初代モデルと4代目モデル、2台の「インプレッサ」を所有するインプレッサ好きのライター、マリオ高野です。このほど、6代目にあたる新型「インプレッサ」のプロトタイプにクローズドコースで試乗する機会を得ましたので、印象を報告します。
「インプレッサ」の5代目(左)と6代目(右)と筆者
まず、新型「インプレッサ」の概要を紹介しましょう。「インプレッサ」は今度の新型でもスバルのラインアップのなかで最もベーシックなモデルとして位置付けられており、これまでと同じく、スポーティーな実用車とされます。
搭載されるエンジンの排気量は、全車とも2リッターで「e-BOXER」と呼ばれるハイブリッドと、純ガソリンエンジンの2種類を設定。先にアメリカで発表された仕様に積まれる2.5リッターエンジンは国内には導入されません。なお、旧型まであった1.6リッターエンジン、およびセダンボディは廃止されました。
グレード展開は、ハイブリッドの「e-BOXER」が2種類(グレード名:「ST-H」「ST-G」)、純ガソリンエンジン(グレード名「ST」)が1種類の、合計3種類とシンプルな設定。3種類とも、FWD(前輪駆動)とAWD(常時全輪駆動)が選べます。
価格は、もっともベーシックな「ST」が229.9万円(FWD)/251.9万円(AWD)、中間グレードの「ST-G」が278.3万円(FWD)/300.3万円(AWD)、最上級グレードの「ST-H」が299.2万円(FWD)/321.2万円(AWD)です。旧型比で若干値上がってしまいましたが、それに見合う性能と動的な質感の向上を遂げています。
第一に「FUN」であることを重視して開発された新型「インプレッサ」。カタログなどを見る限り、驚くような仕掛けはありませんが、走らせてみると、ハンドリングのよさと振動の少なさは感動レベルにあることがよくわかります
駆動方式の違いを見極める唯一の外観の違いは、AWDであることがわかるエンブレムのみ
ボディサイズは、全幅が5mm拡大した以外、ホイールベースやトレッドも含めて旧型と同じ。最高出力など、エンジンのスペックを見ても旧型とまったく変わりません。内外装のデザインも基本的にはキープコンセプトなので、新型ならではの飛び道具といいますか、強烈なインパクトは感じられないというのが正直なところ。
しかし、その分細部の煮詰めっぷりはかなりすさまじく、まさに作り手の執念の塊。新旧モデルの比較試乗を行うと、別物と感じられるレベルで違いが見られました。新型は、とにかく「動的な質感」の高さが印象的で、その秘訣は、見えない部分の大幅な進化にあります。
今回試乗した場所はミニサーキットであり、路面状況はきわめて良好なので、乗り心地の差が現れにくい状況と言えるのに、新型は、動き出しから乗り心地のよさが実感できるところに驚きました。きれいな路面の上でも乗り心地のよさが際立って感じられるということは、相当な違いがあるということです。「SGP」と呼ばれる新世代プラットフォームを初採用した旧型は、今乗っても基本的には全然悪くありませんが、新型に乗ってから旧型に乗ると、これまでは気がつかなかったレベルの細かな振動や揺れがなくなっているのに驚かされるのです。
新型の乗り心地がここまでよく感じられる秘訣は、シートと車体にあります。まずシートは、車体にマウントする固定構造から刷新。これまでのブラケット固定から、シートレールへの直留め構造となり、結合が強くなっただけではなく、軽量化も進んで左右方向への振動の収まりが劇的によくなりました。新型のシート下には床が持ち上がった土台のようなものがあり、見た目からして違うのですが、シート下にゴミなどの異物がたまりにくいという副産物的なメリットも得られます。
空力性能の改善ポイントが多数見られるボディ。フロントマッドガードの前壁にもスリットを設定し、エンジン房内圧の低下と、床下および側面の空気の流れを整えています
小型化して視界を向上させながら、旧型と同レベルの視界性能を確保したドアミラー。サイドカメラの出っ張りをなくすなど、見た目の印象と空気抵抗の両方を改善できています
シート本体も抜本的に刷新。バックレストの内部構造を見直して、支持構造をこれまでの横吊り式から縦吊り式へ変更。シートのアンコ部分と呼ばれるパッド構造も見直したことで、着座時の身体の面圧を均等に分散させて、長距離、長時間でのドライブでも疲れにくいとされます。
クルマの動き出し、というかシートに座った瞬間から身体がビシッとホールドされる感覚がすぐに得られるので、ぜひショールームなどでも積極的に味わっていただきたい部分です。新しいシートは、仙骨と呼ばれる人間の骨盤周りをしっかり支えることで、上半身の揺れやブレも低減する効果があります。いわゆるバケットタイプのシートではないのに、やや強めの横Gがかかった状況でも身体をサポートしてくれる感覚が得られるのです。
驚異的なまでの動的な質感をもたらす新型の大きなポイントである車体については、旧型から採用が始まった「SGP」と呼ばれる新世代プラットフォームを大幅にバージョンアップ。「インナーフレーム構造」と呼ばれる技術に注目です。これまでのボディは鉄板を組み立てた「箱」だったのが、土台の上に木造建築でいう「梁(はり)」で柱をつなぎ、それに外板を付けた構造に変わるとイメージしやすいでしょう。
今の「レヴォーグ」や「アウトバック」でも採用された技術で、ある意味、ラダーフレーム構造のトラック的とも、レーシングカー的な構造とも言えます。ただ剛性が高いだけでなく、しなやかさを増しやすいことで、乗り心地と操縦安定性の両方を高めやすいのです。乗員を守るキャビンが柱と梁で守られるので、衝突安全性の向上にもつなげやすいのだとか。それでいて、ボディ単体ではほとんど重量増になっていないところにも開発陣の執念を感じさせます。
空調はフロント席集中制御で、乗員の有無をセンサーで感知し、乗員のいる場所だけに空調の風を送るシステムを採用。むだを省いて乗員だけに快適な空間を提供します
コンソール上面の位置を高くして、より自然に操作できるよう最適化したシフトレバー。レバーの剛性を高めて操作感も向上させています
上級グレード「ST-H」にはアルミペダルが標準装備されます
さらに、屋根の部分に「高減衰マスチック」と呼ばれる材料を採用。路面から伝わった衝撃などの入力を最終的には天井部分でいなし、車体の振動特性を劇的に向上。ほかにも構造用接着剤の塗布の長さを旧型比で3倍延長、床下の制振材の肉厚増加と配置の最適化など、振動を低減するための執念がすさまじいばかりなのでありました。
強くてしなやかな車体のおかげで、サスペンションを引き締めることなくスポーツ性を高められるメリットもあります。ステアリングの応答性と手応えをよくする2ピニオン方式の電動パワステの効果もあって、新型はハンドリングのソリッド感が増しました。ベーシックな実用ハッチバック車でありながら“ラリーマシンのDNA”を感じさせるハイレベルな運動性能を備えるにいたっています。
装着されるタイヤのダンロップ「スポーツマックスSP」も改良版で、よりグリップレベルの高いタイヤを履いてもその性能を引き出せるのを確認。より本格的なスポーツタイヤを履いても、おそらく十分応えてくれるでしょう。
ちなみに、今回の新型からPCDと呼ばれるホイールを固定するボルト穴の中心点を結んでできた円の直径が、100から114.3に変更されました。これまではターボエンジン車などの高出力エンジン搭載車にしか採用されませんでしたが、ついに「WRX」ではない「インプレッサ」も114.3を採用するようになったのです。PCD100のアルミホイール装着を検討している旧型ユーザーは、ご注意ください。
運転支援システムの「アイサイト」には単眼カメラを追加するなどして、より広範囲に前方を認識し、近づく歩行者や自転車の認知性能が向上しています
後席を倒して荷物を積むシーンを想定し、リアドアと荷室に一体感を感じさせるデザイン。室内寸法の数値はわずかに低くなりましたが、居住空間や荷室容積が狭くなった印象はありません
さらに、実は新型はフロントハウジングを固定するナット部分のミクロのガタを低減しています。この部分のミクロのガタは、製作過程においてはある程度発生してもやむを得ないものとされますが、車体作りの高精度化と、関連サプライヤー(群馬県太田市)によって実現しています。
逆に、ガタを詰めすぎると振動が出たり、突っ張った感覚になったりするので、詰める加減も難しいとされます。ハウジングの形状は旧型と同じなので、かかる手間やサプライヤーへの負担を考えると、スルーしてもよかった部分だそうですが、そこは妥協せずに詰めたとのこと。そうした地味な積み重ねが、動的質感の向上へと大幅につながっているのです。いかにもスバルのモノづくりらしいポイントですね。
ブレーキブースター電動化がもたらすメリットは、運転支援システム作動時の反応の速さだけでなく、ドライバーの“踏み応え”も秀逸。踏力に応じた制動力のコントロールがしやすい
パワートレーンについては、旧型のキャリーオーバーといえばそうなのですが、やはり表面には現れない部分に入魂ポイントがしっかりあるのです。まず、発進時のスムーズさと、EVモードが持続する範囲が少し長くなっていることが、乗って感じられる部分としてあげられます。
その理由は、パワートレーン全体の制御の緻密化。EVモードからエンジンが始動する際の微小トルクを最小化し、エンジン始動時の振動を低減。ミッション内部のクラッチ締結ショックリタードの適正化などが公開されています。ポイントのひとつは、CVTの回転数の上げ方を改善したこと。より速度に沿った感覚でエンジン回転が上がる制御になりました。エンジン側のトルクの同調制御を緻密にしていますが、ECUの性能向上と制御の統一化もポイントに。ミッション内部のフォワードクラッチは、締結する前の段階からギリギリまで近付けて、最後のところは一気につなげるというイメージになっているとのこと。「e-BOXER」のインバーターは、電気を引き出すところで今まで使えていなかった部分が使えるようになり、時速40km以下でのEVモードにおける航続力を上げています。
液体封入エンジンマウントの減衰特性を最適化。マウントブラケットは樹脂製からアルミ製として剛性を向上。エンジン振動との共振を抑制して車体に伝わる騒音や振動を低減させています
「e-BOXER」の電気アシスト感は、正直ミニサーキットのような場所でアクセルを奥まで踏み込むよりも、山道をゆっくりとしたペースで走ると実感しやすい
静かさや振動の少なさについては、エンジンとトランスミッション、つまりパワートレーン全体のユニット剛性を高めたこと。そして、水平対向エンジンの宿命的な問題であるクランクシャフトから発生する音と振動を遮断することで実現できました。
今回の試乗会では用意されませんでしたが、純ガソリンエンジン搭載の「ST」グレードでは、新旧比較で感じるパワートレーンの洗練度の高さがより際立って感じられるとのことなので、ベーシックな純ガソリンエンジン搭載車の洗練性の高さも期待できます。
ちなみに、兄弟車の「クロストレック」にも前述した内容はほとんどあてはまるので、この記事は「クロストレック」の解説としてもご覧いただけます(クロストレックは全車「e-BOXER」のみ)。
新型「インプレッサ」は、スペックの数値など旧型からのキャリーオーバーと思しき部分が多いものの、中身を見ればしっかりと大幅なアップデートがなされており、真価を知るには細かい部分をよく見る必要があります。ちょっとわかりにくい面もありますが、いかにもスバルらしい改良の遂げ方をしたとも感じさせます。乗り味のよさには絶大な自信をもって推せる、スバル車のよさが凝縮された1台と言えるでしょう。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。