マリオ野の人生 Fun To Drive

氷雪路を走って驚いた! 日産の四駆システム「e-4ORCE」の緻密な制御に改めて感服

30年前に購入した4WDセダン(初代スバル「インプレッサWRX」)は今も快調で、シンプルな機械式4WDシステムの耐久性の高さに感心している4WD車好きのライター、マリオ高野です。

2024年シーズンの冬も日産が開催した雪上試乗会「NISSAN Intelligent Winter Drive」に参加し、日産のEV/e-POWERといった電動駆動車の、滑りやすい路面での走りのすごさに大きな衝撃を受けました。

冬タイヤを装着した日産の現行モデル何台かで、雪道を試乗しました

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日産の電動4WD技術「e-4ORCE」がどういうものであるかについては、こちらの記事で紹介しておりますので、ご覧ください。

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「NISSAN Intelligent Winter Drive」という氷上路面での試乗会に参加し、日産の最新鋭四輪駆動システム「e-4ORCE」の駆動力のスゴさに度肝を抜かれました。
2023/02/17 21:00

緻密な電子制御が冬季の路面で大活躍

今回の試乗会でも強く印象に残ったのは、「e-4ORCE」は緻密な電子制御を駆使した超ハイテクの電動駆動システムでありながら、操縦感覚がきわめて自然であり、ドライバーの感性に寄り添ったものだと実感できたこと。プロペラシャフトやドライブシャフトで繋がったメカニカルな駆動システムの4WD車と同じように、安心して雪道ドライブを楽しむことができるのです。

雪の積もった登り坂で発進加速をする場合、従来の4WDでは、アクセルを踏み込むとタイヤが少し空転します。そこから電子制御が働いて、タイヤの空転を抑えながらジワジワと坂道を登っていくもの。しかし、「e-4ORCE」を採用する「エクストレイル」と「アリア」では、タイヤはほとんど空転せず、最初から路面にしっかり食い付いた感覚で発進できてしまいます。

「e-4ORCE」の作用により、雪面を難なく走る「エクストレイル」

「e-4ORCE」の作用により、雪面を難なく走る「エクストレイル」

雪道では「急」のつく運転操作は厳禁ですが、意図的に雑なアクセルの踏み方をしてもそれは変わらず、文字どおり地に足の着いた感覚でスムーズに駆け上がっていけるのでした。

タイヤの半分ぐらいまで雪が積もった状態、あるいは砂地のような場所でも「e-4ORCE」車はスムーズな発進が可能だと言います。この驚異的な発進性能を実現する秘訣は、車輪の滑りを検知し、空転を抑えながら適切な駆動力を伝える制御の速さにあるとのこと。

ドライバーの感覚としては、アクセルを踏み込んでもタイヤが一切空転していないように感じますが、実際にはわずかに空転はしており、ドライバーがそれを感じる間もないほど瞬時に緻密な制御をしているのです。

車体速と車輪速の比率を保持して進む

運転経験が豊富な人ならご存じのとおり、フカフカに積もった雪や砂地でスタックしかけたとき、トラクションコントロールや横滑り防止デバイスのVDCをOFFにして、一定の空転を許したほうが発進しやすくなる場合があります。雪や砂の抵抗を利用して、雪や砂を少し掘りながら前に進む力を作用させるという、ドライバーに高度なコントロール技術が求められる操作ですが、簡単にいうと、「e-4ORCE」はこの操作を自動でやってくれるというわけです。

車体速と車輪速を一定比率で維持したまま、常にわずかに滑りながらも抵抗や摩擦力を確保して、雪をかきながら前に進む力を発揮させるのです。

従来の機械式の4WDシステムでも、電子制御を組み合わせれば、これに似たような性能を出すことはできますが、電動駆動式の4WDシステムのほうが、より速く、より緻密で高度な制御がしやすいのは間違いないでしょう。

電気自動車「アリア」には、きわめて細かい駆動力制御が可能な電動駆動式の4WDシステムが搭載されます

電気自動車「アリア」には、きわめて細かい駆動力制御が可能な電動駆動式の4WDシステムが搭載されます

たとえば、スバル車の電子制御デバイス「X-MODE」は、同じように豪雪路や砂地での発進性をサポートしてくれる機能を備えますが、「フォレスター」などの内燃機関車より、フル電動駆動の「ソルテラ」のほうがより高度な制御を実現するなど、日産以外の4WD車でもこの事実は実感できます。

機械式、メカニカルな駆動システムの安定感や安心感、信頼性の高さを信じてやまず、電動車より内燃機関車の方を好む筆者としても、「e-4ORCE」の走破性と自然な運転感覚には脱帽するほかありません。

コーナリングにも驚いた

そして、日産の「e-4ORCE」は発進加速時以外でも驚愕の連続でした。「曲がる」の性能にも、これまでの4WD車とは一線を画す違いが見られます。

多くの場合、カーブでアクセルを踏み込むと、車体は外側へ膨らむ作用が働き「アンダーステア」という状態に陥るものの、「e-4ORCE」は「ヨーレイト」と呼ばれる車体が曲がろうとする力を増す機能もワンランク上を感じさせます。内側のタイヤに微妙なブレーキをかけて旋回する力を増すという制御自体はほかのクルマでもよく見られますが、各車輪のグリップ限界を算出する速さ、1万分の1秒単位でトルク制御を行い、外側のタイヤの駆動力を最大限に発揮させる能力は、驚異的なレベルにあるのでした。

さらに、「e-4ORCE」は車体の上下動や前後方向への荷重移動を回生ブレーキや駆動力でコントロールすることにより、車体のむだな動きを減らす効果も発揮。これにより、回生ブレーキを強めに利かせた際も車体が前に沈み込まず、常にフラットな姿勢を保ってくれるので、滑りやすい路面でも安定感と安心感をともなった減速フィールが味わえます。

もちろん、タイヤのグリップ力などの物理的な限界が上がるわけではないので、従来の4WD車以上に“過信は禁物”という鉄則を忘れないようにしなければなりませんが、「e-4ORCE」は「ファン・トゥ・ドライブ」性においても古典的なクルマ好きが悦べるものであることを、改めて実感しました。

乗員にセンサーを付けて乗り心地を研究!

「e-4ORCE」の“ドライバーの感性に寄り添った制御”を実現できた秘訣について開発者に尋ねてみると、「e-4ORCE」は開発思想の段階から「乗員に快適な挙動」を重要視してきたとのこと。たとえば、乗員にとって不快なものになる「頭が揺すられる状態」に対しては、乗員の首の筋肉にセンサーを付け、クルマの挙動と人体が受ける影響の関連性を研究して開発したと言います。

ハイテクを駆使し、闇雲に走破性や曲がる性能の向上を追求すると、乗員にとって違和感をともなうものになってしまうようなイメージがありますが、「e-4ORCE」は感性を重視して生み出されたと聞いて、すべて納得です。どちらかというと、電動車や電動駆動車の未来に悲観的だった筆者も、電動駆動車の未来に明るいものを感じてやまなくなったのでありました。

乗員に快適な挙動をもたらす細かな制御は、電動駆動車ならではだと言います

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また、今回の試乗会では、4WDではない最新日産車のウィンタードライブ性能もチェック。「セレナ(e-POWER/2WD)」では、車体剛性などの基本性能の向上により、ミニバンとしては守旧派のクルマ好きでも満足できる走りのよさを実感しました。

ステアリングの手応えがしっかりしており、路面からのインフォメーション性も高いので、滑りやすい路面での限界が直感しやすく、危ない目に遭いにくいクルマであることがわかりました。フロント周りの視界の広さも、ウィンタードライブでは大きな強みになる要素です。

運転して楽しいミニバン「セレナ」。現行型はウィンタードライブでも大きな不安を感じることなくドライブできます

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FRの「スカイライン NISMO」を雪上で乗ってみた

さらに、滑りやすい路面でのドライブに最も不向きと考えられる、ハイパワーFRの「スカイラインNISMO」でも「e-4ORCE」車と同じコースを試乗。ドライ路面での運動性能を重視した引き締まったサスペンションながら路面への追従性が高く、操縦性や動力性能にピーキーさがないので、雪上路でも存外に扱いやすいと感じました。

4WDと比較すると雪上での限界値は圧倒的に低く、車高の低さも雪上では不利になるとはいえ、今どきのハイチューンな高性能車は、路面の状況が多少悪くとも、そう簡単に破綻したりはしないことを実感。ここでもドライバーの感性に徹底的に寄り添った開発、NISMOの技術力の高さに感銘を受けたのでありました。

「SPORT+」モードでも雪上を楽しく走れました。もちろん4WD車に比べて限界は高くないので自制は必要ですが……

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写真:日産自動車

マリオ高野
Writer
マリオ高野
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。
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芝崎 瞬(編集部)
Editor
芝崎 瞬(編集部)
自動車専門媒体からゴルフ専門メディアを経由し、価格.comマガジンへ。クルマは左ハンドルMTに限る! と思って乗り継いでいたが翻意して今は右AT。得意クラブは、強いて言えばミドルアイアン。
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