降雪地帯で圧倒的なシェアを誇るスタッドレスタイヤ、ブリヂストン「ブリザック」。その最新モデルとなる「WZ-1」が、2025年9月に発売された。
同社によると、「WZ-1」はブリザック史上No.1の氷上コントロール性能を実現するとともに、圧雪やシャーベット、ウェットからドライまで、あらゆる路面に対して高いパフォーマンスを発揮するという。今回、「WZ-1」をアイススケートリンクや一般道、そして真冬の北海道・旭川という過酷な環境で試乗したのでレポートしたい。
ブリザックと言えば、氷上性能の高さを誇るスタッドレスタイヤなので、まずはアイススケートリンクを試乗した印象からお伝えしよう。
「WZ-1」を装着したテスト車は、現行のトヨタ「ヤリス」(タイヤサイズ:185/60R15 84Q)。なお、比較対象として従来のスタッドレスタイヤ、ブリザック「VRX3」を装着した車両とも乗り比べてみた。
「WZ-1」を装着したトヨタ「ヤリス」
結論から述べると、その進化代は非常に大きかった。普通の靴では歩くことすら困難なスケートリンク上で、アクセルを床まで踏み込むと、どちらの車両もトラクションコントロールが大きく介入しながらも、じわじわと加速を始める。しかし、「WZ-1」はある地点から、グリップを取り戻したかのようにグイグイと加速し始めるのだ。
また、ブレーキングポイントまでの速度は「VRX3」が約20km/hだったのに対し、「WZ-1」は25km/hを記録。さらに付け加えると、実は「WZ-1」は「止まりきれないのでは」と不安になってアクセルを緩めた結果の速度なので、踏み続ければさらに差は開いていたはずだ。
また、氷上ブレーキ性能ももちろん向上している。思い切りブレーキペダルを踏みつけてABSを作動させるフルブレーキテストでは、「WZ-1」のほうが明らかに強い減速Gを感じた。ブリヂストンによれば、停止距離は従来比で11%短縮されたそうだが、体感上でもその進化は明白であった。
「WZ-1」の進化を支えるのは、同社が長年培ってきた「発泡ゴム」の最新技術だ。今回は、新たに「Wコンタクト発泡ゴム」を採用。やわらかいゴムの採用によって氷にゴムがしっかりと密着するとともに、細かな気泡によって路面とタイヤの間の水膜を除去。さらに、「親水性向上ポリマー」が氷上の水膜とゴムを分子レベルで引き寄せ合うことによってグリップ力が高められている。たとえるなら、「磁石のN極とS極」のように、お互いが引き合うイメージだ。分子レベルとはいえ、接地面全体で起きればその影響は大きいだろう。
また、新形状の「L字タンクサイプ」の効果も見逃せない。これまでは、サイプ(溝)で水を除水するだけだったのだが、「L字タンクサイプ」では氷上の水を積極的に「吸い上げてから捨てる」機能を追加。水膜を減らし、タイヤの接地面積を最大化することでグリップ力を高めているのだ。
これらの結果、定常旋回(円旋回)性能も向上。「VRX3」が9km/hで滑り始め、10km/hを超えるとフロントが逃げてしまうのに対して、「WZ-1」は滑り始めこそ同等だが、そこから12km/h付近まで粘り強く耐えてくれた。
「WZ-1」を装着したトヨタ「ヤリス」
では、雪道はどうだろうか。気温0度、前日の雪が凍結してあちらこちらでアイスバーンを見かける旭川市内を、「WZ-1」を装着した「ヤリス」(4WD)で走行した。
北海道の雪道を「WZ-1」を装着したトヨタ「ヤリス」の4WDモデルで走行
ていねいな運転を心掛ければ、トリッキーな動きはなく素直に走れるが、路面の凹凸を若干拾いやすく、タイヤの硬さを感じる場面もあった。
一般道で最も気になったのは、路面の影響を受けやすいことだ。たとえば、滑り止め対策のために縦溝が施されているような道路では、ハンドルが取られてクルマの挙動が不安定になることがあるが、それと同じような感覚がずっと感じられた。クルマ全体が、微妙に路面に影響され続けているような印象だった。
興味深いのは、前述の傾向は「ヤリス」や「N-BOX」などの軽量車では顕著であったいっぽう、トヨタ「クラウン」やアウディ「Q5」、ボルボ「XC60」など、重量級のクルマでは一切感じられなかったことだ。
車重があるクルマほど、「WZ-1」のよい面が出やすい。特に、フィードバックがわかりやすいボルボ「XC60」では、氷雪路においても自信をもってドライブを楽しめた
では、ドライ性能はどうだろうか。降雪地帯でも、雪が解けてドライ路面を走る機会は多いだろうし、非降雪地帯であればそのほとんどがドライ、あるいはウェット路面なので、そのようなシーンでのスタッドレスタイヤの性能も大いに注目すべきだろう。
まずはトヨタ「ヤリス」で、「WZ-1」とブリヂストンの標準サマータイヤである「ニューノ」を比較試乗してみた。
「ニューノ」はきわめて標準的でバランスのよいタイヤだが、あえて気になる点をあげるなら、耐摩耗性を重視してか、若干タイヤ表面に硬さが感じられ、それが乗り心地に影響していたようだった。
そこから「WZ-1」へ乗り換えると、目地や段差を越える際のしなやかさが感じられたのだ。多くのスタッドレスタイヤで感じられる、ステアリングを切ったときのグニャリとした感覚がなく、シャープな手応えがある。
また、転がり抵抗やロードノイズも「ニューノ」より低く、ロードノイズも低いので、上質なサマータイヤと言われても気づかないだろう。60km/h程度の日常域では、スタッドレスタイヤを履いている印象は皆無だ。
ドライ路面の市街地を「WZ-1」を装着したトヨタ「ヤリス」で走行
では、高速道路ではどうか。アウディ「Q5」(タイヤサイズ:235/55R19 101Q)で試乗すると、コンフォート性が高いタイヤという印象で、静粛性と転がり抵抗の少なさが際立つ。
いっぽう、70km/hを超えると徐々に表面の硬さが気になり始め、直進ではステアリングの修正舵が必要だった。開発エンジニアによれば「入力に対してシビアな挙動を示すクルマでは、こうした傾向が出やすい」とのことで、車両個体の影響も否定できないため、これについては改めてテストしてみたいところである。
ドライ路面の市街地を「WZ-1」を装着したアウディ「Q5」で走行
「WZ-1」は、氷上性能を劇的に進化させつつ、ドライ路面での快適性もきちんと担保されている。ここまでレベルが高いと、1年を通して履き続けたいと思ってしまうのだが、ウェット性能を考えると止めたほうがよいだろう。エンジニアに話を聞くと、氷上性能に重きを置いているためウェット性能はどうしても犠牲になってしまい、「ニューノ」よりも下回るという。
最後に、「WZ-1」はどのようなクルマに適しているだろうか。今回は、さまざまなクルマに乗ることができたのだが、「WZ-1」は比較的車重の重いクルマとの相性がよいようだ。
軽量車で見られた細かな挙動の乱れが重いクルマでは解消されており、しっかりと氷雪を噛んでいる感覚もある。「WZ-1」は、大型SUVやミニバンはもちろん、BEV(電気自動車)やPHEVといった車重のある次世代車両に特におすすめしたいスタッドレスタイヤだ。