多くの人が関係する、スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は先ごろ一斉に発表された2023年の秋スマホに共通する傾向を解説。円安の影響で進化に乏しかった夏モデルから一転して、性能アップが加速している背景とは何だろうか。
円安などの影響により、ハイエンドモデルが軒並み20万円を超えるなどスマートフォンの大幅な値上がりが続いていることは本連載で何度か触れたとおりだ。だが2023年の9月から10月にかけて各社が発表したスマートフォン新製品を見ると、いくつか変化が起きていることがわかる。
その変化を感じさせる製品のひとつが、2023年10月3日に発表された「AQUOS sense8」だ。これはシャープのミドルクラスの定番スマートフォン「AQUOS sense」シリーズの最新機種である。
前機種の「AQUOS sense7」と比べるとデザインやカメラのイメージセンサーなどは大きく変わっていないものの、背面の広角カメラには「AQUOS sense」シリーズとして初めて光学式手ブレ補正を搭載。より暗い場所などでの撮影に強くなっている。
シャープの定番モデルの新機種「AQUOS sense8」。デザインは「AQUOS sense7」と大きく変わっていないが、カメラやバッテリーなどさまざまな部分が強化されている
また、「AQUOS sense8」は、バッテリー容量がハイエンドモデル並みの5000mAhに増量。それに加えて省電力性にすぐれたシャープ独自の「IGZO OLEDディスプレイ」を採用することで、1日10時間の利用でおよそ2日間利用できるバッテリーの持続時間を実現している。
そしてスペック面で特筆すべきは、クアルコム製のミドルクラス向け最新チップセット「Snapdragon 6 Gen 1」を採用していることだ。2023年前半に発売された同クラスのスマートフォンは、2022年のミドルクラスのスマートフォンと同じ「Snapdragon 695 5G」を採用していたものが大半を占めていただけに、ようやくミドルクラスでも最新のチップセットを採用する機種が出てきたことは大きい。
それでいて、前モデルのSIMフリー版における売り出し価格と比べると、約1万円の値上げに抑えられる模様だ。近年の値上げ傾向を見れば、なかなか意欲的な製品と言ってよいだろう。
「AQUOS sense8」はクアルコム製のミドルクラス向け最新チップセット「Snapdragon 6 Gen 1」を搭載しており、「Snapdragon 695 5G」搭載機種より性能向上が見込める
オッポが2023年9月28日に発表した「OPPO Reno 10 Pro 5G」も、変化を感じさせる製品だ。オッポは2022年以降、日本市場にはミドルクラスの「Reno A」とローエンドの「A」シリーズしか投入していなかった。だが、「OPPO Reno 10 Pro 5G」は「Reno A」シリーズよりひとつ上の「Reno」シリーズに属した機種で、性能もミドルクラスよりやや上の“ミドルハイ”に位置付けられる。
オッポの新機種「OPPO Reno 10 Pro 5G」は、ミドルクラスよりやや上という位置付けのスマートフォン。同社の「Reno A」シリーズより高い性能を備えている
それゆえ「OPPO Reno 10 Pro 5G」は、ボディが約7.9mmと薄くデザインにこだわりが見られるほか、カメラも3眼構成ですべてソニー製センサーを採用。また、80Wの急速充電に対応し、バッテリーが2%の状態から約28分で100%にまで充電することが可能だ。
「OPPO Reno 10 Pro 5G」は80Wの急速充電に対応。バッテリーが2%の状態からおよそ28分で100%に充電できることから、ソフトバンクが「神ジューデン」ブランド対応端末のひとつとして取り扱う予定だ
加えてチップセットにも、クアルコム製の「Snapdragon 778G 5G」を搭載している。こちらは最新ではなく1世代前のチップセットだが、ミドルクラスより性能の高いミドルハイ向けという位置付けなので、同世代の「Snapdragon 695 5G」を搭載したミドルクラスの
「OPPO Reno9 A」などより高い性能を持つことは間違いない。
そしてもうひとつ注目の存在なのが、シャオミが2023年9月27日に日本での発売を発表した「Xiaomi 13T」シリーズだ。「Xiaomi」ブランドの「T」シリーズは、シャオミの中でフラッグシップではないがハイエンドに属するシリーズであり、日本でも2022年にソフトバンクから「Xiaomi 12T Pro」が発売されるなど、継続的に投入されているシリーズだ。
その最新機種となる「Xiaomi 13T」および「Xiaomi 13T Pro」は、デザインやカメラ性能、バッテリー容量など共通している部分が多く、カメラは5000万画素の広角カメラと望遠カメラを搭載するなど高い性能を誇る。
いっぽうで違いもいくつかあり、「Xiaomi 13T Pro」のチップセットには台湾のメーカーであるメディアテックのハイエンド向け「Dimensity 9200+」を、「Xiaomi 13T」には同じくハイエンド向けだが世代が異なる「Dimensity 8200-Ultra」をそれぞれ採用している。
シャオミの「Xiaomi 13T」「Xiaomi 13T Pro」は、デザインやカメラ性能などは共通しているが、チップセットや急速充電のスピードなどに違いがある
もうひとつの大きな違いは急速充電である。「Xiaomi 13T」シリーズはともに5000mAhのバッテリーを搭載する。ただ、「Xiaomi 13T」は67Wの急速充電に対応し、15分間で50%の充電が可能であるのに対し、「Xiaomi 13T Pro」は120Wの急速充電に対応、バッテリーが1%の状態から19分間で100%に充電できるとしていることから非常に高速な充電が可能だ。
そして何よりシャオミの力の入れ具合を見て取ることができるのが、「Xiaomi 13T」シリーズをグローバルで発表した翌日に、日本市場への投入を発表したことだ。しかも「Xiaomi 13T」シリーズは、いずれも日本向けにFeliCaを搭載するカスタマイズを施して販売するそうで、シャオミが日本での販売に向け周到に準備してきた様子がうかがえる。
「Xiaomi 13T」シリーズは海外での発表直後に国内投入が明らかにされた。さらに、いずれもIP68の防水・防塵性能に加え、FeliCaに対応するという国内向けカスタマイズを施して販売。力の入れ具合を見て取ることができる
ここまで触れてきた3つの新製品はいずれも位置付けが違っており、性能や価格にも幅がある。
販路によって端末価格に違いはあるが、「AQUOS sense8」はミドルクラスで価格は6万円台前半、「OPPO Reno 10 Pro 5G」はミドルハイクラスで価格は7〜8万円くらい。ハイエンドの「Xiaomi 13T」シリーズは、12月発売ということもあり価格はまだ明らかにされていないが、「Xiaomi 12T Pro」の発売当初の価格(SIMフリー版が約11万円)を考慮すると、「Xiaomi 13T」が10〜11万円くらい、「Xiaomi 13T Pro」が13〜14万円くらいと筆者は予想している。
2023年前半のスマートフォン新機種は、ミドルクラスを中心に機能・性能面の進化に乏しく、コストパフォーマンスが低いものが多かった。だが、本記事で触れた3つの新製品は、いずれも、チップセットやカメラ、急速充電などを強化して性能を向上させていることからお得感が高まっているのだ。
とはいえ、円安が収まらず市場環境は厳しいままだ。この半年で、メーカー側がスマートフォンの性能向上に再び舵を切った狙いはどこにあるのだろうか? 理由はグーグルのスマートフォン「Pixel」シリーズにある。
「Pixel」シリーズはスマートフォンの高価格化が急速に進む中にありながら、同じ価格帯のスマートフォンと比べて非常に高い性能を備えており、飛びぬけて良好なコストパフォーマンスを誇る。加えて、低価格モデルの最新機種「Pixel 7a」からはNTTドコモも販売を開始するなど、販路が大きく広まっている。
「Pixel」シリーズの市場での存在感は急上昇しており、競合のスマートフォンメーカーがグーグルに対する危機感を急速に強めているようだ。そこで競合メーカーはグーグルに対抗する必要に迫られ、円安ながらも再びスマートフォンの性能向上に舵を切るようになったわけだ。
ただグーグルも、現状の低価格戦略をどこまで続けられるかわからないように見える。そのことを示しているのが、2023年10月4日に発表されたフラッグシップモデルの新機種「Pixel 8」シリーズ2機種の価格で、スタンダードモデルの「Pixel 8」は112,900円〜、大画面の上位モデル「Pixel 8 Pro」は159,900円〜(いずれも税込)となっている。前機種「Pixel 7」シリーズの発売当初の価格と比べ、いずれも3万円以上と大幅に値上がりしているのだ。
非常に高いコストパフォーマンスで人気の「Pixel」シリーズだが、新機種の「Pixel 8」シリーズはいずれも10万円を超えるなど値上がり傾向にある
値上げの最も大きな要因が円安の長期化であることに間違いないのだが、実は米国での販売価格も「Pixel 8」は699ドル〜、「Pixel 8 Pro」は999ドル〜と、「Pixel 7」シリーズより100ドルほど値上がりしている(米国での価格は税抜き)。「Pixel 8」シリーズはチップセットに新しい「Tensor G3」を搭載し、さらにカメラの性能も向上させるなど、ハード面での性能がアップしたため値上げせざるを得なかったようだ。
カメラの性能進化に加え、「Pixel 8 Pro」は温度の測定が可能なセンサーを搭載するなどさまざまな進化を遂げている。これがコストアップ要因のひとつになっているようだ
このことは、たとえグーグルであっても環境変化によりスマートフォンのコストパフォーマンス維持が難しくなっていることを示している。ただ、グーグル側もそれを意識してか、発売開始から「Pixel 8」シリーズが最安で実質39,800円になるキャンペーン(Googleストア限定)を実施するなど、販売施策でお得さを維持しようとしているようだ。
一連の動きを見るに、日本のスマートフォン市場は今後、「iPhone」よりも「Pixel」シリーズの動向によって大きく左右される可能性が高いと言える。「iPhone以外のスマホに興味ない」という人でなければ今後、「Pixel」シリーズを基準にスマートフォンのお得感を比較しながら選ぶことが増えるのではないだろうか。