スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、再び日本市場で攻めの姿勢を見せる中国メーカーZTEの折りたたみスマートフォン「Libero Flip」と「nubia Flip 5G」を取り上げる。安さの理由や今後の新製品に与える影響に迫ろう。
※本記事中の価格は税込で統一しています。
「nubia」ブランドでSIMフリー市場に再参入したZTEから低価格の折りたたみスマホ「Libero Flip」「nubia Flip 5G」が登場。その戦略を解説する
ディスプレイを直接折りたたむことができる「折りたたみスマートフォン」はここ数年来、国内でも機種数が徐々に増えつつある。この分野の先駆的存在でもあるサムスン電子をはじめとして、力を入れる海外メーカーが増えてきているようだ。
そうしたなか、折りたたみスマートフォンで大きなサプライズを打ち出したのがソフトバンクだ。同社は2024年2月29日に折りたたみスマートフォン「Libero Flip」の発売を発表したのだが、その販路はメインブランドの「ソフトバンク」ではなく、価格重視のサブブランド「ワイモバイル」。注目の価格は、ワイモバイルのオンラインストアで63,000円と、一般的なスマートフォンと大きく変わらない価格を実現しているのだ。
ソフトバンクが販売している折りたたみスマートフォン「Libero Flip」。縦折りタイプのスマートフォンで、価格は63,000円と破格の安さだ。ワイモバイルから販売されている
驚きはそれだけにとどまらない。「Libero Flip」を開発・製造している中国のメーカーZTEは2024年3月14日に発表会を実施し、家電量販店などに向けたオープン(SIMフリー)市場に向けた「nubia」ブランドのスマートフォンとして「nubia Flip 5G」と「nubia Ivy」の2機種をリリースしたのだ。
現在の折りたたみスマートフォンの相場は、開くとタブレットのようにして利用できる横折り型のものが20万円台、大画面のスマートフォンを折りたたんでコンパクトにできる縦折り型のものなら10万円台だ。高額で手を出しづらいイメージが強いのだが、「Libero Flip」は縦折り型でFeliCaにも対応しながら、相場の半額近い値段を実現したことからインパクトは大きかった。
「nubia Flip 5G」は「Libero Flip」にかなり近しいデザイン・性能で、FeliCaにも対応するなど日本向けカスタマイズをしっかり施しながらも、やはり79,800円と非常に安い価格を実現している。
「Libero Flip」の開発元であるZTEは、オープン市場に向けた独自の「nubia」ブランドでスマートフォンを販売することを明らかにしている
ちなみに「nubia Flip 5G」が「Libero Flip」より値段が高いのは、メモリーが6GBから8GBへ、ストレージが128GBから256GBにそれぞれ増量されたほか、ソフトバンク以外の携帯電話会社でも快適に通信できるよう対応する周波数帯を増やすなど、やや性能が高められているためだ。
オープン市場に向けて投入される「nubia Flip 5G」は、「Libero Flip」をベースにした折りたたみスマートフォン。性能がやや高い分、価格も少し高めだがそれでも8万円を切るのは驚きだ
ZTEは価格競争力に強みを持つ中国メーカーではあるが、それでも日本は今円安の状況下にあるだけに、折りたたみスマートフォンをこれだけ低価格で提供するのはなかなか難しい。一体なぜ、これだけの低価格を実現しているのだろうか。
本体から低価格の理由を探ると、ポイントのひとつは本体の厚さと重さだろう。折りたたみスマートフォンは基本的に持ち運ぶときは折りたたんでポケットなどに入れることから、かさばらないよう本体を薄くすることに力を入れている。「Libero Flip」や「nubia Flip 5G」と同じ縦折り型スマートフォンを例にあげると、ハイエンドモデルに位置付けられるサムスン電子の「Galaxy Z Flip5」は、開いた状態での厚さが6.9mmとかなりの薄さだ。
これに対しZTE が今回発表した2機種はいずれも、開いた状態での厚さが一般的なスマートフォンに近い7.3mmで、閉じると15mmを超える。そのためポケットに入れると厚さを感じやすい。
加えて重量は約214gと、スマートフォンの中では重めの部類に入る。薄型化や軽量化はコスト増につながるため、価格を引き下げることを重視していることがボディの構造からもうかがえる。
「nubia Flip 5G」を側面から見たところ。一般的なスマートフォンに近い7.3mmの厚さなので、折りたたむとスマートフォン2台分といったところ
さらに、ベースの性能を引き下げていることも大きい。「Libero Flip」「nubia Flip 5G」は、チップセットにハイエンド向けのものではなく、クアルコム製のミドルハイクラス向けとなる「Snapdragon 7 Gen 1」を採用。チップセットはスマートフォンの価格で大きな部分を占めることから、採用するチップセットの性能を落として低価格化を実現していることがわかる。
ただ同じ縦折り型のモトローラ・モビリティ製スマートフォン「motorola razr 40」は、「Libero Flip」「nubia Flip 5G」に近いサイズとスペックながら価格は12万円台。このことからも、8万円を切るZTEの 2機種が破格であることがわかるはずだ。さらに言えば、「nubia Flip 5G」の海外での販売価格は599ドル(約89,000円)なので、いかに日本での販売価格が安いかが理解できるだろう。
そこでもうひとつ大きな理由として、ZTEが日本での販売を拡大するため戦略的に価格を引き下げていることが指摘できる。
実は、ZTEは2008年から日本市場に進出している古参のメーカーで、携帯大手に向け多くの端末を供給してきた経験を持つ。ただ、2018年に通信機器事業を巡って米国から制裁を受け、一時は経営危機に陥るなど事業に大きなダメージを受けている。
制裁は同年に解除されており、それ以降同社は徐々に日本市場での事業を回復。現在ではKDDIやソフトバンクに加え楽天モバイルにも端末を供給しているほか、オープン市場に向けてもゲーミングスマートフォン「REDMAGIC」シリーズを販売している。そこで、ZTEは再び日本市場を本格開拓するべく、攻めの戦略を取るようになったと言える。
ZTEのゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 9 Pro」。ニッチな製品だが最新のハイエンドSoC「Snapdragon 8 Gen3」や大容量メモリーを備えながら、10万円台前半という低価格を実現。価格あたりの処理性能はきわめて高い
攻めの姿勢は「Libero Flip」の国内発表からも見て取れる。実は日本で「Libero Flip」が発表されたのは、「nubia Flip 5G」が海外で発表された2024年2月26日から約1週間前の2024年2月19日。世界に先駆けて日本への投入が打ち出されていることからも、いかにZTEが「Libero Flip」「nubia Flip 5G」での日本市場開拓に力を入れているかが理解できるだろう。
実は「nubia Flip 5G」は、2024年2月26日からスペインで実施されていた携帯電話の見本市イベント「MWC Barcelona 2024」の開催に合わせて発表されたもの。「Libero Flip」はそれより先に日本で発表されており、ZTEの力の入れ具合を見て取れる
ZTEは、携帯大手に向けて長年端末を供給しており、日本市場での経験が豊富なことも押さえておきたい。
日本市場はほかの国と比べ端末の品質に対する要求が多く、それがコストアップ要因のひとつとされることが多い。実際、ここ最近、携帯大手への端末供給実績が少なかったモトローラ・モビリティは、「motorola razr 40」の価格が10万円を超えた理由として、円安だけでなく、携帯大手に納品できる水準の品質を確保するための試験にコストがかかったこともあげている。
だが、ZTEは、長年の経験から携帯大手が求める水準の品質を確保するためのノウハウを持っている。それゆえ日本市場に向けた品質試験のコストを織り込んで設計したことが、「Libero Flip」「nubia Flip 5G」を低価格で提供できた要因のひとつになったと考えられるのだ。
ZTEから10万円を切る低価格の折りたたみスマートフォンが国内でも登場したことで、後続する折りたたみスマートフォンは、これら2製品を意識して価格を設定することになるだろう。それだけに2024年は、値段の安い縦折り型を中心として、10万円を切る端末がいくつか登場し競争が加速する可能性は高い。そうなれば、より多くの人が折りたたみスマートフォンを手にできるようになるだけに、大いに期待したいところだ。