住友ゴムは、新製品のオールシーズンタイヤ、ダンロップ「シンクロウェザー(SYNCHRO WEATHER)」を、2024年10月1日に発売すると発表した。発売初期のタイヤサイズは15〜19インチの全40サイズだが、今後は22インチまで、全100サイズのラインアップ拡充を予定しているという。
ダンロップ「シンクロウェザー」オールシーズンタイヤ発表会にて、住友ゴム工業 代表取締役社長の山本悟氏
現在、さまざまなタイヤメーカーから発売されているオールシーズンタイヤ。いままでのオールシーズンタイヤは、積雪路は走行できても凍結路におけるグリップ性能が低いという弱点があった。だが「シンクロウェザー」は、新技術のゴムを採用することによって、凍結路を含むあらゆる状況の路面を走行できるという。
今回は、「シンクロウェザー」を装着した試乗車で、冬の氷上や積雪路、夏のドライ路面や水をまいたテストコースなど、さまざまなシチュエーションで試乗してみたのでレビューしたい。
住友ゴムが新たに開発し、「シンクロウェザー」に採用されているのが、「アクティブトレッド」と呼ばれるゴムの性質を変化させる新技術だ。
同社のエンジニアによると、これまではタイヤの剛性や路面との密着度は、水や温度などの路面環境に影響されるのが常識だった。その課題を解決するために発明されたのが、同社の特許技術である「アクティブトレッド」だ。
タイヤのゴムには、ポリマーやカーボン、シリカ、硫黄のほか、さまざまな添加材が配合されている。その中でも、ポリマーはゴムの骨格となる材料だ。
通常、ポリマー同士は「共有結合」という非常に強い結合によってしっかりと結びついた状態にある。だが、「アクティブトレッド」では水に触れるとポリマーの結合が解けてゴムがやわらかくなる「水スイッチ」という技術が採用された。
水に触れるとタイヤのゴムがやわらかくなることによって、ウェット路面のグリップ性能が向上するという
また、タイヤのゴムは低温になると硬くなるという性質を持っている。これは、低温によってポリマーと一体化したグリップ成分が固まってしまうことが原因だ。だが、「アクティブトレッド」では、ポリマーからグリップ成分の一部を切り離すことによって、低温時でもゴムが硬くなりにくくなる「温度スイッチ」という技術が採用されている。これによって、低温時にもゴムがやわらかいことで、氷上路面でもグリップするとのことだ。「アクティブトレッド」は、まさにゴムの常識を覆した新技術なのである。
0度付近の低温時にもゴムをやわらかく保つことによって、氷上のグリップ性能を確保している
もうひとつ注目したいのが、新採用のトレッドパターンだ。前述の「アクティブトレッド」の技術を生かしながら、あらゆる路面の性能を高めるための設計がなされている。
「シンクロウェザー」には、V字溝の「方向性パターン」の採用によって、排水性や排雪性を向上。ドライ性能に関しては、サイプの配置を最適化することで、ショルダーのパターン剛性を確保。また、新開発の「ノイズ低減Vシェイプパターン」を採用することで、標準的なサマータイヤと同等の静粛性を実現しているという。
「シンクロウェザー」は、「アクティブトレッド」に最適化された新しいトレッドパターンが採用されている
まずは、真冬の氷雪路を走った際の印象からレビューしたい。試乗車と装着タイヤは、以下のとおり。「シンクロウェザー」を、ダンロップのオールシーズンタイヤ「ALL SEASON MAXX AS1」や、スタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」との比較も行ったので併せてお伝えしよう。
【試乗車】
車種名:
トヨタ「カローラツーリング」
タイヤサイズ:
195/65R15
装着タイヤ:
「シンクロウェザー」(オールシーズンタイヤ)
「ALL SEASON MAXX AS1」(オールシーズンタイヤ)
「WINTER MAXX 02」(スタッドレスタイヤ)
試乗シーン:
氷上テストコース
まずは、トヨタ「カローラツーリング」にオールシーズンタイヤの「ALL SEASON MAXX AS1」を履かせて氷上テストコースの低ミュー路に乗り出してみたのだが、これがなかなか前に進まない。トラクションコントロールが介入して、グリップを一生懸命回復させようとするのだが、せいぜい7km/h程度が限界だ。いっぽう、同コースの圧雪路ではグリップ力が回復し、制動力もそこそこ期待できるようになる。
そして、「シンクロウェザー」に乗り換えるとどうだろうか。低ミュー路では、「ALL SEASON MAXX AS1」よりもグリップ力が感じられて、少し加速してくれる。そして、思い切りブレーキペダルをけ飛ばすように踏みつけると、「ALL SEASON MAXX AS1」よりもクルマ1台分程度手前で止まってくれた。さらに、圧雪路も「ALL SEASON MAXX AS1」よりもしっかりと食いついている印象で、速度を1割ほど上げても問題なく走ってくれる。「シンクロウェザー」のほうが、氷雪路ではグリップ力が明らかに向上しており、安心して走れることがわかった。
ちなみに、「WINTER MAXX 02」はどうかと言うと、やはりスタッドレスタイヤだけあって、氷雪路におけるグリップ性能は前述のオールシーズンタイヤよりもはるかに高く、しっかりと加減速してくれる。冬道において心強い、間違いのないタイヤは、やはりスタッドレスタイヤと言えるだろう。
氷上テストコースにおける「シンクロウェザー」のグリップ力は、「スタッドレスタイヤ」には敵わないものの、これまでのオールシーズンタイヤよりは明らかに上という結果となった
【試乗車】
車種名:
メルセデス・ベンツ「GLC」クラス
タイヤサイズ:
235/60R18
装着タイヤ:
「シンクロウェザー」(オールシーズンタイヤ)
試乗シーン:
積雪の一般道
次に、一般道の圧雪路で、「シンクロウェザー」を装着したメルセデス・ベンツ「GLC」クラスに乗ってみた。2トン弱の重量級モデルだ。すると、すぐにグリップ力の高さが感じられる。多少、乱暴にアクセルペダルやブレーキペダルを踏めば、さすがに落ち着かない挙動を示したり、滑ったりする。だが、そのようなことを意図的にしないかぎりは、ひと世代前のスタッドレスタイヤ並みの雪上性能を備えていることが窺えた。
「シンクロウェザー」を圧雪路で走行すると、安心感を覚えるほどのグリップ力の高さが窺えた
ひとつ気になったのが、パターンノイズだ。「ウォーン」という結構大きめの音が、特に外にいると聞こえてくる。雪をかみしめているためなのかもしれないが、たとえば深夜、圧雪のなかでの帰宅などは、意外と周囲に聞こえてしまうかもしれない。
次に、初夏の一般道やテストコースにおける印象をお伝えしよう。
【試乗車】
車種名:
メルセデス・ベンツ「GLC」クラス
タイヤサイズ:
235/60R18
装着タイヤ:
「シンクロウェザー」(オールシーズンタイヤ)
試乗シーン:
ドライ路面の一般道
まずは、「シンクロウェザー」を装着したメルセデス・ベンツ「GLC」クラスから。走り始めは極めて普通で、違和感の無いタイヤという印象だ。ただし、「ひゅわひゅわ」という高周波の音が、50km/hあたりから若干聞こえてくるのが一般的なサマータイヤとは異なる点だ。
ハンドリングは、空いた郊外路をそれなりのハイペースで走らせても、タイヤの腰砕け感や舵の遅れなどはなく、極めて素直な印象を与えてくれるものだった。
「シンクロウェザー」のドライ路面での乗り心地は少し硬めなのだが、「GLC」クラスの車重にはちょうどよい硬さに感じられた
【試乗車】
車種名:
フォルクスワーゲン「ゴルフ」
タイヤサイズ:
205/55R16
装着タイヤ:
「シンクロウェザー」(オールシーズンタイヤ)
「ルマンV+」(サマータイヤ)
試乗シーン:
テストコース
次に、「シンクロウェザー」を装着したフォルクスワーゲン「ゴルフ」へと乗り換えてみよう。その印象は「GLC」クラスと似ており、高周波のパターンノイズが聞こえてくる。また、テストコースに設置された段差などを通過すると、タイヤがショックを吸収してくれるものの、タイヤ表面の硬さが若干伝わってくる。
また、「ゴルフ」ではハイスピード域における直進安定性が高さも好印象だった。タイヤがきちんと路面を捉えて、安定した姿勢を保ってくれるので、とても乗りやすく感じられた。さらに、100km/h付近でのレーンチェンジも舵の遅れなどもなかった。
「シンクロウェザー」を装着した「ゴルフ」は、タイヤがよれるようなこともなく応答もとても素直で、普通のサマータイヤと遜色ない印象だった
では、「ルマンV+」が装着された「ゴルフ」で同じコースを走らせて、「シンクロウェザー」との違いを比較してみよう。「ルマンV+」の乗り心地は、「シンクロウェザー」と同様に若干硬めの印象ではあるのだが、凹凸のショックはこちらのほうがうまくいなしている。
ひとつ、おもしろいと思ったのがレーンチェンジの応答性についてだ。「ルマンV+」のほうが「シンクロウェザー」よりもしっかりと路面を捉えているのだが、路面に粘りつくような印象で、少々軽快感に欠ける印象を受けた。そのため、レーンチェンジのしやすさという点においては「シンクロウェザー」のほうが好印象だったのだ。
【試乗車】
車種名:
トヨタ「カローラツーリング」
タイヤサイズ:
195/65R15
装着タイヤ:
「シンクロウェザー」(オールシーズンタイヤ)
「ルマンV+」(サマータイヤ)
「WINTER MAXX 02」(スタッドレスタイヤ)
試乗シーン:
テストコース
次は、「シンクロウェザー」と「ルマンV+」を、トヨタ「カローラツーリング」で比較してみよう。荒れた路面のショックなどを比較すると、「シンクロウェザー」のほうが「ルマンV+」よりも少しやわらかく感じる。そして、ステアフィールも「シンクロウェザー」はざらついた感じが少ない。ドライ路面でのグリップの限界点こそ、「ルマンV+」のほうが「シンクロウェザー」よりも若干高い。だが、「シンクロウェザー」で走っていても不安はまったく感じられないので、ドライ路面でも安心して走らせることができる。むしろ、とても素直で外連味の無い、よいフィーリングだ。
ドライ路面は、総じて「シンクロウェザー」で十分に快適という印象だ
さて、次にスタッドレスタイヤの「WINTER MAXX 02」を装着した「カローラツーリング」で、初夏のドライ路面を走らせてみた。まず、乗り心地はやわらかな印象で、ショックの吸収は明らかに他のタイヤを上回っている。だが、パターンノイズが大きく、若干耳障りに感じられた。さらに、100km/hでのレーンチェンジでステアリングを切ると、少しゴムを捩じるような感触の後にクルマが動き、スタッドレス特有の癖が垣間見えた。「シンクロウェザー」や「ルマンV+」と比較すると、「WINTER MAXX 02」はタイヤと路面の間に何かが1枚挟まっているようなフィーリングだ。また、安心感を求めて走ると、速度は1割程度落ちるだろう。
今回、非常に興味深かったのは、散水車で水をたっぷりとまいたテストコースを定円旋回するというものだ。およそ40Rという、大きなコーナーである。
まず、「ルマンV+」を装着した「カローラツーリング」は、およそ50km/h程度でグリップを失い始め、徐々にステアリングを切り増すかアクセルを緩めて、グリップを回復させる状態になる。同じように「シンクロウェザー」で試すと、同じく50km/h程度から限界が見え始めるのだが、意外にもリアの接地性が高いので、フロントが逃げ始めてもリアがしっかりと接地していて、安心感が高く感じられたのだ。どうやら、「シンクロウェザー」のほうが「ルマンV+」よりも排水性は高いようだ。
水がまかれたテストコースの試乗によって、「シンクロウェザー」のウェット路面の強さ、排水性の高さを実感できた
もうひとつ、興味深かったのが「WINTER MAXX 02」だ。近年のスタッドレスタイヤは、履き替えずにオールシーズンでも通用するのではと勘違いしそうになるのだが、さすがにウェット路面で比較をすると、その性能差は明らかだった。限界点は40km/h程度で、そこからズルズルと滑り始める。さらに、そこからアクセルを戻しても、前述のオールシーズンタイヤよりも、グリップの回復はワンテンポ以上かかってしまっていた。
さて、結論に移ろう。「シンクロウェザー」は、総じてこれまでのオールシーズンタイヤを超える性能を有しており、それについては高く評価できる。
いっぽう、「シンクロウェザー」をスタッドレスタイヤと比較すると、氷雪路はこれまでのオールシーズンタイヤよりははるかにグリップするが、やはりスタッドレスタイヤのほうが明らかに優勢という印象になる。
ただし、あくまで「シンクロウェザー」のターゲットユーザーは、雪があまり降らない準降雪エリアの人たちだ。そのため、ほとんどがドライやウェットでの走行だろう。「シンクロウェザー」は、そのような地域のユーザーにはぴったりのタイヤだ。
さらに、準降雪エリアで雪が降ると、水分を多く含んだシャーベット状になりがちだ。そのような地域では、実はスタッドレスタイヤよりも排水性の高い「シンクロウェザー」のほうが安全なシーンもあるだろう。ちなみに、「シンクロウェザー」は「スノーフレークマーク」を備えているので、高速道路での冬タイヤ規制もクリアできることも述べておきたい。
「シンクロウェザー」は、サマータイヤにかなり近い快適なドライ、ウェット性能を有しながら、氷雪路ではスタッドレスタイヤの性能まではいかないながらも、これまでのオールシーズンよりもしっかりと安心して走れるタイヤだ。「ほとんど雪は降らないけど、たまに降るから困らないように備えておきたい」というユーザーにおすすめのタイヤと言えそうだ。
最後に、余談ではあるが安全に関わる話なのでお伝えしたいことがある。近年、スタッドレスタイヤの性能が上がってきているので、「これなら、1年中履いていてもよいか」と考えている方も居られるかもしれない。だがスタッドレスタイヤの、特にウェット性能についてはサマータイヤに比べて明らかに劣っていることを覚えておいてほしい。近年、ゲリラ豪雨がニュースなどでよく聞かれるが、万が一そのようなシチュエーションでスタッドレスタイヤを装着していた場合、危険な状況に陥る可能性が高い。そのため、スタッドレスタイヤはやはり冬シーズンが終わったらきちんとサマータイヤに履き替えることをおすすめしたい。
(写真:住友ゴム工業、内田俊一、価格.comマガジン編集部)