カーアクション映画「ワイルド・スピード」シリーズでは、3作目の「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」を中心に、たくさんのCOOLな日本車が登場します。ワイルド・スピードの世界的な大ヒットによって、アメリカから世界に「JDM」と呼ばれる右ハンドル仕様の日本車ブームが広まったと言っても過言ではないでしょう。
JDMとは、アメリカに入ってきた右ハンドルの日本車ということ以外にも、オレンジ色のウィンカーや水中花シフトノブ、深リムホイールや小径ハンドルなどといった日本独自の仕様や装備、日本的なカスタム手法、さらには車庫証明ステッカーや車検ステッカーといったものまでが、JDMとして人気があります。
画像は、「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」に登場した、「FD3S RX-7 VeilSide Fortune Model」(1994年式)
ワイルド・スピードに日本車がメインとして多く登場するのは、1作目(2001年)から3作目(2006年)までですが、それらの劇中に登場する日本車の多くを、実は日本を代表するカスタム&チューニングメーカー「VeilSide(ヴェイルサイド)」が手がけているのです。
1990年に創業したVeilSideは、今年で30年目を迎えます。VeilSideという社名は、代表である横幕宏尚さんの苗字「横幕」に由来しており、「Veil(幕)」+「Side(横)」から来ています。
VeilSide 代表取締役の横幕宏尚氏。ド派手なエアロパーツのデザインなどは、そのほとんどを横幕氏が手がけています
唯一無二のアグレッシブで美しいVeilSideのボディキットは、ほぼすべてカスタム界の鬼才と称される代表の横幕氏によってデザインされています。ちなみに、横幕氏がVeilSideを立ち上げる前は、「横幕レーシング」という名称で、ドラッグレースで名を馳せた有名なチューナーでした。
それでは、実際にワイルド・スピードシリーズに登場したVeilSideの車種のなかで、代表的なクルマを紹介していきましょう。
「ワイルド・スピード」1作目でドミニクの愛車として登場した、マツダ「RX-7」のVeilSide仕様です。序盤で、ブライアンがドミニクに勝負を挑んだカーチェイスのシーンでも登場します。印象的なシーンですので、覚えている方も多いのではないでしょうか
VeilSideの「RX-7」と言えば、3作目の「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」に出てくるオレンジと黒のモデル(後述)が有名なのですが、実は1作目に準主役のドミニク(ヴィン・ディーゼル)の愛車としてVeilSideのRX-7がすでに登場しています。ドミニクが、ブライアン(ポール・ウォーカー)の三菱「エクリプス」とストリートレースで勝負したときの車両です。
モデルとなっているRX-7は、Apex USAの社員であるキース・イモト氏が所有する車両で、
エクステリアは「VeilSide製C2タイプボディキット」「RX-7 GTリアウィング」「Lexanヘッドライトカバー」「VeilSide製アルミホイール」を装着し、純正のリトラクタブルヘッドライトは「RE雨宮製スリークライト」へと交換されています。さらに、「4ボトルNOSシステム」も装備されています。エンジンには手が入っておらず、純正のままです。
「ワイルド・スピード X2」に登場した、ホンダ「S2000」のVeilSide仕様。スーキーが乗るS2000は、ブライアンの日産「R34スカイライン GT-R」と公道で激しいレースを繰り広げます
こちらは1作目に登場したジョニー・トランの「S2000」ですが、3作目でスーキーが乗るS2000と車体は同じものです
2作目の「ワイルド・スピード X2」で、スーキー(デヴォン青木)の愛車として登場したのが、こちらの「S2000」です。このS2000、実は1作目にブライアンと敵対する東洋ギャングのジョニー・トランが乗る黒いS2000と同じ車両で、ブラックからブルー、オレンジ、そしてピンクへと塗り替えられた経緯があります。
ピンクのS2000は、ロサンゼルスにあるピーターセン自動車博物館に展示されている撮影車両をベースとしたレプリカモデルで、筆者が2019年に同博物館を訪れた際に撮影しました(実際に映画へ出てきた車両とは、デザインなどが若干異なっています)。
スーキーのキャラにピッタリな、ド派手なショッキングピンクのボディカラーが目立つこのS2000には、これまた派手なVeilSide製の「フロントバンパースポイラーMillennium」が装着されています(1作目の黒いS2000も同様)。この有機的なフロント周りのラインを見ると、VeilSideのデザインだとわかりますね。
アルミホイールは「Motegi Racing」の18インチアルミホイールを履き、ボディデザインはNoah Fine Artの「Noah」によるエアブラシアートワークが含まれます。ちなみに、このS2000は映画以外にも、米国ポップアーティスト「Pink!」のMV「Stupid Girls」(2006年)の最後のあたりにも登場しています。
3作目に登場したこのクルマは、マツダ「RX-7(FD3S)」がベースのVeilSideカスタムコンプリートカー「RX-7 Fortune」です。ノーマルのRX-7とはまるで異なるエクステリアは、どこから見てもRX-7とは気づかないほど、外観のいたる個所に手が加えられています
このRX-7は、世界一有名なRX-7と言っても過言ではないでしょう。とにかく、カッコいい!走っている姿はもちろん、停まっているときも印象的で美しいデザインです。
「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」劇中での「RX-7 Fortune」のドリフトシーン
画像の男性が、「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」に登場し「RX-7 Fortune」に乗るハンです。ハンは、ワイルド・スピードの中でも人気を誇る人物で、TOKYO DRIFTで帰らぬ人となったのですが、2021年4月に公開予定の最新作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」の予告動画では、死んだはずのハンが復活していることで話題となっています
ワイルド・スピード3作目となるTOKYO DRIFTで、主人公のショーンにドリフトを教えるハン(サン・カン)の愛車として登場します。ハンは、ワイルド・スピードファミリーで唯一東洋系ということもあって、日本を始めアジアでも非常に人気が高いキャラクターとしておなじみです。
劇中で、ハンは事故で炎上したRX-7とともに最期を迎えてしまいますが、その衝撃的な展開がRX-7とハンの人気をさらに押し上げることになりました。その結果、VeilSideの人気が世界的に不動になったとも言えるでしょう。
映画公開(2006年)からはすでに14年近くが経過していますが、いまだに世界中のファンなどから「FD3S RX-7 VeilSide Fortune Model」ボディキットの注文が入ってくるそうです。
ところでこのRX-7 Fortune、デビューはワイルド・スピードではなく2005年の「東京オートサロン」になります。当時、東京オートサロンに出展されたRX-7 Fortuneは、会場の話題を独占するほどの人気となり、「東京国際カスタムカーコンテスト2005」の投票によって、8部門中トップとなるグランプリカーに選ばれました。
RX-7 Fortuneのデザインコンセプトは「鎧」。戦いのための過激なスタイルを与えられながらも、オリジナリティーあふれる和のテイストとエレガントさが同居しているのがポイントです。そして、こちらのボディキットはパーツごとではなく、一式での装着が基本になります。
ちなみに、印象的なオレンジと黒のボディカラーは、制作側からの『夜の走行シーンが多いために、夜でも映える明るいオレンジをメインにしてほしい』という要望に応えたものだったそうです。劇中では、主人公のショーンの敵となるタカシが乗る「Z33 フェアレディZ(2002年式)」が黒基調のボディカラーとなるため、対照的な明るいカラーとしたという経緯もあります。
ショーン&ハンのチームと対抗する、タカシが乗るクルマとして登場しました。VeilSideのボディキットと、同社オリジナルのアルミホイール「Andrew Racing Evolution V」を履いたボディに、460馬力を発生する「ツインターボ」+「NOSシステムエンジン」を搭載しています。特徴的なボディデザイン(グロスブラックでコガネムシ柄のバイナルグラフィック)も、話題を集めました。ちなみに、TOKYO DRIFTではほかに、モリモトが乗る「トップシークレット」仕様のZ33も登場します。
最後に、2020年に公開予定となっていた最新作の「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」は、前述したハンが復活するほかにも、トヨタの新型「スープラ」が登場するなどで話題となっていました。ですが、新型コロナウィルスの影響によって全米での公開が2021年4月に延期となり、日本での公開もそれに合わせて2021年の公開へと変更されています。少し残念ではありますが、それまでは過去のワイルド・スピードシリーズを改めて鑑賞しつつ、新作の公開を楽しみに待ちたいところですね。
[写真提供:VeilSide/加藤久美子]
日刊自動車新聞社に入社し、自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。一般誌、女性誌、ウェブ媒体、育児雑誌などへの寄稿のほか、テレビやラジオの情報番組などにも出演多数。認定チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。