ショップジャパンの冷風扇「ここひえ」が人気です。2019年6月末現在、価格.comの「扇風機・サーキュレーター 人気売れ筋ランキング」でも2位にランクインするなど、本格的な夏の到来を待たずに、ヒット商品となっています。「夏の冷房」といえばエアコンが主流の昨今、なぜ「ここひえ」が売れているのか、興味は尽きない! ということで、その性能や使いやすさをチェックしてみました。
ショップジャパン「ここひえ」
「ここひえ」の人気の秘密に迫る前に、まずは「冷風扇(れいふうせん)」という言葉に耳なじみのない人のために、その仕組みを簡単に解説しましょう。
冷風扇は、水が蒸発する際にまわりの熱を奪う「気化熱」を利用して涼風を送出する機器です。本体内にある気化フィルターに水を浸透させ、その間に風を通すことで水を蒸発させて、温度の下がった空気を送り出します。エアコンのように冷やしすぎず、うるおいのあるひんやりした風で涼を取れるのが特徴。基本的にはフィルターに風を通すだけなので、エアコンに比べて電気代もかかりません。
内蔵ファンにより本体内に取り込まれた暖かい空気が、水を吸った気化フィルターの間を通過。その際に水が蒸発することで空気内の熱が奪われ、空気の温度が低下。そのまま送風口から涼しい風を前方に放出します
ただし、冷風扇はあくまで風が当たる周囲をやさしく冷やすだけで、部屋全体の温度を下げる効果はありません。また、部屋を閉め切った状態で使い続けると湿度が上がり、逆に蒸し暑くなります。ですから、窓を開けて外の空気を取り込みながら使うか、閉め切って使う場合も時々窓を開けて換気するのが快適な使い方です。
ちなみに、冷風扇と似た名前の製品に「冷風機」がありますが、両者はまったく別モノ。冷風機の仕組みはエアコンと同じで、取り込んだ空気をコンプレッサーと熱交換器で冷却し、冷たく乾いた風を人に向けてピンポイントに送ります。エアコンとの違いは室外機がないことで、コンプレッサーで湿気を取り除いた暖かい空気は発熱用のダクトから別方向に排出。家庭用機器は台所などをスポット的に冷房するのに便利で、キャスター付きで移動できるのもメリット。ただし、電気代はエアコン並み(時にはエアコン以上)にかかります。
冷風機は「スポットクーラー」「スポットエアコン」とも呼ばれ、部屋全体ではなく人の周囲をスポット的に冷房するのに使います。業務用機器は、工場や飲食店の厨房、屋外の作業場などで使われます。(写真はナカトミの排熱ダクト付きスポットクーラー N407-TC)
前置きが長くなりましたが、いよいよ「ここひえ」をチェックしていきましょう。
本機は、ユーザーひとりだけ冷やすことに特化したモデル。まず驚いたのはそのコンパクトさで、重さは1.1kg、サイズも一辺が17cm前後のキューブ型で、持ち運びやすく、どこに置いても場所を取りません。
本体サイズは168(幅)×173(高さ)×173(奥行き)mm。重さは約1,015g。床置きはもちろん、テーブルや机の上、キッチン台などにも手軽に置けるサイズが魅力です
給水はタンク着脱式。タンクは簡単に取り外せ、洗面所や台所で水を入れることができます。給水量は360mlと少なめです。ちなみに、最初にタンクを設置するとフィルターが水を吸い、タンクの水は1/3から半分くらいに減ります。より長く涼風運転させたい場合は、ここで減った分の水を補給しておくのがいいでしょう
冷風扇はもともとシンプルな構造で使いやすいものがほとんどですが、「ここひえ」の機能も単純。操作ボタンは「運転ボタン」「風量切替ボタン」「照明切替ボタン」の3つだけで、取扱説明書を見なくても直感的に使えます。
風量の切り替えは強・中・弱の3段階。「照明切替ボタン」は給水タンクを照らすLED光の色を変えるためのもので、初期設定は緑色。ボタンを押すたびに薄緑→黄緑→オレンジ→朱色→赤→7色循環→消灯→緑と切り替わります。夜に部屋を真っ暗にして7色の光が変化するのは楽しいですし、寝る時に光が気になる人は消灯することもできます(ただし、スタートボタンと風量切替のインジケーターは消灯できません)
写真左上から、運転停止状態、「弱」運転、「中」運転、運転。「弱」から「中」に切り替わる時に、かなり風量が上がります
吹出口にはブラインドのようなルーバーが付いていて、風の向きを上下に変えることができます
「ここひえ」から吹き出す風は予想以上に涼しいです。6月で室内の温度が25.9℃の日にテストしましたが、送風口付近の風の温度は19.3℃で、送風口から約30cm離れた場所では22.8℃。近距離でずっと風に当たっていると寒くなるくらいでした。また風量は、「弱」でも50cmくらいまでならそよそよとした心地よい風が感じられます。「強」運転なら1m程度離れてもしっかり風が届きました。
送風口の温度と送風口から離れた場所での温度は調理用のデジタルスティック温度計で計測。送風口付近の温度は19.3℃でした
送風口から30cm離れた場所で計測。温度は22.8℃でした
送風口から50cm離れた場所で計測。温度は24.2℃でした
運転音に関しては、「弱」ではまずまず静かで、「中・強」運転になるとけっこううるさく感じます。仕事中に机の横に置いて使うなら「弱」運転がベスト。いっぽう、キッチンで火を使って調理している時などは、「強」運転でも音はそれほど気にならないと思います。
連続運転時間は最大8時間とのことですが、運転時間は気温や湿度によって大きく変わります。筆者が気温26℃前後、湿度59%の環境で、「強」運転を続けた(給水時にフィルターが水を吸って減った分の水は補給しました)ところ、約3時間でタンクが空になりました。ちなみにタンクが空になったあとも、受け皿とフィルター部分にまだ水が残っているので、しばらくは冷風が出続けます。
なお、いろんな部屋や場所に持ち運べるのが魅力の本機ですが、内部に水が入っていると、移動の際に下から水がこぼれてしまう場合があります。気になる人はタンクをいったん外して中の水を捨ててから持ち運ぶほうがいいでしょう。
毎回ではないのですが、本体に水が入った状態で持ち上げると、ときどきけっこうな量の水がこぼれます。送風口を下に傾けてもそれほどこぼれませんが、吸気口を下に傾けた時にこぼれる確率が高いようです。ちなみに、機器の通電部は本体上部にあるので、水がこぼれてもショートする心配はありません
「ここひえ」はお手入れも簡単で、ルーバーを取り外せば、中の気化フィルターを簡単に取り出せます。気化フィルターは防カビ抗菌仕様になっていて、ニオイがする場合は水洗いも可能です。
フィルターはユニットごとまとめて取り出して水洗いします。お手入れの目安は1か月に1回程度。また、交換用フィルター(税別2,980円)を買い直すこともできます
ただし、本機を2日以上使用しない場合は、フィルターが濡れたままだとカビの原因に。タンクに水がない状態で半日程度強運転し、フィルターを乾かす必要があります。
吸気口の簡易フィルターも簡単に取り外せます。フィルターについたホコリは掃除機などで除去すればOK
気になる電気代ですが、同機の消費電力は5W(風量:強)で、1日8時間強運転で使っても、たった1.1円(1kWh=27円で計算)。エアコンはもちろん扇風機と比べても、かなりお得です。
「ここひえ」の魅力は、何と言っても「サイズ感」と「性能」「価格」のバランスのよさ。そして、そのバランスは、ユーザーが「ひとり」で使うことを目的に設定されたものです。性能に関しては、より風量の大きい製品もありますが、ユーザーひとりが「涼しさ」を得るためには、この風量でも十分。また、風量がそれほど強くないため、湿度の上昇スピードもゆるやかで、窓を締め切った部屋で使ってもより長い時間快適に過ごせそうです。
さらに、ひとり用にファンの大きさやパワー、給水タンクの容量も小型化したことで、どこにでも持ち運べる手軽さも獲得。USB電源も使用できるので、モバイルバッテリーにつないで、アウトドアで利用することも可能です。
また、オフィスなどのデスクの上に置いて使うのにも最適。筆者は普段、自宅で仕事をしていますが、卓上扇風機を使う場合は書類などが吹き飛ばないよう、送風角度に気をつけなければいけません。その点「ここひえ」の「弱」運転なら書類が飛ばされるもことなく快適です。
リビングに置いたパソコンデスクの上で「ここひえ」を使用。「弱」運転でもひんやりした快適な風を受けながら仕事できました。ちなみに、ノートPCのUSBポートやモバイルバッテリーから給電する場合は、5Vで900mA以上供給できる必要があります
今回「ここひえ」を試したのは6月で、「ちょっと暑いな」という日には文句なく快適に使うことができました。8月など猛暑の中でどれくらい使えるかは未知数ですが、筆者はエアコンとの併用で真夏でも快適に利用できるのではないかと考えます。エアコンの冷房設定温度をやや高めにして、暑がりのお父さんのスポット冷房機器として使ったり、冷房が効きにくいキッチンや、エアコンのない脱衣場などで一時的なクールダウンに使うなど、マルチに活躍しそうです。もちろんエアコンによる冷房が苦手な人にもぴったりのアイテムです。
火を使うキッチンは真夏にはかなりの暑さに。「ここひえ」があれば、そんな暑さをかなり軽減できそうです
モバイルバッテリーとUSB接続すれば、屋外での使用も可能。ベランダで使ったり、夏のキャンプのテントの中で使ったりと、利用シーンの幅が広がります
やや残念なのは、首振り機能が付いていないところ。扇風機のように広範囲に首を振る必要はないですが、睡眠中など同じ場所を長い時間冷やしすぎないように、少しだけ送風の方向を自動で変える機能があればいいなと思いました。ただ、そうなると価格も1万円を超えそう。なんとも悩ましいところです。
最近は小型のUSB扇風機やダイソンの新しい空気清浄機など「パーソナルユース」を意識した製品がトレンドになっていますが、「ここひえ」もまさにその流れに乗った製品。価格も8,000円強(2019年6月末時点の直販価格)と手頃ですし、まずは一家に1台、気に入ったら2台、3台と買い足す、そんな使い方(買い方)もアリだと思います。
雑誌やWeb媒体において、生活家電の紹介記事やお試し記事を執筆。家電ジャンルは調理家電から掃除機、美容・健康家電など幅広くこなす。夫婦共働きのため、調理など家事も応分に担当(ただしあくまでダンナ目線)。立食いそばも好き。