特別企画

忘れがたいあの車。驚きの走りが一瞬にして私を虜にした「ゴルフX・GTI」

これまでの人生で乗り継いだマイカーを数えると20台ほど。大半が国産車でしたが、中には輸入車も何台かあります。その中で忘れられないクルマがフォルクスワーゲン「ゴルフX・GTI」です。2.0Lターボエンジン「T-FSI」と湿式6速DSG(Dual Clutch Transmission)の組み合わせによってもたらされたその走りは、一瞬にして私を虜にしたのでした。今回は、この「ゴルフX・GTI」を振り返ってみたいと思います。

◆「ゴルフX・GTI」の日本登場は2004年5月

ゴルフGTIの歴史は1976年に始まりました。ベースとなった「ゴルフ」は、今やコンパクトカーでは当たり前となった前輪駆動+横置きエンジンを組み合わせ、その2年前の1974年に登場。GTIはこのスポーツバージョン、高い能力を備えた派生モデルとして誕生したのです。

開発目標は、平均速度が高く、一部区間では制限速度もないドイツのアウトバーンにおいて余裕を持って走ることができ、しかも日常使いにも困らない身近なコンパクトカーであること。この実現を目指して開発されたのがゴルフGTIであって、これはまさにドイツが生み出した“ホットハッチ”なのです。それ以降、現在の8代目「ゴルフ」にいたるすべての世代でGTIはラインアップされ、今もなお、ゴルフの走りを語るうえで欠かせない存在となっています。

そんななかで5世代目となる「ゴルフX・GTI」は、2003年のフランクフルトモーターショーでデビュー。日本では2004年5月に発表され、同年8月より販売されました。フォルクスワーゲン初の2.0Lガソリン直噴ターボエンジン「T-FSI」は、最高出力200PS、最大トルク28.6kg-mを発揮。これに新世代変速機6速DSGを組み合わせ、低速域から高速域までスムーズかつ力強い加速を楽しめるクルマに仕上げられたのです。

◆軽く試乗するつもりが乗った瞬間に衝撃が走る!

とはいえ、それまで国産車との付き合いばかりだった私にとって、「ゴルフX・GTI」のよさは知る由もありませんでした。それを目覚めさせてくれたきっかけが、フォルクスワーゲンの営業マンから試乗を勧められたことでした。実はこの営業マン、それまで某カー雑誌編集部に在職していた人で、転職したと聞き、冷やかし半分で営業所を訪れたのでした。ところが、話をしているうちに、届いたばかりの「ゴルフX・GTI」に試乗することになり、この経験が私のマイカーの歴史に大きな転機を記すことになったのです。

最初は営業所周辺の一般道を一回りする軽い試乗で戻ってくるつもりでした。しかし、試乗で走り出した瞬間、「え、この走りは何? スゴイ!」と、今までのクルマとはまったく違う走りに驚きを感じたのです。すぐに同乗していた営業マンに許可をもらってそのまま首都高に向かうと、料金所から本線への合流まで淀みないトルクによってアッという間に高速域に到達。首都高のコーナリングでも路面に吸い付くような抜群の安定感で、久しぶりに走る楽しさを体験させてくれるなど、もうとにかく驚きの連続。

今までにも国産車で何台かターボ車にも乗ってきましたが、それまでのターボ車といえば特定の回転域からトルクがモリモリと湧き出して来る様子を想像しがちでした。しかし、T-FSIエンジンは2.0Lというキャパシティからは想像できないほど全域にわたって力強いトルクを発揮し、それはまるで高度にチューニングされた自然吸気のスポーツエンジンのようでした。ここまでターボチャージャーを感じさせずにトルクを出すエンジンは初めてです。

◆高速シフトチェンジを実現した6速DSGを採用

そして、この力強いエンジンのトルクを受け止め、スムーズな加速をもたらしてくれたのが、新開発(当時)のトランスミッション6速DSGです。

DSGはクラッチペダルこそないものの、通常のATに使われるトルクコンバーターを備えず、代わりに2組のクラッチを組み込んだトランスミッションで、リニアな加速と素早いシフトチェンジが大きな特徴となっています。そのため、シフトチェンジの際にはわずかなショックを感じるだけで、アッという間に高速域へ達します。国産車がトランスミッションを燃費重視のCVTへと転換を進めていたなかで、このリニアな加速感をもたらすDSGの加速フィールに「もう国産車には戻れない」そう実感させてくれたほどです。

前述したように足回りのよさもすばらしいものでした。タイヤは225/45R17のコンチネンタル「コンチスポーツコンタクト2」を履いていましたが、コーナリングを攻め込んでいったときの執拗なまでに粘るグリップ感はきわめて明快で、安心度も抜群に高い。しかも、しっかりと路面をつかむいっぽうで、路面からの当たりはマイルドで決して不快な印象を与えません。硬すぎずソフトすぎることもない絶妙な味付けで、長距離走行でも疲労感の少ないドライブができたのはまさにこのサスペンションのおかげだったとも言えます。

忘れちゃいけないのがブレーキの能力です。ブレーキを強めに踏む機会が多い峠道を走行しても決して音を上げず、しかもペダルによる微妙なコントロールにもしっかりと応じてくれるため、ワインディングを走ることの楽しさは倍増。そのためだけに箱根へ何度も足を運んだことを思い出します。これは赤く塗られたキャリパーの組み合わせも決してダテじゃないことを物語っていたと言えるでしょう。

◆地味ながらさり気ない主張に“羊の皮を被ったオオカミ”を感じさせた

クルマとしての外観も個人的には気に入っていました。「ゴルフX・GTI」は、見た目は決して派手な印象はなく、その走りを踏まえればそれこそ“羊の皮を被ったオオカミ”。そのなかでわずかなGTIらしい主張がフロントグリルにハニカムグリルが初採用されたことです。ここにレッドラインとブラック塗装を施すことで、よりスポーティーなイメージを作り出したのです。このさり気なさが私のお気に入りでもありました。また、バンパーも大型化され、低い排気音を出すデュアルエキゾーストマフラーも大きな魅力でした。

インテリアもGTIならではの独特の雰囲気を伝えていました。その最大の主張が、シート柄のタータンチェックです。聞くところでは、初代GTIのデザイナーがスコットランド人だったらしく、それ以来、ずっとGTIにはタータンチェック柄を用いてきたということのようです。もちろん、世代や車種ごとにアップデートが行われているようで、一見して同じように見えても、比べるとその違いはハッキリとわかります。オプションで本革仕様も選べましたが、私は迷うことなくこのタータンチェック柄を選びました。

「ゴルフX・GTI」は車格からいえばCセグメントに属しますが、ボディサイズ(全長4225mm×全幅1760mm×全高1460mm)からは想像もできないほど使い勝手でもすぐれた一面を見せてくれました。車内は特に後席の居住性が高く、そのうえでカーゴルームの容量に高い実用性を備えていたのです。一般的にハッチバック車であれば、カーゴルームの容量は限定的と思われがちですが、「ゴルフX・GTI」はカーゴルームの幅×高さ×奥行に十分な余裕があり、ゲートの間口も広いためにかさばるものもスムーズに詰め込めたのです。これならちょっとしたアウトドアにも十分使えそうと実感したほどです。

◆6MT車は今も貴重な存在として高価格を維持

さて、この「ゴルフX・GTI」の発表時価格は336万円。ここにサンルーフやインチアップしたホイールのオプションを加えると350万円を超えて、諸経費を入れると400万円近くに。当時は300万円も出せばアッパーミドルのそこそこ満足いくクルマが買えた時代で、個人的には買うには少々勇気がいる価格帯でした。しかし、私はこの「ゴルフX・GTI」の購入を即決! もちろん、ここから先、しばらく家庭内争議が続いたのはご想像どおりです。

さて、「ゴルフX・GTI」の中古車情報を調べると、20年も前のクルマであることも手伝って大ヒットしたという割にタマ数は少なく、そのため、価格は今もなお80万円前後で売られていることが多いようです。ただ、これらはDSG車であり、貴重な6MT車になると150万円近くの値付けがされています。

いっぽうで、最新の8代目ゴルフGTIの新車価格は549万8000円から。「ゴルフX・GTI」と比べると時代が違うとはいえ、200万円以上の価格差があります。もちろん現行車は安全装備やコネクテッド系の装備も桁違いに充実したものとなっていることは確かです。しかし、タータンチェック柄のシートは健在。走りはより洗練されているようです。とはいえ、私の中で「ゴルフX・GTI」は走りのすべてにおいて際立つ一台として今も記憶に深く刻まれています。

会田 肇
Writer
会田 肇
カーナビやカーオーディオのレポートを基点に、クルマの先端技術であるITS取材に取り組む。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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