NTTドコモは、開発中の新技術を公開する「DOCOMO R&D OpenHouse 2015」を2015年11月26日と27日に開催した。さまざまな展示がなされたが、その中から、スマートデバイスに応用できそうな技術や、実用化の近そうなものをピックアップして紹介しよう。
NTTドコモでは、SIMカードの情報を無線化して、複数のスマホ・タブレットで共有する「ポータブルSIM」の研究を進めている。このポータブルSIMは、1枚のSIMカードを複数の端末で手軽に使いまわせるのが魅力だが、端末側が対応する必要がある。
今回発表された「psim proxy」は、専用の超小型レシーバーをスマホやタブレットのSIMカードスロットに挿し込むことで、既存の端末をポータブルSIMに対応させることができるというもの。ポータブルSIMの裾野を大きく広げる技術といえるだろう。
左がポータブルSIM。スマートフォンとはNFCやBluetoothを使って通信を行う
今回発表された「psim proxy」は、SIMカードの形をした超小型のレシーバーだ。既存端末をポータブルSIMに対応させることができる
音声認識技術が普及するにともなって重要になるのが、周囲の騒音の中から音声を抽出する技術だ。今回発表されたインテリジェントマイクシステムは、2個のマイクと低価格のDSP(デジタルシグナルプロセッサー)を組み合わせることで、100dBの騒音でも、狙った音声を拾い上げることができるというもの。
実際に試してみたが、遅延も少なく、既存のデバイスを組み合わせるため導入コストも高くないなど、音声入力を支える基礎的な技術として有望そうだ。カーナビの音声コントロールや、工場や作業現場などにも応用が期待できるだろう。
2個のマイクと低価格のDSPチップを組み合わせる、集音システム。100dBという騒音でも狙った音声を拾い上げることができる
産業用システムとして「R-Talk HS310」としてこの12月に発売予定
個人が所有しない公共型のスマートモビリティでは、年齢や身体能力など多様なユーザーに柔軟に対応するため、操作ガイドやナビゲーションを低コストで用意する必要がある。そうした課題に対してスマートフォンを使うという提案がなされた。
これは、スマートモビリティとスマートフォンを接続して、車両が感知した操作能力や周辺環境と、クラウドサーバー上にあるデータをマッチングして、利用者の能力や状況に応じた操作案内ができるというもの。
スマートフォンでは、GPSやジャイロなどの各種センサーに加えて、通信機能やタッチパネルによるユーザーインターフェイスを備えているので、安価にシステムを構築できるという。
個人が所有しない公共型のスマートモビリティを円滑に操作するためにスマートフォンを活用するという提案
スマートモビリティとスマートフォンを有線接続して車体情報を入手する。ガイド情報はサーバーから受信するため情報の更新も容易だ。周囲の状況や運転者のスキルにあったガイドを提供できる
スマートフォンを使ったヘッドマウントディスプレイはすでにいくつかの提案があるが、今回展示されたものは遅延の少ないLTEの特性を生かし、臨場感のある仮想現実空間を再現していた。
デモでは、離れた場所にある360度対応カメラから送信された映像をリアルタイムで受信し、スマートフォンのセンサー機能を使い、頭の傾きや方向などに自然に追従する仮想現実空間を実現していた。
ヘッドマウントディスプレイに取り付けられたスマートフォン。ジャイロセンサーおよびディスプレイを組み合わせて、仮想現実空間を作り上げる
2個の超広角カメラを使い360度の視界を実現するリコーのカメラ「THETA S」と組み合わせて、天井から足元まで対応する仮想現実空間を実現する
スマートフォンに備わるネットワーク機能と、近距離通信機能NFCを組み合わせて、鍵を電子化させ、さらに進んだ使い方を提案するというもの。1台のスマートフォンで家庭や職場などさまざまな鍵を集約できるほか、複数のスマートフォンを使った共有ロッカーやオンライン予約など、複雑な利用スタイルを手軽に実現する。
こうした電子鍵では、バッテリー切れや盗難などが心配だが、バッテリーが残量ゼロでもしばらくは維持される微弱な電流があれば利用可能。また、盗難対策については、ネットワークを活用することですばやく鍵を無効にできるので、むしろ対策が取りやすい面もある。
なお、現在のところ、認証にSIMカードの情報を使っており、MVNOのSIMカードなどでは技術的あるいは法的理由で、対応が難しいという。
NFC機能を使って、あらゆるカギをスマホに集約させるという、クラウド鍵プラットフォームの実演
電子化することで柔軟な鍵の管理が行えるのは魅力。ただ、認証の一部にSIMカードを用いており、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアのみの対応となる
来年に予定されている3.5GHz帯を使ったTDD-LTE用アンテナおよびネットワーク機器も公開された。3.5GHz帯はかなりの高周波数帯で、今まで主流だった低い周波数帯とは異なり、電波の到達性はよくない。その代わり、アンテナのサイズが小さく柔軟に基地局を設置できる。小さな基地局をたくさん組み合わせて、ネットワークを構築することになるだろう。
波長が短い高周波数帯に対応するためアンテナは小さくて済む。電波の到達性も低いため、スモールセルという狭い通話エリアをたくさん組み合わせることになる
電波を細かな時間で分割してアップロード方向とダウンロード方向を切り替えるTDD方式(Time Division Duplex)では、基地局と端末の同期が重要。写真はそんな同期を行うための時刻同期ネットワーク装置が展示されていた