増税にあわせてJR東日本の運賃もアップ。同時に、乗るとポイントが貯まる仕組みも導入されました。特にモバイルSuicaのユーザーに有利な仕組みのようです
2019年10月1日から消費税が上がりました。読者の皆さんも普段の買い物などで、すでにその影響を実感しているかもしれません。ところで、今回の増税にともなって電気、ガスなどの公共料金や鉄道運賃なども値上がりしているのをご存知でしょうか?
日本最大の鉄道会社であるJR東日本も例外ではありません。たとえば山手線の場合、営業キロ3kmまでの「きっぷ運賃」は140円の据え置きですが、ICカードで支払う「IC運賃」は133円から136円に上がります。同様に、16〜20kmの場合は「きっぷ運賃」が260円から270円、「IC運賃」は259円から264円といった具合に、増税分の2%と同等の値上げが行われています。現在は交通系ICカードで支払う人も多いので、あまり意識することはないかもしれませんが、家計に影響を及ぼすことは間違いありません。
JR東日本のサイト内で改訂後の料金が公開されています(https://www.jreast.co.jp/consumption-tax2019/)
JR東日本はその救済策的な施策を2019年10月1日からスタートしています。それが「JR東日本の鉄道を利用するとポイントが貯まるサービス」です(以下、本稿では「乗車ポイント」と略します)。乗れば乗るほど貯まるという点で、航空会社のマイレージプログラムに近い仕組みが導入されたことになります。本稿では、この新しいサービスの仕組みと、お得な乗り方を考えてみます。
まずは制度の概要です。2019年10月1日以降、
(1)Suica(カードタイプの記名式)
(2)モバイルSuica
(3)Suica付きのビューカード
のいずれかでJR東日本の鉄道を利用すると、下記の仕組みで「JRE POINT」が貯まるようになりました。
A. 「JR東日本の在来線の乗車」で1回の利用額に応じて0.5%もしくは2%のポイント付与(定期区間外が対象)
B. 「Suicaグリーン券を購入する」と1回の購入額に応じてポイント付与
C. 「モバイルSuica定期券を購入する」と購入額に応じてポイント付与(モバイルSuicaのみ)
ただし、このサービスを受けるにはまずJRE POINT WEB(https://www.jrepoint.jp/)に、Suicaを登録する必要があります。登録の際は、カードタイプのSuica(Suica付きビューカードを含む)なら裏面右下に記載されている「JE」から始まる17ケタのSuica識別番号が必要です。モバイルSuicaの場合はアプリ内で識別番号を確認できます。
このサービスで貯まるJRE POINTは、JR東日本の共通ポイントです。今回紹介する「乗車で貯まる」ケースのほか、ビューカードでのクレジット決済や、対象店舗で「JRE POINT カード」(JRE POINT加盟店などで発行できるポイントカードのこと。ビューカードにもこの機能が付いている)を提示したうえで買い物した場合などでも貯まります。貯まったポイントはJRE POINT WEBサイト上で合算され、駅ビルで1ポイント1円で使用したり、JRE POINT WEBサイトで商品に交換したりできます。またSuicaにチャージすることもできますので、非常に汎用性の高いポイントと言えます。
なお、実際に鉄道に乗ってからJRE POINTが付与されるまでには若干のタイムラグがあるとJR東日本からアナウンスされており、乗車した月の翌月下旬以降に付与される予定とのこと。
JREポイントの貯め方一覧。これまでの貯め方に加えて、2019年10月1日から鉄道利用でも貯まるようになりました(左上)。画像はJRE POINTの公式サイトより(https://www.jrepoint.jp/point/append/)
前述のとおり、乗車ポイントが貯まる対象となるのは、当面、JR東日本の在来線、JR東日本管内でのグリーン券購入、モバイルSuicaで購入した定期券の3つのケースになります。現状では新幹線の乗車は対象外ですが、2020年春以降は、自動券売機などに登録したSuicaでJR東日本管内の新幹線の自由席に乗車できる「タッチでGo!新幹線」の利用でも最大2%のポイント還元が導入される予定です。その後も、回数券のように繰り返しSuicaで乗車するとポイントがさらに貯まりやすくなる特典や、「えきねっと」でのきっぷ購入に応じたポイント還元。さらに、貯まったJRE POINTも2021年春以降にはJR東日本の新幹線の座席アップグレードや在来線特急券を利用できる特典チケットの交換に利用できるようになるなど、サービスの拡大が検討されています。
このように、JR東日本ユーザーにとってはぜひとも利用したいお得なサービスが始まったわけですが、注意が必要な点があります。実はJR東日本の鉄道にどう乗るかによって、獲得できるポイントに大きな差がつくのです。頭に入れておきたい3項目を紹介します。
おそらく今回のサービスでもっとも注目すべき点はこれでしょう。カードタイプのSuica(Suica付きのビューカードを含む)とモバイルSuicaでは、鉄道を利用したときに獲得できるポイントの還元率が大きく異なります。前者は「1回の利用額×0.5%」、後者は「1回の利用額×2.0%」と、実に4倍もの差があるのです。下記はその利用例です。
東京駅から津田沼駅まで乗車
IC運賃473円
・カードタイプのSuica 473円×0.5%=2ポイント(小数点以下切り捨て。以下同)
・モバイルSuica 473円×2%=9ポイント
新宿駅から茅ケ崎駅まで乗車
IC運賃1,166円
・カードタイプのSuica 1,166円×0.5%=5ポイント
・モバイルSuica 1,166円×2%=23ポイント
荻窪駅から九段下駅まで乗車(他社線含む)
IC運賃356円(荻窪駅〜中野駅)
・カードタイプのSuica 356円×0.5%=1ポイント
・モバイルSuica 356円×2%=3ポイント
※「そもそもモバイルSuicaって何?」という人は編集部がまとめた以下の(注)をご参照ください。
(注)モバイルSuicaとは何か?
簡単に言うと携帯端末向けのSuicaアプリのこと。「おサイフケータイ」に対応したandroid端末や、Apple Pay対応のiPhone端末で利用することができます。
カードタイプのSuicaと同様に、自動改札にスマホを掲げて乗車できたり、駅構内、街中での支払いにもSuicaとして使用できます。また、アプリに登録したクレジットカードからSuicaにチャージすることもできます。特に、JR東日本系のクレジットカードであるビューカードの場合には、チャージ残高が一定額以下になったとき、あらかじめ設定した金額がクレジットカード決済で自動的に入金される「オートチャージ」機能も使うこともできるため、残高不足で自動改札が閉まってしまうということとも無縁です。
ちなみに、端末に充電が必要な状態になった場合、予備電力機能で一定時間は使うことができますが、完全に消耗したり電源がオフの状態だと使うことはできません。仮に移動中で改札を出る前に端末が使えなくなると、駅の改札係員に申し出て、乗車駅からの運賃を現金で精算した後、端末の電源をオンにした状態で係員へ再度申し出て、改札入場時のデータを消去する必要があります。
※公式情報を元に編集部が作成
定期券の購入を含めて考えると、ポイント獲得の差はさらに大きくなります。今回の「乗車ポイント」で「定期券の購入」にポイントが付与される対象はモバイルSuicaのみ。還元率は、鉄道利用と同じく2%です。ここでもモバイルSuica優遇の姿勢は鮮明です。
※正確には、これに加えてモバイルSuicaにひも付けしているクレジットカードの独自のポイントも還元されます。
少しややこしいのですが、「乗車ポイント」導入以前にも、ビューカードを利用して定期券を購入すると1.5%のJRE POINTが貯まっていました。ビューカードの通常の買い物の還元率が0.5%なので、3倍もの高いポイント還元を行っていたわけです。しかし今回の「モバイルSuicaでの定期券購入」では、それを上回る2.0%のJRE POINTが付く形になります。
厳密には今回メインで紹介している「乗車ポイント」とは関係ありませんが、JR東日本の電車に乗る際にはオートチャージも見逃せません。上記の(注)でも触れていますが、オートチャージはSuica残高が一定額以下になると、あらかじめ設定しておいた額が自動的にチャージされる便利な機能です。
オートチャージを使うには、まずビューカードを持っていることが前提になります。カードタイプのSuicaの場合は、駅に設置してある「VIEW ALTTE」(ビューアルッテ)というATMで、ビューカードとカードタイプのSuicaをリンクさせることでオートチャージを使えるようになります。モバイルSuicaの場合はアプリ上でビューカードを登録することでオートチャージが可能に。また、Suica付きのビューカードの場合は入会時にオートチャージを設定できる他、カードタイプのSuicaと同様に「VIEW ALTTE」でも設定が可能です。
いずれのケースでも、1回のオートチャージの額の1.5%のJRE POINTが付与されます。「オートチャージ機能を使うにはビューカードが必要」ということを頭に入れておきましょう。
ここまで見てきたポイント還元率の違いをまとめたのが下記の表です。
※1クレジットカードで購入した場合は、そのクレジットカードのポイントが貯まります。※2この他、モバイルSuicaにひも付けられたクレジットカードのポイントが別途貯まります。※3「カードタイプのSuica(記名式)」も「モバイルSuica」もビューカードを保持しており、オートチャージが使える状態であると仮定します
次にこの還元率の表に仮の交通費を当てはめてみます。モデルケースは、通勤でJR東日本を利用している本稿の担当編集者のものです。
交通費のモデルケース
・定期利用額 13,000円/月間×12か月=15万6,000円/年間
・定期外の在来線利用額(概算) 5,000円/月間×12か月=6万円/年間
仮定の数字ではありますが、年間で考えてみると大きな差が生じることがわかります。2019年10月1日以降、JR東日本ユーザーにとって、ビューカード、そしてモバイルSuicaの存在感が増したことは間違いないでしょう。現在、ビューカードを利用していない人や、カードタイプのSuicaを利用している人は、JR東日本の電車の乗り方を再考してみるいいタイミングかもしれません。
ビューカードにはいくつか種類があります。下記の4枚はビューカードの中でも比較的よく使われているもの。年会費はルミネカードが1,048円(税込)、他の3枚はいずれも524円(税込)になります。
・ビックカメラSuicaカード
・JRE CARD
・ルミネカード
・「ビュー・スイカ」カード
選び方のコツですが、鉄道以外によく使う店舗を基準に考えるとよいでしょう。ビックカメラをよく使う人は「ビックカメラSuicaカード」がおすすめです。ビックカメラで利用すると基本10%のビックポイントが付与され、貯まったビックポイントはSuicaに交換も可能です。
「JREカード」はアトレなど、エキナカの店舗を利用する人がポイントを貯めやすいカードです。
「ルミネカード」は、ファッションビルとしておなじみのルミネでの買い物が常時5%OFFに。セール時にはさらに5%OFFとなりますので、ルミネでよく買い物をする人にとっては必携の1枚かもしれません。
上記のいずれにも当てはまらない人は、まず「『ビュー・スイカ』カード」を選ぶとよいでしょう。
関連記事:マルイ、パルコ、ルミネで最大10%オフ! ファッションビルでお得なクレジットカードを解説
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モバイルSuicaの年会費は、ビューカードで登録する場合は無料。それ以外のクレジットカードの場合は1,050円(税込)かかります。しかし、2020年2月26日以降は年会費はすべて無料になる予定です。また、スマートフォンの機種にもご注意を。iPhoneの場合はApple Payに対応したiPhone7以降の機種が必要になります。Androidの場合も各メーカーサイトで、モバイルSuicaの対応状況を確認したうえでの購入をおすすめします。
モバイルSuicaを使うには、iPhoneの場合iPhone7以降の機種が必要。それより古い機種ではアプリを入れても使えません。写真左はiPhone7より前に発売されたiPhone SEにアプリをインストールした時の画面。右はiPhone8で、正しく使える場合はこのような表示に
消費増税と同じタイミングで始まったこともあり、やや静かな船出となった感もあるJR東日本の「乗車ポイント」。しかし日本最大の鉄道会社であるJR東日本が、「乗るほど貯まる」ポイントサービスを始めたインパクトはかなり大きいと思います。これまでも、東京メトロや東京都交通局、東急電鉄、JR西日本なども似たようなポイントサービスを行っていましたが、いずれも還元率や貯めやすさといった点で、今回JR東日本が打ち出してきたサービスには及びません。JR東日本の動きを受け、他社の「鉄道版マイル」は今後どのようなサービスを展開するのか? そしてモバイルSuica優遇を鮮明に打ち出したJR東日本の今後は? 引き続き注目していきたいと思います。(聞き手:ライター 大正谷成晴)
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