スズキは、EV世界戦略車の第一弾となるコンセプトモデル「eVX」を「ジャパンモビリティショー2023」へ出展した。2023年1月に、インドのデリー近郊で開催された「Auto Expo 2023」においてワールドプレミアされたモデルの進化版である。
2023年1月11日に、インドの「Auto Expo 2023」にて世界初公開された「eVX」。今回の「ジャパンモビリティショー2023」では、未公開であった内装が初披露された
「eVX」は、スズキのSUVにふさわしい本格的な走行性能を実現するEVとして位置付けられており、2025年までの市販化を目指して開発が進められている。
現在、スズキは「グランドビターラ」をはじめ、「S-CROSS」などのSUVを世界各国に展開している。EVモデルである「eVX」においても、スズキのDNAである本格的な四輪駆動の力強さや最新のEVとしての先進性を融合させ、一目でスズキのSUVとわかるエクステリアへと仕上げられているという。そのスペックは、全長4,300mm×全幅1,800mm×全高1,600mmで、航続距離は500kmと発表されている。
インドで発表された際はエクステリアのみであったが、今回はインテリアを見ることもできた。そこで、カラーマテリアルも含めた各デザイナーに話をうかがったのでお伝えしたい。先に筆者の結論を述べると、デザインはどの視点においても完成度が高く、「このまま市販してもいいのでは?」というレベルへと仕上げられていた。
スズキ「eVX」CMFデザイン担当の温泉美祝さん、インテリアデザイン担当の林田崇さん、エクステリアデザイン担当の前田貴司さん
「eVX」のボディサイズは、「スイフト」よりも1サイズほど大きい程度だ。エクステリアデザインを担当した前田貴司さんは、「全長は4.3mなので、SUVの中ではコンパクトな部類に入るでしょう。『スイフト』のように、コンパクトで使い勝手のよいボディサイズによって生活やライフスタイルにフィットする、お客様の要望にお応えできるSUVです」と話す。
そのエクステリアは、「EVらしい先進性を纏いながらも、SUVらしい力強さや造形の立体感、硬質な表現をミックスさせた外観となっています」と前田さん。特にこだわったのは、「『ヴィターラ』や『ジムニー』のように、フェンダーがしっかりとタイヤをつかむような力強さとともに、使いやすくコンパクトなキャビンのバランスにこだわってデザインしました」とのことだ。
たとえば、フェンダー周りのボリューム感や、それをさらに引き立てるためにドア周りの面をえぐるなどの工夫によって、スタンスのよさや安定感を演出している。
「エクステリアのキーワードは、“メタリックビースト”。硬質でシャープな造形と、プラスアルファとして生き物のような躍動感、筋肉を感じさせるような面質を求めて、幾度もチューニングしながら仕上げました」。
「eVX」のサイドイメージ。EVならではのロングホイールベースが、デザインにおいても伸びやかなシルエットで表現されている
サイドから見ると、リアのデッキ上に、短めではあるが3BOX車(トランクルームのあるクルマ)のようなデザインが施されているのが特徴的だ。これは、「フロントとバランスを取っています。フロントは少し突出感があるので、そこからの軸を横一直線にリアへと抜けさせることで、重心が高い位置にあるSUVらしい、足回りがよく動くようなイメージを表現しました」と前田さん。さらに、その軸が前からうしろへと突き抜けていったときの余韻のようなものを(リアの突出部分によって)感じさせることで躍動感をも演出しているようだ。
また、フロントフェイスはヘッドランプの下あたりがえぐられており、上向きの面を作り出している。結果として、あまり重たすぎず引き締まった造形となっている。
「eVX」のフロントフェイス。先進的な3点シグニチャーランプが印象的だ
今回、初公開されたインテリアについては、ショーモデルならではといった部分も見受けられるものの、基本的なレイアウトなどを含めて、かなり作り込まれている印象を受けた。
インテリアデザインを担当した林田崇さんは、「コンセプトは、EV×SUV。ハイテク&アドベンチャーをテーマに、内外装をカラーリング、開発しました」と言う。
「SUVにありがちな、ドライブシャフトがあった時代のT字型のインパネのレイアウトは残しています」と林田さん。インパネは力強い断面を持たせつつ、ドアトリムまでつなげることによって幅広く見せ、かつ軽快に見せるような工夫がなされている。
「eVX」の内装は、各部の立体的な造形によってたくましいSUVらしさが表現されている
インテリアにおける特徴のひとつが、先進感を演出している2階建てのフローティングコンソールだろう。林田さんによると、「バッテリーが下にあるだけなので、その上のフロアは何もない状態になります。そこで、せっかくならユーティリティーに使いたい。いま、欧州でも収納などは昔の日本以上に要求されていますので、そのあたりもアピールしています」と説明する。また、このセグメントとしてはセンターコンソールが比較的高い位置にレイアウトされている。
「デバイス関係が手元へ近くなりますし、直感的なインターフェイスも指先でラクに操作できるようになります。さらに、高くすることで収納を2段に増やせて、何気ない荷物も置くことができます」。
インパネ全体を特徴づけているのが、縦長のエアコンルーバーだろう。欧州のプレミアムセグメントなどでは、ルーバーは隠す方向の動きも見られるのだが、「eVX」はあえて機能面を押し出しつつ、「それだけが目立つことなく、機能性とスタイルを融合させて、先進感も感じてもらえることを大事にしています」とコメントする。
センターコンソールは、浮遊しているような造形によって先進的な空間を印象付けている
インパネに備えられたスイッチなどのデバイスについては、「先進的なデバイスを使った、直感的なインターフェイスです。物理スイッチを使わず、ソフトキーを極力採用しています。多くの方がスマホを使っていると思いますので、日常生活にクルマも合わせていくべきだろうと。直感的なGUIも含めて、先進感をインパネのデバイスで表現しました」と説明する。しかし、スマホは画面を見ながら操作できるが、クルマの場合、走行中は前方を注視しなくてはならず、スイッチを常に見続けるわけにはいかない。あくまでも「eVX」はショーカーであるのでそのような演出が必要だが、実際の市販化の際は、より操作のしやすい改良を望みたいところだ。
スマホなどの日常的なデバイスを参考に、スイッチ類を透過させることで先進性が表現されている
近年、重要性が増しているCMF(カラーマテリアルフィニッシュ)については、「全体のコンセプトである“ハイテク&アドベンチャー”を、車体色とともに少し遠くから見たときの車体のコーディネーションなどでも表現したいとデザインしました」と、CMFデザイン担当の温泉美祝さんは説明する。
まず、「eVX」のカラーリングについて温泉さんは、「SUVの持つタフさや力強さ、自然とつながれるような感じを大事にしたいと、あえて低彩度なグリーンがベースのカラーにしました」と言う。ただし、「艶のある質感で仕上げてしまうと、量産車を意識しているとはいえEVらしさに欠けてしまう恐れもあるので、EVらしい先進性もしっかり表現したいことから、あえてマットの質感で仕上げました」と話す。
また、エクステリアデザインはラギッドでかなり筋肉質な、面の張った形状であることもあり、「その特徴を殺さないために、何回もトライして輝度感やエフェクトをしっかり出しつつも、マットという面白い領域を狙って開発しました」とのことだ。市販化はまだ少し先のようだが、「eVX」のイメージにピッタリなので、ぜひ開発を続けてほしいと思う。
そして、インテリアのカラーコーディネートもすてきだ。グレーともホワイトとも言い難い絶妙なカラーリングとともに、オレンジの差し色がインパネ周りに入れられることで、上品かつ高い質感を演出している。温泉さんは、「スズキが持つ“遊び心”は、他メーカーではなく、まさにスズキだからこそできる表現なのです。そこで、色彩にも少し遊び心を入れたいと。有彩色は絶対に入れようと思っていました」と言う。
モノトーン色をベースに、オレンジの差し色を入れることでスズキの“遊び心”を表現したインテリア
今回の取材は、あくまでもコンセプトモデルがベースなので、2025年のデビュー時には変わっているところがいくつもあるに違いない。しかし、根本的なエクステリアのシルエットを含めた造形や、インテリアの骨格部分に関してはそう大きくは変わらないだろうと筆者は考えている。また、インテリアの色味に関しても、それほど大きく異なることはないはずだ。
その理由が2つある。ひとつは、そろそろモデル決定をして生産準備に入るタイミングであること。そしてもうひとつは、わざわざインテリアまで作り込んだコンセプトモデルを展示したからだ。そうでなければ、インドで発表した車両を持ってくればよいだけだからだ。そう考えると、今後はディテールに関しての詰めを行うなど、「eVX」をさらに熟成させていくに違いないだろう。市販モデルの発表を、楽しみに待ちたい。
写真:中野英幸、内田千鶴子