スマートフォンやモバイル通信、そしてお金にまつわる話題を解説する「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、携帯各社のメインブランドにおける無制限プランで現れつつある傾向、つまり新規顧客の獲得から、すでに契約済みのユーザーを重視する傾向を解説する。消費者視点でも料金プラン選びや乗り換えへの認識を変える必要がありそうだ。
NTTドコモやKDDIなどの携帯大手は、既存顧客重視の方針を打ち出している。そのためメインブランドの料金プランを強化し、既存顧客の満足度向上を図っている、その詳細を解説する
※本記事中の価格はすべて税込で統一している。
これまでモバイル通信の新規契約者を獲得することに、非常に重きを置いてきた携帯電話会社。だがここ最近、その携帯電話会社がこれまでの戦略を転換する発言が相次いでいる。
それは2025年11月に相次いで実施された、2025年7〜9月期の決算説明会でのこと。ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、2025年11月5日の決算説明会で、短期契約者を増やす販促活動が非効率なことから、今後はその戦略を改め、固定ブロードバンドなど同社のサービスを複数利用してくれる、長期契約者に力を注ぐ考えを示していた。
ソフトバンクの宮川氏は2025年11月5日の決算説明会で、短期契約者の獲得から長期契約者重視へと、戦略を転換する方針を示している(出所:ソフトバンク)
また、翌11月6日の決算説明会に登壇したKDDIの代表取締役社長である松田浩路氏は、特定の目的で短期解約を誘発する販売手法を見直していると発言。やはり同社のサービスを長期利用してくれるユーザーに力を入れていく方針を打ち出している。
KDDIの松田氏も2025年11月6日の決算説明会で、やはり販売方法を見直して長期利用に重点を置く方針を示した(出所:KDDI)
先にも触れたように、携帯電話業界は長きにわたって、いかに新規契約者を獲得するかに並々ならぬ力を注いできた。携帯電話のビジネス上、契約者を増やすことこそが売り上げの増加に直結するだけあって、少子高齢化の影響で市場が飽和してもなお、乗り換え顧客にスマートフォンの激安販売や高額キャッシュバックなどを提供することで、ユーザーを奪い合う競争が長く続いていた。
だが、その競争があまりに過熱したことで、行き過ぎたスマートフォンの値引きやキャッシュバック合戦を招き、行政の怒りを買うなどして多くの弊害を生んできたことも事実である。2019年の電気通信事業法改正以降、スマートフォンの値引き販売には非常に厳しい規制が敷かれることとなったし、最近では乗り換え契約者に向けたポイント還元などを目当てに、短期間で乗り換えを繰り返す「ホッピング」行為が大きな問題となっている。
いっぽうで、日本の携帯電話利用者は、同じ携帯電話会社のサービスを長く利用し続ける、忠誠心の強い人が多い。そこで携帯各社は、多額の販促費をかけてホッピングを繰り返す顧客ばかり獲得するよりも、既存顧客によりよいサービスを多く利用してもらうことで優良顧客に育て、1人当たりから得られる売り上げを高めたほうが事業成長につながると判断し、戦略転換を図るにいたったと考えられる。
とりわけここ最近、既存顧客の売り上げを高めるべく各社が力を入れているのが、料金の高いメインブランドの上位プランの魅力や付加価値を高め、サブブランドや低価格プラン利用者の移行をうながすことだ。実際、ソフトバンクは2024年度上期以降、サブブランドの「ワイモバイル」からメインブランドの「ソフトバンク」へ移行する人の数が、その逆より多くなっているし、KDDIも2025年9月に、サブブランド「UQ mobile」からメインブランド「au」へ移行する人の数が、その逆より多くなったとしている。
携帯各社はサブブランドや低価格プランから、メインブランドや高価格プランへの移行を積極的に進めており、KDDIは2025年9月に「UQ mobile」から「au」への移行がその逆を上回ったとしている(出所:KDDI)
ただ上位プランの付加価値を高める方法は、携帯電話会社によって違いが出てきており、各社のカラーが見られるようになってきた。たとえばNTTドコモの上位プラン「ドコモ MAX」の場合、「DAZN for docomo」「NBA docomo」などの映像配信サービスを料金プランとセットにすることでお得感を打ち出し、付加価値を高めることに力を入れている。
そこでNTTドコモは、「ドコモ MAX」の付加価値をより強化するべく、2025年11月4日に新たな施策を発表している。それは2026年2月より、「ドコモ MAX」に同社の映像配信サービス「Lemino」「dアニメストア」を追加し、先の2サービスを含めた4つのサービスの中から2つを選べる「選べる特典」を追加することだ。
加えてNTTドコモは同日に、衛星放送の「WOWOW」との提携によるコンテンツの共同調達・制作に乗り出すことも発表している。「WOWOW」が得意とする音楽ライブやドラマを中心に、「Lemino」の映像配信コンテンツを強化することにより、これまで手薄だったスポーツに関心の薄い人たちを「ドコモ MAX」に取り込もうとしていることがわかる。
その一方で、NTTドコモは2026年2月1日より、dアニメストアの月額料金を550円から660円に、Leminoの有料プラン「Leminoプレミアム」の月額料金を990円から1540円に値上げすることも打ち出している。とりわけLeminoプレミアムの値上げ幅は大きく、既存顧客にはかなりのデメリットになると考えられるが、それでもなおコンテンツを充実させることでドコモMAX価値を高め、契約促進を図りたいのだろう。
NTTドコモは「WOWOW」との提携により「Lemino」のコンテンツ強化を発表。2026年2月には「ドコモ MAX」に、その「Lemino」を加えた4つの映像配信サービスから2つを選べる「選べる特典」を追加し、スポーツに興味のない人達の取り込みを強化しようとしている(出所:NTTドコモ)
KDDIは2025年12月1日より、auブランド向けの新料金プラン「auバリューリンク マネ活2」「使い放題MAX+ マネ活2」の提供を開始している。これらは「auじぶん銀行」「au PAYカード」など、KDDI傘下の金融・決済サービスと通信サービスを連携してお得に利用できる「マネ活」プランの最新版で、2つのプランの違いは前者だけ「Pontaパス」が付属することのみである。
KDDIは2025年12月1日より「auバリューリンク マネ活2」などを開始。金融・決済サービスと連携した「マネ活」プランの最新版となる(出所:KDDI)
従来提供されていた「auマネ活バリューリンクプラン」「auマネ活プラン+」との違いは大きく2つある。1つは決済方法によらずポイント還元の上限が統一されたこと。auマネ活プラン+などでは、au PAYクレジットカードとスマートフォン決済の「au PAY」のそれぞれに「Ponta」ポイント還元の上限があり、まんべんなくポイント還元の恩恵を得るには、双方の決済サービスを考えながら使う必要があった。
だが新しい「auバリューリンク マネ活2」などでは、ポイント還元額がau PAYクレジットカードとau PAYの両方で、毎月2,500ポイントまでに変更された。このため、ポイント還元を最大限得るのに決済手段を使い分ける必要がなくなり、非常にわかりやすくなっている。
そしてもう1つはauじぶん銀行との連携がいっそう強化されたこと。新たに、auじぶん銀行の普通預金口座に預けている金額に応じて最大550円のキャッシュバックが得られる「銀行あずけて特典」が用意されたほか、「通信料お支払い特典」ではau PAYカードで通信料金を支払い、引き落とし口座をauじぶん銀行に設定することで、最大1,650円のキャッシュバックが得られる。
これらをすべて合計すると毎月2,200円のキャッシュバックと2,500のPontaポイント還元が得られ、さらに指定の固定ブロードバンドサービス契約による「auスマートバリュー」(月額1,100円引き)を適用した場合、実質的に5,800円相当の値引きが得られる計算となる。「auバリューリンク マネ活2」は月額9,328円、「使い放題MAX+ マネ活2」は月額9,108円なので、これらを適用した実質負担金は月額でそれぞれ3,528円、3,308円と、非常に安くなることがわかるだろう。
「マネ活2」の新プランでは、「au PAY」など決済サービス利用で2,500ポイント、「auじぶん銀行」との連携により税抜相当額で2,000円、実際には2,200円が還元され、合計で4,700円相当の還元が毎月受けられる
無論、すべての条件を達成するにはau PAYカード、au PAY、そしてauじぶん銀行をフルに保有・活用する必要があるし、場合によってはメインバンクの乗り換えが求められる。加えて決済時に還元されるポイントの割合が、年会費無料の「au PAYカード」は1%、「au PAYゴールドカード」は5%という違いがあるので、au PAYゴールドカードの利用はほぼ必須と言っても過言ではない。
それゆえ、実際に恩恵を最大限受けられるユーザーはかなり限定されるが、上位プランを安く利用できるお得さをアピールしてグループの金融・決済サービスをより多く利用してもらうことにより、優良顧客の囲い込みを強化することがKDDIの最大の狙いとなる訳だ。
2025年10月に開始となった楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten最強U-NEXT」もこうした高付加価値化に沿ったたものと言えよう。ただし、既存の「Rakuten 最強プラン」はそのままであり、従来の価格と付加価値を選ぶ余地が残されている。
これらの競合他社が上位プランの付加価値強化で積極的な動きを見せるいっぽう、現在のところ動きを見せていないのがソフトバンクである。ソフトバンクは携帯大手3社の中で、唯一新プランの導入などでメインブランドであるソフトバンクブランドの実質的な値上げをしておらず、それが新規契約獲得の好調につながっていることもあってか、ソフトバンクブランドの新プラン導入には慎重な姿勢を続けている。
ただ、新規顧客の獲得から、既存顧客の優良顧客化へと競争の軸が変化しつつある中にあっては、ソフトバンクも現行の上位プラン「ペイトク」をアップデートする、あるいは新プランを投入するなどして、付加価値を高めていくことが求められるだろう。値上げだけにとどまらない、新たな価値をもたらす新プランの登場が、ソフトバンクには待たれるところだ。
このように携帯各社は、契約数の追求から顧客の質・満足度の向上に方針を変えつつある。この流れを消費者の立場で受け止めると、メインブランドにおいて1社と腰をすえて契約するつもりでいたほうがよいだろう。そしてそれらを選ぶ場合は、これまで重視されていた料金額の比較からいったん距離を置き、映像配信に関心が高いならNTTドコモ、KDDIの金融サービスを使っている・使う予定があるならauというように、各プランが提供する付加価値を比較し、自分に合ったもの選ぶ時代が訪れつつあるようだ。
としていることがわかる。