東京オリンピックが開催される2020年の商用化に向けて、第5世代移動通信システム(5G)の研究が世界中で進んでいる。NTTドコモは2015年7月22日に5Gの認知を広めるイベント「5G Tokyo Bay Summit 2015」を開催し、その片鱗を公開した。その中から注目の技術をいくつか紹介しよう。
神奈川県横須賀市にある、NTTドコモの研究拠点「ドコモR&Dセンター」で開催された5G Tokyo Bay Summit 2015。実演や公演など盛りだくさんの内容だった
現在、スマートフォンで広く使われるLTE(4G)は、150Mbps〜225Mbpsという通信速度を実現している。ユーザーの実感では、もう十分すぎるほどの速度が実現されているように感じられる。だが、LTEの通信トラフィックは毎年2倍のペースで伸び続けており、今の技術の延長では、意外と早く回線容量がパンクしてしまうことが予想されるのだ。
そうした将来を見据えた通信技術が、LTEの次の世代にあたる5Gだ。5Gでは、現在の約100倍となる10Gbps程度のピーク速度と、IoT時代を念頭にたくさんの機器が同時接続される大容量化、遠隔医療や自動運転などに応える従来以上の低遅延、そして汎用インフラとしての低コストなどを目標に、世界中のメーカーや通信キャリアが基礎技術を研究している最中だ。
電波を複数のユーザーで共有する多元接続は無線接続の基礎となる技術だ。LTEでは細かく分割された電波の帯域を組み合わせて利用する「OFDMA」と呼ばれる技術が使われているが、その次の世代にあたる多元接続の技術が非直交多元接続「NOMA(Non-Orthogonal Multiple Access)」である。
NOMAは、従来の周波数や時間軸に加えて、電波の強さ(電力)を使って、電波を細分化するのが大きな特徴。同じ周波数帯に、強さの異なる信号を混在させるので、既存の無線通信の常識では、混線した電波ということになる。この混線した電波を、NOMAでは端末側で処理することで、正しい情報に復元するのだ。NOMAには、子機側にも十分な処理能力が必要になるが、最近のケータイやスマートフォンのモデムには高い性能が備わっており、そうした問題がクリアされつつあると言う。
このNOMAを使うことで、今まで以上に高い効率と柔軟な電波の活用が見込めるようになるだろう。5GとLTEを大きく分かつ技術としてこのNOMAに注目したい。
さまざまなデータが混線したNOMAの電波の中から子機側が処理を行うことで正しい情報に復元させる
試作中のNOMAの子機。かなり大きいが、実は電波の復元処理自体は、現在のスマートフォンのモデムの延長の技術で十分行えるという
画面左下の緑の部分が8割の強さの電波で、その上のオレンジが2割の強さ。このふたつの混線した電波が処理され、右上に緑のデータ、オレンジのデータとして分離される
無線ネットワークの活用幅が広がると、利用シーンに適したネットワークの特性が求められるようになる。たとえば、効率を重視してコストを下げたい場合や、遠隔医療やゲームのようにネットワークの遅延をギリギリまで減らしたい場合が考えられる。また、災害対策や自動運転など信頼性が重要になるケースも想定される。だが、これらの要求をすべて同時に満たすのは現実的ではない。
そこで考えられるのが、さまざまなネットワーク資源を組み合わせて仮想化しておき、それらをニーズに合わせて使用する方法だ。今回のデモでは、仮想ネットワークを切り替えることで遅延速度を5ms、50ms、200msと自在に調整するデモが行われていた。
モバイルネットワークとひと口に言っても、そこで重視される品質はさまざまだ。そんな多様なニーズに応えるのが仮想ネットワークの構築だ
仮想ネットワークでは設定を調整することで、通信速度や安定性などをニーズに合わせて調整できる
5Gの目指す10Gbpsという速度を実現するには、広い帯域幅を確保できる高周波数帯の活用が必要になる。NTTドコモはエリクソンと共同で、帯域幅400MHzの15GHz帯という、広帯域&高周波数帯を使ったデータ転送を研究している。高周波数帯は、電波が遠くに飛びにくく、遮へい物にも弱いが、会場内でのデモンストレーションでは、静止時で5Gbps、移動時でも3.5Gbps程度の通信速度が保たれていた。
デモでは5Gbpsという速度を生かして、4K動画の8画面同時配信を実演していた
こちらがその基地局。今回のデモでは変調方式にLTEと共通のOFDMを使っている
ノキアとの共同研究の成果として、70GHz帯、帯域幅1GHzというミリ波を使ったデータ転送を実演していた。このレベルの高周波数帯になると、電波の到達エリアはかなり短くなり、遮へい物にも弱くなるので、今までの携帯電話とは違ったエリア設計が必要になる。会場で行われた実演では、人の多い会場の中でも電波は到達しており屋内での高速通信なら、使い道があることが示された。
ミリ波を発する基地局の試作機。この中に64個もの指向性アンテナが備わっている
こちらがその子機。指向性の強い電波だが壁や天井に反射するため、混雑する会場でも通信が可能だった
ビームのように照射されるミリ波を可視化したもの。端末の動きに合わせて基地局のアンテナを細かく切り替えて途切れにくい通信を行う
2020年に開始される予定の5Gだが、そのアウトラインや目標となる通信性能などは見えているものの、標準化の議論はまだ先で、今は標準化に向けた研究を世界中のメーカーが進めている最中だ。
モバイルネットワークの進化では、通信速度の向上に注目が集まる。しかし、IoTのようなワイヤレスネットワークが社会の隅々まで普及している2020年には、低遅延、安全性、着実につながることといった要素も重視される。あらゆるものがインターネットにつながる時代を下支えするインフラとして5Gはケータイやスマートフォンにとどまらない存在になる。5G Tokyo Bay Summit 2015ではそんな未来が垣間見られた。