バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

50年の歴史に幕。カワサキ「Wシリーズ」への思いを胸に最終モデル「W800 Final Edition」でライディング

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クラシカルなデザインの車体に現代的なエンジンやメカニズムを搭載した「ネオクラシック」と呼ばれるジャンルのバイクが世界的に人気を集める中、ネオクラシックの流れを先取りしていたカワサキのロングセラー「Wシリーズ」が姿を消そうとしている。その最終モデルとなる「W800 Final Edition」を前に、Wシリーズの歴史が筆者の脳裏を駆け巡った。Wシリーズの遍歴をたどりつつ、その特徴である2気筒空冷式エンジンをじっくり味わってみよう。

50年の歴史を持つ「Wシリーズ」の幕が下りる

「W800」のルーツは、1966年に誕生した「650-W1」まで遡る。「650-W1」はカワサキの最大排気量車として北米市場をメインターゲットに開発されたモデルで、同年に日本国内でも発売。その後、1968年にツインキャブになった「650W1S」が登場し、1973年には「650RS-W3」へと進化を遂げる。「650RS-W3」は、当時人気を博していた4気筒エンジンではなくシリーズ誕生から継承されるシリンダーが直立した2気筒(バーチカルツイン)エンジンを採用しながら、フロントブレーキに最先端だったダブルディスクブレーキを装備したのがポイント。4気筒のほうが高性能であるものの、2気筒独特の弾けるような排気音と鼓動感を望むファンは多く、Wシリーズらしさはそのままにバイクとしてのポテンシャルをブラッシュアップさせていった。

そんなWシリーズだが、1974年の「W3A」以後、生産は途絶え、再び「W」の名が復活したのは25年後のこととなる。過去のWシリーズを彷彿とさせるクラシカルなデザインに空冷675ccのバーチカルツインエンジンを搭載した、まさに現代につながるネオクラシックの流れを先取りしたような仕上がりを実現した「W650」の誕生だ。そのスタイルは多くのユーザーに支持され、2006年には普通自動二輪免許で乗れる「W400」もラインアップに加えられた。

国内仕様の「650W1S」(写真は1968年式)。モデルとなった英国車を意識し、右足シフト左足ブレーキという設計とされた

しかし、「W650/W400」も2008年に生産終了となってしまう。その引き金を引いたのは、排出ガスの規制強化。排気ガスの中に含まれる一酸化炭素や炭化水素、窒素酸化物などの規制値が厳しくなり、従来の燃料供給方式ではクリアすることができなかったのだ。そこで同社は、燃料噴射するシステムを電子制御化することで排出ガス規制に対応した「W800」を開発。規制値をクリアしようとすると出力が低下してしまう課題はあったが、排気量を773ccにアップすることでカバーした。その他、細かい部分もブラッシュアップを施し、ステップやハンドルの位置、シートの高さを見直すことで、よりリラックスしたライディングポジションを実現。車体デザインはほぼ「W650」のままだが、チェーンケースを始めとするメッキパーツの充実やミラーの意匠変更などクラシカルな雰囲気や質感をさらに向上させた。そんな「W800」は2010年に10月に欧州で発表後、翌年2月には国内でも発売され、現在まで長く愛されている。

だが、排出ガスを巡る規制は年々厳しくなっており、2017年から導入される新しい排出ガス規制に適合しないことを理由に、ついにWシリーズはその歴史に幕を下ろす。規制値をクリアするにはエンジンに送り込む燃料の量を薄くしなければならないが、燃料を薄くするとエンジン内の温度は上昇してしまうため、「W800」のような空冷式エンジンはその熱を冷却することが難しく、夏場などのオーバーヒートの可能性を考えると市販を継続するのは限界なのだという。

「W800」は、直立した空冷エンジンのシリンダーをアイコンとするWシリーズの血統を感じさせるデザインだが、燃料供給など内部には電子制御も多用される

初代モデルをリスペクトした最後の「W800」

50年の歴史を感じさせるオーセンティックな、ある意味“バイクらしい”デザインと車体構成で、老若男女を問わず幅広い層から支持されてきたの「W800」。なかには、いつかはWシリーズに乗りたいと憧れ続けてきた人もいるだろう。そんなファンに向けて最後に贈られるのが「W800 Final Edition」だ。

Wシリーズの有終の美を飾る「W800 Final Edition」は、初代Wシリーズの最終モデルである「650RS-W3」(1973〜1975年)の雰囲気を現代に蘇らせるというコンセプトのもと開発された。なかでも、開発者がもっとも想いを込めたのがタンク。塗装と焼付をそれぞれ4回ずつ行うという、「650RS-W3」と同様の工程を採用した点もニクいこだわりだ。さらに、カラーは「W800 Final Edition」のためだけに作成し、深みのある色合いと独特の輝きを実現した。

多くの人がイメージするオーソドックスなバイクを具現化したようなデザインは、どんな風景にもマッチしそう

多くの人がイメージするオーソドックスなバイクを具現化したようなデザインは、どんな風景にもマッチしそう

「650RS-W3」と同じ技法で塗装されたタンク。2色の塗り分け部分の段差をなくしたことも、美しさを際立たせるポイントだ

タンクには、クロームメッキが施されたエンブレムを装備。膝が当たる部分にはニーパッドが用意されている

オーソドックスな正立式のフロントフォークには、フォークブーツを装着。クロームメッキのフェンダーも美しい

コックピットから眺めるメーターの配置やデザインもオーソドックスで歴史を感じる

コックピットから眺めるメーターの配置やデザインもオーソドックスで歴史を感じる

リアフェンダーとブレーキランプ、そしてウインカーの配置もオーソドックスだが安心感を覚える絶妙な位置関係だ

振動低減のためのバランサーを装備し、カムはベベルギア(傘型の歯車)によって駆動させる現代的なエンジンだが、空冷フィンの刻まれたエンジンがレトロな雰囲気を高めている。なお、エンジンの最高出力は48PS/6,500rpmで、最大トルクは6.5Nm/2,500rpm

フロントフォークから伸びるライトステーにまでクロームメッキが施され、全体の質感を向上させている

フロントフォークから伸びるライトステーにまでクロームメッキが施され、全体の質感を向上させている

リアのチェーンケースにまでクロームメッキが!

リアのチェーンケースにまでクロームメッキが!

白いモールの縁取りのあるシートは、「650RS-W3」を彷彿とさせる

ブレーキはシングルディスクだが、車重が216kgと軽めなので制動力は必要にして十分。タイヤサイズは前が100/90-19、後ろが130/80-18となっている

消音部分をふくらませ、出口を細くするキャブトンタイプのマフラーは、排気音がよく消されているので住宅街などでも迷惑になることはなさそう

「W800 Final Edition」で、いざライディング!

Wシリーズの歴史に思いをはせながら、「W800 Final Edition」に試乗してみた。またがって一番に感動したのは、違和感や窮屈な部分のない自然なライディングポジション。手を伸ばした位置にハンドルがあり、座った位置から足を下ろせばそこにステップがある。当たり前のことのようだが、ここまで自然なポジションのバイクはなかなかない。

車体サイズは、2,180(長さ)×1,075(高さ)×790(幅)mm。175cmの筆者がまたがっても足つきはいい。どこにも無理な力が入らないポジションなので、長距離ツーリングに出かけても疲れなさそうだ

いよいよ、街中を中心に高速道路や軽いワインディングに出発! 走り出すと、まず、スムーズに回るエンジンに感心させられた。ある程度排気量のある2気筒エンジンの場合、ドコドコと鼓動を感じるエンジンも少なくないが、バランサーが振動を吸収しているためか鼓動や不快な振動はない。逆にそうした“味”を期待して乗ると、ちょっと拍子抜けするかも。実によくできた設計だ。

そして、操りやすさもかなりのもの。773ccの排気量にしては車重が軽いこともあるが、現代のバイクとしては細身のタイヤを履いていることと軽いハンドル操作も関係していそうだ。カーブを曲がる時も、意識的にステップを踏んで倒し込む必要もなく、軽く傾けるだけでハンドルが切れるので街乗りはとてもスムーズ。

ハンドリングは軽快で、何か特別な操作を意識することなくカーブを曲がれる

ハンドリングは軽快で、何か特別な操作を意識することなくカーブを曲がれる

低速でのハンドリングは軽快だが、スピードを出すと不安感を覚えるかといえばそうではない。高速道路で巡行から追い越しで加速しても安定しており、不安感はゼロ。最高出力の数値よりも実用回転域でのトルクを重視した特性を持つエンジンはのおかげか、追い越しや合流でもパワー不足を感じることはなかった。アクセルの開度が大きいので、やや意識的に大きくアクセルを操作しないと全開にはならないものの、全開域を多用するバイクではないので走っていて気になることは少ないだろう。エンジンの回転はスムーズだと上でお伝えしたが、回転数が高くなると2気筒エンジンらしい振動も伝わってきて気分が盛り上がる。

直進の安定性も高く、シートのやや後ろに座りリアタイヤに体重をかけるようにするとさらに安定感が高まる

直進の安定性もバツグン。シートのやや後ろに座りリアタイヤに体重をかけるようにすると、さらに安定感が高まる

ワインディングではハンドリングの軽さを生かして、カーブを抜けていくのが楽しい。スピードを出してコーナーを攻めるというより、コーナー手前で一度速度は落とし、バイクと一体となって駆け抜けていくような乗り方が合っている。現代的なスポーツバイクのように向きが変わるのが速いわけでも、バンク中にベタッと地面に貼り付いているような安定感があるわけでもないが、車体を傾ける操作が軽く、スピードが速いか遅いかなどだんだんどうでもよくなってくるから不思議だ。

試乗を終えて

走行してすぐは、あまりの乗りやすさとエンジンのスムーズさに「あまり個性がないバイクかな」と思ったが、乗り続けているとだんだんと「W800 Final Edition」の面白さを感じられるようになってくる。ひと言でいうと、見た目だけでなく乗り味もクセがなくスタンダード。しかし、だからこそ噛めば噛むほど味が出てくるような深みがある。ただ、それも積極的にバイクに働きかけないと乗りこなせないような深さではなく、乗っているうちに自然に感じられるタイプなので、初心者でもベテランでもおそらく同じ面白さを実感できるだろう。

このような味わいを知ってしまうと、生産終了となるのが非常に惜しくなる。Wシリーズは、これまでも排出ガス規制に対応すべく施策を凝らすことで歴史をつむいできた。2気筒の空冷式エンジンではこれ以上は難しいという話だったが、ホンダ「CB1100」は同じ空冷エンジンながら、燃焼室周りにオイルを循環させるシステムで熱問題に対処している。もちろん2気筒と4気筒の違いもあるし、エンジンを新規に開発するコスト的な問題も度外視するわけにはいかない事情もあるだろう。さまざまな背景を理解しつつも、何とかWシリーズを継続させてほしいと思えてならない。その想いを「W800 Final Edition」を手がけた川崎重工業株式会社 モーターサイクル&エンジンカンパニー 技術本部 第二設計部の菊地秀典さんにぶつけてみたところ、「Wシリーズを惜しむ声は多数寄せられている。そんなファンの期待に応えられるよう、カワサキが培ってきた歴史を感じてもらえるようなモデルを考えていきたい」とのことだった。Wシリーズの歴史はいったん終るが、その血脈を受け継いだマシンが登場する日を期待して待ちたい。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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2017.10.18 更新
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