マツダは、3列シートを備える新型クロスオーバーSUV「CX-80(シーエックス エイティ)」の日本仕様を、2024年8月22日に初公開した。日本での発売は、2024年秋が予定されている。当記事では、「CX-80」の特徴や「CX-60」「CX-8」との違いなども交えて解説したい。
2024年4月に欧州で初公開されていたマツダ「CX-80」が、いよいよ日本でも発表、発売される。画像の「CX-80」のボディカラーは、マツダが日本国内で初めて採用する新色、「メルティングカッパーメタリック」
マツダが「ラージ商品群」と位置づけている、エンジン縦置き型のプラットフォームを採用した3列シートSUVが「CX-80」だ。同車のメイン市場は、日本国内と欧州になる。
ちなみに、エンジン縦置き型のプラットフォームを採用しているSUVはほかに、日本で発売されている「CX-60」や、日本には未導入の「CX-70」「CX-90」などがある。これらは、同じプラットフォームではあるものの、「CX-70」と「CX-90」はアメリカなどに向けて開発されているのでボディサイズが大きい。
いっぽう、「CX-60」と「CX-80」はナローボディで、全長は「CX-60」の4,740mmに対して、「CX-80」は4,990mmと250mm長い(全幅は1,890mmで共通)。その理由は、「CX-80」が3列シートを備えているからだ(「CX-60」は2列シート)。極論すれば、「CX-60」の長さを伸ばして3列シートにしたのが「CX-80」と言ってもよいかもしれない。ちなみに、「CX-80」と「CX-60」は、Bピラーから前方は基本的に共通だ。ただし、デザインについては異なるので後述しよう。
「CX-80」(上)と「CX-60」(下)のサイドエクステリアを比較
パワートレインは、3.3L 直6ディーゼルエンジンの「スカイアクティブD 3.3」(2WD、4WD)と、同エンジンにマイルドハイブリッドを組み合わせた「eスカイアクティブD 3.3」(4WD)。そして、2.5L直4ガソリンエンジンに大型モーターを組み合わせた「eスカイアクティブPHEV」(4WD)の3種類になる。
3列シートを備えたマツダのSUVは、生産終了となった「CX-8」があげられるだろう。果たして、「CX-80」は「CX-8」の後継車なのだろうか。2台の関係性について、マツダ 商品開発本部主査の柴田浩平さんは、「『CX-80』は、『CX-8』の後継車というポジションよりも、少し上の価格帯をカバーしたいという意図があります」と述べる。価格については、まだ発表されていないのだが、上級グレードの価格は「CX-8」よりも上になるようだ。
左が「CX-8」で右が「CX-80」
いっぽう、「CX-80」は「CX-8」からの代替え需要も狙っているという。「CX-8」は、SUVだけではなくミニバンや輸入車など、さまざまなセグメントから比較、検討され購入されていたのが特徴で、強みでもあった。その背景には、「マツダ車らしいデザインと走りのよさを実現しながら、3列目シートはエマージェンシーではなく、大人も乗れる実用性を確保していました。さらに、『CX-5』に3列シートを備えたというよりも、伸びやかな優雅さを備えることで、『CX-5』よりも格上の存在感を実現していました」と、柴田さんは説明する。そして、その関係性を「CX-80」と「CX-60」においても同じように実現させていると述べた。
それでは、まず「CX-80」のエクステリアから見てみよう。さきほど、「CX-60」の全長を伸ばしただけと述べたが、実際にはそんなにカンタンではないはずだ。なぜなら、単に全長を伸ばしただけだと、たとえばサイドビューの光の移ろいが変わってしまうなど、デザインのバランスが崩れてしまうからだ。
「CX-80」は、「CX-60」よりもさらに上質で強い存在感が求められた。タフなSUVに、より豊かで優雅な美しさを持たせようとしたのだ。「CX-80」をどのように表現するかは、デザイナーの腕にかかったと言ってよいだろう。
「CX-80」のフロント、リアエクステリア。ボディカラーは、「アーティザンレッドプレミアムメタリック」。「ソウルレッドクリスタルメタリック」よりも、さらに深みのある赤だ
マツダ デザイン本部主査の玉谷聡さんによると、「CX-80」のデザインを決めるにあたっては、輸入車のプレミアムSUVを研究したという。
「『CX-8』のデザインは、『CX-5』のスポーティーさやスリークさをそのまま3列レイアウトで作ったものです。『CX-5』と同じデザインランゲージを用いており、2台は当時のマツダとして、よい意味でスポーティーな表現の一貫性があったと言えます」。
いっぽう、「『CX-80』は『CX-60』とは異なる、さらに豊かで優雅な表現にしようと決めました。そのため、これまでとは違う視点が必要になったのです」。そこで、輸入車のプレミアムSUVを研究。そこから見えてきたのは、「スポーティーな表現は、むしろ少しトーンダウンさせて、空間のリッチさを表現する強い骨格を持たせていました」。さらに、「直線的かつ、建築的とも言える表現を持っていました。そのような表現が、高いレベルで完成されることによって、初めて魅力ある落ち着きや豊かさなどが表れることに気づいたのです」。
そこで、「『CX-80』のデザインは奇をてらわず、シンプルで正当な美しさを追求しました。さらに、『CX-80』では3列レイアウトによる骨格の豊かさと、これまでのマツダ車にはない堂々として優雅な存在感を感じてもらえるように、ロングノーズ、ロングキャビンの伸びやかさを存分に生かしました。余分な要素を削り落として、優雅さを磨き上げたのです」と説明する。
特に、Aピラーからリアに向かって直線的に伸びる、サイドウィンドウ下端のブライトモールディングがそのキーになる。Dビラー部分が若干太くなっているほか、Dピラーに沿って徐々に太く、かつ少し角度を付けた折れを持たせることで、3列目の乗員空間の豊かさを強調。同時に、リアフェンダーあたりにしっかりと力がかかるように見せているので、スタンスのよさをも感じさせる。
また、「CX-80」のフロントフェイスは一見すると「CX-60」と同じなのだが、実はフロントグリルだけは若干異なっている。グリルメッシュは、「CX-60」にも採用されている縦フィンで統一されているのだが、専用のアクセントやグリルインシグニアと呼ばれる意匠を装備。「ブローチやポケットチーフなどをちょっと胸元に装う、そんなイメージで作成した、凝った立体となっています」と玉谷さん。縦爪のような形だが、上面に光を受ける面を持たせることで、ライトシグネチャーとのつながりも感じさせる。このような、細かな作り込みによって、「CX-80」は全体的に上質さを感じさせるデザインとなっている。
「CX-80」のフロントフェイス
次に、インテリアについては「『CX-80』で遠くへ行って、たくさん遊んでほしいという思いを込めました。そのために、余裕の室内空間や快適な装備を実現しています。抜群の低燃費や安全性の高さも、その価値をさらに向上させています」と柴田さんは言う。
「CX-80」のインパネ周り
まず、運転席は「CX-60」と共通で、意のままに運転できる楽しさと安心感が得られる空間になっている。具体的には、ドライビングポジションは人間中心の設計思想によってリラックスできて疲れにくく、アクセルペダルやブレーキペダルは適切に配置されている。また、必要な情報を容易に確認できる視認性のよさなどが徹底的に磨き上げられた。結果として、安心、安全に運転を楽しんでもらえるようなクルマに仕上げられているという。
「CX-80」のフロントシート
2列目シートは、ユーザーのライフスタイルに合わせて3つのバリエーションから選択できる。ひとつは、コンソールの大型アームレストやリッド付き収納、後席専用の空調コントロールなどが備わった「電動キャプテンシート(6人乗り)」仕様、同じく6人乗りの「センターウォークスルー」仕様、そして7人乗りの「ベンチシート」仕様だ。
また、2列目シートの車内空間は、室内高を「CX-8」よりも拡大。身長150cmほどの人でも、フロアに足をつけたラクな姿勢で座れるように、シート直下のフロアが部分的にかさ上げされた。いっぽう、大きい体格の人は足を前に出すので、その部分はこれまでどおりのレイアウトになっている。また、室内幅も「CX-8」から拡大された。
「CX-80」の2列目「電動キャプテンシート」
3列目シートは、拡大されたリアドアの開口部や平坦でわかりやすい乗降ステップによって、アクセス性を改善。「CX-8」と同様に、身長170cmくらいの乗員でもしっかりと座れる空間が確保されている。また、ボトルホルダー兼小物入れ付きのアームレストの周辺には、USB Type-Cの電源や風向き調整が可能な3列目シート専用の空調ベントなどを配置。頭上空間は、「CX-8」よりも約30mm拡大。結果として、シートにしっかりと深く腰掛けられるようにして走行中の姿勢を安定させやすくするなど、快適に過ごせるようになっている。
「CX-80」の3列目シート
そのほか、パノラマルーフやリア席のサンシェードなど、室内の快適性を向上させる装備も充実している。
荷室空間は、週末の買い物からアウトドアレジャーまで、幅広いシーンで使いやすい実用性にこだわった。3列目シートの後ろの荷室は、日常的な荷物の積載に配慮されており、3列目シートを倒せばフラットな荷室として使える。床上には、大型タイヤを装着したベビーカーやゴルフバッグなどが積載可能だ。床下にはタイヤチェーンや洗車アイテムなどが納められるようになっており、荷室を片付けてすっきりとした状態で使えるように配慮されている。
3列目シートを倒すとフラットなラゲッジルームとして使える
キャディバッグは、3列目シートを倒した状態で最大4つまで積み込める
また、荷室に装備されているAC150W電源や、プラグインハイブリッドに設定されるAC1500W電源は電動アイテムの利用にも重宝するので、さまざまなシーンに応じて荷室を変化させられる空間として使えるだろう。
このように、「CX-80」は「CX-60」を単にロングホイールベース化したのではなく、個性がデザインや室内空間にしっかりと反映されている。筆者は、「CX-80」や「CX-60」のインテリアに関しては特にすばらしい仕上がりで、品質が非常に高いと感じている。まさに、「よいクルマに乗っている」という気持ちにさせてくれるのだ。
あとは、実際に走らせてみてどうかだろう。「CX-80」は、基本的には「CX-60」と共通なので、デビューしてから2年が経過して熟成が進んでいるはずだ。そのあたりが、どこまで「CX-80」に反映されているかが楽しみである。