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この時代に存在自体が奇跡なのか!? 「スカイラインNISMO」に流れる"GT"の伝統を見た!

「スカイラインNISMO」の発表に沸く

自動車メーカーのモータースポーツ部門に強く憧れるライター、マリオ高野です。

この夏に発表された日産「スカイライン」の「GT誕生60周年」を記念した限定車「スカイラインNISMO/NISMO Limited」が大きな話題となっています。WEB上のコメントで賑わっているのは、性能や走りの質への評価ではなく、「”スカG”(スカイラインのGT)はこうあるべき!」といった、今の「スカイライン」という存在に対する「そもそも論」の過熱ぶりが目立ちます。

「スカイラインNISMO」は赤いアクセントや専用フォグランプなどにより、ひと目でそれとわかるよう差別化。ボディカラーは専用色「NISMOステルスグレー」を含む5色を用意

「スカイラインNISMO」は赤いアクセントや専用フォグランプなどにより、ひと目でそれとわかるよう差別化。ボディカラーは専用色「NISMOステルスグレー」を含む5色を用意

「スカイライン」の象徴である、ボディサイドのリヤホイールの中心を前後に貫く、いわゆる「サーフィンライン」をオマージュ。全長×全幅×全高は4,835×1,820×1,440mmと、現代の国際基準としては大柄すぎないサイズ感

「スカイライン」の象徴である、ボディサイドのリヤホイールの中心を前後に貫く、いわゆる「サーフィンライン」をオマージュ。全長×全幅×全高は4,835×1,820×1,440mmと、現代の国際基準としては大柄すぎないサイズ感

トランク容積やリヤシートの居住性など基本パッケージングは標準の「スカイライン」に準ずるもの。専用のリヤスタビライザーは44%、専用のフロントスプリングは4%バネレートをアップ。VDCやABSなどの電子制御系も専用チューンとなっています

トランク容積やリヤシートの居住性など基本パッケージングは標準の「スカイライン」に準ずるもの。専用のリヤスタビライザーは44%、専用のフロントスプリングは4%バネレートをアップ。VDCやABSなどの電子制御系も専用チューンとなっています

スーパーGTのGT500クラス用エンジン開発者が、レース用と同じ施設でチューニングを施したエンジン。「スカイラインNISMO Limited」(947.9万800円)向けは、特別な資格を持つ匠が1機ずつ手組みで作る高精度ユニットとなり、組み上げた担当者の名も刻まれるとのこと

スーパーGTのGT500クラス用エンジン開発者が、レース用と同じ施設でチューニングを施したエンジン。「スカイラインNISMO Limited」(947.9万800円)向けは、特別な資格を持つ匠が1機ずつ手組みで作る高精度ユニットとなり、組み上げた担当者の名も刻まれるとのこと

ワイドリム化されたエンケイ製19インチアルミホイール。独自のタービル鋳造システムにより、鍛造並みの強度と軽量化を実現。タイヤはダンロップの「SP スポーツマックスGT600」で、コンパウンドと内部構造に専用チューンが施されています

ワイドリム化されたエンケイ製19インチアルミホイール。独自のタービル鋳造システムにより、鍛造並みの強度と軽量化を実現。タイヤはダンロップの「SP スポーツマックスGT600」で、コンパウンドと内部構造に専用チューンが施されています

66年もの伝統を受け継ぐ「スカイライン」

まず「スカイライン」と言えば、66年もの歴史をもつ日本を代表するスポーツセダン。「V37型」と呼ばれる現行モデルは12世代目にあたり、セダンモデルがいつ廃止されてもおかしくない時代にあってもなお、脈々と伝統を受け継いできました。

これだけ長い歴史を持つと、古参のファンからの要望レベルはとても高いものがあります。かつ世代ごとに異なる「スカイラインはこうあるべき!」といった信念を曲げず、熱く要望し続けるファンが多いのも特徴です。

1964年開催の第2回日本グランプリにて、当時の最新鋭にして最速マシンのポルシェ「904GTS」を、国産の「スカイラインGT」がオーバーテイクした伝説の名シーンの映像が会場で流れる。レーシングカーそのものの姿をしたポルシェを、見た目は市販車と変わらない4ドアセダンの「スカイライン」が追い抜いたことも衝撃でした。「羊の皮を被った狼」の異名がついたシーンでもあります

1964年開催の第2回日本グランプリにて、当時の最新鋭にして最速マシンのポルシェ「904GTS」を、国産の「スカイラインGT」がオーバーテイクした伝説の名シーンの映像が会場で流れる。レーシングカーそのものの姿をしたポルシェを、見た目は市販車と変わらない4ドアセダンの「スカイライン」が追い抜いたことも衝撃でした。「羊の皮を被った狼」の異名がついたシーンでもあります

さらにいえば、今回の限定車のポイントである「GT(グランドツーツーリングカー)」という記号性へのファンの期待値の高さも尋常ではありません。「GT」の名の付く「スカイライン」は、ファンに深く愛されるがゆえに期待も過度に大きく、独自の開発の難しさを抱えるクルマともいえるのです。

歴代「スカイライン」は、常に多くのファンからの厳しくも愛に溢れた批評を受ける宿命にあり、現行モデルも例外ではありません。現行モデルは、廃止された高級セダン「フーガ」の位置付けも担うことから、2014年のデビュー時はアメリカ向け「インフィニティ」を名乗ったり、ターボエンジンはメルセデス・ベンツ製になったりしたものですから、正直なところ、古参のスカG党からの評価は散々なものでした。

熱心な「スカイライン」ファンによる厳しい声に耳を傾けながら地道に改良を重ね、2019年には「400R」という、これまた賛否の元になる伝説の記号を復活させるなど、「スカイライン」の開発陣も攻めの姿勢を見せて応えます。そして今回の「スカイラインNISMO/NISMO Limited」は、現代の日本で商品化できる「スカイラインGT」の集大成というわけです。

昔の「スカイラインGT」と、新型「スカイラインNISMO」のデザイン面での共通点。旧モデルのヘッドライト〜フロントグリルを囲むラインと、新型のフロントバンパーに鉄アレイ状のラインを再現しています

昔の「スカイラインGT」と、新型「スカイラインNISMO」のデザイン面での共通点。旧モデルのヘッドライト〜フロントグリルを囲むラインと、新型のフロントバンパーに鉄アレイ状のラインを再現しています

フロントフェンダーに日産の「GT」伝統のGTエンブレムを装着。「スカイライン」のグランドツーリング性能とは、より速く、気持ちよく、安心して走れる能力。これを新たな領域へ昇華させました

フロントフェンダーに日産伝統の「GTエンブレム」を装着。「スカイライン」のグランドツーリング性能とは、より速く、気持ちよく、安心して走れる能力。これを新たな領域へ昇華させました

NISMOがレースの実戦で培った空力とシャシー技術を融合。前後のバンパーとサイドシルカバーはNISMO専用パーツ。空気抵抗を低減しながらダウンフォースを大幅に向上させ、かつ冷却性能も高められています

NISMOがレースの実戦で培った空力とシャシー技術を融合。前後のバンパーとサイドシルカバーはNISMO専用パーツ。空気抵抗を低減しながらダウンフォースを大幅に向上させ、かつ冷却性能も高められています

賛否が分かれようと、「マークII」兄弟、「アコード」、「レガシィ」など、他メーカーの中型スポーツセダンはことごとく消滅してきたことを思えば、「スカイライン」は今もなお存続しているのが奇跡の偉業といえるでしょう。

しかも、このご時世で燃費などを気にせず走行性能だけを研ぎすませた「NISMO」の名の冠するスポーツグレードを追加したのですから、ひとりのクルマ好きとして、その姿勢をリスペクトせずにはいられません。

「NISMO」とは、日産のモータースポーツ活動やモータースポーツ向けの車両、およびパーツの開発を請け負うブランドのことで、今の国内レースのトップカテゴリーであるスーパーGTはもちろん、その前身の全日本GT選手権や、かつての全日本ツーリングカー選手権時代から、日産車の速さを証明し続けてきました。

星野一義さんが試乗した印象を語る

「スカイラインNISMO/NISMO Limited」の発表会の現場には、サプライズゲストとして星野一義さんも参加。50年以上前から日産車一筋でレース活動を続けてきた星野さんは、日産のモータースポーツファンにとって最大のカリスマである一方、ご自身もピュアな「スカイラインファン」のひとりです。

発表会の現場に並べられた2代目「スカイライン」は、「S5系」と呼ばれる初めて「GT」の名が付いた「スカイライン」で、若かりし日の星野さんの愛車でもあることから、当時の思い出を振り返りつつ、新しい「スカイラインNISMO/NISMO Limited」に試乗した印象を語られました。

「ヒール・アンド・トゥができないのは寂しい」などと、MT(マニュアルトランスミッション)の設定がないことをチクリと指摘されたものの、420馬力まで高められたエンジンのパワーを安心して使える車体の安定感や、大人のGTカーに相応しいコンフォート性も両立できているなど、走行性能にはご満悦の様子。

長年にわたる日産への貢献により、星野さんに「スカイラインNISMO Limited」が1台提供され、その発表会では記念式典も行われました。

スカイラインNISMOの印象を語る、現役レーシングドライバー時代に「日本一速い男」として名を馳せた星野一義さん(左)。「スカイラインNISMO」の開発をまとめたエンジニア、長谷川聡さん(右)は、スーパーGT参戦マシンの開発も行なっています

スカイラインNISMOの印象を語る、現役レーシングドライバー時代に「日本一速い男」として名を馳せた星野一義さん(左)。「スカイラインNISMO」の開発をまとめたエンジニア、長谷川聡さん(右)は、スーパーGT参戦マシンの開発も行なっています

星野一義さんへの進呈式。星野さんにキーを渡しているのはNISMO(日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社)の片桐隆夫社長。標準の「スカイラインNISMO」は1000台(788万400円)、「スカイラインNISMO Limited」は100台(947万9,800円)の限定販売

星野一義さんへの進呈式。星野さんにキーを渡しているのはNISMO(日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社)の片桐隆夫社長。標準の「スカイラインNISMO」は1000台(788万400円)、「スカイラインNISMO Limited」は100台(947万9,800円)の限定販売

伝統のスポーツセダンが今もなお性能を磨き、そのクルマと生きてきたレース界のレジェンドが、最新モデルのことを楽しそうに語る。実に尊いワンシーンであります。

古参のファンにとって、大事な存在だからこそ要望したいものが多いのは当然であり、「スカイライン」というクルマは今後もさまざまな指摘を受け続けるのでしょうが、これも日本のクルマ文化の醸成に必要なことであります。こういうクルマが、熱心なファンと共に存在し続けていること自体、日本のクルマ好きのひとりとして、誇らしく思えてならない。そんな想いを噛み締めた発表会だったのでありました。

マリオ高野
Writer
マリオ高野
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。
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芝崎 瞬(編集部)
Editor
芝崎 瞬(編集部)
自動車専門媒体からゴルフ専門メディアを経由し、価格.comマガジンへ。クルマは左ハンドルMTに限る! と思って乗り継いでいたが翻意して今は右AT。得意クラブは、強いて言えばミドルアイアン。
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