スマホとおカネの気になるハナシ

“本丸”の携帯料金値上げを遅らせるため? ソフトバンク事務手数料改定の裏側を解説

スマートフォンやモバイル通信、そしてお金にまつわる話題を解説する「スマホとおカネの気になるハナシ」。今回は、ソフトバンクが2025年7月18日にWeb上で発表した事務手数料の大幅な値上げについて取り上げる。無料だった手続きが3,850円になるなど、厳しい内容だが、毎月の携帯電話料金値上げを少しでも遅らせたいソフトバンクの苦肉の策とも考えられる。

※本記事中の価格はすべて税込で統一している。

ソフトバンクが手数料を値上げ。「PayPayカード」利用で緩和措置も

携帯電話料金の値上げが2025年に入ってから続いているが、それ以前から活発に値上げされているのが、新規契約や機種変更、SIMカード再発行などにかかる事務手数料だ。2023年にはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが相次いで事務手数料の値上げを発表しており、今回再び値上げの動きを見せているのがソフトバンクである。

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今年に入り、通信事業者の事務手数料が相次いで値上げされています。その背景とともに、事業者によってはオンライン手続きなら回避の余地があることなどを解説します。
2023/09/11 11:00

2023年6月、ソフトバンクは「ソフトバンク」「ワイモバイル」ブランドの店頭手続きにかかる事務手数料を一律3,850円に値上げしたが、オンライン手続きは無料を維持していた。しかし、2025年8月20日からの改定では、オンライン手続きも有料化され、新規契約・機種変更・SIM再発行などの手数料が一律3,850円となる。

この改定により、オンライン専用プラン「LINEMO」の利用者も、手続きの際に3,850円の手数料が必要となる。オンラインでの手数料導入はKDDIに続く動きだ。ただし、SIM再発行に関しては、USIM(物理SIM)・eSIMともに当面は無料とされている。

さらに、店頭手続きの事務手数料も一律4,950円に値上げされる。SIM再発行も含め、店頭での手続きには必ず5,000円近い手数料がかかることになり、利用者にとっては厳しい改定だ。

ソフトバンクが2025年8月20日より改定する新たな事務手数料。改定後は店頭での手数料が1,100円値上げされるほか、オンラインでも3,850円の手数料がかかることになる

ソフトバンクが2025年8月20日より改定する新たな事務手数料。改定後は店頭での手数料が1,100円値上げされるほか、オンラインでも3,850円の手数料がかかることになる

そして、この事務手数料改定にともない、ソフトバンク/ワイモバイル/LINEMO間のブランド乗り換えに関しても、これまで無料だった手数料が有料化される。MVNOとして展開していた「LINEモバイル」からの乗り換えも同様で、現在契約中のユーザーは注意が必要だ。

ソフトバンクは、「ワイモバイル」から「ソフトバンク」などブランド間を移行する際にかかる事務手数料を無料にするキャンペーンを多く実施していたが、今回の改訂によりそれらも終了することとなる

ソフトバンクは、「ワイモバイル」から「ソフトバンク」などブランド間を移行する際にかかる事務手数料を無料にするキャンペーンを多く実施していたが、今回の改訂によりそれらも終了することとなる

「PayPayカード」利用者向けにポイント還元特典を新設

今回の改定には、従来の手数料値上げとは異なる特徴がある。それは「PayPayカード」を利用することで、「PayPayポイント」による還元が受けられ、実質的な手数料が軽減される点だ。

特典は以下の2種類が用意されている。

その1 すべてのユーザー向け特典

ソフトバンク・ワイモバイルでは、対象手続きを行った月の翌請求締め日に「PayPayカード割」が適用されている場合、1,100円相当のPayPayポイントが付与される。LINEMOでは、対象手続きを行った月の翌月15日までに「PayPayカード」または「PayPayカード ゴールド」を支払い方法に設定し、月末まで変更しなければ同様に1,100円相当のポイントが付与される。

その2 ソフトバンクブランドへ乗り換え時の特典

ワイモバイルなどからソフトバンクブランドへ乗り換えた場合、乗り換え完了月の翌請求締め日に「PayPayカード割」が適用され、「ペイトク50」または「ペイトク無制限」に加入していれば、店頭手続きで3,850円相当、オンライン手続きで2,750円相当のPayPayポイントが付与される。

事務手数料改定に合わせ、新たに「PayPayカード」利用者に向けた特典を追加。手数料が発生した際、所定の条件を満たすことで一定の「PayPayポイント」付与が受けられる

事務手数料改定に合わせ、新たに「PayPayカード」利用者に向けた特典を追加。手数料が発生した際、所定の条件を満たすことで一定の「PayPayポイント」付与が受けられる

これら特典を適用した場合、新規契約や機種変更などの実質手数料は、店頭手続きの場合で3,850円、オンラインの場合で2,750円に引き下がる。ブランド間の乗り換えに関しては、ソフトバンクブランドの「ペイトク50」「ペイトク無制限」への乗り換えのみ2つ目の特典が適用され手数料が実質0円となる。

特典を適用した際の実質的な事務手数料の違い。青の括弧で記されているのが特典適用時の実質手数料で、「ペイトク無制限」「ペイトク50」への乗り換えに係る手数料は実質0円になる

特典を適用した際の実質的な事務手数料の違い。青の括弧で記されているのが特典適用時の実質手数料で、「ペイトク無制限」「ペイトク50」への乗り換えに係る手数料は実質0円になる

金融・決済強化とユーザー囲い込み、通信費値上げの回避が重なった

これまで携帯各社の事務手数料は、手続き方法によって料金が異なることはあっても、契約者による差はなかった。今回ソフトバンクが「PayPayカード」の有無で実質手数料に差を設けたのは、自社サービスへの囲い込みを強化する狙いがあると見られる。

ソフトバンクをはじめとした携帯4社は、携帯電話サービスを軸として自社サービスに利用者を囲い込む経済圏ビジネスに力を入れており、なかでも金融・決済系のサービスは成長余地が大きいことから各社が積極的に拡大を図っている。

携帯4社は、自社経済圏の拡大に力を入れており、特に金融・決済分野は成長余地が大きい。ソフトバンクはスマホ決済「PayPay」では先行しているが、クレジットカード分野では「dカード」「au PAYカード」「楽天カード」に後れを取っていた。今回の施策は「PayPayカード」の利用促進を図るものと考えられる。

また、事務手数料の値上げと還元施策は、携帯電話料金の値上げを避けるための方策とも言える。NTTドコモやKDDIはすでに料金値上げを発表しており、楽天モバイルも新プランで値上げの準備を進めている。いっぽう、ソフトバンクは具体的な値上げの動きを見せていない。

2025年初頭まで、ソフトバンクの宮川潤一社長は料金値上げの必要性を強く訴えていたが、最近では慎重な姿勢に転じている。2025年5月15日に三井住友カードとの提携を発表した際には、「値上げをしなくて済むなら、本当はしたくない」と語っており、金融・決済分野などの周辺ビジネスで収益を伸ばし、携帯電話料金の値上げを避けることで競争力を高めたいのがソフトバンクの本音のようだ。

最近まで値上げの必要性を強く訴えてきたソフトバンクの宮川氏だが、2025年5月15日に三井住友カードとPayPayとの提携を発表した際には、本当は値上げをしたくない旨の発言をしている

最近まで値上げの必要性を強く訴えてきたソフトバンクの宮川氏だが、2025年5月15日に三井住友カードとPayPayとの提携を発表した際には、本当は値上げをしたくない旨の発言をしている

ソフトバンクの値上げに追随するライバルも?

今回の事務手数料値上げも、“本丸”となる携帯電話料金の値上げを避ける施策の一環と見ることができるだろう。PayPayカード利用者の優遇に関しても、やはり自社サービスの利用拡大で売上を高め、携帯電話料金の値上げを避けることにつなげたい狙いがあると言えそうだ。

ただ、物価高の傾向は現在も変わっておらず、今回の取り組みだけで今後も携帯電話料金を値上げせずに済むかというと、それは難しいだろう。それだけにソフトバンクにとっては、値上げにいつ踏み切るか悩ましい日々が続くこととなりそうだ。

いっぽうで、競合他社が、今回のソフトバンクの事例を参考に、ユーザー囲い込み策とセットにした手数料のさらなる値上げを導入することも容易に予想できる。新料金プランの切り替えなど事務手続きを予定しているなら、早めに済ませておくのが賢明のようだ。

佐野正弘
Writer
佐野正弘
福島県出身。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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田中 巧(編集部)
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田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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