話題を集めているアップルの腕時計型端末「Apple Watch」。さまざまな使い方が提案されているが、意外とクルマ関連のレポートはそれほど見当たらない。そこで、モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がApple Watchのクルマでの利用を試してみた。
グローバルで見ると、クルマと連携できるApple Watch用アプリが続々とリリースされている。それらの中から日本で利用できるものをレポートしよう
運転中に、iPhoneなどスマートフォンや携帯電話の画面を見ながら(手で保持しながら)操作することは、道路交通法で禁止されている。運転中の目や手は、クルマの運転が優先だ。そのため、運転中にiPhoneを取り出して、ごそごそと操作するのは御法度。メールやメッセージの文字を打ち込んだり、リストの中から電話番号を探すことは許されない。
Apple Watchなどスマートウォッチについては、現時点では、日本国内で運転中に使用を禁止する法律はない。しかし、スマートフォンと同様、画面を見ながらの操作は、安全面を考慮すると行わないほうがいいだろう。
だが、運転中でないのであれば(停止しているのであれば)、Apple Watchは車内で便利に活用できるツールとなる。まず、Apple Watch を使えば、Siriを使っての音声によるコントロールがやりやすくなる。これまでも、車内に置いたiPhoneに向かって「ヘイ、Siri!」とコマンドの声をかければSiriを利用できた。しかし、車内のどこかに置いたiPhoneと話すよりも、腕にまいたApple Watchに話しかけるほうが簡単だ。「価格.comマガジン編集部に電話!」と話しかければ、iPhone内の電話帳にある番号にコールしてくれる。「価格.comマガジン編集部に、これから向かいますと伝えて」と話しかければ、「これから向かいます」とショートメッセージを送ってくれる。「ボブ・マーリーの曲をかけて」と言えば、iPhone内のミュージックデータを再生する。クルマのオーディオとiPhoneをUSBケーブルやBluetoothで連携させておけば、車内の音楽再生のコントロールもできる。
Apple Watchを使えば、テキストや音声のメッセージ送信が簡単に行える
ちなみに、若い人には心当たりがないかもしれないが、僕のようなおじさんは、カーナビの音声コントロールにトラウマがある。車載型のカーナビも、古くから音声コントロールにトライを繰り返してきた。しかし、初期のカーナビは、現在のiPhoneのような高い精度を実現することができなかった。コマンドを何度繰り返しても、まったく思った通りにコントロールできない。しかも、コマンドの数も限られていた。そのため、「カーナビなどの車載器の音声コントロールは使いものにならない」と、心に強くすりこまれてしまっているのだ。ところが、iPhoneを筆頭にスマートフォン用のアプリなどが、クラウドで音声認識を行うようになって、世界が一変した。音声コントロールは使えるものになったのだ。その進化の恩恵を、クルマの中で体感できるのがApple Watchなのだ。
また、Apple Watchには、iPhoneの音楽再生のコントロールを画面のタッチで行うこともできる。さらに、iPhoneにメールなどのメッセージが来たことも教えてくれる。モニター面には、送り主だけが表示される。ちらりと確認して、大事そうなときはクルマを駐車して、ゆっくりとiPhoneをチェックすればいいのだ。
ものすごいことができるわけではない。しかし、Apple Watchとクルマは意外と相性がいい! というのが印象だ。
Apple Watchに備わるメッセージ通知機能は、最小限の情報に限られており、気になる通知がきたら、いったん停車してiPhoneで確認すればよい
Apple Watchを使えば、iPhone内の音楽操作などをさらに便利に行えるようになる
BMWのi3とi8用に用意されたApple Watch用アプリBMW i Remoteは、クラウドサーバーを介することで、離れた場所からクルマをリモートコントロールが可能
続いて、クルマでのApple Watchの利用を前提としたアプリを試してみよう。BMWやホンダ、ポルシェ、ボルボなど、いくつかのアプリがリリースされている。
その中から、まずは、日本でも利用できるBMWのアプリ「BMW i Remote」からレポートしたい。
BMW i Remoteは、BMWの「i3」と「i8」用に用意されたアプリだ。名前のとおり、クルマに乗る前に、離れた場所からクルマをリモートコントロールすることができる。離れたところから操作する前提のため、クルマとApple Watch/iPhoneは、直接ではなく、LTEなどのモバイル回線を通じたクラウドサーバーを経由して連携する。
できることは、車両サーチ、エアコンのコントロール、ドアのロックとロック解除、ヘッドランプの点灯だ。また、走行前にクルマの充電状況や周囲の充電施設のある場所を確認することもできる。ただし、これらの機能はApple Watchがなくても、iPhoneだけでも利用できる。逆に言えば、Apple Watchならではの機能はないのが残念なところだ。
しかし、クルマに乗り込もうというときにApple Watchをチラリと見れば、電池残量が把握できるのは心強い。乗り込む前にエアコンで車内の温度を調整しておけるのもうれしい。さらに、巨大な駐車場などで、どこにクルマを駐車したのかわからないときは、道案内までしてくれるのだ。ちなみに、距離が離れていると、電車を使ったルートまで提案されるのは、ちょっと驚いた。買い物の荷物を両手に下げてクルマを目指すようなシチュエーションでは、iPhoneではなくApple Watchで道案内されることのありがたみが感じられるはずだ。
ドアのロックとアンロック、ドアの開閉、エアコンの操作、車両サーチといった機能を備える
離れた場所から、手元のApple Watchを見るだけでバッテリーの残量を確認できるのは便利
BMW i Remoteの機能のひとつである車両サーチは、自分のクルマまでの道案内をしてくれる。ショッピングセンターや遊園地などの大規模な駐車場で活用できそうだ
また、BMW i Remoteは、暗い駐車場でクルマを探す場合、ヘッドライトが点灯してくれるのも便利だ。ただし、クラウド経由で操作を行うため、Apple Watchにリモートの指示を入力しても、実際にライトが光るまで1分ほどのタイムラグがある。少しばかりの心の余裕が必要だ。
Apple Watchからクルマのライトをパッシングできる。サーバーを介するため、1分ほどタイムラグが生じるものの、暗い駐車場でクルマを探すのに使える
航続距離の短さや充電施設の少なさという、電気自動車の現在の不利な状況に対応するには、事前に充電状況や施設の場所を知っておく必要がある。そうしたニーズを満足させるだけでなく、クルマの場所を教えてくれるという普段使いの便利機能をプラスしたのが、BMW i Remoteというアプリであった。BMW i3やi8のオーナーであればマストなアプリだろう。そしてApple Watchがあれば、さらにアプリ利用が手軽になる。そんなアプリであった。
一部のホンダ車に対応するApple Watch用アプリWith Hond。7月末までの限定公開だが、一応リリースされている
日本の自動車メーカーの中で、いち早くApple Watchのアプリをリリースしたのはホンダであった。「With Honda」というアプリが5月18日にリリースされている。ただし、これは7月末までの限定公開のプロトタイプだという。今後に発展するためのベータ版のような存在と見ていいだろう。
試してみようとしたのだが、対応車種に制限があった。ホンダ車であれば、何でもOKというわけではない。対応車種は、ディスプレイオーディオ仕様でHDMI入力端子のあるものであった。そう、ホンダのアプリは、車載器とiPhoneを有線で接続しなければならないのだ。しかも2本。HDMIケーブルとUSBケーブルの2本を変換アダプター経由でつなげる。また、同時にBluetoothで車載器とiPhoneのペアリングも必要となる。また、すべてを接続した後にアプリを立ち上げても、表示などになにも動きはなく、10分ほど走行した後に、ようやく表示に変化が表れる。手間がかかったり、作動が分かりにくかったりというのが、あくまでもプロトタイプということか。次の製品では、もっと手軽でわかりやすいものになってくれることを祈るばかりだ。
With Hondaを使う場合、変換アダプターを介してHDMIケーブルとUSBケーブルで車載器とiPhoneを接続し、Bluetoothのペアリングも済ませておく必要がある
できることは、走行前にクルマの場所を知ることができ、そこまでの道案内してくれる。また、残燃料と航続可能距離を確認できる。ガソリン車でも、燃料の残りが走行前にわかるのはうれしい機能だ。
使い方はシンプルそのもの。クルマから離れた状況でApple Watchでアプリを立ち上げれば、航続可能距離が表示される。それを左右にフリックすると走行距離/駐車場所/前回走行の燃費と表示が切り替わる。また、駐車してから1時間経過したことを知らせてくれる機能もある。駐車場所の画面にも駐車時間が表示してあるので、有料パーキングを利用したときは役に立つだろう。
使ってみれば、with Hondaは何かを操作するのではなく、情報を得るというのが目的のアプリであった。正直、これもBMW同様にApple Watchでなければできない機能はない。今後に期待したい。
機能はシンプルだが、後続可能距離が手元で確認できる
前回の走行距離も表示できる
駐車後の時間を通知する機能も装備
有料のパーキングを利用している場合に活用できそうだ
iPhone用のカーナビアプリ「カーナビタイム」も、さっそくApple Watch対応を実現した。
こちらはアプリを立ち上げると、カーナビタイムが案内するルートの進捗状況が表示される。また、目的地までの所用時間もあわせて表示されている。目的地までの進捗率は、カラーの輪で表示されるが、その色によって渋滞の状況も分かるのが面白い。緑の部分が順調で、黄色が混雑、赤が渋滞となる。
Apple Watchでの表示は、非常にシンプルなものだ。操作するものもなく、ただ進捗状況が示されるだけだ。しかし、意外にこのシンプルさがいい。なぜなら、同時に利用しているiPhone側のカーナビタイムの表示は、逆に精緻で情報量が多いのだ。また、走行中にApple Watchをじっくりとのぞき見ることはできない。あくまでもチラリと視線を投げかけるだけなので、これくらいシンプルではないと困る。それよりも、iPhoneとは別の情報がApple Watchで追加されている。これこそApple Watchがなければできない機能だろう。
また、BMWもホンダのアプリも、利用するのは主にクルマを離れたとき。それに対してカーナビタイムは、走行中の利用がメインとなる。おのずと、BMWやホンダとは表示や操作方法も違ったものになって当然だ。
ちなみにナビタイムでは、ほかに「乗り換えNAVITIME」「NAVITIME Transit」もApple Watchを対応している。ソフトウェアメーカーならではのすばやさだ。
iPhone用のカーナビタイムと連動したApple Watchアプリが登場。緻密な情報が表示されるiPhoneの画面と異なり、Apple Watchでは案内ルートの進捗パーセンテージや所要時間など整理された情報のみが表示される
カラーの輪は、ルートの混雑状況を反映したもの。緑の部分が順調で、黄色が混雑、赤が渋滞という3段階の表示だ
緻密な情報が表示されるカーナビタイム。詳細情報はスマートフォンで、おおまかな情報はApple Watchでという使い分けができる
アップル社はクルマでのiPhoneの利用拡大を狙っている。クルマの車載器との連携をより強化する「Apple CarPlay」という規格も発表している。しかも、その規格に、メルセデスベンツ、フォルクスワーゲン・グループにBMWといったドイツ系、PSAやルノー&日産、ジャガー&ランドローバー、ボルボ、FCA(フィアット・クライスラ・オートモーティブ)、GM、フィード、ヒュンダイ、KIAなどの欧米のほとんどのメーカーが参加を表明した。もちろん日系メーカーも参加する。参加表明していないのはダイハツくらいだろうか。また、パイオニアとアルパインといった車載器メーカーも対応製品をリリースしている。
こうした各社の動きを見ると、今後、カーライフにおけるiPhoneの重要度はさらに高まるのは間違いない。そうなれば、ある意味、iPhoneの拡張デバイスのような立場であるApple Watchの利用も広がる。当然、対応アプリも続々とリリースされるだろう。
Apple Watchは生まれたばかりのデバイスだ。正直、クルマで使うアプリもまだまだという部分もある。しかし、Apple Watch本体の機能はさらに向上するだろうし、そうなれば可能性はさらに広がる。クルマで利用するApple Watchは、これから注目すべきアイテムなのだ。