AI機能を推し進めているマイクロソフトは2024年5月21日、AI対応PCの製品カテゴリー「Copilot+ PC」を発表しました。あわせて、各PCメーカーが一斉に「Copilot+ PC」準拠のノートPCをリリースしています。
驚かされたのは、今回登場した「Copilot+ PC」準拠モデルのすべてが、クアルコムの「Snapdragon X」シリーズを採用していること。マイクロソフトによると、「Snapdragon X」シリーズはアップルの「M3チップ」をも超える性能を実現しているとのことで、注目しないわけにはいきません。一体どんな特徴を持っているのでしょうか?
マイクロソフトが発表したAI対応PCの製品カテゴリー「Copilot+ PC」。高い基本スペックが求められるカテゴリーです
「Snapdragon X」搭載の「Copilot+ PC」
「Windowsパソコンが搭載するCPUはインテル製もしくはAMD製」という印象を持っている人も多いことでしょう。ご存じのとおり、Windows用のCPU市場は長年にわたり、この2メーカーがほぼ独占している状態ですので、「WindowsのCPU=インテルかAMD」というのは“常識”と言ってもいいかもしれません。
価格.com「ノートパソコン」カテゴリーでの売れ筋製品のCPUシェア率を示すグラフ(2024年5月22日時点)。インテルの「Core」シリーズ、AMDの「Ryzen」シリーズでほぼ埋め尽くされています。「その他」もほぼインテル/AMD製のCPUです
その常識を打ち破ろうとしているのが、Androidスマートフォン/タブレット用のSoC(CPU、GPUなどを1つのチップに集約したもの)で大きなシェアを持つクアルコムです。AI対応が進むWindowsノートPC市場に、同社の技術を詰め込んだと言ってもいい新型SoC「Snapdragon X」シリーズを投入しました。
「Snapdragon X」シリーズの注目点は、何と言っても性能の高さです。4nmプロセスを採用した新設計の「Oryon CPU」を採用するうえ、モバイル向けとしてはクラス最高の45TOPS(1秒間で処理できる演算回数を示す単位)の処理性能を発揮するNPU(AI処理に特化したエンジン)も搭載しています。
NPU単体で45TOPSというスペックは驚異的です。2024年5月22日時点では、インテルとAMDがCPU/NPU/GPUを組み合わせて30TOPS台にとどまっている点を考慮すると、「Snapdragon X」シリーズのNPU性能は現時点で最強と言っていいと思います。
AI対応PCの製品カテゴリー「Copilot+ PC」では、NPUに対して40TOPS以上という要件を定めています。発表されたばかりの新しいカテゴリーとはいえ、現時点で要件をクリアしているのは「Snapdragon X」シリーズのみ。インテルもAMDも、現在開発中の新しいSoCでNPUを大幅にアップデートすることが予想されますが、クアルコムがいち早く「Copilot+ PC」の要件をクリアしてきたのはインパクトが大きいです。
「Snapdragon X」シリーズは、12コア仕様の「Snapdragon X Elite」と10コア仕様の「Snapdragon X Plus」がラインアップしています
Snapdragon X Elite
・X1E-84-100
12コア、3.8GHz、デュアルコアブースト4.2GHz、4.6TFLOPS、LPDDR5x対応
・X1E-80-100
12コア、3.4GHz、デュアルコアブースト4.0GHz、3.8TFLOPS、LPDDR5x対応
・X1E-78-100
12コア、3.4GHz、3.8TFLOPS、LPDDR5x対応
Snapdragon X Plus
・X1P-64-100
10コア、3.4GHz、3.8TFLOPS、LPDDR5x対応
ちなみに、マイクロソフトによると、「Snapdragon X」シリーズを搭載した「Copilot+ PC」は、8コアCPU/10コアGPU構成の「M3チップ」を採用する、アップルの「MacBook Air 15」 と比較して、「Cinebench 2024 マルチコアベンチマーク」の結果が最大58%上回ったとのこと。これだけの性能の高さだと消費電力が気になるところですが、マイクロソフトによれば、1回の充電で最大22時間のビデオ再生、または15時間のWebブラウジングが可能とのことで、「MacBook Air 15」よりもバッテリー効率が高いことをアピールしています。
ただし、「Snapdragon X」シリーズを搭載するWindowsパソコンでは、クアルコムとインテル/AMDでアーキテクチャーが異なる点には注意が必要です。インテルとAMDはいわゆるx86アーキテクチャーですが、クアルコムはArmと呼ばれるアーキテクチャーを採用しており、基本的に両者の互換性はありません。Arm版のWindows 11には、x64(64ビット)アプリをエミュレートする機能が備わっていますし、Photoshop、Lightroomなどネイティブでの動作をサポートしているアプリも用意されていますが、一部アプリが動かないケースも考えられます。
「Copilot+ PC」には、OSに組み込まれるAI機能として、画像生成AIと写真を組み合わせて加工できる「Restyle Image」などが用意されています
クアルコムのSoCを搭載するWindowsパソコンは、これまで、マイクロソフトやレノボなど一部メーカーが採用してきましたが、今回「Copilot+ PC」の発表にあわせて、「Snapdragon X」シリーズを搭載する新しいノートPCが多くのメーカーから登場しました。
ここでは、各メーカーが発表した新モデルをまとめます。ポイントは、その高い処理性能を考慮すると比較的価格が抑えられていること。ハイスペックなノートPCとしては結構お買い得だと思います。
ディスプレイ:14.5インチ有機EL(2944×1840)
SoC:Snapdragon X Elite X1E-78-100
メモリー:32GB
SSD:1TB
市場想定価格:249,700円前後(税込)
レノボ「Yoga Slim 7x」
ディスプレイ:15.6インチ有機EL(2880×1620)
SoC:Snapdragon X Elite X1E-78-100
メモリー:32GB
SSD:1TB
希望小売価格:249,800円(税込)
ASUS「Vivobook S 15 S5507QA」
ディスプレイ:13.8インチ液晶(2304×1536)
SoC:Snapdragon X EliteもしくはSnapdragon X Plus
メモリー:16GB/32GB
SSD:256GB/512GB/1TB
直販価格:207,680円(税込)〜
マイクロソフト「第7世代Surface Laptop 13.8インチモデル」
ディスプレイ:15インチ液晶(2496×1664)
SoC:Snapdragon X Elite
メモリー:16GB/32GB
SSD:256GB/512GB/1TB
直販価格:268,180円(税込)〜
マイクロソフト「第7世代Surface Laptop 15インチモデル」
ディスプレイ:13インチ有機ELもしくは液晶(2880×1920)
SoC:Snapdragon X EliteもしくはSnapdragon X Plus
メモリー:16GB/32GB
SSD:256GB/512GB/1TB
直販価格:207,680円(税込)〜
マイクロソフト「第11世代Surface Pro」
ディスプレイ:14インチ液晶(2240×1400)
SoC:Snapdragon X Elite X1E-78-100
メモリー:16GB
SSD:1TB
直販価格:249,700円(税込)〜
HP「OmniBook X 14-fe」
ディスプレイ:13.4インチ液晶(1920×1200)
SoC:Snapdragon X Elite X1E-80-100
メモリー:16GB
SSD:512GB
直販価格:249,980円(税込)
デル「XPS 13」
ディスプレイ:14インチ液晶(2560×1600)
SoC:Snapdragon X Plus X1P-64-100
メモリー:16GB
SSD:512GB
直販価格:179,800円(税込)
デル「Inspiron 14 Plus」