カシオ計算機(以下、カシオ)から、電子ピアノのハイクオリティモデル「CELVIANO Grand Hybrid(セルヴィアーノ グランドハイブリッド)」シリーズの第二世代機が発表された。ラインアップは「GP-510」と「GP-310」の2モデルで、2019年8月23日から順次発売される。
初代機の登場から4年。ドイツの名門ピアノブランド・ベヒシュタインとカシオの共同開発による電子ピアノは、どう進化したのか? 待望の新モデルについて、発表会で見てきた詳細をお伝えしよう。
カシオの「CELVIANO Grand Hybrid」シリーズは、「ベヒシュタインの弾き心地と音を再現すること」を目指して開発された電子ピアノ。本家ベヒシュタインのグランドピアノと同じスプルース材を採用した鍵盤を搭載し、タッチの強弱と響きの経過を細かく再現するなど、カシオの高い技術力で電子ピアノの枠を超えた表現に対応する。
30万円超えという価格帯は電子ピアノとして見ればハイクラスだが、それで高級なベヒシュタインのピアノを再現すると考えればある意味破格。……というわけで、「CELVIANO Grand Hybrid」は2015年に初代モデルが発売されてからまたたく間に話題となり、世界中でアワードを獲得した。今回、それが4年ぶりに第二世代へ進化したというわけだ。
最上位機のGP-510は2019年8月23日発売。想定実売価格は40万円前後
次位モデルのGP-310は2019年9月6日発売。想定実売価格は30万円前後
新しく発表されたGP-510/GP-310とも、初代モデル(GP-500/GP-300)の設計を踏襲しており、基本的な外観デザインなどは変わらない。ただ、中身はかなりブラッシュアップされている。簡単に言うと「弾きごたえの向上」というピアノとしては当たり前のことなのだが、実際に弾いてみるとそのクオリティがスゴいのだ。
なお、GP-510とGP-310の違いは、搭載音色数や一部のサウンド機能のみ。以下にあげる鍵盤や内蔵音源などの基本仕様は、GP-510/GP-310とも共通となる。
まずは鍵盤から見ていこう。GP-510/GP-310とも、白鍵/黒鍵にグランドピアノの鍵盤に採用される良質なスプルース材を使った88鍵の「ナチュラルグランドハンマーアクション鍵盤」を搭載。ベヒシュタイン製グランドピアノの構造を踏襲して開発された独自のアクション機構により、グランドピアノの弾き心地を追求している。
鍵盤表面にもグランドピアノと同等の仕上げを施しており、指なじみがよい
「CELVIANO Grand Hybrid」に採用されるハンマーアクション機構の模型。鍵盤部の基本設計は、従来モデルから踏襲している
「CELVIANO Grand Hybrid」のハイグレードな弾き心地を高めるのが、内蔵の「AiR Grand音源」である。演奏時の音色変化を表現する“マルチ・ディメンショナル・モーフィング”に対応しており、発音から消音までの変化に加え、ピアニッシモからフォルテッシモまでだんだん強く弾いていく際の自然な音色変化まで再現するというものだ。
今回、この「AiR Grand音源」が新しくなり、弱音から強音までの音量変化と音色変化をさらに詳細に分析し、より自然でなめらかな演奏が行えるようになった。言葉にすると簡単なのだが、実際に弾いてみるとまさに感動モノ。弾き心地については後述する。
内蔵する音色数は、GP-510が35、GP-310が26。歴史ある「3つのグランドピアノ音色」を搭載しているのもポイントとなる。「ベルリン・グランド」「ハンブルグ・グランド」「ウィーン・グランド」という3種類のピアノ音色を、コントロールパネルにあるボタンで簡単に切り替えて弾き分けることができる。
「ベルリン・グランド」「ハンブルグ・グランド」「ウィーン・グランド」という3種類の有名ピアノ音色を搭載。ボタンで簡単に切り替えてサウンドを変えられるのが、電子ピアノならでは
そのほか、グランドピアノらしい弦共鳴を再現する「弦共鳴システム」も従来を踏襲。演奏状況に応じたレゾナンスの量や組み合わせを制御し、88鍵それぞれにフィットした響きを生み出す。なお、GP-510のみ「ジャズ」「イージーリスニング」などの音楽ジャンルにあわせた15種類の音色プリセットを搭載する「シーン機能」に対応している。
また、6基のスピーカーの設置位置を工夫することで、上下に広がるグランドピアノの音響を再現する「グランドアコースティックシステム」も強化された。本体下部に搭載されている下向き専用スピーカーが刷新され、これにより低音再生能力を高めている。
本体下部にある下向きのスピーカーが新規設計された。重厚感のある豊かな低音で、よりリッチなサウンド再生を図っている
カシオが開催した新製品発表会では、ピアニストの近藤嘉宏さんが登壇し、最上位モデルであるGP-510の演奏を披露した。
国内外で高い人気を誇るピアニストの近藤嘉宏さんが、新しい「CELVIANO Grand Hybrid」の魅力を語る
ベヒシュタインの音が大好きで、カシオの開発者とも熱く語り合ったことがあるという近藤さん。同氏は新しい「CELVIANO Grand Hybrid」について、「早いタッチで弾いても反応がよくて、音の分離感も高い。ピアニストの手による微妙な力加減の差を、ちゃんと音に出してくれる」と、そのクオリティを絶賛。「ペダルを踏んだときの音の伸びもよくて、ハーモニーの重なり具合が生楽器らしく、ベヒシュタインの音にかなり近づいている。演奏すると、そのすばらしさが特にわかる」と評価した。以下の動画は、近藤さんによるGP-510演奏の様子(※音声はカメラ内蔵マイクによる集音です)。
最後に、筆者も少しだけGP-510を触ることができので、簡単にその感触をお伝えしよう。
アコースティックピアノの経験者が電子ピアノを弾くとき、アコースティックとデジタルの「出音の差」を無意識のうちに計算してしまうようなところがあると思う。デジタルのほうは、タッチに対して音が付いてこないようなイメージだ。時間にしたらコンマ何秒レベルの一瞬の誤差なのだが、無意識のうちにその「一瞬の誤差」を計算に入れて弾いている。
ところが、GP-510はそのデジタルらしい誤差が少ない。実際にGP-510を弾いてみて実感したのは、そういった誤差を極力気にせず、アコースティックピアノを弾くときのような感覚で自然に弾けるということ。これはスゴいと思う。
つまり新しい「CELVIANO Grand Hybrid」の進化点を簡単に言うと、「弾きごたえの向上」というとてもシンプルなもの。たとえば音色や機能を増やすとか、もっとわかりやすい派手な強化をしようと思えばいくらでもできたはず。しかしそうではなく、真正面からピアノとしての正統進化を遂げたということだろう。ぜひ多くの方に、実際に演奏してそのクオリティを体感していただきたい。
オーディオ&ビジュアル専門サイトの記者/編集を経て価格.comマガジンへ。私生活はJ-POP好きで朝ドラウォッチャー、愛読書は月刊ムーで時計はセイコー5……と、なかなか趣味が一貫しないミーハーです。