NTTドコモ、au、楽天モバイル、一部格安SIM事業者、SIMフリーなどさまざまなルートで販売が予定されている、シャープのミドルレンジスマホ「AQUOS sense8」をいち早く入手。前モデル「AQUOS sense7」との違いに注目したレビューをお届けしよう。
2023年11月上旬発売予定の「AQUOS sense8」を前モデル「AQUOS sense7」と比較した
シャープの「AQUOS sense」シリーズは、手ごろな価格と十分な機能を兼ね備えたスタンダードモデルとして長く親しまれてきた。その2023年モデル「AQUOS sense8」は、2023年11月上旬の発売が予定されている。
「AQUOS sense8」のサイズは約71(幅)×153(高さ)×8.4(厚さ)mmで、前モデルと比べて高さと横幅はそれぞれ1mm、厚さは0.4mm大きくなり、重量は1gだけ重い約159gになった。こうして数値を見比べると確かに大型化しているが、近ごろのスマホとしては引き続き相当の軽量・コンパクトなのは確かだ。
しかも、アルミ合金製のボディは質感や剛性感は変わっておらず、安物感はない。IPX5/8等級の水没まで対応する防水性能とIP6X等級の防塵仕様に対応するほか、米国国防総省の調達基準MIL-STD-810Gの落下など16項目をクリアしたタフネス仕様であることは、「Pixel 7a」など海外メーカーのライバル機と比べて優位な点だ。おサイフケータイにももちろん対応している。
側面のボタン配置を「AQUOS sense7」と比べると、電源ボタンと指紋認証センサーがまとめられている点が異なる。わずかに異なるサイズや、ボタン配置の違いによって、店頭で数多く販売されている「AQUOS sense7」用のケースは利用できない可能性が高い。
側面のボタン配置を比較。下が「AQUOS sense8」、上が「AQUOS sense7」のもの。電源ボタンと指紋認証センサーをまとめたため、ボタンの位置が異なっている
ディスプレイは、「AQUOS sense7」と同じ2432×1080のフルHD+表示に対応した約6.1インチの有機ELだ。「AQUOS sense7」と並べても、ほとんど違いがないように見える。
ただ、「AQUOS sense7」では対応していなかったHDR表示に対応。加えて、リフレッシュレートも、1〜60Hzから1〜90Hzの可変駆動に強化された。しかも、1コマごとに黒画面を差し込む残像低減機能も備えており、こちらを使った場合は180Hz駆動になる。スペック表では非公開のタッチサンプリングレートをツールで調べたところ平均120Hzと表示された。
ディスプレイのサイズや解像度は変わっていないが、90Hzの可変駆動やHDR対応など機能は大幅に進化している
HDR表示は、標準、ダイナミック、シネマの3段階で画質を調整できる
リフレッシュレートはアプリ別に動作を指定できる
ディスプレイの強化は、操作するとはっきり認識できる。「AQUOS sense8」のタッチ操作や画面スクロールは”ヌルサク”という表現がぴったりで、どこかぎこちなかった「AQUOS sense7」とはまったく異なる印象だ。コンテンツが増えているHDRに対応しているのもうれしい。このディスプレイなら2023年に選ぶスマートフォンとして十分な性能を備えていると言えるだろう。
サウンド機能を見てみよう。ヘッドホン端子をボディ下面に備えている。いっぽう、搭載するスピーカーはモノラルだ。Dolby Atmosには非搭載だが、イコライザーは搭載されている。Bluetoothのオーディオコーデックは、標準SBCのほかAACの対応が確認できた。なお、LDACは対応が確認できなかった。
ヘッドホン端子はボディ下面に搭載。スピーカーはモノラル
基本性能の強化も「AQUOS sense8」の注目点だ。搭載されるSoCは「Snapdragon 6 Gen1」で、6GBのメモリーと、128GBのストレージ、1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。「Snapdragon 6 Gen1」を搭載することで、「AQUOS sense7」と比べて処理性能が約36%、グラフィック性能も約33%向上している。シャープの説明では、ミドルレンジスマホの使われ方が多様化しており、2023年の最新スマートフォンとしては本機程度の性能が必要という判断による。
CPUの処理性能をベンチマークアプリ「GeekBench 6」を使い計測したところ、スコアはシングルコアが938、マルチコアが2566となった。いっぽう「AQUOS sense7」はシングルコアが907でマルチコアは2078だった。両機を比較するとマルチコアの伸びが大きい。これは、SoCに搭載されるCPUコアの構成が、「AQUOS sense7」の性能重視のラージコア2個と、効率重視のスモールコア6個という構成が、「AQUOS sense8」では、ラージコア4個とスモールコア4個という、ピーク性能を重視したものになっていることが影響している。
なお、グラフィック性能を計測する「3Dmark(Wild Life)」のスコアは「AQUOS sense8」が2374、「AQUOS sense7」が1202で、2倍近い差が付いている。これだけの差があればゲームではかなりの違いが実感できるはずだ。
「GeekBench 6」を使ったCPUのベンチマークテスト結果。左が「AQUOS sense 8」、右は「AQUOS sense7」だ。上のシングルコアの結果はあまり変わらないが、マルチコアでは大きな差がついた
「3DMark」の結果。左が「AQUOS sense 8」、右は「AQUOS sense7」だ。「AQUOS sense 8」が倍近いスコアを記録した
実際の体感速度を見ると、やはりグラフィック性能の向上が違いを実感しやすい。具体的にはゲームアプリにおける描画のレベルをワンランク以上高めることができる。加えて、タッチサンプリングレートを高めているため操作の応答性が高められたこともゲームでは有利だ。
もちろん、アプリの起動などは確かに本機のほうが高速であり、こちらでも性能の向上を実感できるだろう。基本性能は気にしないという人もいるが、スマートフォンを長く使うつもりなら、年々高度化するアプリに備えて基本性能の高いものを選んだほうが有利なはずだ。
メインカメラは、約5030万画素の1/1.55インチイメージセンサーに焦点距離23mm(35mm判換算)のレンズを組み合わせた標準カメラと、約800万画素のイメージセンサーに焦点距離15mm(35mm判換算)のレンズを組み合わせた広角カメラとのデュアルカメラだ。センサーは「AQUOS sense7」と変わらないが、広角カメラに静止画撮影で利用できる光学式手振れ補正機構が付いたことが大きい。
これによって片手持ちにおける手ぶれが軽減された。また、シャッターボタンを自由な位置に配置できる新機能「フローティングシャッター」も、片手撮影では有利と言える。
標準カメラと広角カメラの組み合わせ。標準カメラは光学式手ブレ補正機構を搭載している
シャッターボタンを自由な位置に配置できる新機能「フローティングシャッター」。片手撮影をより行いやすくしている
以下に、メインカメラ(標準カメラ)を使った静止画作例を掲載する。いずれも初期設定をベースにオートHDRだけはアクティブにしている。
明暗差の大きい構図でダイナミックレンジを比較。左の「AQUOS sense8」のほうが窓から見える赤レンガ駅舎のコントラストがよりくっきりしている。また、白塗りの天井の陰影も強い。いっぽう暗部の違いはあまり変わらない
撮影写真
AQUOS sense8(3.3MB)
AQUOS sense7(2.67MB)
明るめの夜景を撮影。左が「AQUOS sense8」、右は「AQUOS sense7」。大きな仕上がりの違いはない。だが、HDR処理の違いで暗部のディテールは「AQUOS sense8」のほうが残っている
撮影写真
AQUOS sense8(3.56MB)
AQUOS sense7(2.46MB)
陰影のある夕方の後継を撮影。舗装面や暗部の街路樹などのディテールはやはり左の「AQUOS sense 8」のほうが良好だ
撮影写真
AQUOS sense8(5.78MB)
AQUOS sense7(3.31MB)
検証のため「AQUOS sense8」と「AQUOS sense7」で同じ構図をほぼ同じ枚数で撮影したが、センサーが同じなため基本的な画質は変わらない。ただし、光学式手ブレ補正を備える分、「AQUOS sense8」のほうが手ブレが減るので、撮影が簡単であることは確かだ。また、画像処理の過程を見直したことで、明暗差の大きな構図では「AQUOS sense8」のほうがディテールが残りやすい。簡単な撮影が行える点で見ると、「AQUOS sense8」のほうが有利と言えそうだ。
また、「AQUOS sense7」では、標準カメラと広角カメラの切り替えに時間がかかる場合や、シャッタータイムラグが気になる場合が見られた。だが、「AQUOS sense8」はそうした引っ掛かりを感じることがなくなった。撮影により集中できるカメラと言えるだろう。
「AQUOS sense8」の内蔵バッテリーは5000mAhで、「AQUOS sense7」の搭載容量4570mAhと比べると430mAh増えている。いっぽうで、電池持ちに関する指標を見ると、連続通話時間は「AQUOS sense8」が約3,950分で「AQUOS sense7」の3,520分、連続待受時間は、「AQUOS sense8」が約690時間、「AQUOS sense7」は約820時間となっており、こちらは2割ほど悪化している(いずれも、KDDIの公表しているスペックを参照)。
検証として約4日間(約90時間)使ったところで、フル充電でバッテリーを使い切った。なお、SIMを挿しつつWi-Fiを併用するごく一般的な通信環境で、カメラアプリを4日間合計で1時間以上、ゲーム、動画視聴、SNSをそれぞれ1日1時間以上と言う、セットアップに際して断続的な通信を1時間以上行うなど、比較的長めの利用時間だったが、平均すると1日に25%前後のバッテリー消費で済んでいるのは優秀と言えるだろう。
いっぽうで気になった点もあった。ゲームにおいて、向上した描画性能を生かしてアプリの描画負荷を高めると、バッテリーの消費ペースや発熱が高まる傾向があった。
「AQUOS sense8」では、OSのバージョンアップ方針が改正されている。従来機種まではバージョンアップは最大2回、セキュリティアップデートは発売後3年の配布予定だったが、バージョンアップは最大3回、セキュリティアップデートは発売後5年にそれぞれ延長された。これによって、長く使い続けても最新のソフトウェアの環境を長く維持できるはずだ。
最後に価格を見てみよう。2023年10月中旬時点では、NTTドコモ版が62,150円、楽天モバイル版は63,800円、家電量販店で扱うSIMフリーモデルは5万円台後半を予定している(いずれも税込価格)。販路によって多少のばらつきはあるが、前モデル「AQUOS sense7」の売り出し価格よりも1万円前後値上がりしている。しかし、この機能をこの価格で実現したのであれば、割高な印象はかなり薄まる。
この価格帯はちょうど、Google の人気モデル「Pixel 7a」の直販価格62,700円と重なる。価格.comでも人気の「Pixel 7a」は高いコスパを誇るが、本機は、「Pixel 7a」とボディやディスプレイのサイズ感は大きく変わらないものの30g以上軽い。しかも、タフネス仕様をクリアしている。また、バッテリー持ちや光学式手ブレ補正機構の付いたカメラも本機ならではの魅力だろう。
シャープは本機の企画に際して、「Pixel」シリーズを強く意識したという。確かにその言葉どおりに、「Pixel 7a」の購入を考えている場合、本機を手に取ってから改めて判断しても遅くないはずだ。価格調整が進めば、「Pixel 7a」をしのぐ魅力を発揮してもおかしくないだろう。