VAIOの旗艦機種「VAIO Z」に「クラムシェルモデル」が追加された。ペン入力やマルチフリップ機構を省いた伝統的なフォームファクターのモデルで、シンプルでハイスペックなVAIO Zが欲しかった人にとっては待望のモデルと言えそうだ。従来の2in1タイプは「フリップモデル」という呼称となり、こちらも引き続き販売される。原点回帰とも言える硬派なクラムシェルモデルの個人向け標準仕様モデルを試した。
VAIO Zのクラムシェルモデル。今回試した個人向け標準仕様モデルの「VJZ13190211B」は2016年2月26日発売予定。市場想定価格は179,800円(税別)。フリップモデルと比べると、スペックが控えめで価格も安めに設定されている
まずはデザインを見ていきたい。基本的なデザインはフリップモデルから変わっていない。マルチフリップ機構がないため、天版に切れ目がなく、VAIOのロゴが中央に配置されているのが見た目の大きな違いだ。素材は天板部分とパームレストがアルミニウム、ボトム(底面)がカーボンという2つの素材を組み合わせている。アルミニウムの表面には研磨工程・ブラスト加工が施されており、手ざわりのよい仕上がりだ。
本体サイズはフリップモデルと変わらず、約324.2(幅)×215.3(奥行)×15.0〜16.8(高さ)mm。重量は約1.17kgで、フリップモデルよりも180gほど軽い。缶コーヒー1本分なので、かなり軽量化されている。クラムシェルモデルで注目すべき点はバッテリー駆動時間だ。カスタマイズモデルの場合、カタログスペックで最長約27時間というVAIO史上最長のバッテリー駆動時間を実現している。フルHD(1920×1080)のディスプレイを選んだ場合という条件付きではあるが、驚異的なスタミナだ。今回試した個人向け標準仕様モデルでも、カタログスペックは約26.1 時間とかなりの長さだ。レビューのために、Webページの閲覧やテキストの入力といった作業をしても、ほとんどバッテリーが減らなかった。さすがにベンチマークソフトを実行すると、バッテリーがみるみる減っていったが、カタログスペック通り、かなりバッテリーは持ちそうな印象を受けた。
定番のバッテリーベンチマークソフト「BBench」(海人氏作)を実行してみたところ、結果は15時間6分。BBenchはWeb巡回間隔60秒、キーストローク間隔10秒に設定し、ディスプレイの輝度は50%にしてテストしたが、なかなか終わらず苦労した。電源アダプターも小型で持ち歩きしやすいが、使い方によっては持ち歩かなくても困らないだろう。
フリップモデルと違い、天板に切れ目がなく、VAIOロゴも中央に配置されている
重量は実測で1.16kgだった
底面の手前には「MADE IN AZUMINO JAPAN」の文字が刻印されている
電源アダプターは小型で持ち歩いても荷物にならない。USB端子も備えており、スマートフォンなども充電できる
VAIO Zと言えば、やはりハイスペックなのが魅力だ。CPUにはTDP(熱設計電力)が28Wの第6世代Coreプロセッサー(開発コード名Skylake)を採用する。他社製のモバイルノートPCの多くはTDPが15WのCPUを採用しており、それらに比べると高いパフォーマンスが期待できる。同社調べだが、TDPが15WのCPUを搭載したモデルと比べると、CPU性能が30%、グラフィック性能が50%高いという。今回試した個人向け標準仕様モデルは、デュアルコアのCore i5-6267U(2.90GHz、最大3.30GHz)を搭載する。メモリーは4GBで増設ができない仕様なので、メモリーを増やしたい人はカスタマイズモデル(VAIO OWNER MADEモデル)を選択しよう。
パソコンの総合的なパフォーマンスを測定するベンチマークソフト「PCMark 8」のホームユースで想定される使い方をした場合のパフォーマンスを測定する「Home accelerated」のスコア。Core i7-4770HQを搭載した「VAIO Z Canvas」(スコアは3011)には敵わないが、かなりのハイスコアを記録した
ソニー時代から、いち早くSSDを採用するなど、VAIOはストレージへのこだわりが強いモデルだ。クラムシェルモデルのストレージはもちろんSSDだが、NVMe対応のPCI Express 3.0 x4接続に進化している。同社によれば、前世代のVAIO Z(PCI Express 2.0接続のSSD)よりも、ランダムアクセスの性能が2倍以上速くなっているという。ベンチマークソフトを実行したところ、順次読み込みは1.3G〜1.4GB/秒の速度が出ていた。動作も非常に軽快で、エクスプローラーやソフトが瞬時に立ちあがる。電源ボタンを押してからデスクトップ画面が表示されまでは8秒しかかからなかった。ZIPファイルの解答やファイルのコピーなど、日常的な操作でも、この高速なSSDが効いてくる。
ストレージの速度を測れる定番ベンチマークソフト「CrystalDiskMark 5.1.1 x64」(ひよひよ氏作)の結果。順次読み込み(SeqのRead)は1.4GB/秒と非常に高速だった
右側面。USB3.0端子を2基備える。搭載する外部インターフェイスの種類や配置はフリップモデルと同じだ
左側面。HDMI出力端子、ヘッドホン出力端子、SDメモリーカードスロットを搭載
ディスプレイはフリップモデルと同じ13.3型液晶だが、ノングレアタイプとなっている。また、解像度はWQHD(2560×1440)だけでなく、ワンランク下のフルHDも選べる。今回試したモデルはフルHDだったが、不満のない画質だった。WQHDとじっくり見比べれば精細感は見劣るだろうが、フルHDでも不満に感じることはないだろう。フルHDのほうがバッテリー駆動時間が長いというメリットがあるので、フルHDを選ぶ人も多いのではないだろうか。
クラムシェルモデルは、ノングレアの13.3型液晶を搭載。カスタマイズモデルはWQHDとフルHDの2種類から解像度を選べる。写真は個人向け標準仕様モデルで、解像度はフルHDだ。表示品質、明るさ、精細感ともに不満のないレベルだ
キーボードは、キーピッチが19mmと広く、心地よくタイピングできた。ストロークは1.2mmとモバイルノートPCとしては標準的だが、キーの荷重が程よく、しっかりした打鍵感がありながらも、底に当る感じのない柔らかなフィーリングだった。静かなオフィスで使っているときに、打鍵音が静かなのも好印象。また、キートップには「VAIO S11」と同じフッ素含有UV硬化塗装が施されており、汚れが目立ちにくく、ふき取りやすくなっている。長く使うことを考えると、キートップのテカリを防げるのもありがたい。
タッチパッドには、手のひらが触れて起こる誤操作を防ぐパームリジェクション機能が盛り込まれている。親指が触れて起こる誤操作は防げないようだが、手のひらが触れてイライラさせられるようなことは減りそうだ。前モデルと同様、1mm厚の雲母片岩(マイカ)を使っており、クリックしてもたわむこともない。
キーボードは、19mmのキーピッチと1.2mmのキーストロークを確保。キーの荷重が程よく、心地よい打鍵感だ。タッチパッドはクリックボタン一体型だが、雲母片岩(マイカ)を使うことでたわみの少ない、しっかりしたクリック感となっている
キートップにはVAIO S11で採用したフッ素含有UV硬化塗装を使用。汚れが付きにくく、長く使うことで起こるテカリも防げる。バックライトも搭載
ハイスペックなモバイルノートPCと言えば、PCメーカー各社が技術の粋を集め、最新技術や最新のトレンドを盛り込むのが一般的だが、あえて旗艦機種に硬派なクラムシェルモデルを追加してきたのは興味深い。同社によると、クラムシェルモデルは、ユーザーの要望に応えて誕生したモデルだという。2in1やペン入力に対応したモデルが増えているとはいえ、まだまだシンプルなクラムシェルタイプのモバイルノートPCを求めている人は多いようだ。
今回、VAIO Zのクラムシェルモデルを試してみて、新鮮味や面白さという点では、フリップモデルのほうが上だが、実用度では間違いなくクラムシェルモデルのほうが上だと感じた。今回試した個人向け標準仕様モデルの市場想定価格は179,800円(税別)。メモリーが4GBで増設もできないのが残念だが、高性能なCPUを搭載しつつ、驚異的なスタミナを実現している点を考えれば妥当だろう。