朝井麻由美の、ぼっち充のススメ

映画館に行かなくても映画館っぽい空間を楽しめるキット「ソロシアター」を1人で使ってみた

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1人BBQ、1人遊園地など、1人行動をこよなく愛するライター朝井麻由美が、玩具やデジタルグッズを使ったぼっちライフを追求していく連載です。

どうも私は人前で泣くのが苦手である。これは何も、人前でカッコつけて泣かないようにしているというわけではなく、癖のようなものなのだと思う。小さい頃、それこそ当時はカッコつけて泣かないようにしていたなごりで、よほどのことがないと人前で泣けなくなってしまったのだ。映画や舞台などを観に行って泣けることがあったとしても、涙の量が少ない。いたく感動して、とめどなく大量の涙が流れるであろう、と思っていても実際には、ちょろ……ちょろ……と申し訳程度しか流れてこないのだ。どこか人目を気にして無意識にせき止めてしまっているような感覚すらある。

いつでもどこでも泣ける人が私はうらやましい。何も気にせず外でわんわん泣けるのは、それはそれは気持ちがよいことだろう。一度でいいから映画などを観て思い切り泣いてみたい。その願いをかなえるべく、“1人映画館”を楽しめるキットを使ってみることにした。「SOLO THEATER(ソロシアター)」は、クラウドファンディングで出資を募って商品化されたもの。寝転がった状態で段ボールで顔の部分を覆い、iPhoneやiPadなどを段ボールの上に乗せて映画を観る。こうすることで、映画館には1人で行きづらいけれど、映画館の雰囲気を味わいながら映画を観たい人のニーズが満たされるのだ。これなら、憧れの“映画館の中で泣く”が実現できるはず。何を言っているかよくわからないと思うので、実際に作ってみよう。

作り方は簡単。顔を覆う、本体となる大きな段ボールの上部に、iPhoneやiPadを乗せるための段ボールの蓋を組み合わせるだけ。

左から本体、観客を演出する仕切り、iPhoneなどを乗せるフタ

左から本体、観客を演出する仕切り、iPhoneなどを乗せるフタ

組み立てには1分もかからない

組み立てには1分もかからない

すぐ後ろでご老人の集団が太極拳の練習をしていたため、思いがけずシュールさが増した

すぐ後ろでご老人の集団が太極拳の練習をしていたため、思いがけずシュールさが増した

映画館っぽさを再現するために、観客の形をした仕切りも本体の内部にセットする。この仕切りが映画の画面の下のところにぼんやりと映し出されて、自分の前の席にたくさんの観客がいるように見えるのだ。

観客の形をした仕切り

観客の形をした仕切り

iPadをセットする

iPadをセットする

あとは寝転がって、頭を箱の中に入れるだけ。

あ、iPadの再生ボタンを押し忘れた

あ、iPadの再生ボタンを押し忘れた

すっぽり覆われる安心感がものすごい

すっぽり覆われる安心感がものすごい

あらかじめiPadにダウンロードしておいた映画を再生し、観始める。映画を観始めてしまうと写真を自分で撮ることができないため、ここからは編集部の人に来てもらい、遠くから撮影してもらうことにした。

今回観るのは、「マイ・ドッグ・スキップ」。おすすめの犬の映画を周囲に聞いてみた中から、観たことのないものを選んだ。私は犬の映画には絶対の信頼を寄せているのだ。なかなか泣けないながらも、私が泣くときは決まって犬の映画を観ているときである。

観ながらお菓子も食べられる

観ながらお菓子も食べられる

ストローがあれば飲み物も飲めなくはない

ストローがあれば飲み物も飲めなくはない

箱の中からはこのように見える

箱の中からはこのように見える

「マイ・ドッグ・スキップ」はざっくり言うと、友達のいないぼっちの少年が、犬を飼い始めることによって勇気をもらうという話である。

まだまだ映画は始まったばかり。少年は映画の序盤、上手に友達を作れずに孤立していた。親に心配され、遊び相手として犬のスキップを与えられるのだ。いっぽうその頃、私も広い公園の中で一人、孤立していた。そこそこ人通りがあるのに、見向きもされない。

犬を飼い始めると少年は見違えるように明るくなり、クラスメイトの悪ガキ3人組も犬のスキップに興味を示す。ひと悶着ありながらも、少年と3人組は次第に仲良くなっていくのだった。いっぽうその頃、私も5人組の通行人から興味を示されていた。

なんと少年は、学校のマドンナ的存在の少女とも犬がきっかけで急接近。デートをするようになる。とんだシンデレラストーリーである。いっぽうその頃、私は外国人のカップルに急接近され、写真を撮られていた。

ある日、少年はスキップに強く当たってしまう。それがきっかけで行方不明になったスキップは、命の危機に瀕する。一方その頃、私はカラスに狙われていた。今にも飛びかかられそうな危機に瀕していた。

箱の中からはカラスの接近にまったく気づかず、後から写真を見て知った

箱の中からはカラスの接近にまったく気づかず、後から写真を見て知った

すごく……、見られてます……

すごく……、見られてます……

こうして映画のクライマックスも越え、私もカラスに飛びかかられることなく、無事、映画を観終えた。

観終わった私の目からは、文字通りひと筋だけ、申し訳程度に涙が流れていた。もっと言うと、スキップが命の危機に瀕するあたりが明らかにクライマックスだったため、そのあたりで思っていたよりも涙が出てこない状況に少し焦ってすらいた。焦ったまま、映画が終わってしまったのだ。人目を気にせず1人の空間で思い切り泣きたいというのが今回の目的だったのに、これでは普段と変わらないではないか。狭い箱に顔全体を包まれることで、妙な安心感は確かにあったのだが……。

少し考えてみたところ、“もらい泣き”の力を借りられなかったからなのかもしれない。箱の中は映画以外の何も聞こえないし見えない、完全なる1人の空間。確かに自分の世界に入り込んで映画を観られるよさはあるのだが、ここは泣くところなんだぞ、ほらみんなすすり泣いているぞ、さあこみ上げてくるぞ、という集団特有の雰囲気には欠ける。けれど、いざ映画館へ行くと、もらい泣きでのこみ上げは感じつつも、無意識に我慢してしまう私がいる。この体質である限り、私は思い切り泣くことはほぼできない、という結論になる。がっかりである。

「ソロシアター」の箱をケースに戻し、公園を後にした。太極拳をしていたおじいさんたちも、5人組も、外国人カップルも、カラスも、もういなくなっていた。箱の中に頭を突っ込んで映画を観ている姿を誰かに見られたり写真に撮られたりするよりも、人のいる映画館で泣くことのほうが、私にとってはよっぽど難しい。

朝井麻由美

朝井麻由美

ライター・編集者・コラムニスト。最新刊に『「ぼっち」の歩き方』(PHP)。ほか著書に『ひとりっ子の頭ん中』(KADOKAWA)など。一人行動が好きすぎて、一人でボートに乗りに行ったり、一人でBBQをしたりする日々。Twitter:@moyomoyomoyo

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2017.6.23 更新
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