かつて、三菱「ランサーエボリューション」に搭載された電子制御駆動システム「AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)」の性能に衝撃を受けた自動車ライター、マリオ高野です。
その「AYC」が搭載された三菱の新型「トライトン」の試乗会にて、再び大きな衝撃を受けてきたので、その模様を報告します。
高い堅牢性とSUV並みの快適性、ハンドリングを備えた新世代ピックアップトラックとして生まれ変わった新型「トライトン」
新型トライトンは、2024年2月より国内でも発売が開始された三菱のピックアップトラック。概要や性能などの詳細については、こちらの記事をご参照ください。
今回は、登録ナンバーの付いた状態で一般道を試乗し、さらに雨の中でのオフロードコース(泥濘路)で極限的な状況下での悪路走破性能を試すことができました。
まず、一般道での走りの印象は、ラダーフレーム構造のトラックとは思えないほど、乗り心地がよいことに驚きました。一般的にラダーフレーム構造のトラックやSUVに乗ると、車体の骨格部分と車体に上屋部分に微妙な動きのズレを感じやすいものですが、新型「トライトン」にはそれがほとんどありません。
ディーゼルエンジンは騒音・振動ともに最小限にて市街地での走りに不満は少ない
一般的なラダーフレームは、文字どおり屈強なハシゴ型の硬い骨組みとして機能しますが、新型「トライトン」のラダーフレームは、従来のものより“しなやかさ”が与えられているとのこと。ただガチガチに突っ張るだけではなく、比較的柔軟に入力を処理することができるものになっているのです。
ただし、“いかにも屈強な骨組みの上に載っている”という、普通の乗用車では得られない、よい意味でのラダーフレーム構造車らしい特徴は明確にあり、そこには特別感が得られます。
また、新型「トライトン」は一般的なトラックと同じく、リアのサスペンションに板バネを採用。トラックらしく、空荷の状態ではサスペンションが突っ張ったような感覚が伝わったり、ヒョコヒョコと跳ねる挙動が出たりしてもおかしくないのですが、知らなければ板バネであることがわからないほど、サスペンションの動きが乗用車的でした。
聞けば、従来は5枚重ねにしていた板バネを3枚に減らし、それぞれの抵抗を減らす工夫を凝らしたことが大きいと言います。板バネの枚数を減らすと、乗り心地がしなやかになる半面、対荷重性が落ちたり、走行中の横方向への踏ん張りが効かなくなったりするデメリットが生じるものですが、サスペンション全体の構造の見直しなどにより、ネガ要素を最小限に抑えたとのこと。
傾斜の強い道でも感覚がつかみやすいよう、水平基調に仕立てられた内装デザイン。スイッチ類はシンプルで、手袋を着けていても操作しやすい設え
雪や泥、砂や岩場まで幅広い路面状況に対応できる四駆システム。悪路走行の初心者でも特別な技術を要せずに走破できます
後席は足元スペースに余裕があり、背もたれは角度を倒してリラックスできる設計に。ファミリーカーとして使える居住性を備えています
6世代にわたり、世界中でタフな使われ方に余裕を持って耐え続けてきた荷台。ハッチバック車とは異なる容量の大きさを誇ります
アスファルト路面を走る際は、二輪駆動状態を選ぶとステアリングの手応えがFR車らしいスッキリとしたものになり、大柄な車体のわりには軽快感が得られることを確認。燃費は二輪駆動状態のほうが少しだけよくなります。いっぽう、四輪駆動状態にすると、ステアリングの手応えにやや重みを増し、直進安定性が明らかに向上。この挙動とステアリングの手応えの変化はドライバーの好みが分かれるところです。
カーブでは、大柄で重心の高い車体のわりにはむだな動きが少なく、たとえば右カーブから左カーブにさしかかっても大きな揺れ戻しが出ることはありませんが、慣性マスの大きな物体ならではの大らかな動きは感じられます。
そんな、やや大らかな車体の動きを感じつつも、カーブの外側に走行ラインが膨らんでしまいそうになる、アンダーステアと呼ばれる挙動がほとんど出ないことに驚きました。この、予想以上にスムーズにカーブを曲がれる感覚をともなう秘訣は「AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)」と呼ばれる三菱独自の電子制御デバイスによるもの。
トラックなのに、カーブでドライバーに不安を感じさせないばかりか、曲がるのが楽しいとさえ感じさせる不思議な感覚には、かつての「ランサーエボリューション」のDNAが継承されていることを感じずにはいられません。雪道など、滑りやすい路面の上ではなお明確に感じられることでしょう。
また、都市部の狭い道では巨体がネックになるのは間違いありませんが、運転中、車体寸法の数字ほどには大きさを感じないうえ、車両間隔がつかみやすい形状をしているので、郊外であれば意外と大きさを持てあますことはないと感じました。
雨の泥濘路で試した悪路走破性は、まさに圧巻のひと言。雨に濡れた未舗装の急勾配や砂利道など、かなり極限的な悪路を走りましたが、悪路を悪路と感じさせないほどの高い走破性は感動もの!
タイヤが宙に浮いてしまう状況でも、トラクションを失わず走行可能。このような状態でも乗り心地は良好です
通常の四輪駆動モードのままでも、ほとんどの難所を簡単にクリアしてしまいますが、雨の泥濘路であえてスタックしやすい状況にクルマを追い込むと、さすがに駆動輪が空転して、前に進むのが難しくなりますが、そこで四輪駆動モードを、「マッド」(泥道)や「ロック」(岩場)、あるいはローギヤ化する「4LLc」を選択すると、危機的な状況がウソのように、いともアッサリと脱出できました。
凹凸の大きな路面では、いずれかのタイヤが完全に宙に浮いてしまう状況にもなってしまいますが、そんな場面でも、ただゆっくりとアクセルを踏み込むだけで難なく走破してしまう。これぞまさに、「パジェロ」などの本格派SUVで長年にわたり悪路走破性能を磨き続けてきた三菱の面目躍如であります。
リアデフロックのON/OFFなど、四輪駆動モードの選択時には、一部のモードで完全に切り替わるまでに若干時間がかかってしまうことがありますので、その点はご注意ください。場合によっては数十秒かかることもありました。
道の状態を問わず快適な乗り心地を実現。運転支援システムなどの安全装備も備わり、高級SUVとして選べるレベルにあります
最近は、四輪のすべてを電気モーターで駆動するタイプの四輪駆動車も見られ、制御の正確さと速さにおいて、機械式四輪駆動の時代は終わったと感じさせることがあります。
三菱も「アウトランダー」などではオール電動の四輪駆動を採用していますが、新型「トライトン」は、昔ながらの屈強な機械式駆動の頼もしさをベースとし、それに超ハイテクの電子制御が絶妙なサポートをしているところに魅力を感じました。どんなドライバーでも本能的な安心感を抱きながら悪路を安全に走り切れる秘訣は、そこにあります。
かつて、「パジェロ」や「ランサーエボリューション」に乗っていた人は、号泣必至。それらを知らない人も、三菱の走りのDNAに大きな衝撃を受けることができる。新型「トライトン」、ピックアップトラックというニッチなジャンルではありますが、クルマ好きの多くの人に注目してもらいたい入魂作です。
ヘビーデューティーさを視覚的にも伝えるエクステリア。対地上角などの数値にも余裕があり、高い悪路走破性を有しています
注意点としては、1ナンバー車は3ナンバー車に比べて自動車税や自動車重量税が安くなるいっぽう、毎年の車検が必要であり、高速道路の通行料金が割高となるなど、特殊な面がいくつかあるので、販売店で詳細を確認し、納得のうえで選ぶようにしてください。
この試乗の模様は動画でもご覧いただけます。
写真:三菱自動車、価格.comマガジン編集部