花見はしたいけれど、大勢で集まるのが好きではない。困ったことである。だが、よく考えてみれば、花見の目的とは「花を見ること」だ。大勢で集まらなければならない決まりなどない。私たちはこれまで、花見とは「桜の咲いている時期に大勢で集まって外で飲む」催しだと思って生きてきた。
けれど、花を見るのが目的ならば、1人で見ても何の問題もないはず。1人花見をしよう。食べ物と飲み物とピクニックシートを持って、1人で花見をしたら、きっと楽しい。買い出しで好きなものばかり買ってよし。好きなだけお酒を飲んでよし。隣の人に「(食べ物)取りましょうか? 」と気を遣う必要もない。誰かの空いたコップにビールを注がなくてもいい。私は自由だ。
公園へやってきた。空いている場所にピクニックシートを敷き、食べ物を並べる。
買い出しで好きなものばかりを選んだら、こうなった
せっかくなのでいいビールを
1人花見のよいところは、場所取りに必死にならなくていい点にもある。せいぜい、自分1人と、食べ物・飲み物が置けるくらいのスペースを確保できればいいのだ。たとえ混んでいても、わずかなスペースさえ空いていれば、桜が見やすい場所にすべり込むことが可能である。
容量3Lの「プレミアムビアロングタワーサーバー」(ピーナッツクラブ)。電源不要で使用できる
今回は、ビアサーバーを使ってビールを飲むことにした。よりたくさんのビールを、よりテンションが上がる方法で飲みたいからである。全長は85cm。氷を入れて2.4L、氷なしならば3Lも入る。
まずは、持参した氷を、氷用の筒に入れる。
そこへ、ビールを注ぐのだが……
これが思いのほか難しく、1缶注いだだけで、泡だらけになってしまった。
泡が消えるのを待ち、少しずつ注ぎ、と繰り返していたら、「Is This なに?(イズ ディス なに? )」と話しかけられた。桜の写真を撮りにきた外国人である。「ビアー」と答えたところ、「わぉー! ヒトリ? あなたヒトリ? それヒトリのこと飲む?」と外国人は興奮気味に畳みかける。「そんなにたくさんのビールをヒトリで飲むの?」と驚いたのだろう。答えはイエスだ。私はヒトリなのだ。
ヒトリビール
チーズ
ウニあわび
牡蠣
開始から1時間。寒くなってきた。まだ、ビールは4分の3以上残っているのに。
寒い
ただ黙々とビールを飲みながら思う。もしかしたら、飲み物はビールである必要はなかったのではないか、と。私は買い出しの時、なんとなく、そして当たり前のようにビールを手に取った。花見といえばビール、という固定観念があったのだ。だが、毎年花見の時期は寒い。そして、1人花見は近くに人がいないことで、余計に寒さを感じやすい。今までに経験した花見と比べて格段に寒い。大勢で花見をすることは、自然と“寒さ対策”になっていたのだ。これがわかっていれば、ホットワインや温かいお茶にできたのに。
すぐ近くでバドミントンが始まった
一生懸命飲む
私がこの寒い中、一生懸命にビールを飲んでいることを気にも留めず、すぐ横でバドミントンが始まった。もしかしたら、はたから見ると「先に来て場所取りをしてあげている人」に見えるのかもしれない。正確に言えば、「先に来て場所取りをしてあげているけれども我慢できずに1人でビールを飲み始めてしまった人」か。いや、もっと正確に言えば、「先に来て場所取りをしてあげているけれども我慢できずに1人でビールを飲み始めてしまったものの寒さで震えている人」である。
ようやく半分近く。理科の実験器具のメスシリンダーのように目盛りがついている
そうこうしているうちに、やっと半分近くまできた。残りは約1.5L。ここで、通りすがりの外国人の集団から、こんな声が聞こえてきた。
「She is only one!!(シー イズ オンリー ワン!)」
そこの外国人よ。英語でしゃべれば何を言ってもバレないと思うなよ? それくらいの英語なら、わかるからな? 先ほど「あなたヒトリ?」と話しかけてきた外国人しかり、軒並み外国人は1人花見に興味津々のようである。平日の昼間に公園にいるくらいだから、おそらく留学生なのだろう。彼らが母国へ帰ったとき、「日本には1人で花見をする人もいる」とレポートに書くのだとしたら、少し責任を感じる。
もう、結構しんどい
そろそろ目がすわってきた
「オンリーワン!」と言われている間も粛々とビールを飲み続け、残り1〜2杯程度になった。ビールを注ぎ、ビールを飲み、ときどき思い出したように桜を見る、を繰り返して、3時間がたとうとしていた。
最後の1杯
当初、1人で花見に来れば、会話したり乾杯したりする必要がない分、桜をまじまじと見られるものだと思っていた。だが、案外、見ない。というよりも、桜を見に来ていることを結構な頻度で忘れるのだ。ときおり周りを見回してみても、桜の花を見上げている人は誰1人としていなかった。しばしば“日本の宝”として崇められる桜だが、みんな本当に桜のことを好きなのだろうか。短期間しか咲かないことにかこつけて、ただ宴会をしたいだけなのではなかろうか。
帰り際、人々がピンクの花の咲く樹の周りで写真を撮っているのを見かけた。その樹は、おそらく桜ではない。梅である。
終わった……
※この記事の写真は、記者本人が一人ですべて三脚と自撮りで撮影しています。