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薄型バッテリーがデザインを進化させる! トヨタとレクサスに見る次世代EVの造形美

トヨタとレクサスは「ジャパンモビリティショー2023」において、新開発の薄型バッテリーを用いた3種のEVコンセプトカーを世界初公開した。

トヨタ ガズーレーシングが次世代のスポーツカーとして提案するコンセプトカー「FT-Se」

トヨタ ガズーレーシングが次世代のスポーツカーとして提案するコンセプトカー「FT-Se」

シンプルな面構成と低い全高が特徴的なトヨタの次世代SUV「FT-3e」

シンプルな面構成と低い全高が特徴的なトヨタの次世代SUV「FT-3e」

電気自動車ならではの美しいフォルムを纏うレクサスの次世代コンセプトカー「LF-ZC」

電気自動車ならではの美しいフォルムを纏うレクサスの次世代コンセプトカー「LF-ZC」

これら3車種は薄型バッテリーの搭載によってボディの高さが抑えられるだけでなく、高いエネルギー密度を実現。さらに、周辺コンポーネントが小型化されることで、デザインの自由度が大幅に向上したという。

今回最も注目すべきは、スポーツカーにセダン、SUVとさまざまなボディタイプが用意されることで、薄型バッテリー採用による可能性の広さや多様性が示唆されていることだ。当記事では、3車種の魅力や特徴について解説したい。

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“薄型バッテリー”がクルマのデザインを変える

トヨタ BEVファクトリー プレジテントの加藤武郎氏は、薄型バッテリーの特徴について「航続距離は1,000km、充電時間は20分。この小型コンポーネントはクルマの形を変えます。つまり、小は大を兼ねるということです」と説明する。

多くの電気自動車は、車両の中央床下に電池を搭載している関係から、航続距離を伸ばそうとすると電池の搭載量を増やす必要がある。すると、ホイールベースを伸ばさなければならなくなり、結果として車体が大きくなってしまうのだ。

だが、薄型バッテリーなら同じ航続距離でもよりコンパクトなバッテリーで済むので、バッテリーの搭載量を減らすことができる。さらに、バッテリーの高さが抑えられてクルマの全高を低くできるため、デザイン面にも大きく影響を及ぼす。

「ジャパンモビリティショー2023」トヨタのプレスカンファレンスに登壇したのは、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長の佐藤恒治氏。同氏は、「クルマ作りの原理原則に立ち返り、航続距離などの基本性能はもちろん、電気自動車ならではの価値である低重心と広い室内空間を両立させること」が、自動車メーカーであるトヨタらしいクルマ作りのひとつと語る

「ジャパンモビリティショー2023」トヨタのプレスカンファレンスに登壇したのは、トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長の佐藤恒治氏。同氏は、「クルマ作りの原理原則に立ち返り、航続距離などの基本性能はもちろん、電気自動車ならではの価値である低重心と広い室内空間を両立させること」が、自動車メーカーであるトヨタらしいクルマ作りのひとつと語る

その提案のひとつとして3台のコンセプトカー、レクサス「LF-ZC」、トヨタ「FT-3e」、GRトヨタ「FT-Se」が公開されたのである。

レクサス「LF-ZC」は美しいフォルムに注目

まずは、レクサス「LF-ZC」から解説しよう。同モデルは、2026年に市場への導入が予定されている。今回お披露目されたのはコンセプトカーなので、このままのデザインでは発売されないだろうが、そのモチーフはあらゆる箇所に採用されるだろう。

エアインテークやエアアウトレットを採用しフードを低くするなど空力性能を重視しながらも、レクサスならではの美しいフォルムを表現している

エアインテークやエアアウトレットを採用しフードを低くするなど空力性能を重視しながらも、レクサスならではの美しいフォルムを表現している

ボディサイズは、全長4,750mm、全幅1,880mm、全高1,380mm、ホイールベース2,890mmで、たとえばレクサス「IS」(4,710mm、1,840mm、1,435mm、2,800mm)と比較すると、全長と全幅は同じくらいだが全高は「LF-ZC」のほうがはるかに低く、ホイールベースが長い独特の体躯である。これこそ、まさに薄型バッテリーだからこそ可能なパッケージと言えるだろう。

「LF-ZC」のチーフコンセプトデザイナーを務めた木村大地さんは、デザインコンセプトについて以下のように話す。

「LF-ZC」のチーフコンセプトデザイナー、木村大地さん

「LF-ZC」のチーフコンセプトデザイナー、木村大地さん

「“プロボカティブ・シンプリシティ”です。プロボカティブというのは挑戦的、シンプリシティというのは、言葉どおりシンプルという意味になります。挑戦的と言うと非常にエキセントリックなものを想像するでしょうし、シンプリシティとはかなり異なる意味を持ちます。レクサスは二律双生、異なる2つの価値をうまく共存させながら新たな価値を生み出してきていますので、今回もそこを目指してデザインしています」

「LF-ZC」のプロポーションは、フロントにエンジンを搭載しない電気自動車であることからボンネットを低くできたのが大きなポイントのひとつだ。そこから、フロントウィンドウも同じような角度でスラントさせて、走行風をリアに向けて流している。さらに、リア周りが後方に向かって絞られているので、きれいに風が抜けていくイメージが外観からも想像できる。

また、車体を上から見下ろすとキャビンが上に向かって絞られていて、空力性能の高さを窺わせる。そして、フェンダー周りが強調されているのでタイヤが張り出している印象を受け、スタンスもよく見える。「全幅は1,880mmですが、真後ろから見ると数値よりも圧倒的にワイドなイメージです。スタンスのよさが感じられるでしょう」

「そのような、機能に裏打ちされた美しいフォルムと、クルマとしての良好なスタンスを両立させているところが“プロボカティブ”、挑戦的なのであり、シンプルに美しさを表現しているのです」

また、薄型バッテリーや周辺コンポーネントがコンパクト化したおかげで、「とても伸びやかで、広い空間ができました。走りを予感させる、非常にスタイリッシュで美しいフォルムでありながら、室内は広い空間によって常にくつろげる。それも、二律創生のひとつです。そのようなところを、全域でこだわって作っていくことで、レクサスが次世代の電気自動車でもしっかりと勝負できるようにしていきたいですね」と話してくれた。

フラットなフロアやパノラマルーフなどによって、開放的な室内空間が表現されている

フラットなフロアやパノラマルーフなどによって、開放的な室内空間が表現されている

GRトヨタ「FT-Se」は次世代の電動スポーツカー

次に、トヨタガズーレーシングの「FT-Se」について解説しよう。本モデルには「カーボンニュートラル(脱炭素社会)の時代にも、クルマ好きを虜にする高性能な電動スポーツカー」として、ガズーレーシングが取り組むモータースポーツを起点とした知見やノウハウが投入されているという。

ボディサイズは、全長4,380mm、全幅1,895mm、全高1,220mm、ホイールベースは2,650mmで、2シーターの四駆BEVが想定されている。

「FT-Se」のエクステリアは、ワイド&ローなプロポーションやワンフォームなシルエットによって、空力に配慮したスポーツカーであることが表現されている

「FT-Se」のエクステリアは、ワイド&ローなプロポーションやワンフォームなシルエットによって、空力に配慮したスポーツカーであることが表現されている

「いかに、スポーツカーとして低く作るか。そして、お客様から見ていただける外観にするかを重視しました」と話すのは、トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ主幹の飯田秀明さん。

「エンジンがないことによって生まれる、新しいフォルム。すなわち、四駆の電気自動車であることから感じられる4輪の存在感を、いかに高めるかを考えました。そこで、ボンネットを低くしてフェンダーをボンネットよりも高く配置しました。カウルやベルトラインよりも、タイヤが高い位置にあるのは、運転していてレーントレース性もよいですし、デザイン的にもパワー感を表現できます。電気になったことで、新たなスポーツカーが提案できたと思っています」

トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ主幹の飯田秀明さん

トヨタ GAZOO Racing Company GRデザイングループ主幹の飯田秀明さん

また、飯田さんは「乗員がホイールベースの中心にいるというのは、非常に大事です。前後重量配分のバランスをいかにとるかを考えて、乗員を前方に座らせています」と言う。

だが、そうするとFFと変わらないプロポーションになってしまう。そこで、前述のようにカウルやベルトラインを低くすることでフェンダーを強調させてFF感を排除。スポーティーさを表現して、伸びやかさを感じさせるような、ほかにはないエクステリアデザインが生まれたのだ。

視認性を確保するためにインパネは低く配置される。スポーツ走行時に乗員の足が当たるニーパッドは新しい意匠でデザインされているのが特徴的だ

視認性を確保するためにインパネは低く配置される。スポーツ走行時に乗員の足が当たるニーパッドは新しい意匠でデザインされているのが特徴的だ

リヤセクションにも注目すべきポイントがある。キャビンやボディ後方が大きく絞られているので、「広大なグリップを生むタイヤを包み込むようなリアフェンダーが生まれました」と飯田さん。

ちなみに、リアタイヤの前の意匠には隠されている機能がある。それは、「バッテリーとモーターが熱くなったら、冷やすためにセンシングして開くインテークを設けています」とのことだ。

黒いコの字型の部分がバッテリーとモーターを冷却するためのエアインテーク

黒いコの字型の部分がバッテリーとモーターを冷却するためのエアインテーク

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トヨタ「FT-3e」はエンジン非搭載ならではの外観に

最後は、SUVのトヨタ「FT-3e」だ。全長4,860mm、全幅1,955mm、全高1,595mm、ホイールベースは3,000mm。ホイールベースは「ランドクルーザー300」よりも長いのだが、これはあくまでも1,000kmという航続距離を目指した結果なので、その視点においては、このホイールベースの長さで実現できたのが驚きである。

「FT-3e」は一般的なSUVとは異なり、ボディの大きさを感じさせない滑らかなエクステリアが特徴的だ

「FT-3e」は一般的なSUVとは異なり、ボディの大きさを感じさせない滑らかなエクステリアが特徴的だ

トヨタ デザイン本部の鈴木勝博さんは、「SUVですので、まずは悪路走波性をしっかりと担保したうえで、SUVらしい大きなタイヤと、SUVに必要な地上高(「FT-3e」は200mm少々とのこと)を確保しました。それをキープしたうえで、『LF-ZC』のような、薄いボディを載せた新たなジャンルのSUVを表現しています」と説明する。

一般的なSUVでは、ボディを厚く見せることによって筋肉質でマッシブな印象を持たせるが、「FT-3e」では逆なのだ。その点について、鈴木さんは「内燃機関の時代におけるSUVは、大排気量エンジンを搭載するイメージがありました。ですが、クルマに搭載されるさまざまなコンポーネントが小さくできたときに、人が乗る居住スペースはもう十分に確保されています。それであれば、『FT-3e』のようなスポーツタイプのボディを持っていても、居住空間をしっかりと確保しつつ4WDの走行性能を引き出すことができます。頭上空間がさらに欲しいのであれば拡大できますし、全長ももっと短くできるでしょう。それは、企画デザイン次第なのです。これからは、さまざまなことができるのではないか、そのフレキシビリティの高さを表現できればと思っています」

実は「FT-3e」のドア周りには、あるクルマのモチーフが採用されている。鈴木さんによると、「『ランドクルーザーSe』のドア断面と同じように、その記号性を採用しています。トヨタのSUVにおけるDNAを、このようなスタイルだからこそ入れることで、トヨタのSUVとわかるようにドアのもっとも大きなところで表現しています」とのことだ。

「FT-3e」は横から見るとキャビンの低さがよくわかる

「FT-3e」は横から見るとキャビンの低さがよくわかる

また、近年ではトヨタのアイデンティティーのひとつとなっているフロントのハンマーヘッドだが、これも新たな表現に変わった。それを説明するには、まずはフェンダーの造形から見ていかなければいけない。これまでは、エンジンが搭載されていた関係もあり、フェンダーは縦方向で表現されていたが、「FT-3e」は低くなったのでフェンダーをより内側(ボンネット側)に倒すことができたのだ。そして、ランプとハンマーヘッドをセットにすることで、新たなハンマーヘッドを表現。それらをフロントフェンダーで抱きかかえる造形とすることで、より新鮮な印象を狙っている。

そのほか、空力にも当然力を入れており、1,000kmもの航続距離を目標として「フロント下から入った空気をボンネットから抜いて、空気の流れを整えることなどを研究しています」と鈴木さん。これは、タイヤ周りなども含めて、現在はさまざまな研究や検証が繰り返されているようだ。

最後に鈴木さんは、「『ランドクルーザー』は各地域で昔からトヨタが取り組んでいますので、多くの方々に支持していただいている大事なトヨタのDNAです。それは、『ランドクルーザー』=タフなSUVという記号性を、今回のような新しいSUVにも取り入れることで、トヨタのタフなSUVであると想像していただき、安心していただくことが大事なのです。そのうえで、さらなるチャレンジをしていきたいですね」と語っていた。

今回ご紹介した3台のコンセプトカーは、一見するとまったく共通性のないモデルに見える。だが、これらのコンセプトカーは、いずれも薄型バッテリーによる低床化によって実現できたものだ。1,000kmの航続距離を達成するほどの先進的なバッテリーながら、市販されている内燃機関と同レベルのホイールベースを確保できているのだから、今後インフラが整うなどで航続距離があまり必要なくなってくれば、ホイールベースを短くでき、コンパクトなクルマも視野に入ってくるだろう。

薄型バッテリーが、いかに電気自動車のバリエーションを増やしていくか。いかに、デザインの多様性に貢献するのかがお分かりいただけたのではないだろうか。今後、トヨタの電気自動車が、どのようなデザインをまとって登場するのかが楽しみである。

写真:中野英幸・内田千鶴子・野村知也

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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