マツダは、オープンスポーツカー「ロードスター」(ソフトトップモデル)と「ロードスターRF」(ハードトップモデル)の大幅改良を実施するとともに、予約受付を開始すると発表した。発売は、2024年1月中旬が予定されている。
初代モデルが1989年にデビューした「ロードスター」は今年で34年目を迎え、世界中で多くのファンを獲得している。現行モデルの「ND」は2015年に登場して、これまでにもいくつかの改良が実施されているが、「今回は、最も大きな改良になる」とマツダの関係者はコメントする。
今回の「ロードスター」大幅改良では“人馬一体”の走りがさらに高められ、先進安全技術が搭載されたほか、内外装にも手が入れられるなど、改良箇所は多岐に渡る
今回、大幅改良を実施した背景について、商品開発本部主査の齋藤茂樹さんは、「近年、自動車を取り巻く環境は大きく変化してきました。より安全で環境にやさしいクルマ作りが求められており、それは『ロードスター』においても例外ではありません」と語る。
齋藤さんは続ける。「新たな国際法規への対応など、継続生産している車両に対しても新たな安全法規への適合が求められる中、お客様に愛され続けている『ロードスター』の販売を続けるためには、電気、電子プラットフォームの刷新が必要でした。時代が要請する先進安全技術を搭載させたうえで、『ロードスター』の柱である“人馬一体”の走りをどのように進化できるかが、今回の開発における大きなテーマでした」。
今回の大幅改良におけるポイントは、主に3つある。ひとつめは、「ロードスター」が標榜する“人馬一体”の走りをさらに進化させるための、ダイナミック性能の進化。2つ目は、安全かつ快適に「ロードスター」に乗ってもらうための、先進安全技術などの進化。最後の3つ目は、「ロードスター」をさらに楽しんでもらうための、デザイン面での進化である。
走りについて、まず特筆すべきは、今回新たに開発された「アシンメトリックLSD」だ。加速時と減速時、それぞれにおいて差動制限力を最適に変化させることで、旋回加速や減速旋回の挙動を安定させるという新技術である。
「アシンメトリックLSD」は、「S」グレードを除くMT車に採用されている
従来の「ロードスター」に採用されていた、軽量かつコンパクトな円錐クラッチ型の「スーパーLSD」をベースに、カム機構を追加して減速側と加速側でそれぞれ異なるカム角を設定することで、最適な差動制限力を実現しているという。
齋藤さんによると、「減速側の差動制限力を強めることで、後輪の接地荷重が減って不安定になりやすい減速旋回時の安定性を向上させています。市街地ではさらに軽やかに、ワインディングでは旋回時の安定性が格段に向上しています」とのこと。
もし、「アシンメトリックLSD」の効果が説明どおりのものなら、「ロードスター」のコーナーリングはさらに楽しさを増しているに違いない。
次に注目したいのが、より軽やかで正確なステアリングフィールを実現するための、電動パワーステアリングの改良だ。「ステアリングラックのメカニカルなフリクションを低減しながら、モーターアシストの制御ロジックをマツダで内製化して、より綿密に進化させることで、自然でスッキリとしたフィードバック感を実現しています」と齋藤さんは言う。
これまでに筆者が現行「ロードスター」を試乗した際には、特に違和感を覚えたことはなかったのだが、さらによくなっているということなので期待したい。
電動パワーステアリングの改良によって、ステアリングを切り始めてから戻すまで、タイヤが路面に接触している感覚がより密に伝わってくるとともに、操舵が直接クルマへと伝わるような一体感を目指して開発されたという
また、「ロードスター」に搭載されている1.5リッターエンジンについては、国内のハイオクガソリンに合わせた専用キャリブレーションを施すことによって、高効率化を実現。出力も3kW(≒4PS)向上している。
さらに、「ロードスターRF」の2リッターエンジンも含めて、駆動力制御に最新のロジックが導入されており、アクセルを踏み込んで加速するシーンだけでなく、アクセルを緩めて減速するシーンなどにおいても応答レスポンスが改善されている。
もうひとつ、有効な機能が追加された。それは、「DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)」へ、サーキット走行に最適化された新モード「DSC-TRACK」が追加されたことだ(MT車のみ)。「ドライバーの運転操作を最大限に尊重して、横滑り防止装置の制御介入のしきい値を、通常よりも深く設定しています。唐突にスピン挙動に陥った場合にかぎって、ドライバーのカウンターステア操作に応じた制御が介入することで、コースアウトやクラッシュのリスクを低減します。あくまで、クラッシュのリスクを下げるための制御であり、DSCオフに対して早くも遅くもならず、ドライバーのスキルアップを妨げるものではないところが大きなポイントです」とのことだ。
先進安全技術の進化については、高速道路などにおいて車間距離を一定に保って走行する運転支援機能「マツダレーダークルーズコントロール」が「ロードスター」に初採用されたことがあげられる。同機能は、「ロードスター」には「S Leather Package」「S Leather Package V Selection」「RS」グレードに、「ロードスターRF」には「S」「VS」「RS」に標準で搭載される。
また、15km/h以下で後退するときに周辺の車両を検知し、回避できないと判断した場合には衝突被害軽減ブレーキをかけてくれる「スマートブレーキサポート」も新たに採用された。
さらに、快適なドライブをサポートしてくれる「MAZDA CONNECT」も進化している。センターディスプレイは、縦長の7インチからワイドな8.8インチモニターへとサイズが拡大。ディスプレイには、縁が狭いフレームレス構造が新たに採用されている。
8.8インチのセンターディスプレイは、前方視界を確保しながらエアバッグ作動時の干渉を避けるために、ディスプレイの縁をできるだけ狭くしたフレームレス構造が採用されている
そのほか、スマホからアプリを通じてクルマの状態を確認したり、万が一の事故の際には救急車を自動で手配できたりするコネクテッドサービスも利用可能になった。
デザインについては、エクステリア、インテリア、カラーコーディネーションについて「“MORE ROADSTAR” よりロードスターらしく磨きをかけていく」というスローガンにおいて開発された。それを「魅力あふれる豊かな表情」「ライトウェイトスポーツの機能美」「誰にでも愛される普遍性」という3つの切り口で達成しているという。
「ロードスター」ソフトトップモデルのフロントイメージ。ボディカラーは、「ソウルレッドクリスタルメタリック」
まず、エクステリアデザインの変更において最も目に付くのがフルLED化された前後のランプ類だろう。フロントは、デイタイムランニングランプの位置が変更されている。以前はバンパー角にあったのだが、今回はヘッドランプの中へと組み込まれた。そのヘッドランプは、ポジションランプやサイドターンランプ機能も兼ね備えた一体型となっている。「ヘッドランプの刷新によって、表情が非常に豊かになりますし、遠くから見ても『ロードスター』としての個性がさらに際立ちます」と述べるのは、デザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さん。
ヘッドランプのデザインは、生き物の瞳のような表情はそのままに、スピード感やライトウェイトスポーカーらしさが表現されている
いっぽう、リアコンビランプについて岩内さんは、「リアコンビランプの丸目に込められているメッセージは『ロードスター』のDNAですので、これまでのイメージをキープしながら、さらに緻密に進化させました。ジェットエンジンのアフターバーナーからインスピレーションを得ており、フルLED化によって得られた強力な光の発散が感じられるようなデザインへ仕立て上げています」と言う。
冒頭で述べた「マツダレーダークルーズコントロール」が搭載されたことによって、フロントグリルへ同機能を埋め込む必要が生まれたが、向かって右側へ、カバーとともに配されている。「このカバーデザインは、目標物をとらえるレーダースコープからインスピレーションを受けたものです。『ロードスター』の研ぎ澄まされたマシンというキャラクターを表現しています」と岩内さん。今回の外観変更においては、とても細かなところまでこだわったようである。
リアコンビランプのデザインは、歴代ロードスターに共通して採用されている「円形+楕円」のモチーフがより鮮明に表現されるとともに、個性的なデザインがさらに強調されている
今回の改良においては、インテリアに関しても重要な変更がなされている。まずは、メーターだ。新しいタコメーターにはブラックの文字盤が採用されており、目盛りをシンプル化するとともに指針をシャープにすることによって視認性を向上させている。
また、メーターの左側はデジタル表示へと変更することで、「美しいグラフィックとすぐれた視認性によって、ドライビングをサポートしています」と岩内さんは語った。
改良前のタコメーターは、グレーがかった文字盤が採用されていたが、改良後のタコメーターはシンプルなブラックの文字盤へと変更されている
また、ルームミラーもフレームレスミラーへと変更。ミラーには、エマージェンシーコールシステムも追加されている。
フレームレスのルームミラーが採用されることで、室内のプレミアム感がさらにアップしている
センターコンソールは、プラスチックのハードパーツからクッション入りの表皮巻きになった。膝や肘の触感が改善されて、より快適に運転できるようになり、新たにステッチを入れることで質感も向上しているとのことだ。
「ロードスター」のベーシックなシートと言えば、ストイックな黒い布が定番であった。だが、今回は一部に、「CX-60」のプレミアムスポーツにも採用されているスエード調の「レガーヌ」と呼ばれる表皮が使われている。被毛が長く、やわらかくて滑りにくい素材であることから、Gによる運転姿勢の崩れをやわらげ、より快適にドライビングが集中できるようになっている。
今回、新グレードとして「Sレザーパッケージ Vセレクション」と呼ばれる新モデルが追加されている。岩内さんは、「往年の『ロードスター』を彷彿させるようなビンテージな装いの提案になります。このような方向性は久しぶりなので、待っていたお客様も多いかと思います」と自信を見せる。
ベージュの幌にはドリフトウッドという、帆布や麻のように少しムラがあり、素材感豊かなテクスチャーが使われ、内装の表皮にはスポーツタンが採用された。この色は、4代目「ND」の初期モデルにもラインアップされていたが、今回は上質なナッパレーザーへと変更され、浅めのシボで滑らかな手触りとともに、上質さを感じることができるという。
新グレード「Sレザーパッケージ Vセレクション」のフロントイメージとリアイメージ。外装の変更点としては、ベージュの幌が採用されているほか、高輝度塗装の16インチアルミホイールが装着されているのが大きな違いだ
センターコンソールは、スポーツタンの表皮がしっかりと巻かれ、「上品でリッチなテイストを感じてもらえるでしょう。大人のゆとりある『ロードスター』ライフを楽しんでもらえると思います。優雅に、ドライブ旅行へと行きたくなるような上質なパッケージになります」とのことだ。
「Sレザーパッケージ Vセレクション」の内装には、スポーツタンのナッパレザーシートが採用されているほか、ドアトリム、インパネ、センターコンソールにもスポーツタンの合成皮革が用いられている
ここでひとつ、残念なお知らせがある。それは、軽さを追求した特別仕様車「990S」がカタログ落ちしたことだ。だが、「990S」はそもそも当初は1年間の期間限定販売予定だったところが、人気が高かったことから2年間販売されていたという経緯がある。
車重の軽さによる楽しさを追求した特別仕様車「990S」が生産終了となった。だが、マツダではいずれ軽量化モデルを改めて販売したいとのことなので期待したい
齋藤さんによると、「特別仕様車の価値のひとつとして、希少性があります。『990S』も、希少性という価値を持たせておきたかったので、今回は2年という目処で販売を中止しました」とコメントする。ただし、「軽量化に特化した特別仕様車は、いずれまた発売したいと思っていますので、ご期待していただければと思います」と語っていたので、いずれ登場する可能性は高そうだ。
今回の大幅改良は、走りなどのメカニカルな面から内外装、安全性まで多岐に渡っている。そして、これまでのマツダの改良モデルを踏まえると、今回の「ロードスター」の大幅改良も、効果のあるものばかりではと期待される。早く、実際にこの目で見て、そして走らせてその実力を味わってみたい。