ヤマハのアコースティックギター「FG」「FS」シリーズの新しいラインとして、「FG/FS Red Label」が発表された。往年のフォーク好きの中には、その名前を聞いてピンと来る方も多いのではないだろうか。そう、1960年代に登場したヤマハのフォークギター「FG180=通称:赤ラベル」を彷彿とさせる名称だ。
しかし新しい「FG/FS Red Label」は、いわゆる過去モデルの復刻版というわけではない。実際に製品を見てみると、往年の定番モデルを想起させつつ、現代的なエッセンスを加えて進化しているのがわかる。いわば「令和時代のヤマハ赤ラベル」とも呼べそうな、れっきとした新作なのだ。以下より、その詳細を見ていこう。
まずは、「FG/FS Red Label」(以下、Red Label)の製品ラインアップをチェックしよう。FGシリーズとFSシリーズ、それぞれに分けてエレクトリック・アコースティックギターとアコースティックギターを2機種ずつ揃えており、それぞれ2019年5月25日に発売を予定している。価格設定は以下の通りで、ヤマハの現行モデルの中では中〜高級機に位置づけられる。
■FGシリーズのエレクトリック・アコースティックギター
・「FGX5」190,000円(税別)
・「FGX3」120,000円(税別)
■FGシリーズのアコースティックギター
・「FG5」160,000円(税別)
・「FG3」90,000円(税別)
■FSシリーズのエレクトリック・アコースティックギター
・「FSX5」190,000円(税別)
・「FSX3」120,000円(税別)
■FSシリーズのアコースティックギター
・「FS5」160,000円(税別)
・「FS3」90,000円(税別)
FGシリーズとFSシリーズそれぞれに、「Red Label」ラインとして合計8機種をラインアップ!
ちなみにヤマハのFGシリーズとFSシリーズの違いは、ボディ形状の差。これは、今回のRed Labelでも継承されている。
簡単に言うと、FGシリーズは、スタンダードなオリジナルジャンボボディシェイプを採用し、豊かな音量と中低域の生鳴りを高めたモデル(胴厚は100〜118mm)。
対してFSシリーズは、日本人の体型になじみやすい小ぶりのフォークボディシェイプで、レスポンスの効いたコードストロークやフィンガーピッキングに合うモデルとして位置づけられている(胴厚は90〜110mm)。
FGシリーズ「FGX5」(左)と、FSシリーズRed Label「FSX5」(右)
さて、改めて今回の新モデルで注目したいのは、なんと言ってもシリーズ名に「Red Label」の名を冠していること。続いてこのあたりをざっくり語っていこう。
ヤマハのアコースティックギターは、1966年に初代モデル「FG180」「FG150」が登場して以降、多くのファンを獲得してきた。製品が広く普及し、FG180はサウンドホールから見える内部のラベル色にちなんで、通称「赤ラベル」と呼ばれる定番機種となった(なお、生産時期によって細部仕様は異なる)。同社フォークギターの原点とも言えるモデルだ。
ヤマハによれば、今回の新シリーズの名称には「原点の赤ラベルに立ち返る」という思いが込められているという。FG180と同じ634mmスケールを採用し、握りやすいネック形状とするなど、そのデザインや意匠も往年のヤマハフォークギターの設計思想を踏襲している。以下より、写真で外観の特徴を見ていこう。
ボディ表板にはA.R.E.を施したシトカスプルース単板、裏板・側板にはマホガニー単板を採用。セミグロス塗装でビンテージな風合いに仕上げている。各ラインの上位機種となるFGX5、FSX5、FG5、FS5は、クオリティ重視のMade in Japanモデルとなる(そのほかのモデルはヤマハの海外工場で製造)
ヤマハ音叉マークを配置したVシェイプのヘッド。トラスロッドカバーには、FG180が誕生した1966年の文字を刻印
スケール長はFG180と同じ634mm。ネック材はマホガニーで、指板、ブリッジ、ブリッジピンは黒檀仕様となっている
そしてサウンドホールをのぞくと、最新の「赤ラベル」が。型番の隣には「鳳凰」のモチーフも
なお、単に昔のヒットモデルをなぞるというのであれば、これまでにも過去ギターの限定復刻モデルはあった。しかし今回のRed Labelは、そういった懐古主義的なモデルではなく、現代的な技術を投入してちゃんと進化しているのが特徴だ。その進化ポイントを紹介しよう。
まずRed Labelの試作行程において、ヤマハは最新のデジタル音響シミュレーションを行った。FGとFSそれぞれのボディシェイプにあわせて最適化したデザインのブレイシングを開発し、本体の耐久性を損ねることなくパワフルなサウンドを鳴らせるようにブラッシュアップしている。ヤマハによれば「デジタルシミュレーションでないと実現できない設計」だそうだ。
また、シトカスプルースを採用した表板には、独自の木材改質技術「A.R.E(Acoustic Resonance Enhancement)」も採用。これにより、長年弾きこんだかのような豊かなサウンドの再現を図った。
スキャロップ加工を施したボディのブレイシング。左がFGで、右がFSのもの
続いて注目したいのが、エレアコのFGX5、FGX3、FSX5、FSX3に搭載される新開発のピックアップシステム「Atmosfeel」(アトモスフィール)。「マイク」「コンタクトセンサー」「ピエゾピックアップ」という3種類のピックアップを搭載し、集音したサウンドをよりリッチにコントロールできるシステムである。
搭載するピックアップは全て表からは見えないが、大体こんな感じの位置に内蔵されているそう
3種類のピックアップにより、幅広い帯域の集音をカバーできる
ピックアップの中でも、特に特徴的なのは「コンタクトセンサー」だ。これは、薄くて耐久性のある圧電性合成紙を使ったもので、従来のピエゾピックアップでは拾いきれない高域成分を集音する。また「マイク」では低域成分を拾うことができ、トータルで幅広い帯域の集音をカバーする仕組みになっている。
そしてボディの側面には、これらで集音したサウンドを調整できる3つのコントロールスイッチを装備する。「Master Volume」は、その名の通りメイン音量の調整。「Mic Blend」では、マイクで集音した成分の調整ができ、実際に鳴らしてみるとサウンドの空気感に影響するような印象だ。「Bass EQ」では、低域を増幅させたり低減させたりすることができて、たとえばバンドでほかの楽器と合わせるときに適度な低域量で響かせることが可能。まさに、現代の多様化する演奏シーンのニーズに合わせて進化した機能と言える。
ボディ側面のスイッチを回すと、集音した成分をコントロールできる! バンドでほかの楽器と合わせるような際に便利で、ステージ上での調整も可能
それでは最後に、シンガーソングライターの構康憲さんによる、Red Labelシリーズの弾き語り動画をご覧いただいて本記事を締めくくろう。ちなみに構さんは、「弾き込んでいくほど手になじんでくる。サウンドが気持ちよくて歌いたくなるギターです」と製品を絶賛。
FGについては「生音がよく、ストロークで包んでくれるよう」、FSについては「小柄なシェイプで音の粒立ちがよくタイト。小ぶりなので、これからギターを始める人にもいいのでは」とコメントした。