auが2020年9月4日に発売したスマートフォン「Mi 10 Lite 5G XIG01」(シャオミ製。以下、Mi 10 Lite 5G)は、5G対応機ながら42,740円(以下、いずれも税込)という破格の値付けがなされた注目モデル。5Gモデルとして高い価格性能比で注目を集めるが、その魅力は4Gエリアで利用しても十分味わえるものだった。
2020年3月に始まった5Gサービスだが、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛や、3GやLTEの初期と比べてもかなり限定されている対応エリア、総務省の方針によって端末の値下げが制限されたことなどの理由から、必ずしも盛り上がっているとは言えない。しかし、au専売モデルとして発売された本機「Mi 10 Lite 5G」は、5Gスマホとしては破格の42,740円という低価格をひっさげて登場。なお、auの「かえトクプログラム」を使用して購入2年後に端末を下取りに出せば、ユーザーの負担額は29,900円にまで抑えられる。
シャオミの国内市場参入からわずか半年でauから発売となる本機。auの5Gサービスを推進するという意味でも重要な1台と言える
本機を手がけるシャオミ(小米科技)は、2010年に設立された中国の家電メーカーだ。高いコストパフォーマンスを武器に世界中で急成長しており、スマートフォンの世界シェアでは、アップルに次ぐ4位の地位にある。国内市場には、2019年12月にSIMフリースマホの「Mi Note 10」で初参入を果たし、2020年6月に発売された「Redmi Note 9S」は24,800円という価格ながら、同価格帯のライバルを大きく上回る処理性能を備えたことで人気を集めた。今回取り上げる「Mi 10 Lite 5G」は、シャオミの国内第3弾モデル(「Mi Note 10」の派生モデル「Mi Note 10 lite」を含めれば第4弾)にして、国内参入からわずか半年余りという異例のスピードでキャリア参入を果たした1台だ。
「Mi 10 Lite 5G」は、約75(幅)×164(高さ)×8.7(厚さ)mm、重量約193gのボディに、2,400×1,080のフルHD+表示に対応する約6.6インチの指紋認証付き有機EL平面ディスプレイを搭載する、比較的大型のスマートフォンだ。このボディは、前面と背面の両方が強化ガラス「Corning Gorilla Glass 5」で覆われており、10万円クラスの製品と並べても見劣りしない。搭載される有機ELディスプレイは、上級モデルほどの狭額縁設計ではないが、厳密に行われた発色チューニングが施されており、正確な発色を再現できる。なお、高コントラストなHDR 10に対応するほか、sRGBやDCI-P3の各色域に100%対応している 。なお、ボディは防水・防塵には対応していないが、シャオミでは「イギリスのナノテクノロジー技術企業P2i社の撥水コーティングを施している」としており、ある程度の撥水性、耐水性は備えているようだ。
背面は強化ガラス「Corning Gorilla Glass 5」で覆われており光沢感が強い。なお、抗菌加工が施された樹脂製カバーが同梱される
ボディ下面にはスピーカーとUSB Type-Cポート、SIMカードスロットが配置される。microSDメモリーカードスロットは非搭載だ
ボディ上面にはヘッドホン端子が配置される
搭載される約6.6インチ有機ELディスプレイは高コントラストで陰影のある映像もしっかり映し出す。厳密な画質チューニングが施されており、色の再現性も高い
高コントラスト規格のHDR 10に対応するほか、sRGB、DCI-P3の色域に100%対応している
約6.6インチの大きな画面サイズに対してフルHD+という一般的な解像度。電子書籍のルビなど細かな文字もクッキリ表示できるし、背景の白の色味も自然だ
ディスプレイは長辺、短辺ともに縁がそれなりにある。上級モデルのようなぎりぎりの狭額縁設計というわけではない
機能面では、NFCポートと赤外線通信ポート「IRブラスター」を備える。このIRブラスターはケータイ時代の赤外線通信ポートとは異なり、家電のリモコン機能として使うもの。なお、FeliCaポートやフルセグ・ワンセグのテレビチューナーは搭載されていない。
IRブラスターは家電製品のリモコンとして使用する。リモコンアプリはロック画面から直接起動できる。家電とのペアリングは自分で行う必要はあるが、筆者宅の10年前の国産エアコンやテレビでも利用できた
本機に搭載される「Snapdragon 765G 5G」は、今年の春に発表されたばかりの、5Gモデムを統合した最新型のミドルハイ向けSoCだ。これに6GBのメモリーと128GBのストレージを組み合わせる。OSはAndroid 10をベースにした「MIUI 11」が使われる。低価格モデルではあるが、メモリーやストレージは十分な容量が確保されているのはありがたい。ただし、外部メモリースロットは搭載されていない。
実際の処理性能をベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」と「GeekBench 5」を使って計測したところ、総合スコアは326,923(内訳、CPU:106,623、GPU:94,558、MEM:66,748、UX:58,994」となった。「GeekBench 5」の結果はシングルコアが604、マルチコアが1,911だった。これらのスコアは、およそ1世代前のハイエンドSoC「Snapdragon 855」搭載モデルをやや下回るレベルである。なお、本機と同価格帯で、1世代前のSoC「Snapdragon 730G」を搭載するGoogle「Pixel 4a」やシャオミ「Mi Note 10」の総合スコアは大体26〜27万ポイントなので、これらと比べると、本機のほうが2割ほど処理性能が高いことになる。
AnTuTuベンチマークの結果。左が本機、右が1世代前のSoCを搭載する「Mi Note 10」のもの。総合スコアで2割ほどの速度アップを実現していることがわかる。「GPU」のスコアが10万ポイントに迫るレベルまで向上しているのも魅力だ
「GeekBench 5」の計測結果。シングルコアで604、マルチコアで1,911となった。こちらも1世代前のハイエンド向けスマホをやや下回る程度のスコアだ
体感速度も、タスクの切り替えではもたつくことがあったが、アプリの起動はかなり高速で、2018年当時のハイエンドモデルであるサムスン「Galaxy S9」よりもわずかに速い。グラフィック性能も高いため、ゲームもかなりスムーズに動作した。長時間のゲームプレイでもボディの発熱は常識の範囲内で抑えられている。5万円以下で買えるAndroidスマートフォンとしては、現時点で最高レベルのパフォーマンスを備えた製品と言えるだろう。
本機の5G通信機能は、sub-6のみ対応でミリ波には非対応。通信速度は、下り最大2.1Gbps、上り最大183Mbpとなっている。上級モデルでは、下り最大3.2Gbpsという通信速度を実現しているモデルもあるが、これは本機が5G+4Gのキャリアアグリゲーションに対応しておらず、4G分の上乗せがないことによるものだ。今回は、東京都内の5Gエリアで通信速度を試したが、下り最大814Mbps、上り最大58.6Mbpsの通信速度を記録した。1Gbpsを超えることはなかったが、5Gスマホとして十分な通信性能と言えるだろう。
なお、auの5G対応エリアを確かめるべく、東京の銀座周辺→JR有楽町駅→JR東京駅→JR神田駅→JR秋葉原駅というルートで沿線を歩いたところ、駅前など数か所で5Gエリアが観測できた。なお、JR神田駅近くでは数百メートルの範囲で5Gのエリアが続き、まだ狭いながらも都心では通信エリアは着実に広がっていることが実感できた。
5Gエリアで計測した通信速度は、最高で下り814Mbpsを記録した。4Gではまずお目にかかれない通信速度だ
auでは、この秋以降に、4G用の周波数帯を5Gで使用する「転用」と、同じ電波の周波数帯で、4Gと5Gを混ぜて通信を行う技術「DSS(ダイナミック・スペクトラム・シェアリング)」の実用化が予定されている。これにより5Gの対応エリアは大きく広がることが期待されている。なお、本機がこれらの技術に対応するかは現時点では不明だが、「Snapdragon 765G」はDSSに対応しているので、期待はできそうだ。
本機のメインカメラは、約800万画素の超広角カメラ(16mm、価格.comマガジン調査の値)、約4,800万画素の標準カメラ(26mm、EXIFの値)、約200万画素のマクロカメラ(焦点距離不明)、約200万画素の被写界深度センサーという組み合わせのクアッドカメラだ。なお標準カメラについては夜景モード「ナイトモード2.0」に対応している。フロントカメラは約1,600万画素だ。
メインカメラには、超広角、標準、マクロ、被写界深度センサーという組み合わせのクアッドカメラを採用する
小型のノッチに収められているフロントカメラは約1,600万画素
以下に、本機のメインカメラを使って撮影した作例を掲載する。初期設定のままカメラ任せのオートモードを使用しているが、そのほかのモードを使った場合は断り書きを入れている。
ゆがみが少なく、建物のレリーフなどの細部もしっかり写っている。ただ空が肉眼よりもやや青く、建物の陰影も少し強調されている。肉眼よりも印象的な仕上がりになるよう味付けされているようだ
上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影する。ゆがみの補正機能を備えるがゆがみはそれなりに目立つ。ただし、周辺部分の画質の荒れはこの価格帯の製品としてはかなり少ない
明るい日中にナデシコの花を接写。高画素なイメージセンサーではないが、葉脈やおしべといったディテールは比較的残っており、マクロ撮影が十分に楽しめる
標準カメラ(オート)で道路の高架を撮影。街灯が写っているだけで、ほとんど真っ暗。性能的に限界のようだ
上と同じ構図を夜景モードで撮影。露光時間は数秒で済んだ。橋の様子や、遠景の給水塔、雲の様子などがしっかり明るくとらえられている
本機のクアッドカメラは、超広角からマクロまでさまざまな構図に対応できる。画質は総じてメリハリが強めの傾向で、パッと見のきれいさを強調している印象だが、悪くはない。超広角カメラは周辺部分のノイズが総じて少なく、この価格帯としてはなかなか使いやすい。標準カメラは、高画素センサーの採用による解像感の高さが魅力。長時間露光のナイトモードに対応しているのもありがたい。マクロカメラは画素数は低いものの接写撮影は十分に楽しめた。AIを使った画像の編集機能も豊富で、楽しく遊べるカメラと言えるだろう。
AIを使ったエフェクトで、空の様子を変えることができる。写真はオーロラだが、入道雲や夕焼け、天の川などさまざまなエフェクトが選べる
最後はバッテリーだ。一般的に5G通信ではバッテリーの消費が増える傾向にある。しかし、本機は4,160mAhの大容量バッテリーを採用することで、連続通話時間約1,730分、連続待ち受け時間約440時間と、電池持ち時間約135時間(5G)/約150時間(4G LTE/WiMAX 2+)という良好なバッテリー持続時間を実現している。今回の検証は7日間行ったが、バッテリーはフル充電で48時間+αは持った(1日3〜4時間使用)。まだ5Gエリアが限られていることもあるが、現状の4Gスマホと比べても電池持ちが極端に悪いということはなさそうだ。
加えて、本機はUSB PDとQuickCharge 4.0+の2種類の急速充電に対応している。同梱の充電器は20Wの出力に対応しており約85分という短時間でフル充電が可能。なお、au標準の「TypeC共通ACアダプタ02」を使った場合の充電時間は約110分と、これよりやや長めになる。
本機の属する4万円前後の価格帯は、Google「Pixel 4a」や、ソニーモバイル「Xperia 10 II」といった人気機種の集まる激戦区だ。その中でも本機は、最新SoCを搭載することで処理性能・グラフィック性能ともにライバルより抜きん出ている。加えて、大画面の有機ELディスプレイや、使いやすいカメラなど、全体的に高いレベルでまとまっており、特筆する欠点も見当たらない。FeliCaポートに対応しておらず、おサイフケータイのサービスが使えないのは残念だが、同価格帯のライバル以上の魅力がある。もちろん5G対応であることは本機の大きな魅力だが、4Gエリアでの利用メインでも本機を今選ぶ意味は十分にあると言える。
FBの友人は4人のヒキコモリ系デジモノライター。バーチャルの特技は誤変換を多用したクソレス、リアルの特技は終電の乗り遅れでタイミングと頻度の両面で達人級。