近ごろのハイエンドスマートフォンでは、画角の異なる複数のカメラを備えるのが一般的になり、これらのカメラを切り替えることで、従来のスマートフォンでは行えなかった高倍率ズームでの撮影が行えるようになっている。ここでは、最新世代となる2020年夏モデルを含む、おおむね1年の間に登場した、3倍以上の光学ズームに対応したトリプルカメラ以上のカメラを搭載した製品をまとめて紹介しよう。
※記事中の焦点距離は35mm換算のもので統一。なお、焦点距離の数値はカタログスペックの値を主としつつ、非公開のものについては撮影データのEXIF情報を参照している。
従来、スマートフォンのカメラと言えば、広角、超広角の画角を持つシングルカメラないしはデュアルカメラが中心だったが、トリプルカメラ、クアッドカメラの登場によって、望遠撮影機能を高めたものも増えてきた。
ただ、焦点距離を公表していないことも少なくないので単純な性能比較がしにくいのも事実。そこで、本記事では、そうした各社ばらばらの基準を、カメラ専用機の一般的な流儀にならって、35mmフィルム換算での焦点距離に統一。また、広角端を基準にそろえた光学ズームの倍率でそろえている。なお、掲載している焦点距離は、各製品のスペック表に記載されている値、または撮影データのEXIF情報を参照している。
以下に、本記事で掲載している製品のカメラが対応するズーム領域を比較したグラフを掲載した。ワイド側は、おおむね16mm前後でさほど変わらないが、望遠側は最大値で、100mm以上、80mm前後、50mm前後という3段階の集団があることがわかる。
上記のグラフは、本記事で記載するスマートフォンのカメラのズーム領域を比較したもの(横軸の単位は35mmフィルム換算の焦点距離(mm))
・超広角カメラ:16mm(約800万画素)
・広角カメラ:26mm(約4,800万画素)
・望遠カメラ:130mm(約1,300万画素)
・光学ズーム倍率:約8.1倍
OPPOのSIMフリースマートフォン「Reno 10x zoom」は、その名前からもわかるように強力なズーム機能が特徴だ。メインカメラは、超広角カメラが16mm、広角カメラが26mm、望遠カメラが130mmというトリプルカメラで、超広角カメラと望遠カメラの焦点距離の比率は約8.1倍。現在国内で正規販売されるスマートフォンの中では最高のズーム倍率を誇る。なお、製品名にある10倍ズームはハイブリッドズーム時のもの。デジタルズームを使えば最大60倍までのズームに対応する。
超広角カメラの16mmという焦点距離は、景色を広く撮影するのにも適している
超広角カメラに対して約1.62倍の光学ズームとなる。広角カメラの約4800万画素という超高画素にはデジタルズームを有利にする狙いもある
超広角カメラに対して約8.1倍という高いズームが魅力。写真のような離れた被写体を大きく写すのに適している
・超広角カメラ:16mm(約2,000万画素)
・広角カメラ:27mm(約4,000万画素)
・望遠カメラ:125mm(約800万画素)
・光学ズーム倍率:約7.8倍
NTTドコモの2019年夏モデルとして発売された「P30 Pro」。メインカメラは、16mmの超広角カメラ、27mmの広角カメラ、125mmの望遠カメラ、TOFカメラの4基を組み合わせたクアッドカメラだ。なお、TOFカメラを除くメインカメラ3基は、ライカ監修のレンズを搭載している。
また、広角カメラのイメージセンサーは、フォトダイオードを覆うカラーフィルターを、光の三原色に由来した赤、緑、青ではなく、赤1個、黄2個、青1個という構成比の「RYYB」センサーだ。黄のカラーフィルターは、緑と赤の2色を取り込むことができ、これをファーウェイ独自の「IPS(Image Signal Processor)」が処理することで、従来よりも40%以上多くの光を取り込むことが可能という。なお、超広角カメラを基準にした望遠カメラの光学ズーム倍率は約7.8倍だが、デジタルズームを使えば50倍まで対応する。また、最大ISO409,600の高感度撮影や、被写体まで2.5cmまで寄れるマクロ撮影にも対応している。
超広角では周辺部のゆがみは避けられないが、ゆがみを生かして迫力を演出することもできる
超広角カメラに対して約1.7倍の光学ズームとなる。画素数が高いため、かなり精細な仕上がりだ
超広角カメラに対して7.8倍の光学ズーム。構図の中央にある遠方のビルがここまで拡大され、スマートフォン離れした撮影が行える
・超広角カメラ:16mm(約2,000万画素)
・広角カメラ:27mm(約4,000万画素)
・望遠カメラ:81mm(約800万画素)
・光学ズーム倍率:約5倍
ソフトバンク版のほか、SIMフリー版も発売されている。メインカメラは、16mmの超広角カメラ、27mmの広角カメラ、81mmの望遠カメラという組み合わせのトリプルカメラで、超広角カメラを基準にした場合で約5倍の光学ズームが可能。デジタルズームは270mmまで対応しており、倍率にすると約17倍となる。なお、メインカメラに備わるレンズはいずれもライカ監修のものとなっている。
空間の広がりが際立つ。超広角なので仕方ないが、周辺のゆがみはそれなりに目立つ
上記の超広角カメラに対して約1.7倍の光学ズームとなる
望遠カメラは超広角カメラに対して約5倍の光学ズームとなる。駅舎のレリーフなど細部がよくわかる
・超広角カメラ:17mm(約1,600万画素)
・広角カメラ:27mm(約4,000万画素)
・望遠カメラ:80mm(約800万画素)
・光学ズーム倍率:約4.7倍
ファーウェイ「P30」シリーズの中堅モデル、ただし処理性能はハイエンドレベルだ。国内の通信キャリアの取り扱いはなく、SIMフリーモデルのみの販売となっている。メインカメラは、17mmの超広角カメラ、27mmの広角カメラ、80mmの望遠カメラという組み合わせのトリプルカメラで、上位モデル「P30 Pro」と比較すると、望遠側のズーム倍率が低めな点と、ToFカメラが搭載されていないという点が大きく異なる。
超広角カメラを基準にした光学ズームの倍率は約4.7倍で、同社の「Mate 20 Pro」に近いなお、メインカメラの3基のカメラはいずれもライカ監修のレンズを搭載する。また、広角カメラのイメージセンサーはP30 Proと同じRYYB配列のものが使われており、従来比で光を取り込む能力が40%以上向上している。ただし、感度の上限はP30 ProがISO409,600なのに対し、こちらはISO204,800となっており、超高感度撮影性能には差がある。
隅田川にかかる吾妻橋から、東京スカイツリーを望む景色を撮影
超広角カメラに対して約1.58倍のズームとなる
超広角カメラに対して約4.7倍のズームとなる
・超広角カメラ:18mm(約4,000万画素)
・広角カメラ:27mm(約4,000万画素)
・望遠カメラ:81mm(約800万画素)
・光学ズーム倍率:約4.44倍
日本国内におけるファーウェイの最新ハイエンドモデルで、SIMフリー機ながら5Gに対応する。急角度で折れ曲がる「ホライゾンディスプレイ」や4基のカメラを円形のリングで囲んだ「Halo Ring」、合皮の一種である「ヴィーガンレザー」を背面の素材に使用するなど、今までのファーウェイ製品とは異なる個性的なデザインも魅力だ。
メインカメラは、18mmの超広角カメラ(約4000万画素/F1.8)、27mmの広角カメラ(約4,000万画素/F1.6)、80mmの望遠カメラ(約800万画素/F2.4)、3D被写界深度測定カメラ(ToFセンサー)という組み合わせの、ライカ監修のクアッドカメラ。超広角カメラを起点とした光学ズーム比は約4.44倍で、2020年春から夏に登場するスマートフォンの中では最も高い光学ズーム倍率を誇っている。なお、超広角カメラに採用されるのは、1/1.54インチというかなり大型のイメージセンサーで、静止画と動画の両方でISO 512,000という超高感度撮影が行える。
芝桜の花畑を撮影。超広角カメラで目立ちやすい構図周辺の画質劣化が抑えられており、ファーウェイの最上位モデルの実力を感じる
上と同じ構図を広角カメラで撮影。超広角カメラと比較してゆがみが少ない。等倍に拡大した際の解像感も周辺部分までまんべんなく高い
高圧鉄塔を中央に据えた風景を撮影。この構図でも鉄塔の細部や電線がしっかりと解像している
上と同じ構図を望遠カメラに切り替えて撮影。80mmの望遠撮影となったが鉄塔の細部がよりはっきりとわかる
超広角カメラ:16mm(約1,200万画素)
標準カメラ:24mm(約1,200万画素)
望遠カメラ:70mm(約1,200万画素)
光学ズーム倍率:約4.38倍
NTTドコモとauから2020年5月に登場する5Gスマホ。プロ用モニターの画質チューニングを再現できる有機ELディスプレイや、板ガラスのようなシルエットなど、前モデル「Xperia 1」の長所を継承しつつ、クロストークを徹底的に抑えたヘッドホン端子の搭載など、各所にブラッシュアップが施された、ソニーのフラッグシップモデルだ。
メインカメラは、16mmの超広角カメラ(約1,200万画素/F2.2)、24mmの標準カメラ(約1,200万画素/F1.7)、70mmの望遠カメラ(約1,200万画素/F2.4)、3D iToFセンサーという組み合わせのクアッドカメラだ。超広角を基準にした光学ズーム比は4.38倍で、前モデル「Xperia 1」の3.25倍よりも光学ズーム倍率が高くなった。なお、すべてのカメラのレンズはZEISS製となる。また、通常のカメラアプリに加えて、よりカメラ的な操作性と、人とペットに対応した「瞳AF」や毎秒20コマのAE/AF連動など、カメラ専用機ゆずりの高度な機能を実現する「Photography Pro(フォトグラフィープロ)」が、発売後のアップデートで実装される予定だ。
ビル街を撮影。周辺部分に至るまで均一な画質と解像感が保たれている。スマホの超広角カメラとしてはかなり良好な仕上がりだ
同じ構図を標準カメラで撮影。遠景の窓などの解像感が高まっており、収差も少ないクセの少ない仕上がりだ
上と同じ構図を望遠カメラに切り替えて撮影。超広角カメラに対して約4.38倍のズームとなり構図中央のビルが窓枠の細部まではっきりと写る
超広角カメラ: 13mm(約1,200万画素)
広角カメラ:26mm(約1,200万画素)
望遠カメラ:52mm(約1,200万画素)
光学ズーム倍率:4倍
2019年9月に登場したiPhoneの最新モデル。その上位モデルである「iPhone 11 Pro」と「iPhone 11 Pro Max」のメインカメラは、13mmの超広角カメラ、26mmの広角カメラ、52mmの望遠カメラという組み合わせのトリプルカメラとなる。超広角カメラを基準にした場合、4倍の光学ズーム撮影が可能だ。なお、超広角カメラの13mmという焦点距離は、サムスン「Galaxy S10」シリーズなどと並ぶ、スマートフォン屈指の超広角となる。
スマートフォンのカメラとしては屈指の超広角だ
超広角カメラに対してちょうど2倍のズームとなる
超広角カメラに対して4倍のズームとなる。光学5倍以上のものと比べるとややズーム性能に物足りなさを感じる
超広角カメラ:13mm(約1,600万画素)
広角カメラ:26mm(約1,200万画素)
望遠カメラ:52mm(約1,200万画素)
光学ズーム倍率:4倍
サムスンの「Galaxy S10」「Galaxy S10+」「Galaxy Fold」「Galaxy Note10+」はすべてメインカメラが、13mmの超広角カメラ、26mmの広角カメラ、52mmの望遠カメラという、トリプルカメラ仕様。「Galaxy Note 10+」だけは、これに加えてTOFカメラが搭載されているが、今回は便宜的に、これらのモデルをまとめて取り上げる。
サムスンでは、ズームの基準を広角カメラに置いており、2倍の光学ズームに対応しているとしている。ただ、超広角カメラを基準にした場合、望遠カメラでは光学4倍のズームとなる。ズーム倍率自体は突出したスペックではないが、超広角レンズの焦点距離は13mmとなっており、「iPhone 11 Pro」シリーズと並ぶ超広角だ。広角レンズは1mmの違いが大きいので、望遠ではなく広角を重視したAndroidスマホとしては最有力の候補となるだろう。
「Galaxy S10」シリーズなどGalaxyの高性能モデルの超広角カメラは、上記「iPhone 11 Pro」と並ぶ焦点距離13mmの超広角だ
超広角カメラに対して2倍のズームとなる
超広角カメラに対して4倍のズームとなる。ズームを期待するには少し物足りない
超広角カメラ:12mm(約4,800万画素)
標準カメラ:27mm(約2,000万画素)
望遠カメラ:43mm(約800万画素)
光学ズーム倍率3.58倍
ソフトバンクから発売された5Gスマホのミドルレンジモデル。端末価格も8万円台前半と、5Gスマホとしては安価な部類だ。
カメラ機能だが、12mmの超広角カメラ(約4,800万画素/F2.2)、27mmの標準カメラ(約2,000万画素/F1.7)、43mmの望遠カメラ(約800万画素/F2.4)という組み合わせのトリプルカメラだ。望遠カメラの焦点距離は43mmにとどまっているが、超広角カメラは12mmと、スマートフォンに搭載されるカメラとしては屈指の超広角であるため、超広角を基準にした光学ズーム倍率は3.58倍とかなり高め。また、AIを使ったシーン認識機能に加えて、ピントを合わせたい部分を自動で認識して撮影が行えるなど、従来のZTE製スマートフォンと比較するとソフトウェア面でもさまざまな進化が見られる。
浅草寺の五重塔を撮影。12mmという超広角のため周辺のゆがみやノイズは目立つものの構図手前の狛犬や遠景の東京スカイツリーまで余裕で収まり、周辺の様子を広く収めることができる
上と同じ構図を標準カメラに切り替えて撮影。27mmという焦点距離で、スマホのカメラとしては標準的な画角だ。逆光による白飛び黒つぶれは抑えられているものの、暗部にはノイズが見える
上記2枚と同じ構図を望遠カメラに切り替えて撮影。さほど高いズーム倍率ではないが、それでも超広角、標準カメラとは印象がかなり異なる構図になった
超広角カメラ:16mm(約1,220万画素)
広角カメラ:26mm(約1,220万画素)
望遠カメラ:52mm(約1,220万画素)
光学ズーム倍率:3.25倍
NTTドコモ、au、ソフトバンクの各社から2019年夏モデルとして登場した「Xperia 1」と、秋モデルとして登場した「Xperia 5」。いずれも、メインカメラは、超広角カメラが16mm、広角カメラが26mm、望遠カメラが52mmという構成のトリプルカメラ。超広角カメラを基準にした光学ズーム倍率は3.25倍となる。なお、超広角カメラ〜広角カメラの中間となる16〜26mmの区間はデジタルズームが効かない。特徴として、スマートフォンのカメラとしては初となる「瞳AF」や、オートフォーカスと露出が追従したうえでの毎秒10枚の連続撮影対応など、デジタルカメラ「α」で培ったソニーらしい機能が備わる。なお、「Xperia 1」と「Xperia 5」は、動画のスーパースロー撮影機能に違いがあり、「Xperia 1」が最大960fps対応なのに対し「Xperia 1」は120fpsとなる。また、被写体ブレやカメラに指がかかっているといった警告機能が「Xperia 5」には備わるが、「Xperia 1」も今後のアップデートで対応する予定だ。
16mmという焦点距離は、スマートフォンの超広角カメラとしては標準的なものではあるが、十分に広角な構図で撮影できる
超広角カメラに対して約1.62倍の光学ズームとなる
超広角カメラに対して3.25倍の光学ズームとなる。今回取り上げたものとしてはもっともズーム倍率が低いが、52mmという焦点距離自体は「iPhone 11 Pro」や「Galaxy S10」と同レベル
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