スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、シャープの「AQUOS R10」に見られる、基本性能を据え置きにした新型スマートフォンを取り上げる。値上がりを避けたいメーカー、性能にはおおむね満足しているユーザーそれぞれの思惑が合致した結果のようだ。
※本記事中の価格は税込で統一している。
シャープ「AQUOS R10」。2025年7月上旬発売予定。SIMフリー版の価格は11万円前後(税込)
2025年の5月から6月にかけて、スマートフォンの新機種が相次いで発表されている。ゴールデンウィーク明けに発表が集中した2024年と比べて2025年は各社の発表タイミングにややばらつきがあるものの、春夏の注目モデルはほぼ出揃った状況だ。
そのラインアップを見るとひとつ興味深い点がある。それは、「あまり進化していないのではないか?」と感じさせる機種がいくつか用意されていることだ。その代表例がシャープの「AQUOS R10」。これはシャープのなかではハイエンドに位置づけられる「AQUOS R」シリーズの新機種で、2024年発売の前機種「AQUOS R9」をブラッシュアップしたものとなる。
シャープの新機種のひとつ「AQUOS R10」。前機種「AQUOS R9」をベースとしながら、細かなアップデートで使い勝手を強化したモデルだ
「AQUOS R9」は、三宅一成氏が設立した「miyake design」監修のデザインが賛否を呼んだものの、定評のある独ライカカメラが監修した高画質カメラを搭載するなど性能のバランスのよさが評価され、販売は好調だった。後継機種の「AQUOS R10」は「AQUOS R9」のコンセプトを継続しながら、ディスプレイやサウンド、AI関連機能などを強化している。一見すると順当なスペックアップを果たしているように思えるが、注目してほしいのは、チップセットやメモリーといったコンピューターの基本性能にあたる部分だ。
「AQUOS R10」の基本性能を確認すると、チップセットにクアルコム製の「Snapdragon 7+ Gen 3」を搭載し、RAMは12GBとなっている。実はこの内容は「AQUOS R9」とまったく同じ。新機種でありながらベースの性能が何も変わっていない。当然、性能の向上が期待できないため、疑問を抱く人も多くいたようだ。
「AQUOS R9」はチップセットに「Snapdragon 7+ Gen 3」を搭載。RAMは12GBであったが、「AQUOS R10」も同じものを採用しているため基本性能はまったく変わっていない
新機種ながらベースの性能が変わらないスマートフォンは、安価なモデルを中心に、いくつか前例がある。たとえば、ソニーが2023年に発売した「Xperia 10 V」は、前機種「Xperia 10 IV」とチップセットやRAMが変わっていなかった。同じく中国オッポが2023年に発売した「OPPO Reno9 A」も、前機種の「OPPO Reno7 A」と比べRAMは増えているが、チップセットは同じものを採用しており、進化に乏しいことが指摘されていた。
2023年発売の「Xperia 10 V」。チップセットやRAMといったベースの性能が変わっていないことが話題となっていた
最近では、比較的新しいチップセットを搭載しているものの実際の性能はあまり変わらないケースを含めて、基本性能が上がらない新機種が増えてきている。
そのいちばん理由は、やはりコストを抑えるためだろう。スマートフォンを構成する部材のなかでも、チップセットやメモリーは値段が高い。そこで、価格競争力が求められるミドルクラスやローエンドのスマートフォンでは、それらの性能を抑えて価格を抑えようとするわけだ。
しかし、「AQUOS R10」は高付加価値のハイエンドモデルである。そんな製品でも基本性能が最重要視されなかった。ハイエンドモデルであっても、現在のように物価高が続いている状況下では、販売を伸ばすためにもいっそう価格を抑えようとしがち。そのため、あえて価格が下がった古いチップセットなどを搭載してコストを抑えているのだろう。実際、「AQUOS R10」はチップセットを据え置いたことで、SIMフリー版の価格は10万円台からを予定しており、「AQUOS R9」と大きく変わらない価格となるようだ。
そしてもうひとつの理由は、スマートフォンに求められる処理性能が停滞気味なことだ。最近ではスマートフォンのOSの進化も落ち着いており、最新OSを2〜3年くらい前の旧機種で利用しても、操作に不満を感じることは少なくなってきている。カメラについても、1インチクラスのイメージセンサーの搭載などで、ある意味で行きつくところまで行ってしまった面があり、最近では超広角や望遠撮影、AI活用など、周辺の機能やソフトウェアの強化に重きを置くようになってきている。
チップセットも同様だ。もちろんクアルコムの「Snapdragon 8」シリーズのように、ゲーミングやカメラ、AIなどに高い性能が求められるフラッグシップモデル向けの最上位チップセットは毎年性能向上がなされている。だが、それ以下のクラスのスマートフォン向けチップセットはそこまで劇的な性能強化が必要なくなったことで、進化スピードも低下傾向にある印象だ。
「AQUOS R10」が搭載する「Snapdragon 7+ Gen 3」を例にすると、このチップセットは2024年3月に発表されたものなのだが、後継の「Snapdragon 7 Gen 4」が発表されたのは2025年5月とごく最近のこと。これを「AQUOS R10」に搭載するなら、シャープとクアルコムの間に周到な準備がないと不可能だ。「AQUOS R10」がチップセットを変更しなかったのにはそうしたタイミングも大きく影響したと考えられる。
「Snapdragon 7」シリーズの最新チップセット「Snapdragon 7 Gen 4」が発表されたのは2025年5月と、ごく最近のこと
価格重視の傾向が強まり、スマートフォンの進化も停滞傾向にある。そうした背景を考慮するならば、ベースの性能があまり進化していない新機種は、珍しい存在ではなくなるだろう。いっぽうで消費者が気になるのは、“そうしたスマートフォンを購入しても問題ないのか?”だろうが、ここまでの内容を見ればわかるように、その答えは「大きな問題はない」になる。
とはいえ、今後OSやオンデバイスAIが高度化し、本体性能の影響で操作に不満が出てくる可能性もゼロではない。では、購入したスマートフォンをどれだけ長く快適に利用できるのかを判断するにはどうしたらよいのだろうか?
それのひとつの基準となるのが、メーカーの予告するOSアップデートの回数だ。最近のスマートフォンはOSのアップデートを保証・予告する回数を明記していることが多い。その期間内であれば快適に利用できる可能性が高い。ローエンドのスマートフォンの場合OSアップデート回数が1回というケースも時折見られるが、ミドルクラス以上であれば3回は保証されるケースが多いので、3年前後は性能をあまり心配せずに利用できるだろうと判断できる。3年なら、携帯電話会社の用意する端末購入サポートを使って返却する際にも十分な期間と言えよう。
最新の高性能なチップセットを搭載するフラッグシップ級のごく一部のモデルを除いて、スマートフォンは「最新モデルだから基本性能が大きく向上している」と一概には言えない状況になりつつある。
とはいえ、それほどの進化が感じられない新機種にもメリットはある。基本性能以外のところでさまざまな改良を加えることで、使い勝手が向上しているものが多いのだ。実際シャープは今回の新機種投入に当たって、スペック以外の数字で見えない部分に力を入れ、使い勝手のよさや安心して使えることことに重きを置く姿勢を見せている。
シャープのエントリーモデルの新機種「AQUOS wish5」では、主なターゲット層となる子ども世代が読みやすいフォントを採用するなど、細かな配慮に重点を置いた開発がなされている
そうした傾向を踏まえると、特に日常使いのスマートフォンについては、スペックだけで良し悪しを判断できる時代は終わりを迎えつつあると言えるのではないだろうか。使い勝手を重視するのなら新機種を選ぶのがベターではあるのだが、より安くスマートフォンを手に入れたいのなら、ベースの性能が大きく変わらない旧機種を選んでもよいだろう。目的や使い方次第だが、どちらを選んでも一定以上の満足感が得られるはずだ。