40年以上の歴史を持ち、多くのアーティストに使用されてきたヤマハのステージピアノ「CP」シリーズ。その新モデルとして、「CP88」「CP73」の2機種が発表された。いずれも、2019年3月上旬発売予定で価格はオープン。従来のCPシリーズが持つアイデンティティを受け継ぎながら、音色や演奏性といったステージピアノの核となる点を高めているのが特徴だ。その魅力を紹介しよう。
まずは、シリーズ全体について簡単に振り返ってみたい。CPシリーズは、ライブ演奏などで使う“ステージ用のピアノ”としてヤマハが開発した製品だ。打弦式の初代モデル「CP70」が登場したのは1976年で、いわゆる“70年代ロック”の時代。そこで、「バンドのキーボーディストが使う」というコンセプトで、ステージ上で爆音のギターに負けないよう音を増幅できるピアノとして誕生した。
以来CPシリーズは、奏者が弾きやすいピアノとして進化し、多くの著名アーティストのステージで使用されてきた。有名なところでは、小林武史さんなどが挙げられる。
「CP」というシリーズ名称は、「Combo Piano(コンボピアノ=小編成バンドで弾くためのピアノ)」という意味を込めたもの
ヤマハは今回、電子式の新モデル「CP88/CP73」の開発にあたり、「演奏の心地よさ」と「操作のしやすさ」に重点を置いたという。音色、演奏性、操作性、デザインといった、ステージピアノに求められる要素を徹底的に洗い直し、プロ志向をより高めた。
なおCP88とCP73の違いは、基本的には鍵盤の種類と、それにともなう本体サイズのみと考えてよい。型番の数字が鍵盤数を表しており、CP88はフルサイズとなる88鍵、CP73はそれより1オクターブ少ない73鍵のモデルとなる。
CP88とCP73の主な違いは、鍵盤の仕様となる。そのほかの基本機能は共通している
CP88は、白鍵部に木材を用いた88鍵の「NW-GH」鍵盤を採用している。トリプルセンサー付きで、グランドピアノと同様のハンマーアクション機構を搭載し、低音部は重く、高音部は軽くなるグランドピアノのタッチ感を再現。鍵盤から指先に伝わる感触なども含め、全体的な弾き心地を生ピアノに近づけているのがポイントだ。
まずは88鍵のCP88から。グランドピアノの高品位なタッチ感の再現を狙ったNW-GH鍵盤は、白鍵は木製象牙調、黒鍵は黒檀調仕上げで質感も高い
いっぽうCP73は、黒鍵マット仕上げの「バランスドハンマー鍵盤」を搭載するスタンダードモデル。最高音、最低音の鍵盤がそれぞれEの「E to E」レイアウトの73鍵としている。こちらは、低音部から高音部まで鍵盤のタッチ感・重さは共通で、エレクトリックピアノなど多彩な音色を弾きこなすのによい。ヤマハのステージピアノ史上最軽量の13.1kgという重量で、持ち運びやすさにも配慮している。
こちらは、スタンダードモデルのCP73。黒鍵マット仕上げでこちらも弾きやすさを高めた。なお「E to E」レイアウトはエレクトリックピアノで伝統的なスタイル
鍵盤と本体サイズ以外の基本性能は、2機種とも共通している。いずれも音源はヤマハのPCM音源であるAWM2で、最大同時発音数は128。音色は、160のライブセットサウンドと57のボイスを搭載する。
インターフェイス部も2機種で共通しており、標準PHONE入出力端子やXLR出力端子、MIDI入力、USBポート(USB HOST/DEVICE)などを備えている。また、フットペダルも標準で付属
それでは、ヤマハがこだわったCP88/73のポイントを見ていこう。まず大きいのは音色だ。ヤマハによれば、ステージ用に求められるピアノサウンドを厳選して収録したという。
たとえばアコースティックピアノの音色には、ヤマハ最高峰のコンサートグランドピアノ「CFX」や、ベーゼンドルファーのフラッグシップグランドピアノ「290 インペリアル」、ヤマハの熟練職人が手がけたハンドクラフトの「S700」といった、3種類のグランドピアノからサンプリングしたサウンドを搭載。さらに、ヤマハ「U1」「SU7」などアップライトピアノの音色も複数備えており、さまざまなアコースティックサウンドを使い分けられる。
また、1970年代から音楽シーンをリードしてきた数々のエレクトリックピアノの音色が入っているのもポイント。ヤマハ「CP80」や、「78 Rd」「75 Rd」など、製造年代にまでこだわってビンテージエレピの音を厳選して収録しており、1台あればステージ上でピアノ表現の幅が広がる。
2機種とも、シンセやストリングスなども含め、多くのサウンドを搭載する。詳細は後述
そのほか、CPシリーズとして初となる、ファームウェアアップデートによる音色追加に対応しているのもトピック。本体のファームウェアアップデートの際には、新しい音色コンテンツパックがリリースされ、使用できる音色がどんどん拡張していく仕様になっている。OS v1.1は製品の発売と同時に、OS v1.2は2019年9月頃にリリース予定とのことだ。
もうひとつのポイントは、コントロールパネルをシンプル化したこと。これにより、ステージ上における操作性の向上を図っている。
コントロールパネルには、「Piano」「E.Piano」「Sub」の3つのボイスセクションを搭載し、それぞれに独立したON/OFFスイッチとトーンコントロール、インサーションエフェクトを備える設計になっている。ひとつのコントローラーにひとつの機能を割り当てる「One-to-One」インターフェイスによって、どのようなシチュエーションでも直感的にすばやく操作できるように配慮した。
コントロールパネルの隣には、ボイスセクションごとに割り当てできるエフェクトセクションを配置。ディレイ(アナログ/デジタルの2タイプ)、リバーブ、3バンドのマスターEQの各パラメータを調整できる。ちなみにCP88/73とも、鍵盤を最大4つの領域(ゾーン)に分けて、別々の音を鳴らすことも可能だ。
ステージ演奏で求められる操作性を、直感的に行えるように配慮したシンプルなインターフェイス
また、「ライブセット機能」も搭載している。コントロールパネルの各セクションで制作したオリジナル音色を、「ライブセットサウンド」として最大160音色まで本体に登録しておくことができ、音色切替時に音切れを発生させない「Seamless Sound Switching」にも対応している。
ライブセット機能によって、オリジナル音色を登録しておくことも。本体の音源と外部音源を組み合わせた「ライブセットサウンド」の設定もできる
そのほか、キャスターと牽引用ハンドルが付いた専用バッグも別売で用意。ステージに持ち運びしやすいようになっている
ヤマハが開催したCP88/73の製品発表会では、特別ゲストとして、作編曲家・キーボーディスト・音楽プロデューサーの本間昭光さんと、ピアニスト・キーボーディストの松本圭司さんが登場。プロの目線から見た、新しいCPシリーズの魅力が語られた。
写真左が本間昭光さん、右が松本圭司さん。両者がCP88/73の音を実際に鳴らしながら、その魅力を紹介した
両者とも、とにかく演奏時の快適さが印象的だったようで、「弱いタッチもしっかり発音してくれるし、強いタッチのダイナミクスもあります。生ピアノの感覚で演奏して、ちゃんと音が出る。音に繊細な起伏を付けられるので、弾き語りするプレイヤーにもいいのでは」と、その弾き心地(タッチと音のマッチング)を絶賛していた。
また、内蔵する多彩なピアノ音色についても、本間さんは「スタジオで、アップライトピアノの音色が求められることがわりとあるんです。たとえばビートルズ楽曲を再現するような、アップライトピアノでしか表現できない音作りをしたいという需要があって、そういう場合にCP88/73があると便利」と、レコーディング現場のニーズにも言及しながら解説。
松本さんは、「エレピ音色も音質が高くて、自分が使用してきた“ローズ・ピアノ”を弾いているときに近い感覚で演奏できます。ローズ系、ウーリッツァー系など、音色を瞬時に切り替えられるのもいい」と、そのサウンドのクオリティと操作性に感心していた。
最後に、松本さんによるCP88/73の演奏動画で本記事を締めくくろう。以下は、ボーカリストの大和田慧さんとギタリストの伊藤ハルトシさんを迎えた、小編成バンド(コンボ)スタイルでの演奏の様子だ。上の動画はCP73で、エレピ音色の中からローズ系を使って演奏。下の動画はCP88で、アコースティックピアノ音色とシンセ音色をレイヤーにして演奏している。