レビュー

裏切りか進化か? 4Kを捨てた「Xperia 1 VI」をペリア信者がレビューした

2024年6月7日にシリーズ6世代目の「Xperia 1 VI(マーク・シックス)」がNTTドコモ、au、ソフトバンク、そして家電量販店などで発売された。4KからフルHD+に変更されたディスプレイなど大きな方針変更で話題を集めているが、実際はどうなのか? Xperiaシリーズを使い続けてきた筆者がじっくりレビューした。

4Kディスプレイをやめた「Xperia 1 VI」を取り上げる

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2024/05/15 16:01

個性よりも実利を選んだフルHD+ディスプレイ

「Xperia 1 VI」に搭載される有機ELディスプレイは、約6.5インチ、2340×1080のフルHD+表示に対応する。従来機種「Xperia 1 V」は約6.5インチ、3840×1644の4K表示だったので、計算上の情報量は半分以下になった。

なお、ディスプレイの面積自体に変更はないものの、縦横比も21:9から一般的な19.5:9に変更されている。4K表示と縦長ディスプレイは「Xperia 1」シリーズの象徴でもあったので、衝撃を受けた人は多かっただろう。

しかし、解像度には注意したい点がある。従来の4Kディスプレイも、実際に4Kで動作するのは、プリインストールされる動画アプリや映像アプリなど一部のみ。ホーム画面や設定画面、大部分のアプリはフルHD+相当(厳密には2560×1096)で表示されていた。4Kディスプレイは象徴だったが、あまり使われない機能でもあった。

新しいディスプレイは、フルHD+になったことで開口率が改善した。その結果、最大輝度が向上し、バッテリーの消費も減っている。加えて、可変リフレッシュレート(1〜120Hz)にも対応するなど、競合製品と比べて見劣りのない、名よりも実を重視したディスプレイになっている。

「Xperia 1 V」(左)と「Xperia 1 VI」(右)のディスプレイを比較。4KからフルHD+に解像度が変更されている。縦横比も一般的な19.5:9に変更されたので、シルエットも個性は薄くなった

「Xperia 1 V」(左)と「Xperia 1 VI」(右)のディスプレイを比較。4KからフルHD+に解像度が変更されている。縦横比も一般的な19.5:9に変更されたので、シルエットも個性は薄くなった

「Xperia 1 VI」(左)と「Xperia 1 V」(右)のディスプレイ情報。「Xperia 1 V」も通常はフルHD+で表示されていることがわかる

「Xperia 1 VI」(左)と「Xperia 1 V」(右)のディスプレイ情報。「Xperia 1 V」も通常はフルHD+で表示されていることがわかる

新たな価値はバッテリー持ち

4Kディスプレイの個性を失ったが、「Xperia 1 VI」にはバッテリー持ちという武器が与えられた。

内蔵するバッテリーは5000mAhで、「Xperia 1 V」と変わらない。しかし、au版「SOG13」のスペックを見ると連続通話時間は約2810分、連続待受時間が約700時間となっている。

たとえば、同じSoC、同じ容量のバッテリーを搭載する「Galaxy S24 Ultra(SCG20)」は連続通話時間が約2570分で、連続待受時間が約390時間だ。もちろん、「Galaxy S24 Ultra」はディスプレイが6.8インチと大きく単純な比較対象とするのは難しいが、それでも「Xperia 1 V」のバッテリー持ちのよさが伝わるだろう。

なお、歴代の「Xperia 1」シリーズと動画の連続再生時間を比較すると、前モデル「Xperia 1 V」の17時間に対して、「Xperia 1 VI」は36時間で、倍以上延長されている。両機で動画を再生し続けたところ、バッテリーの消費ペースは「Xperia 1 VI」は「Xperia 1 V」の大体半分だった。これならバッテリーを気にせずに存分に動画を楽しめるだろう。

いっぽう、「原神」や「AnTuTuベンチマーク」のように、SoCに負荷がかかるうえに、画面の動きも大きく可変リフレッシュレートの恩恵を受けにくいタイプのアプリではバッテリー持ちに大きな違いはないようだ。

「AnTuTuベンチマーク」実行中のバッテリー消費のペース。左が「Xperia 1 VI」、右は「Xperia V」いずれも3〜4%の消費で大きな変わりはない

「AnTuTuベンチマーク」実行中のバッテリー消費のペース。左が「Xperia 1 VI」、右は「Xperia V」いずれも3〜4%の消費で大きな変わりはない

OSバージョンアップは1回増えて3回に

「Xperia 1 VI」では、OSのバージョンアップが従来の2世代から3世代に1回増えた。また、セキュリティアップデートの配布も3年から4年に1年分増えている。

しかし、サムスンの「Galaxy S24」シリーズや、Googleの「Pixel 8」シリーズなどでは、7世代のOSバージョンアップと、7年間のセキュリティアップデートが打ち出されている。この1年でAndroidのソフトウェアサポートは劇的に改善されているが、こうした状況に本機は追い付けていない。今回のサポート延長は評価できるが、さらなる改善が必要と感じる。

本格的に使えるテレマクロ撮影機能

メインカメラは、16mmの超広角カメラ(約1200万画素)、24mmの広角カメラ(約4800万画素)、85〜170mmの光学ズーム望遠カメラ(約1200万画素)のトリプルカメラ。超広角カメラと広角カメラは前モデルから継承されたものになるが、望遠カメラは新しいものになる。

この望遠カメラは、焦点距離が「Xperia 1 V」の125mmよりも45mm伸びたことと、被写体から少し離れた位置からマクロ撮影を行うテレマクロ撮影機能を備えているのがポイント。光学ズーム170mmの焦点距離は、競合するハイエンドカメラスマホのシャオミ「Xiaomi 14 Ultra」やサムスン「Galaxy S24 Ultra」の光学ズームのテレ端である120mm前後よりも50mmほど長い。これだけ差があれば構図に与える影響も大きい。

カメラ周辺のデザインは前モデルから変わっていない

カメラ周辺のデザインは前モデルから変わっていない

以下に、静止画の作例を掲載する。初期設定のままシャッターを押すだけで撮影を行っている。

超広角カメラ

明暗差の大きな構図。誇張が少ないXperiaらしい仕上がりだ。さすがに暗部はつぶれ気味だがノイズは少ない

明暗差の大きな構図。誇張が少ないXperiaらしい仕上がりだ。さすがに暗部はつぶれ気味だがノイズは少ない

広角カメラ

最も高品位なセンサーを採用する広角カメラで撮影。構図左下の軒下の赤い屋根裏の解像感や階調はかなり保たれている。明るい部分も破綻がない

最も高品位なセンサーを採用する広角カメラで撮影。構図左下の軒下の赤い屋根裏の解像感や階調はかなり保たれている。明るい部分も破綻がない

望遠カメラ(85mm)

構図中央付近の遠方に見える 「東京駅」の看板がはっきり見える

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望遠カメラ(170mm)

望遠カメラで光学ズームの最大170mmまで寄って撮影。デジタルズームのようなノイズが見られないうえに、画質も担保されている

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超広角カメラ

ノイズを抑えつつ、鮮やかにしすぎない夜景撮影の伝統は変わっていない

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広角カメラ(2倍デジタルズーム、48mm相当)

広角カメラの2倍デジタルズームで撮影。デジタルズーム特有のノイズは見られず、これなら十分に実用的だ

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望遠カメラ(85mm)

望遠カメラが苦手とする夜景だが、手ブレは抑えられている

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望遠カメラ(170mm)

望遠カメラの光学ズームを最大にきかせた状態。解像感が低下しており望遠カメラの夜景撮影には限界がある

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テレマクロモード

テレマクロモードで撮影。被写体までの距離はおよそ30cm。葉脈の解像感などマクロ撮影らしい1枚になった

テレマクロモードで撮影。被写体までの距離はおよそ30cm。葉脈の解像感などマクロ撮影らしい1枚になった

テレマクロ撮影時は、マニュアルでのピント合わせが可能。ピントのピーク位置を黄色く表示してくれる

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「Xperia 1 VI」は、静止画と動画撮影を「カメラ」にまとめている。加えて、前モデルではカメラ専用機的なUIが使われていたのに対して、一般的なスマホのカメラアプリにならったものに変更された。従来の静止画撮影アプリ「Photography Pro」の機能的な操作性が失われたのは、筆者には4Kディスプレイ廃止よりも残念だったが、みなさんはどうだろうか。

「Xperia 1 IV」の「カメラ」の操作画面。タッチ式シャッターを備える普通の操作となった

「Xperia 1 IV」の「カメラ」の操作画面。タッチ式シャッターを備える普通の操作となった

ベンチマークテストの結果は振るわず

次は処理性能に迫ろう。搭載されるSoCは、「Snapdragon 8 Gen 3」。メモリーとストレージの異なる3モデルがあり、検証機「SOG13」を含む通信事業者向けモデルは12GBのメモリーと256GBのストレージを備える。このほかに、SIMフリーモデルでは12GBメモリー+512GBストレージモデル、16GBメモリー+512GBストレージモデルも用意されている。なお、いずれも1.5TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを搭載する。

定番の「AnTuTuベンチマーク(バージョン10.X)」でベンチマークテストを行ったところ、総合スコアは1582090となった。同じSoCを搭載する「REDMAGIC 9 pro」のスコア2169655と比べると見劣りする。誤差としては大きすぎるので、なんらかの制約がかかっている可能性がある。

左が本機、右が同じSoCの「REDMAGIC 9 Pro」のスコア。「REDMAGIC 9 Pro」のスコアは「Snapdragon 8 Gen 3」搭載機としては標準的なもので、「Xperia 1 VI」のスコアのほうが標準を下回った

左が本機、右が同じSoCの「REDMAGIC 9 Pro」のスコア。「REDMAGIC 9 Pro」のスコアは「Snapdragon 8 Gen 3」搭載機としては標準的なもので、「Xperia 1 VI」のスコアのほうが標準を下回った

上記のベンチマークテストの結果は、1世代前の「Snapdragon 8 Gen 2」に近いもので、上出来とは言えないレベルだった。実際の動作においても「原神」や「シャニソン(アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism)」のような超重量ゲームでは、同じSoCを搭載するものに比べて、引っ掛かりを感じる場面が多かった。

バッテリー持ちとテレマクロカメラという新たな個性と可能性

4Kディスプレイを廃止し、今までのこだわりを捨てたことは確かで、過去の「Xperia 1」シリーズの愛好者にとっては複雑な気持ちになる製品だろう。しかし、新しいディスプレイは、新たな魅力であるバッテリー持ちを支えている。用途の限られる4Kディスプレイと、誰でも恩恵を受けられるバッテリー持ちのどちらを優先するかは言うまでもないのかもしれない。

テレマクロ撮影は、スマホカメラの新たな機能として評価できる。今までのオマケのようなスマホのマクロカメラとは雲泥の差だ。テレマクロに注目するのもカメラメーカーのソニーならではで、「Xperia」にはまだ武器があると感じた。筆者は前モデル「Xperia 1 V」を傑作と評価したが、バッテリー持ちがよくカメラに新機能がある本機もそれに劣らない1台だろう。

田中 巧(編集部)
Writer / Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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