日本でも2月13日に発売となった“Raven Ridge(レイヴンリッジ)”ことAMD「Ryzen 2000G」シリーズ。発売直後にもかかわらず、価格.comの「CPU」カテゴリーのランキング上位にランクインするなど、日本での販売も好調なようだ。
ZenアーキテクチャーのCPUとVegaアーキテクチャーのGPUを組み合わせたデスクトップ向け次世代APUの実力はどれほどのものなのか? 先立って全世界のレビュワー向けに送られたレビュワーズキットについってはレポートしたが、本稿では「Ryzen 5 2400G with Radeon RX Vega 11 Graphics」(以下、Ryzen 5 2400G)と「Ryzen 3 2200G with Radeon Vega 8 Graphics」(以下、Ryzen 3 2200G)のベンチマーク結果をレポートする。
ベンチマーク結果のレポートに移る前に、検証機材と環境設定について簡単に紹介しておこう。
先日公開した記事でもレポートしたとおり、今回Ryzen 2000Gシリーズのレビューを行うために、AMDは全世界のレビュワーにレビュワーズキットを送付している。レビュワーズキットには、Ryzen 5 2400G とRyzen 3 2200Gのほか、マザーボードとメモリーを同梱し、Ryzen 5 2400G とRyzen 3 2200Gのレビューにはこれらを使用することを求めたため、今回のベンチマーク結果レポートでは、こちらの機材を使用することとした。
Ryzen 5 2400G
CPU-ZでRyzen 5 2400G の情報を表示したところ
Ryzen 3 2200G
CPU-ZでRyzen 3 2200Gの情報を表示したところ
送られてくるマザーボードとメモリーはレビュワーズキットごとに異なっているようで、編集部に届いたレビュワーズキットにはGIGABYTEのMini-ITXマザーボード「GA-AB350N-Gaming WIFI」とG.SkillのDDR4-3200メモリー「F4-3200C14Q-32GFX」が入っており、そちらを使用した
今回、Ryzen 2000Gシリーズのパフォ−マンスをチェックするに当たり、上位モデルのRyzen 5 2400Gと同価格帯で販売されているインテルのデスクトップ向けCPU「Core i5 8400」を比較用として用意。ディスクリートGPUは用意せず、CPU内蔵GPUでパフォーマンス計測を行っている。
Ryzen 5 2400GとRyzen 3 2200G、Core i5 8400の主なスペック
なお、今回の検証ではプラットフォームの違いによる差を極力なくすため、CPUとマザーボード、CPUクーラー以外の主要パーツはすべて統一。CPUクーラーについては、はそれぞれのCPUパッケージに同梱されているリテールクーラーを組み合わせている。
また、メモリーについては公平を期すため、メモリークロックをそれぞれのCPU(APU)でサポートされている最大クロックにて使用している。Ryzen 2000GシリーズはDDR4-2933、Core i5 8400はDDR4-2667という設定だ。Ryzen 2000Gシリーズはメモリークロックによってパフォーマンスが大きく変わることが話題となっているが、今回はあくまで定格運用でのパフォーマンスチェックということで、こちらの設定とさせていただいている。オーバークロックメモリーによるパフォーマンスの変化については、別の機会に改めてレポートしたい。
そのほかの検証環境の細かな仕様は以下の通りだ。
【Ryzen 5 2400G/Ryzen 3 2200G検証環境】
マザーボード:GIGABYTE「GA-AB350N-Gaming WIFI」(UEFIはT20h)
メモリー:G.Skill「F4-3200C14Q-32GFX」(8GB×2、DDR4-2933設定)
CPUクーラー:リテールクーラー「Wraith Stealth」
ストレージ:crucial「MX300 CT525MX300SSD1」
電源ユニット:Corsair「HX1200 CP-9020140-JP」(1200W、80PLUS Platinum)
OS:Windows 10 Pro 64bit(Meltdown/Spectre対策済み)
【Core i5 8400検証環境】
マザーボード:ASrock「Z370 Pro4」
メモリー:G.Skill「F4-3200C14Q-32GFX」(8GB×2、DDR4-2667設定)
CPUクーラー:リテールクーラー
ストレージ:crucial「MX300 CT525MX300SSD1」(525GB)
電源ユニット:Corsair「HX1200 CP-9020140-JP」(1200W、80PLUS Platinum)
OS:Windows 10 Pro 64bit(Meltdown/Spectre対策済み)
まずはSiSoftware「Sandra 2017」の結果からみていこう。
グラフ1:Sandra 2017 SP4 Processor Arithmetic
グラフ2:Sandra 2017 SP4 Processor Multi-Media
グラフ3:Sandra 2017 SP4 Cryptography
グラフ4:Sandra 2017 SP4 Memory Bandwidth
グラフ5:Sandra 2017 SP4 Memory Latency
グラフ6:Sandra 2017 SP4 Cache Bandwidth
グラフ1はCPUの演算能力を測る「Processor Arithmetic」の結果。整数演算のスコアは、クロック数や物理コア数の多いCore i5 8400がダントツの1位だ。いっぽうで、浮動小数点演算性能は、SMTに対応するRyzen 5 2400GがCore i5 8400に迫るスコアを出している。Ryzen 3 2200GはSMT非対応のクアッドコアでクロックが低めに抑えられていることもあり、さすがにスコアが低く収まっている。
マルチメディア系の処理能力を測る「Processor Multi-Media」の結果がグラフ2だ。こちらも、Core i5 8400が圧倒的な強さを見せ付けている。Ryzen 5 2400Gも4コア/8スレッドCPUとして見れば決して悪いスコアではないが、Core i5 8400の前だとやや霞む。
グラフ3は暗号化処理能力を計測する「Cryptography」の結果。前2つの結果に比べると、Ryzen 2000シリーズがやや健闘している。グラフ4は、メモリー帯域幅を測る「Memory Bandwidths」の結果。こちらは当然ながら、DDR4-2933対応のRyzen 2000シリーズに軍配が上がる。
メモリーのレイテンシを計測する「Memory Latency」の結果がグラフ5だ。これまでのRyzenシリーズ同様に、L3キャッシュの容量を超えるブロックサイズからのレイテンシの増加はかなり激しい感じ。グラフ6は「Cache Bandwidth」の結果だが、こちらはCore i5 8400の広帯域さが目立つ結果となっている。
次は定番ベンチマークのMAXON「CINEBENCH R15」を実行してみた結果だ。
グラフ7:CINEBENCH R15
シングルコアの結果は動作クロック通りの順当な結果。マルチコアの性能は、Core i5 8400が頭ひとつ抜け出し、Ryzen 2400Gがその後ろを追いかける結果に。Ryzen 3 2200Gはさすがにスコアが落ちるが、コア数や価格を考えると妥当な感じではある。
続いて、Futuremarkの総合ベンチマークソフト「PCMark10」だ。今回はゲーミング性能まで含めて計測できる「PCMark 10 Extended」を実行している。結果は以下の通り。
グラフ8:Futuremark「PCMark10」
トータルスコアはRyzen 5 2400Gが1位に、Core i5 8400はそこから大きくスコアを下げた2位、その直後をRyzen 3 2200Gが追いかける結果だ。個別のテスト結果を見ると、動画編集などのコンテンツ制作の内容を盛り込んだ「Digital Content Creation」と、ゲームプレイを想定した「Gaming」といったGPU性能がスコアを大きく左右するテストにおいてRyzen 5 2400Gが大きくスコアを伸ばしたことがトータルスコアを押し上げたことが分かる。「Gaming」ではRyzen 3 2200GもCore i5 8400のスコアを若干上回っており、APUのGPU性能の高さを改めて示した格好だ。
次は、グラフィック性能を測るFuturemark「3DMark」の計測結果だ。
グラフ9:3DMark Time Spy
グラフ10:3DMark Fire Strike Score
グラフ11:3DMark Sky Diver
グラフ12:3DMark Cloud Gate
グラフ13:3DMark Ice Storm Extreme
グラフ9はDirectX 12をターゲットにした「Time Spy」、グラフ10と11はDirecxtX 11をターゲットにした「Fire Strike」「Sky Diver」、グラフ12はDirextX 10をターゲットにした「Cloud Gate」、グラフ13はDirextX 9をターゲットにした「Ice Storm Extreme」の計測結果をまとめたものとなる。
スコアを見れば一目瞭然で、トータルスコア・グラフィックスコアはRyzen 5 2400Gがまさに圧勝といったところ。CPU性能が加味されるPhysicsではCore i5 8400がスコアを伸ばしているものの、グラフィック性能が支配的な3DMarkにおいては、GPU性能にすぐれたRyzen 5 2400Gの強さが目立つ。
「Time Spy」と「Fire Strike」に関しては、さすがにディスクリートGPU向けの高負荷なテストということもあり、重量級の3Dゲームが快適にできるといったレベルのスコアではないが、Ryzen 5 2400GがCore i5 8400に比べて圧倒的にGPU性能が高いことは確認できる。
CPU内蔵GPUでも動作するようにチューニングされた「Cloud Gate」以下のテストでは、DirectXの世代が若くなるほどGPUの支配力が弱くなっていくこともあり、Core i5 8400 とRyzen 3 2200Gでややスコアが開き始めるが、Ryzen 3 2200Gもなかなか健闘しているといっていいだろう。
ここからは、実際のゲームタイトルを使ったベンチマーク結果を紹介しよう。今回はCPU内蔵GPUを使ったテストということもあり、オンラインRPGの「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」を、アクションシューティングの「Overwatch(オーバーウォッチ)」、レーシングゲームの「Forza Motorsport 7」の3タイトルをチョイスした。結果は平均フレームレートを採用。それぞれ2種類の品質設定で3つの解像度別にテストを行っている。
グラフ14:ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク 標準画質(デスクトップPC)設定
グラフ15:ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク 高画質(デスクトップPC)設定
まずは大人気MMO RPG「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」の公式ベンチマークから。フルHD解像度でのプレイに必要な推奨環境にミドルレンジクラスのGPUが求められるタイトルということで、これまでの検証で内蔵GPU性能がもっとも高かったRyzen 5 2400Gでも、高画質設定でのフルHD解像度でのプレイはやや厳しい結果となった。標準品質はでかろうじて30後半の平均フレームレートが出ているが、激しい戦闘シーンなどではフレームレートの落ち込みが多少気になる。とはいえ、内蔵GPUでこれだけの平均フレームレートを出すのはたいしたもので、Ryzen 5 2400G はHD解像度なら間違いなく快適にプレイできるはずだ。
グラフ16:Overwatch ノーマル設定
グラフ17:Overwatch 高設定
続いては、人気アクションシューティング「Overwatch(オーバーウォッチ)」のベンチマーク結果。本作品は比較的低スペックなマシンでも動くが、快適にプレイするなら最低でも60fps、可能であればそれ以上のfpsを稼ぎたいところではある。今回、ノーマルと高の2種類の品質設定でテストを行ったが、この最低フレームレートをクリアできたのはRyzen 5 2400Gのみだった。Core i5 8400は解像度をHDにした状態でも60を割っており、さすがにプレイするのはきつい。クオリティを上げてもある程度余裕をもって対応できるRyzen 5 2400Gなら、品質設定をつめてやればさらに快適にプレイできそうで、このあたりはさすがといったところではある。
グラフ18:Forza Motorsport 7 Demo ベリーロー設定
グラフ19:Forza Motorsport 7 Demo 低設定
レーシングゲーム「Forza Motorsport 7 Demo」のベンチマークモードで計測した結果は、Ryzen 2000Gシリーズの強さがかなり目立つ結果に。Core i5 8400でプレイすら困難なフレームレートを出す設定も、Ryzenはかなり余裕をもった形で処理できている。細かな設定の追い込み次第ではあるものの、こちらもワンランク上の設定が狙えそうだ。
最後に、システム全体の消費電力についてもチェックしてみた。測定値は、ラトックシステムの「Bluetoothワットチェッカー REX-BTWATTCH1」を使い、システム全体の消費電力を計測したもので、PC起動10分後の消費電力をアイドル時、「CineBench R15」でシングルコアを使用したテストを実行した際をCPUシングルスレッド高負荷時、同じくCPUコアをすべて使用したテストを実行した際をCPUマルチスレッド高負荷時として採用。また、今回はグラフィック性能にも重きをおいてテストしているため、GPU負荷の高い「3DMark」で「Sky Diver」のGraphicsテストを実行した際、「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」を実行した際のピーク消費電力も合わせて計測している。結果は下記通りだ。
グラフ20:消費電力
アイドル時の消費電力計測は3つのCPUで30W前後とほぼ横並びで、消費電力はかなり低く抑えられている。いっぽうでCPUパワーを使っている状態だと、Ryzen 5 2400Gが頭ひとつ飛び出した。Ryzen 5 2400Gは今回取り上げたCPUで唯一、ひとつのコアで2つの実行スレッドを同時に実行するSMT(インテルだとハイパースレッティングと呼ばれるもの)に対応しており、この当たりが影響しているのかもしれない。
GPUに負荷をかけた状態の消費電力については、GPUにパフォーマンスを割いているRyzen 2000Gシリーズさすがに高めの値がでている。とはいえ、3Dパフォーマンスを考慮すると、ピークでもシステム全体で100W前後というのはかなり低い値だ。ディスクリートGPUを組み合わせた環境だと、いくらローエンドのGPUを組み合わせたとしてももう少し消費電力が高めに出ることが多いので、むしろあのパフォーマンスをこれだけの消費電力で実現できていると考えるとかなりがんばっているとは思う。
ここまでさまざまなベンチマークを通じてRyzen 2000Gシリーズの性能を検証してきたが、同価格帯のCPU同士で比べた場合、単純なCPU性能だけを見るとインテルCPUのほうがまだまだすぐれているものの、さすがにRadeon GPUを手がけるだけあり、CPU内蔵GPU性能はRyzen 2000Gシリーズのほうがかなりすぐれている。なかでも、シリーズ上位モデルのRyzen 5 2400Gは特に優秀だ。比較的ライトな3Dゲームであっても、フレームレートがプレイに直接影響するようなタイトルではインテルCPUの内蔵GPUは荷が重いが、特Ryzen 5 2400Gならかなり快適に動いてくれるし、フレームレートがプレイに影響しないタイトルでも、Ryzen 5 2400Gならワンランク上の解像度やクオリティに設定できる。GPU性能に対して消費電力が比較的低く抑えられている点も魅力的だ。
価格面も、Coffee Lake世代のインテル第8世代Coreプロセッサーは、300シリーズチップセットのラインアップ拡充が遅れており、現在はZ370 Expressチップセットを搭載したやや高価なマザーボードが中心だ。そのため、安価なPCを組みたい人にとってはかなりうまみが少ない状態だが、Ryzen 5 2400GならSocket AM4に対応したRyzenシリーズの向けの豊富なマザーボードが選べ、マザーボードの選択次第ではインテルCPUをチョイスしたときよりも安価にマシンを組めるのはうれしいところ。ビデオカードを最初から搭載し、重量級の最新3Dゲームをすぐにプレイするという人ならインテルプラットフォームを最初から選択するというのも十分アリだが、ゲームは遊びたいけど最初はあまりコストをかけられないというライトゲーマーにはRyzen 5 2400Gはいい選択視になりそうだ。
PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。最近はもっぱらカスタムIEMに散財してます。