ヤマハはYZF-R7を、同社の「YZF-R25」などに乗ってスポーツライディングに目覚めたオーナーが、サーキット走行を楽しめる上位モデルにステップアップする際に選ぶマシンと位置づけている。これまでは、「YZF-R6」や「YZF-R1」という選択肢しかなかったのだが、この2車種はレースでの勝利を目指して仕上げられたマシンだけに、かなり過激な特性。中級者には持て余してしまうマシンだったため、もう少しなじみやすいモデルとして2気筒の新型「YZF-R7」が用意されたのだ。

一般公道でも扱いやすく、それでいてスポーツを味わえる

前傾姿勢のバイクはサーキットなどを走る際にはライディングしやすいが、街中やツーリング時には腰や背中が疲れやすかったりもする。筆者のような中年ライダーであれば特に、だ。そこで、街中を少し走ってから高速道路を走り、郊外のワインディングロードを目指すツーリングで、走行性能だけでなく疲労のたまり具合などをチェックしてみた。

身長175cmの筆者がまたがると両足のかかとはギリギリ接地しない程度だったが、足つき性はこの手のスーパースポーツとしては良好だ

身長175cmの筆者がまたがると両足のかかとはギリギリ接地しない程度だったが、足つき性はこの手のスーパースポーツとしては良好だ

実際に走り出してみると、やはりライディングポジションはスーパースポーツらしい前傾になるが、レースでの勝利を目指して仕上げられたYZF-R1ほどにはハンドル位置が低くないので、ギリギリ街乗りもこなせる。加えて、スリムな車体のおかげで足つき性がよく、車体自体も軽いため、信号待ちなどでは支えやすい(なお、停車時には腰をしっかり伸ばしておくことが大事)。また、低速域でもトルクフルな270°クランクを採用した2気筒エンジンは、街乗りのような低回転を多用するシーンでもまったくストレスがなかった。

そして、高速道路での移動は、タンクが伏せやすい形状となっていることもあり、カウルに潜り込んでしまえば風圧を気にすることなく走ることができた。少し上体を起き上がらせても風が真正面からぶつかる感じではないため、前傾姿勢さえキツイと感じなければ疲労感は少なく移動できそう。どの回転域からもアクセルを開ければパワーが出てくるエンジン特性なので、追い越し加速などもシフトダウンを駆使しなくても余裕を持ってできる。このあたりは大型マシンらしいところだ。

前傾姿勢がとりやすく、高速道路などでは風圧を受けずに走行できる

前傾姿勢がとりやすく、高速道路などでは風圧を受けずに走行できる

ワインディングに到着すると、この手のマシンはやはり水を得た魚のように走る。前傾したライディングポジションはフロントに荷重がかけやすく、フロントフォークが倒立式となっているため、その車体姿勢でも安心感が高い。ブレーキの信頼性とコントロール性も大きく向上しており、特に、純ラジアルマスターのコントロール性がすばらしいので、フロントフォークを縮めたままコーナーにアプローチするような操作も自在にできる。そこからの倒し込み操作にスリムな車体が機敏に反応するため、コーナーの前半だけで楽しい。そして、アクセルを開け始める後半も、コントロール性とトラクション性能の高いエンジンのおかげで気持ちいいのひと言。コーナーのアプローチでシフトダウンが十分でなかったり、出口に向かって思ったより登っているようなコーナーでも、アクセルを開ければそのまま加速してくれるのは、不精な中級ライダーには大変ありがたい特性だ。

試乗したのは2月末だったが、東京から少し遠くに足を伸ばすと雪が残っていた。コーナーの続く道を走るのは本当に楽しく、何度往復したかわからないほどだ

試乗したのは2月末だったが、東京から少し遠くに足を伸ばすと雪が残っていた。コーナーの続く道を走るのは本当に楽しく、何度往復したかわからないほどだ

ここまでお伝えした「YZF-R7」に搭載されているエンジンの特性は、逆に言えば、高回転でパワーが弾けるような魅力はないということでもあるが、ライディングに集中しやすいのでコーナリングを楽しむには最適。また、流行りの電子制御はABS以外何も搭載されていないため、あまり過激なパワー特性だとワインディングなどでは不安のほうが大きくなってしまう可能性もある。スリムな車体に低回転域から扱いやすいトルクフルなエンジンの組み合わせは、ライディングを向上させるにはベストな組み合わせかもしれない。

高速コーナーでの安定感も高く、ワインディングへ向かう道のりも楽しむことができた

高速コーナーでの安定感も高く、ワインディングへ向かう道のりも楽しむことができた

試乗を終えて

新型「YZF-R7」に筆者が最初にサーキットで試乗した際、倒し込みの軽さとコーナリング中の安定感、ハイグレードなブレーキによるコントロール性の高さは、やはりYZF-Rシリーズの名にふさわしいマシンだと実感。加えて、エンジンの特性や車体のコントロールのしやすさから、「これは公道でワインディングを楽しむのにも向いているのでは? 」と予想していたが、今回、公道で試乗してみて、それは確信に変わった。低回転からトルクフルで、トラクション性能にすぐれた270°クランクの2気筒エンジンは街乗りでも乗りやすく、高低差のあるワインディングにも好適。軽量でスリムな車体は取り回しもしやすく、ライディングポジションの前傾具合も絶妙で、東京都内から郊外のワインディングまで往復するくらいなら中年ライダーの筆者でも腰が悲鳴をあげることはなかった。ワインディングをより楽しみたい人、ライディングスキルを高めたい人、そして、これからサーキットも走ってみたい人に推せる車種だ。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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