特別企画

あのIbanezからも待望モデル登場! 今こそヘッドレスギターに注目しよう

ヘッドレスギターと言えば未来のギター! ……というのは、もう過去の話。ヘッドレスギターは近年一気にその勢力を拡大し、今や、「未来の」ではなく「現在の」ギターデザインとして確立されています。ヘッドレスはもう、ギター選びの選択肢に普通に入れるべき存在です。

そんな今だからこそ、改めて「そもそもギターからヘッドをなくすメリットは?」「特殊で扱いにくかったりしない?」といった、ヘッドレスギターの基本から実用面までを確認しておきましょう。

そして、その魅力や扱いやすさについては、ついに国内大手から発表された最新ヘッドレスモデル、Ibanez「Q Series Q54」の実機でチェック! もちろんQ54自体の紹介もしていきます! さらにIbanezからは、ヘッドレスギターとQ Seriesについての質問にもご回答いただきました。

もう未来のギターじゃない! ヘッドレスは現在のギター!

エレクトリックギターの世界に「ヘッドレス」を広く知らしめた存在といえば「Steinberger」(スタインバーガー)です。1980年に販売開始の同社ヘッドレスベース、そしてやや遅れて登場したヘッドレスギターは、ヘッドレスを軸にさまざまな革新性を備えたものでした。当時の先進的なプレイヤーたちがそれを手にする姿に驚きと憧れ、ギターの未来を感じた方もいらっしゃることでしょう。

現在は、材質を一般的な木材に変更するなどした「Spirit by Steinberger」ブランドの製品が展開されています

現在は、材質を一般的な木材に変更するなどした「Spirit by Steinberger」ブランドの製品が展開されています

ですが1980年ってもう40年も前! ということは、当時に提案された「未来のギター」の姿が今や普通に「現在のギター」の姿になっていても何もおかしくありません。そして実際に現在、ヘッドレスギターはもはや特別な存在ではなくなっています。ギター選びの選択肢に普通に入ってくるというか、ぜひ入れるべき存在になっているのです。

というのも、現在のヘッドレスギターたちは、ヘッドレスとしてのより洗練された設計、より扱いやすい実装を備えています。「ヘッドレスのメリットは存分に生かしつつデメリットはできるだけ潰してある」という、何ともうれしいギターに仕上げられているわけです。見逃せませんよね?

そこでこの企画では、その現在進行型最新ヘッドレスギターのポイントを改めて紹介します。「そもそもヘッドをなくすメリットは?」「ヘッドレスってどうやって弦交換するの?」など、ヘッドレスの魅力から使い勝手までをしっかりチェック!

そして少し前に発表されたのが、ついに国内大手のIbanez(アイバニーズ)がヘッドレスギターに参入! というニュースです。しかも意外と手ごろなお値段! と話題。今回はこのIbanez Q Seriesから、今秋以降予定の発売に先立って「Q54」の実機を貸し出していただけました! なので、ポイントの実例解説ではQ54に活躍してもらっています。記事終盤ではQ Series、Q54の魅力もじっくり紹介しますよ!

日本発の世界的ブランド、Ibanezがついにヘッドレスギターに参入!

日本発の世界的ブランド、Ibanezがついにヘッドレスギターに参入!

ヘッドレスのメリット1:取り回し向上&耐久性向上

まずは「そもそもヘッドをなくすメリットは?」という大前提から順番に確認していきたいと思います。

▼取り回し向上:もうヘッドをぶつけない!

ナットからブリッジまでの弦長が同じであれば当然、ヘッドの分だけ全長を短くできます。となれば、結果的に取り回しは向上します。

上がQ54、下はおおよそ同じ弦長のSquier Stratocasterのネック。この全長の違いは取り回しへの影響が大きい

上がQ54、下はおおよそ同じ弦長のSquier Stratocasterのネック。この全長の違いは取り回しへの影響が大きい

それに、ギターを持ったまま振り向いたり歩き回ったりしたとき、周りの何かにギターをぶつけてしまうことって多々ありますよね。そのときぶつけるのって大体ヘッドじゃないですか? そのヘッドがなければ、これまでならヘッドがぶつかっていた場面でもスルッとスルー! というわけです。

レリック仕上げでヘッドが傷だらけにしてあるのもそういうことですよね……ヘッドレスならこれもありません(そもそもヘッドがないので当たり前ですが)

レリック仕上げでヘッドが傷だらけにしてあるのもそういうことですよね……ヘッドレスならこれもありません(そもそもヘッドがないので当たり前ですが)

▼耐久性向上:もうヘッド折れしない!

ヘッドの付け根は構造的に、致命的なダメージを特に受けやすい部分です。グリップから厚みが一気に減っていますし、角度が付けられている場合もあります。なので、ギターを倒してしまったときなどはそこに力が集中しやすく、その部分での「ヘッド折れ」が起きやすいのです。当たり前ですが、ヘッドをなくせばそんな弱点はなくなります!

ヘッドありギターはここが弱点!

ヘッドありギターはここが弱点!

ヘッドレスのメリット2:重量バランス改善&小型軽量化

▼重量バランス改善:もうヘッド落ちしない!

従来型ギターでは、チューニングのためのペグがネックのいちばん先のヘッドにずらっと設置されています。

クルーソンペグは比較的に軽量ですが、それでも6個で約140g。「iPhone 12 mini」より重い!

クルーソンペグは比較的に軽量ですが、それでも6個で約140g。「iPhone 12 mini」より重い!

重い金属パーツがヘッドに並んでいることで、そちら側にかかる重力が大きくなり、それが「ヘッド落ち」の原因になりがちだったわけですが……それもヘッドレスで解消! まず当然、ヘッドもペグもないので、ナット側の重量はずっと軽くなります。そして従来は、ペグが担当していたチューニング機構がヘッドレスではブリッジ側に組み込まれ、ブリッジ側が重みを増します。ナット側は軽くなりブリッジ側は重くなることで、ボディが下がってネックが立つ、演奏しやすいポジションが自然と確保される重量バランスになるわけです。

ヘッド側には、弦を固定する「ヘッドピース」と呼ばれるシンプルなパーツがあるだけ

ヘッド側には、弦を固定する「ヘッドピース」と呼ばれるシンプルなパーツがあるだけ

そしてブリッジ側。いい感じにメカニカルなルックスも魅力かも

そしてブリッジ側。いい感じにメカニカルなルックスも魅力かも

▼小型軽量化:もう大きさ、重さに苦しめられない!

ヘッドレスギターは、ヘッドがない分の全長縮小だけでなく、ボディを含めた全体としても小型軽量な設計にしやすいです。基本的な重量バランスがよいおかげで、ボディをこれまでよりコンパクトにしても、ナット側の重さが勝ってしまうことがありません。重量バランスをキープしたままボディを小型軽量化できる余地が大きいのです。なので、従来型ギターに比べて相当な小型軽量化を実現できます。

同じロングスケールで普通にヘッドのあるギターとQ54とのサイズ比較イメージ。Q54はボディの薄さもポイント

同じロングスケールで普通にヘッドのあるギターとQ54とのサイズ比較イメージ。Q54はボディの薄さもポイント

お借りしたQ54の個体は、実測で2.1kgちょい。一般的なストラトは3.3kg〜3.7kgあたりですから、その2/3もありません

お借りしたQ54の個体は、実測で2.1kgちょい。一般的なストラトは3.3kg〜3.7kgあたりですから、その2/3もありません

普段はストラトを弾いている筆者。Q54の実機を初めて手にしたときは「なるほど小さくて軽いですね」なんて冷静な反応ではいられませんでした。「ちっさッ! かっるッ!」でした。何気なく片手で持ったときの軽さ感には、特に驚き!

ヘッドレスってここは弱点なんじゃないの?

……というわけで、ヘッドレスギターには多くのメリットがあります。ですが、だからこそ「たくさんのメリットがあることは理解した! しかしメリットしかないなんてわけはない! 弱点もあるはずだ! さあ吐け!」なんて疑念や不安も生まれることでしょう。

では、大事なサウンド面についてはのちほどとして、まずは「扱いにくかったり弾きにくかったりしない?」という部分を確認。特に気になりそうなのはこのあたりでしょうか?

●従来のペグとブリッジの仕組みを使わないなら、従来の弦も使えないのでは? 特殊な専用弦が必要だったり、弦交換が面倒だったりするのでは?
●これまでのギターよりコンパクトってことは、これまでのギターケースは合わないよね? どうすんの? 同じくギタースタンドはどうなの?
●演奏性も従来とかけ離れちゃってたりしない? 弾きにくくない?

それでは以下より、ひとつずつチェックしていきましょう!

▼現在は普通の弦を使えるタイプが主流で、弦交換も簡単

「従来のペグとブリッジの仕組みを使わないなら、従来の弦も使えないのでは?」という疑念は実にもっともです。実際、現代ヘッドレスギターの始祖的存在であるSteinbergerは、弦の両端にボールエンドを備えるダブルボールエンド仕様の専用弦を採用。おかげで、とても簡単に弦交換できるらしいのですが、弦の入手性や価格面での不安は否めません。

ですが、現在のヘッドレスでは普通の弦をそのまま使える仕組みが主流。ブリッジ側にボールエンドを引っかけて、ナット側ではロック式のように弦を締め付けて固定します。以下より、Q54を使った画像で解説していきましょう。

以上のように、ブリッジ側のボールエンドホルダーというパーツに弦のボールエンドを固定し、弦の反対側をナット側のヘッドピースに通し、スクリューを締めて固定します。そこからは、ブリッジのチューニングノブの出番。締めるほうに回すと、ボールエンドホルダーが後方にスライドし、弦が引っ張られて音程が上がります。ゆるめれば逆の動きで音程が下がります。ペグの代わりに、ブリッジ側のこの仕組みでチューニングを行うわけです。

というわけで、弦交換の手順や作業内容は、普通のギターとほとんど同じだったりします。【1】ブリッジ側で弦を固定、【2】ペグで弦を固定/ヘッドピースで弦を固定、【3】ペグでチューニング/ブリッジでチューニング。弦交換が面倒なんてことはありません!

▼ヘッドレスのキーパーツ! 各弦独立型ブリッジ

ブリッジ周りでは、各弦独立型ブリッジの採用例が多いこともヘッドレス全般の特徴。別に、ヘッドレスには各弦独立型ブリッジが必須! というわけではありません。ですが、現在のギターに要求される諸々への対応を考えると、各弦独立型ブリッジが有利なのです。

各弦のサドルやチューニング機構は、それぞれ別の台座を持ち、別々のスクリューでボディに固定されています

各弦のサドルやチューニング機構は、それぞれ別の台座を持ち、別々のスクリューでボディに固定されています

ヘッドレスギターにはただでさえ、チューニング機構を組み込んだ特別なブリッジが必要です。そのうえ、多弦やスランテッドフレットやファンドフレットといった仕様ごとに専用のブリッジを用意するとなると、設計や製造のコストが増大してしまいます。

対して各弦独立型ブリッジでは、まず弦の数を増やすなら、ブリッジもその数だけ追加すればよし。従来型では弦を増やすとなると、ペグ増設のためにヘッド全体の調整も必要でしたが、ヘッドレスならそれも関係なし。スランテッド/ファンドフレットにも、弦ごとにブリッジの取り付け位置をずらして容易に対応できます。

6弦で普通のフレットのQ54も、7弦でスランテッドフレットのQX527PBでも、ブリッジは同じ「Mono-Tune bridges」

6弦で普通のフレットのQ54も、7弦でスランテッドフレットのQX527PBでも、ブリッジは同じ「Mono-Tune bridges」

ヘッドレス+各弦独立型ブリッジは、最新型ギターの設計における強力コンビネーション! というわけです。各弦独立型ブリッジには音響面での特徴もあるかと思いますが、まずは機能性の面で現在のヘッドレスギターにフィットするパーツと言えます。

ところで、ヘッドレスギターってブリッジ後方をカットしたボディデザインが多いですよね?それは未来っぽくてかっこいいから! ……ではなく、おそらくはチューニングノブを回しやすくするための、必然的で合理的なデザインです。

ブリッジ後方の大胆なカットはヘッドレスギターでは定番

ブリッジ後方の大胆なカットはヘッドレスギターでは定番

ブリッジ後方からチューニングノブを回しやすい!

ブリッジ後方からチューニングノブを回しやすい!

ヘッドレスらしい先進的なイメージのボディラインは合理的なデザインで導き出されている。そう考えると、また一段とかっこよく思えたりしませんか?

▼ケースは付属品をしっかり確認! スタンドは意外と問題なし?

扱いやすさの面では、ギターケースやギタースタンドとの相性も大切です。普通のギターケースやギタースタンドを使えるのでしょうか?

まずギグバッグタイプのケースですが、普通のギターよりもコンパクトなわけですから、収納できることはできる場合がほとんどでしょう。ですが、サイズがぶかぶかでは、バッグの中でギターが安定しません。そしてハードケースは、ストラトシェイプやレスポールシェイプにフィットするように型が作られているタイプも多いです。そのタイプにヘッドレスはうまく収まりません。

ヘッドレスではやはり、それぞれのモデルごと専ケースを使うのが安心。付属品や純正オプションのケースの出来がよければそれがベストです。そこもヘッドレスギター選びのポイントになります。

Q54にはしっかりした作りのギグバッグが付属します

Q54にはしっかりした作りのギグバッグが付属します

左がRitter「RGS7-HE」、右がbasiner「BRISQ -HEADLESS GUITAR BAG」です

最近では、定評あるギグバッグブランドからも、ヘッドレスギター向け製品が登場してきています。それらも要チェックです。写真左がRitter「RGS7-HE」、右がbasiner「BRISQ -HEADLESS GUITAR BAG」

続いてスタンド。ボディの下で支えてネックを立てかけて置く、いちばん一般的なタイプのスタンドは、スタンド側のボディ受けの幅次第ですが、そこさえ合えば思いのほか普通にそのまま使えます。

Q54とTAMAスタンドという星野楽器コンビ! 両側のストラップピンもスタンドの間にキレイに収まり、むしろ普通のギターよりぴったりかも

Q54とTAMAスタンドという星野楽器コンビ! 両側のストラップピンもスタンドの間にキレイに収まり、むしろ普通のギターよりぴったりかも

問題は、ヘッドで吊るすタイプのスタンドというかハンガー。ナット端にある程度のふくらみを持たせてあるタイプのヘッドレスなら吊るせるでしょうが、実物同士で合わせてみるまでわかりません。落下は絶対に避けたいので、慎重な判断が必要です。

あとヘッド関連では、クリップチューナーを挟めるか否かはヘッドピース周りの余白の大きさ次第。Q54は「筆者手持ちのクリップはギリ挟めた」という感じでした。

▼弾き心地の違いもそんなに気にならない

ヘッドレスギターって、これまでのギターとは弾き心地が全然かけ離れちゃってたりしちゃうのでは? なんて不安は当然のことでしょう。

ですが、実際にQ54に数日間触れた印象としては、最初に弾いた時点でさほどの違和感はなく、弾き続けていればさらになじみ、ストラトと取っ替え引っ替えしても変な感じはしなくなりました。普段から何種類かのギターを使い分けている方でしたら、さらに全然気にならないのではないでしょうか。それに多少の違和感はあったとしても、コンパクトで弾きやすいという好印象のほうが上回るかと思います。

強いて言えば、独特のネックシェイプを採用して新しい演奏性を意図的に提案しているStrandbergのギターは、最初は違和感が強いかと思います。でもそれは、ヘッドレス云々ではなく同社のネックシェイプの特徴ですね。

ヘッドレスギターのトーンの傾向は?

ギターですから、楽器ですから、それがどんな音色を生み出してくれるのかというのは絶対的に大切なことです。ヘッドレスギターはどんなトーンを生み出すのでしょう?

前提として、ヘッドのあるギターと同じように、ヘッドレスギターも各メーカー・各モデルがそれぞれに異なる個性、異なる音色を備えています。なので、ここで考えてみるのは、「各モデルに個性があるそのうえで、ヘッドレス全般に共通する傾向はあるのか」というところです。

まず「ネックの先端にある重量部であるヘッド」は、弦振動への共振を起こしやすい部分です。その共振がギター全体の振動を複雑なものとして音色に影響を与えていることは、「ストラトはスモールヘッドとラージヘッドで音が違う」「重いペグと軽いペグでは音が変わる」なんて話からもわかります。

ヘッドレスギターにはそのヘッドがありません。弦振動に複雑さを加える要素が減っているわけですから、弦振動により素直に反応する傾向になるかも? という想像はできます。実際ヘッドレスギターの音の印象として、「クリアな音色」「すっきりとした響き」などを見聞きすることも多いのでは?

続いてはボディ側。前述のようにヘッドレスギターのボディでは、従来と比べて大胆な小型軽量設計が可能で、実際そうなっているモデルが多いです。それはもう単純に音に影響しますよね?ヘッドのある定番モデルでボディが軽いものといえば、思い出されるのはLes Paul Junior.やSGでしょうか。レスポンスのよさや勢いのある抜けっぷりが印象的です。小型軽量ボディから生み出されるトーンはそういう傾向なのかもしれません。

……といったあたりが、ヘッドレス構造やそれに関連する要素がもたらすトーンの傾向として考えられるものです。

ですが、仮にヘッドレス全般のトーン傾向があったとしても、個々のギターの設計としては、そのヘッドレスらしさを生かすアプローチもあれば、その傾向を抑えて従来型のギターに近付けるアプローチもあるはず。ですので、傾向やイメージにとらわれすぎるべきではありません。

今大注目のヘッドレス、Ibanez「Q54」をチェック!

それでは最後に、ヘッドレスギターの具体例、そして今現在の大注目製品として、Ibanezから登場するヘッドレス「Q Series」を改めてピックアップ! 今回実機をお借りした「Q54」は、シリーズ中で最もスタンダードな6弦/ストレートフレット/SSH仕様のモデルです。

写真はカラバリ「Black Flat」のモデル。ほかに「Sea Foam Green Matte」も用意されています

写真はカラバリ「Black Flat」のモデル。ほかに「Sea Foam Green Matte」も用意されています

▼ネック周り

まずネック、ブリッジ周りで演奏性に直結するスペックは以下の通り。いわゆるモダンスペックとして標準的なセレクトですね。

・ネックシェイプ:Wizard C(厚すぎず薄すぎず)
・指板R:305mmR / 12"
・フレット数:24f
・フレット:Jescar EVO Gold frets
・弦間ピッチ:10.8mm

強いて言えば、Jescar社「EVO Gold」フレットは、めずらしめのセレクトかもしれません。Jescarの「ニッケルシルバーよりは硬く、ステンレスよりはやわらかい」というEVO合金製のこのフレットは、「ニッケル・シルバー・フレットに比べ、明るいトーンと高い耐久性が特長」とされています。

フレットのサイズは実測でおおよそ、幅2.7mm前後、高さ1.3mm前後でした。EVO Goldのラインアップ値に近いのは、#57110-EVO:幅2.79mm/高さ1.45mm。ジャンボフレットの代名詞、Jim Dunlop「6100」に近いサイズですね。

そして、ネックの作りも考え抜かれています。

指板はローステッドメイプル。指板の色合いとEVO Goldフレットの淡い金色とのマッチもいい感じ

指板はローステッドメイプル。指板の色合いとEVO Goldフレットの淡い金色とのマッチもいい感じ

ネックはブビンガをセンターにして、両サイドにローステッドメイプルの3ピース構造

ネックはブビンガをセンターにして、両サイドにローステッドメイプルの3ピース構造

近年、ギター材としても一気に普及したローステッドメイプルは、定番ネック材であるメイプルに特殊な熱処理を加え、安定性や軽量性をさらに高めたものです。いっぽうブビンガは、重く硬いこと加えて、弾性が高く、ねばり強く、曲げ強度は特にすぐれているとされる材。安定&軽量のローステッドメイプルと、ねばりある高強度のブビンガの3ピース! 互いに異なる強みを持つ材のコンビネーション! 納得です。

続いては、ヘッドレスギターの設計において、メーカーごとモデルごとの違いが目に見えやすい個所のひとつであるこちら。

ヘッドの付け根と言いたいところですが、ヘッドがない場合は何と呼べば? とにかくココ!

ヘッドの付け根と言いたいところですが、ヘッドがない場合は何と呼べば? とにかくココ!

ヘッドレスギターのこの部分のデザインには、ナットより先を本当にスパッと切り落とすスタイルと、ヘッド付け根の広がりやグリップとつながるヒール的な部分を適度に残すスタイルがあります。Q Seriesは後者です。スパッと落とす前者は視覚的に超ヘッドレスっぽいですよね。そのビジュアルのインパクトは魅力です。

では後者の強みはというと、ローポジションで演奏しているときって運指の流れで、人差し指がヘッドの付け根の広がりやヒールに触れるほど、深い握り込みになったりもしますよね。後者はヘッドレスでありつつ「その感覚」を残してくれます。ヘッドありとの違和感が少ないわけです。

極端に見せるとこんな感じ! Q Seriesのここは、1弦側の広がりを少し深めにするなど、片側6連ヘッドっぽく仕上げられています

極端に見せるとこんな感じ! Q Seriesのここは、1弦側の広がりを少し深めにするなど、片側6連ヘッドっぽく仕上げられています

▼ブリッジとコントロール

そして、さすがIbanezな独自開発ブリッジ。コントロール類も使いやすい配置です。ヘッドピース「Custom string lock」もそうですが、ブリッジ「Mono-Tune bridge」も同社独自開発。ノブのトルクも重すぎませんし、弦高調整やオクターブイントネーション調整は普通のギターと全く同じに行えますし、使いやすいブリッジです。

ピックアップはネック側からシングル/シングル/ハムのSSH配列で、コントロール系は5ウェイセレクター/ボリューム/トーン/オルタスイッチとなっています

ピックアップはネック側からシングル/シングル/ハムのSSH配列で、コントロール系は5ウェイセレクター/ボリューム/トーン/オルタスイッチとなっています

オルタスイッチは「dyna-MIX9 switching system with Alter Switch」という配線を操作するスイッチ。スイッチオフ時はIbanezのSSH配列で一般的な動作で、ハーフトーン時にはハムバッカーが自動コイルタップされます。そしてスイッチオンだと……

このシンプルなコントロールで……

このシンプルなコントロールで……

これだけの組み合わせバリエーションを呼び出せます!

これだけの組み合わせバリエーションを呼び出せます!

どれも使いどころがあるでしょうが、特に「ネックとミドルのシリーズ接続でフロントハム風」は普通に用途が多いでしょう。「ネックとブリッジのシングルのミックス」も、それを出せるようにするモディファイ例も多い、隠れた人気コンビネーション。ほかも含め、活用していきたいところです。

ベーシックなコントロール系である、ボリュームとトーンの調整も行き届いています。仕様としての記載はありませんが、音を聴いた印象として、ボリュームポットにはおそらくハイパスキャパシターを装備。トーンのキャパシターは、たとえば0.022μFなど、やや小さめの値のものを使っていそうな効き具合です。

おかげで、ドライブサウンドからボリュームをしぼってクランチやクリーンにしたときにも音色の抜けが保たれますし、ネック側のシングルコイルでトーンをしぼっても音色がこもりすぎません。ボリュームもトーンも実用域が広いので、これらも積極的に活用していきたいところです。

多彩なピックアップコンビネーションに、使いやすいボリュームとトーン。手元のコントロールだけで幅広い音色を引き出せるギターに仕上げられています。

▼ピックアップとサウンドの印象

ピックアップは、Q Series共通で、ともにシングルコイル「R1」とハムバッカー「Q58」を採用。

Q54はブリッジ側にハムバッカーQ58を搭載。カバーの仕上げのかっこよさにも注目!

Q54はブリッジ側にハムバッカーQ58を搭載。カバーの仕上げのかっこよさにも注目!

ネックとミドルはシングルコイルのR1

ネックとミドルはシングルコイルのR1

公式で「どちらも、エフェクター等でサウンドメイクしやすいよう、全帯域がバランスよく聴こえるように設計されています。低域は濁らずパワフルで、高域は明るくクリアでありながらも“キンキン”しない耳ざわりのよいサウンドです」と説明されていますが、実際の印象もその通りでした。

Q54は、アンプを通す前のアコースティックな生音からしてそういう傾向の音色なので、その個性を引き出してくれるピックアップと言えるかもしれません。Jescar EVO Goldも、「明るいけれど鋭すぎず上品」のように言われることが多いフレットだったりしますし、全体にその方向性でまとめてあるのかもしれませんね。

しばらく弾いて特に印象的だったのは、アタック、発音の明瞭さ。そしてハンマリングにプリング、タッピングなどへのレスポンスのよさが抜群。以下、Q Seriesを基本としたシグネチャーモデル「ICHI10」を携えてのIchikaさんのプレイからも、そのニュアンスを感じていただけるかと思います。

人の声にたとえるなら「やさしい声色でありつつの滑舌のよさ」みたいなものがありますよね。もちろんIchikaさんのフィンガリングとピッキングの繊細さもあってこそですが。

Ibanezに気になることをいろいろ聞いてみた!

今回はさらに、Ibanezに、Q Seriesとヘッドレスギター全般についてのいくつかの質問を投げかけてみました。その回答とともに、Q Seriesが気になっているギタリストに向けてのメッセージもいただけましたので、最後にご紹介したいと思います。

── ヘッドレスギター参入を決めた時期はいつごろでしたか? その判断の理由はどういったものだったのでしょう?

Ibanez: Qシリーズのプロジェクトが立ち上がったのは、2018年ごろのことです。昨今、SNSが浸透した結果、モダンでジャンルレスかつボーダーレスなプレイヤーを当たり前のように目にします。めざましい活躍を続ける彼らの可能性をさらに広げるためには、どんなギターが求められるのか、さらに次代のプレイヤーが手にとるギターには何が求められるのか、その探求から始めて、まったく新しいギターをゼロから開発していきました。

少し話がそれてしまいますが、新時代を牽引する彼らにとって、いちばんギターを弾くことが多い場所はもはや「パソコンの前」になりつつあります。そして、音楽を披露する場もライブやセッションだけではなく、自宅で制作した作品を配信することも当たり前の時代となりました。Qシリーズが実現する取り回しのよさは、そんな風に自宅で「ギターを手にするハードル」を下げ、長時間弾いていても疲れにくい効果もあると考えています。

── 一般論として「ヘッドレスギターはこういうトーンになりがち」といったような、ヘッドレスという構造に由来する音色傾向はあるのでしょうか?

Ibanez: すでに多くのヘッドレスギターが生まれており、その構造にもさまざまなものがあります。ボディ内部を空洞化しているものもあれば、Qシリーズのように薄いソリッドボディのもの、既存のモデルを単にヘッドレス化したものなどがあり、一概に「ヘッドレスギターだからこういうトーン」といった構造的要因による音色傾向があるとは考えていません。ヘッドレスであっても、あくまで、使用する木材やピックアップ、搭載するハードウェアなどのさまざまな要因と組み合わさることで、トーンが決定づけられると考えています。

けれどもヘッドレスギターは、「鳴りにくい」とか「音が軽い」といったネガティブな声があることも事実で、Qシリーズを開発する中でウッディなトーン」の追及は最重要課題でした。

── Q Seriesはどういったトーンを目指して設計されていますか?

Ibanez: 多様な音楽やスタイルにマッチすることを求めて、ジャンルレスで扱いやすく、エフェクターを使用した際もその効果を最大限発揮できるような、バランスの取れた音色を目指して設計しています。

また、アンプを通さない生音の状態であっても、ソリッドギターらしい音色を奏でることも特徴のひとつです。これは、ソリッド構造のボディにしたこと、ローステッドメイプルネックやJescar EVO Goldフレットの採用など、ボディの構造や使用するハードウェアによって実現したポイントです。

── そのトーンの実現において、特にポイントになっている部分はありますか?

Ibanez: プラグインしたときの音色の中心にあるのは、Qシリーズのために新たに開発したピックアップです。近年のギタリストに共通する傾向として、フレーズの強弱やそのニュアンスをいかに再現できるかを非常に意識していることがあげられ、この点を特に重視しています。

サウンドの特徴としては、タイトな低音域と温かみのある中音域、クリアで明るい高音域を実現し、全帯域がバランスよく聴こえるように設計されています。ボリュームとトーンを全開にするとパワフルでモダンなサウンドになりますが、逆にしぼっていくと繊細でトラディショナルなサウンドも作れるといった、まさにジャンルレスなピックアップになっています。

── その他、Q Seriesに注目している方々にアピールしたいポイントがあればお願いします。

Ibanez: アピールしたいポイントは語り尽くせないほどあるギターですが、やはりぜひ1度手にとっていただければ大変うれしいです。持ったときの「軽さ」に始まり、プレイアビリティやサウンドなど、この「Q」には魅力がたくさん詰まっています。世代や音楽ジャンルにとらわれない、まったく新しいギターです。ヘッドレスギターなんて触ったことないという方にこそ、1度手にとってみて、その魅力を確かめていただけたら幸いです。

ヘッドレスギターは合理性を超えた魅力も備えている

改めてIbanezのコメントを振り返ると、ヘッドレスの強みとして「パソコンの前での取り回しのよさ」という視点など、なるほど! と思わされますね。トーンについても、お答えいただいた設計意図は筆者が実機を弾いての印象と一致しており、こちらもなるほどです。まさに狙った通りの音が見事に実現されています。

さて、筆者自身もこの記事に取り組んだことで、改めて「ヘッドレスギターはもう普通に選択肢に入れるべき現在のギター!」との認識を強めることができました。

伝統的なスタイルのギターには、そのスタイルだからこそ生み出せるフィーリングがあります。それはヘッドレスで代替できるものではありません。しかし逆にヘッドレスギターにも、ヘッドレスだからこそ生み出せるフィーリングがあります。ヘッドレスは合理性から生み出されたデザインなのかもしれませんが、結果としてそれを超えた魅力も獲得しているのです。機会があればぜひ1度、手に取ってみてください!

高橋敦

高橋敦

オーディオ界隈ライター。現在はポータブルやデスクトップなどのパーソナルオーディオ分野を中心に、下からグイッとパンしていくためにてさぐりで活動中。

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