幸か不幸か、結婚しなかった(できなかった)ことでミニバンを所有する必要に迫られず、このまま人生を終える予定のライター、マリオ高野です。
許されるならば、いつまでもスポーツカーやスポーティーなMT車に乗っていたいと願う運転好き諸兄は多いことでしょう。しかし、ご家庭の事情はそれを許してはくれず、不本意ながらミニバンを買わざるを得ない状況にある人も多いものです。
運転することが好きならば、スポーツカーやスポーティーなクルマに乗り続けたいものですが……
技術の進歩とともに、ミニバンの走りはずいぶんよくなりました。特に最新モデルは、走らせてすぐに運転がイヤになったり、ステアリングを握るのがウンザリしたりするようなことはほとんどありません。これはスポーツカーやスポーティーなMT車の販売が低迷し続ける遠因とも言えるでしょう。
それでもなお、運転行為から得られる“快楽”の大きさは、やはりスポーツカーには遠く及ばず。真四角な重い箱ならではのむだな慣性モーメントの大きさや重心の高さは、依然として運転好きを萎えさせる要因となります。これらを完全に解消するのは物理的に困難を極めますが、そんな中でも、運転好きのお父さんが「これなら悪くない」と、一定の納得ができるミニバンが存在しますので、今回はそれを紹介しましょう。
本記事はあくまで、“ミニバンが(それほど)好きではない、運転好き/スポーツカー好きのカーマニア向け”であることをご承知おきください。そんな人でも驚くほど満足できるミニバンを3モデル厳選しました。
「ステップワゴン」はグレードを問わず運転が楽しい
現行型「ステップワゴン」についての概要と走りの魅力については、すでに過去記事で紹介済みです。
現行型はボディサイズが拡幅し、重量増となるなど、運転フィール面ではネガ要素になりがちな変化を遂げたにもかかわらず、それを感じさせない軽快な走りに感銘を受けました。
その後、「ステップワゴン」のライバル車であるトヨタ「ノア」「ヴォクシー」、日産「セレナ」の最新型に乗る機会を得たところ、これらも先代型モデルまでとはまったくの別世界のレベルで走りが気持ちよくなっており、ミニバンを忌避してきた人にとっては、大いに驚くべきものがあります。
もはや、これら国産ミニバン御三家は、最新型ならどれを選んでも、運転好きのお父さんを著しく萎えさせることはないでしょう。
しかし、それでもなお、御三家の中で「ステップワゴン」のファン・トゥ・ドライブ性に頭ひとつ抜きん出たものがあることもまた、確認しております。以前に掲載した記事はハイブリッドの「e:HEV」というグレードでしたが、純ガソリンエンジン搭載のグレードでもまったく同様の運転フィールのよさが得られたので、安いグレードを選んでも心配ありません。
前記事でも述べましたが、ステップワゴンは伝統的な低床フロアがもたらす低重心と、やめたはずのF1マシンへのエンジン供給を、いともアッサリと再開してしまう“エンジン屋ホンダ”の面目躍如というべきパワートレーンの痛快さが大変魅力的なのです。
「無限」や「モデューロ」というホンダ系スポーツブランドのパーツを装着すると、さらに楽しさと気持ち良さが増すところも見逃せません。
運転好き、走り好きのドライバーに強くオススメできるミニバンであることは今も揺るがず。改めて強く推させていただきます!
ミニバンとして孤高の存在と言える「デリカD:5」
三菱「デリカD:5」は、ミニバンでありながらオフロード走破性の高さを重視するという、ほかに類のない孤高の存在です。かつての三菱が得意としたジャンル、クロカンSUVと呼ばれる本格派の四輪駆動車の性能や特徴を継承しており、そこに魅力を感じる層から根強く支持されてきました。
パワートレーンは横置きで、ラダーフレームは持たないなど、本格派のクロカンSUVほどには突き詰めた成り立ちではありませんが、今はなき「パジェロ」に近い性能や個性を備える希少性が魅力です。
現行型は2007年にデビューした基本設計に改良を重ねながら販売し続けています。燃費性能や内装のデザインについては古さを感じさせるものの、それを補ってあまりある個性的な魅力を備えているので、大きなネガにはなっていません。
長年にわたり改良が重ねられたおかげで、昔のミニバンのように余計な揺れ戻しがあったり、コーナリングが怖く感じられたりすることはありませんが、ラダーフレームはないとはいえ床の位置は高く、重心も高めなので、きわめて個性的な運転フィールが味わえます。
洗練度の高い最新ミニバンと比べると、鈍重とも言えるモッサリとしたものであり、スポーツカー好きのドライバーにとっては、忌避したくなる類いの運転フィールが残っているとも言えるのですが、今となっては、逆にこのやや鈍重な動きが新鮮でもあり、大きく重い物体をスムーズにコントロールする楽しさや充実感が得られるのです。
ステアリングやアクセル、ブレーキの操作をていねいに行えば、大きく重い物体なりにきれいな動きを見せてくれるので、運転マニアの腕の見せどころでもあったりします。
ちょっと大げさに言うと、トラックやバスを運転するかのような、特殊なクルマを操縦する醍醐味が得られます。これこそが「デリカD:5」ならではのファン・トゥ・ドライブと言えるでしょう。
運転フィール以外では、3列目シートの作りがとても重厚であるなど、今どきの中型ミニバンが失った美点が残されていたりもします。総合的に見ても、再注目に値するミニバンなのです。
その実用性で人気の「シエンタ」だが、運転しても悪くない
小型のミニバンで人気の高い「シエンタ」。初代〜2代目モデルまでは、運転好きのドライバーが理想とする操縦性とは真逆の方向にあり、スポーツカー好きが好ましく思える魅力はほとんど見当たらず、運転は“移動のための作業”として割り切る必要がありましたが、現行型はそのイメージを完全に覆しています。
ボディ構造が抜本的に新しくなり、衝撃的と言えるレベルで走りの質が向上しました。この手の国産小型ミニバンにありがちな、ステアリングの不感帯が大きく、舵角を入れるとある部分から急にクルマが反応してガクッと傾くような、運転好きドライバーがもっとも嫌悪したくなる挙動はまったく出なくなったのです!
「不満がない」というレベルを超えて、山道などでは積極的にハンドリングを楽しみたくなるほど、ドライバーの操作に対する車体の反応が自然なものになりました。
ボディの剛性感はしっかりしていますが、それがただ高いだけではありません。カーブで車体が深く傾いたときなどに「しなやかさ」を感じさせるほどで、今どきのスポーティーなクルマ作りの思想に基づいたものであることを想像させます。レースに出たり、ドリフトに興じたりするほどの運転マニアでもある、豊田章男前社長の影響でしょうか。
エンジンは3気筒なので特有のビートを伴うものの、運転好きドライバーにとってはイヤな音色と振動ではありません。無味無臭なフィーリングの4気筒よりむしろ好ましく、豊かな低速トルクも相まって、エンジンのフィーリングもしっかり楽しめるものになっている。これも、過去のシエンタでは得られなかった個性であり、運転好きドライバーをして「これなら悪くない」と言わしめる要因のひとつです。
念のために再度言いますが、これらの3台は、スポーツカーやスポーティーなMT車から積極的に乗り換えたくなるほどの感激が得られる訳では決してありません。スポーツカーやスポーティーなMT車が大好きな人が、どうしても3列シート付きの両側スライドドア車が必要になったとき、運転フィールの面でゲンナリすることなく、ミニバンなりの楽しさが味わえるという意味で、オススメの3台ということであります。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。