スマートフォンやモバイル通信とお金にまつわる話題を解説していく「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、今年の夏モデルで注目度が高まっている「ミドルハイスマホ」を取り上げる。10万円以下の価格帯ながら、オンデバイスAIに対応するなど基本性能が向上し、高価なハイエンドスマホを代替しうる存在になってきている。
※本記事中の価格は税込で統一している。
今夏増加傾向のあるミドルハイスマホ。写真はオッポの「OPPO Reno 14 5G」。直販価格は79,800円(税込)
2025年もゴールデンウィーク明けから7月にかけ、メーカー各社から夏商戦に向けたスマートフォン新機種が相次いで発表されている。そして今シーズンの大きな傾向を振り返ると、ミドルクラス以上、ハイエンド未満にあたるスマートフォンが大きなトレンドとなっているようだ。
一般的に「ミドルハイ」と呼ばれるこのクラスのスマートフォン(以下、ミドルハイスマホ)は、おおむね8万〜10万円、24回の分割払いなら毎月の負担は3,000〜4,000円ほどの価格帯だ。性能に注目すると、クアルコムの「Snapdragon 7」シリーズや、メディアテックの「Dimensity 8000」シリーズを搭載したものが多い。それゆえ15万円を超えるハイエンドと比べれば性能は劣るが、5万〜6万円程度のミドルクラスでは不満が生じやすいカメラやゲーミングなどでも高い満足感が得られるのがポイントとなる。
ミドルハイスマホに類するスマートフォン新製品のひとつ、モトローラ・モビリティの「motorola edge 60 pro」。チップセットに「Dimensity 8350」を搭載し、カメラは3眼構成で、SIMフリーモデルは79,800円で販売される
実は近ごろのハイエンドスマホは、最高画質のゲームプレイやプロクオリティの写真撮影などができてしまうなど、スマートフォンの枠を超えた進化を遂げ、その結果価格も大幅に高騰してしまっている。そうした状況を反映して、最近では従来のハイエンドスマホを「ウルトラハイエンド」、ミドルハイスマホを「ハイエンド」と呼ぶケースも増えている。
実際シャープの「AQUOS R10」は、チップセットにハイエンドに準じた「Snapdragon 7+ Gen 3」を搭載しており、SIMフリーモデルはシャープのオンラインショップで99,770円からの値段で販売されているため、ミドルハイスマホに分類したほうが収まりがよい。しかし、シャープはハイエンドスマホとして販売している。また、FCNTの「arrows Alpha」も、やはりチップセットにミドルハイスマホ向けの「Dimensity 8350 Extreme」を搭載し、SIMフリーモデルで8万円台を目指すとしているが、その発表会では「手が届くハイエンド」というコンセプトを掲げてアピールがなされていた。
FCNTの新機種「arrows Alpha」は、チップセットに「Dimensity 8350 Extreme」を搭載しミドルハイクラスに類するモデル。発表会では「手が届くハイエンド」としてアピールがなされていた
また、ミドルハイスマホと同じ8万〜10万円クラスの製品群には、アップルの「iPhone 16e」やグーグルの「Pixel 9a」のように、上位モデルと同じチップセットを搭載しながら、それより安い価格を実現しているモデルもある。それだけに、その分類や定義は曖昧な部分も多い。しかし、それは従来ミドルハイスマホの製品が少なく、立ち位置がはっきりしないため、注目度も低かったからだろう。
なぜ今になって、メーカーがミドルハイスマホの製品に力を入れるようになったのか。大きな理由は、昨今のスマートフォン価格高騰だ。かつての、いわゆる“2年縛り”によって端末と通信料金のセット販売による大幅値引きが主流を占めていた時代は、多くの人が最高性能のハイエンドスマホを購入していた。しかし、端末と通信料金が厳格に分離されて大幅値引きが困難になり、追い打ちをかけるように円安などの影響でスマートフォンの価格が高騰した現在、ハイエンドスマホは多くの消費者にとって高嶺の花になってしまった。
実際、2025年夏のハイエンドモデルを見ると、ソニーの「Xperia 1 VII」は204,600円から234,300円、サムスン電子の「Galaxy Z Fold7」は265,750円から329,320円。比較的低価格なASUSの「Zenfone 12 Ultra」でさえ、149,800円から169,800円という値付けがなされている(いずれも各社オンラインショップにおけるSIMフリーモデルの価格)。
サムスン電子の折り畳みスマートフォン新機種「Galaxy Z Fold7」は、閉じた状態で厚さ8.9mmという驚異的な薄さを実現するなど大幅な進化を遂げたが、それだけに価格は25万円以上と非常に高額だ
これらの高額なハイエンドスマホを購入できる人は限られる。しかし、これまでの大幅値引きで購入していた人が、安価なスマートフォンに買い換えて満足できるかどうかも問題と言えよう。そこでミドルクラスよりは上の性能と、ハイエンドスマホよりは安い製品のニーズが高まってきており、メーカー側もそれに応える形でミドルハイスマホを増やしたのだろう。
しかも2025年は、先に触れた「iPhone 16e」や「Pixel 9a」が8万〜10万円前後で販売されている。それら強力なライバルと競争するうえでも、同じ価格帯のラインアップが必要とメーカー側が判断した側面も垣間見える。
もうひとつ、ミドルハイスマホが増えたのには、昨今話題の「AI」も大きく影響しているようだ。
最近ではスマートフォンでもAIの活用をアピールする機種が増えているが、スマートフォンは個人情報を多く扱う機会が多い特徴がある。それを受け、可能な限りデバイス上でAI関連の処理をこなす”オンデバイスAI”にすることで、個人情報の流出を防ぐ傾向がある。しかし、オンデバイスAIは、チップセットにそれなりの高性能が求められる。AIに対応したスマートフォンをいち早く消費者に提供する結果、ミドルハイスマホが増えたという面もあるだろう。
このような状況を考慮するに、ミドルハイクラスとなる8万〜10万円台のスマートフォンは、まさに“今が選び時、買い時”と言っても過言ではない。新機種の選択肢が多いうえに、最近の売れ筋となっている「iPhone 16e」や「Pixel 9a」との比較も可能。それだけに、ハイエンドスマホからの買い替えにおいてベストなタイミングだろう。
いっぽう、そこまでの性能が必要ない人、とりわけミドルレンジスマホを購入したい場合、新機種が少なかった今シーズンは、最適なタイミングとは言い難い部分がある。秋以降に「Xperia 10」シリーズの新機種が投入されるほか、シャープの人気シリーズ「AQUOS sense」の新機種も毎年秋に登場している。
今後もメーカー各社がAIに力を入れることが予想されるだけに、ミドルハイスマホが増える理由も存在する。ハイエンドスマホの代替として、これからさらに注目を高めそうだ。