映画やドラマの中に映る家電製品は、登場人物の暮らしぶりを表現するアイテムとして、ときに時代を象徴する小道具として登場してきた。本企画では、そんな風に、エンタメ映像作品で使われた家電製品の存在を掘り起こしていきたい。今回は、映画監督・園子温の代表作「冷たい熱帯魚」に登場した「食洗機(食器洗い乾燥機)」に注目しよう。
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まずは映画の紹介をしよう。主人公は、小さな熱帯魚屋の店主・社本(吹越満)。再婚した年下妻と、それに反抗する高校生の娘の間で板挟みになる毎日を送り、言いたいことが言えない弱気で冴えない中年男性だ。
温かな家庭を夢に見ながらも、現実は崩壊した自分の家族をどうにもできないまま暮らしている社本。そんな彼が、娘の万引きをかばってくれたことを機に知り合ったのが、大型熱帯魚屋の経営者・村田(でんでん)。
おしゃべり好きで明るく気さくな村田に、社本とその妻や娘は心を許し、共に熱帯魚の繁殖ビジネスに関わっていく。しかし村田夫妻は、自分たちの仕事に関わるじゃまな人間を次々と殺害していく凶悪殺人犯だった。実際に村田が殺人を犯すところを見てしまった日から、社本と家族はその狂気に巻き込まれていく……。
Blu-ray Disc「冷たい熱帯魚」●価格:6,270円(税込)●品番:BBXN-1047●発売元:日活●販売元:ハピネット●仕様:16:9 ビスタサイズ 2層/1枚組●オーディオ:オリジナル日本語/ドルビーTrueHD 5.1chサラウンド、日本語(オーディオコメンタリー)/ドルビーデジタル2.0chステレオ●時間:146分●監督:園子温●キャスト:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲
あらすじはそんなところだ。本作が公開されたのは2010年。14年も前の作品であるが、今見ても十分に楽しめるし、後述する家電製品のおかげで当時の時代性も垣間見えて面白い。
ストーリーは現実に起きた事件をモチーフにしており、俗に言う「埼玉愛犬家連続殺人事件」(1993年に発生)がベースにある。事件の概要を説明すると、当時、犬猫の繁殖ビジネスを手掛けていた埼玉県在住の夫婦が、外国犬の取り引きでトラブルになった客を殺害し、自ら遺体を解体して証拠を隠滅、被害者が失踪したように見せかける偽装工作を行った。それを皮切りに、自分たちのビジネスでじゃまな人物を連続して複数人殺害していったものである。
特に事件を強く印象付けているのが、犯人夫婦の遺体処理方法だ。被害者を殺害した後、遺体を自分たちで細かく解体し、骨が灰になるまで焼却し尽くして山林や川に遺棄することで、「遺体なき殺人」を実行したのである。これを、夫のほうが「(被害者の)ボディを透明にする」と表現したらしいことが伝わり、世間を震撼させた。
そしてこの事件が監督・園子温の琴線に触れたようで、後年、「冷たい熱帯魚」が生まれる。上述のとおり、映画では殺人犯夫婦の仕事が犬猫の繁殖ビジネスではなく熱帯魚屋に変更され、夫のほうを俳優・でんでんが演じた。
何がすごいって、主演の吹越満がすばらしいカメレオン俳優であるのは周知の事実として、どちらかと言えば好々爺的なイメージがあると思われるでんでんを、狂気の殺人者として使ったこと。筆者は本作を見て完全にでんでんの虜になり、映画好きな友人との飲み会で本作の話題が出るたび、「あのときの、でんでんがさぁ」と熱く語ってきた。とにかく「冷たい熱帯魚」と聞いたら反射的に「でんでん」と口走ってしまうくらいには大きい存在である。
でんでんに話が逸れてしまったが、本題はここから。園子温は、家族の機能不全感を食卓シーンで表現するのが神がかり的にうまい映画監督だ(「紀子の食卓」というそのものズバリなタイトルの名作も手掛けている)。「冷たい熱帯魚」では、冒頭からこの機能不全演出が炸裂しており、そこで家電製品が効果的に使われている。
映画は、主人公・社本の再婚相手である若妻(神楽坂恵)が、スーパーで冷凍食品やレトルト食品をバンバン買い物かごに入れていくところからスタート。続いて、ジメジメと暗い雰囲気の台所にある食卓のシーンに移り、レトルトのご飯やおかずが電子レンジで温められた後、雑に皿に盛り付けられ、それを会話少なにもぐもぐ食べる家族3人の姿が映る。途中で娘の携帯電話に彼氏から着信があり、夕飯の最中にも関わらず娘は出かけていく。完全に親をナメきっているのだ。
食事が済むと、汚れた皿は流しに備えられた卓上型の食洗機に入れられ、「ギュウウウウイ〜」と大きな音を立てて洗われる。無表情の若い妻が、家族のために料理や食器の片付けをすることは一切ない。
……と、こんな具合だ。古めかしい日本家屋の台所に備え付けられた、どこか場違いな食洗機が、冴えない男やもめの家に嫁いできた若妻の存在とシンクロしている。そして、食器の洗浄中に鳴る「ギュウウウウイ〜」という稼働音が、バラバラになっている家族の不穏な様子にかぶさり、見る者の恐怖心を掻き立てるという演出が見事すぎる。確かに、「食洗機の稼働音は大きい」というのはユーザー共通の認識であろうが、この「音量」をここまで効果的に使うとは。
実際の世の中では、食洗機は忙しい主婦・主夫の家事を助けてくれる便利な家電として認知されているわけだが、この映画の中では、機能不全に陥った家庭の姿を象徴しているのが興味深い。プラスイメージのある家電製品が、あえてマイナス方向の演出に使われることで異様さが浮き彫りになっている。
なお、ここで登場する食洗機のメーカーはナショナル(National)(「NP-60SS5」あたりのシリーズと思われる)。ちなみに、電子レンジも同じくナショナル製だ(こちらは「NE-NS70」あたりのシリーズと思われる)。ご存じのとおり、ナショナルブランドは2008年に廃止することが発表され、現在はパナソニックブランドに統一されている。「ナショナルの食洗機を使う妻」というキャラクター付けに、過ぎ去った時代性が垣間見えるのも面白い。そもそも、妻が皿洗いをしないことがマイナスに見えるという感覚自体、今ではもう少々古くなっている。
ナショナル(当時)「NP-60SS5」
元々、一般家庭向けの食洗機はナショナルも含むパナソニックグループが牽引してきた分野で、古くは1960年から製品が存在する。映画「冷たい熱帯魚」が公開された2010年は、ちょうど同社が食洗機の生産を開始して50年という節目の年でもあった。
当時の同社発表によると、1999年に卓上型「NP-33S1」と、ビルトイン型のプルオープンタイプ「NP-P45X1P1」を業界に先駆けて発売したことにより、食洗機市場は急速に拡大。2006年には生産累計500万台を達成したという(パナソニックのプレスリリース)。同時に、共働き世帯の増加にともなって、「あったら便利な家電」との認知が進んで今にいたる。映画ではまさに、一般家庭に食洗機があるのがそれなりに当たり前となった当時の世相を象徴していたわけだ。
ちなみに、「冷たい熱帯魚」にも登場する卓上型の食洗機は、元々設置する際にキッチンの水道の分岐工事が必要である。これは、卓上型の食洗機を導入するうえで長らくハードルのひとつだったが、2018年に分岐工事が不要のタンク式卓上型モデルがSKジャパンから登場。それと前後してアクアや東芝、シロカ、アイリスオーヤマ、サンコーなどが次々とこの市場に参入し、現在では一気に選択肢が増えた。
食洗機が家にあれば、食事を終えた後の食器洗いはそっちに任せて、子どもと遊んだり夫婦で会話をしたり、家族とゆっくりコミュニケーションを取る時間が作れる。そう、現実の食洗機は、家庭を円満に導いてくれる家電製品なのだ。
最後に、価格.comで注目の卓上型食洗機の現行モデルを紹介して、本記事を締めくくりたい。映画「冷たい熱帯魚」における食洗機の見事な演出に唸りつつ、ひとりの家庭人として食洗機を堂々と活用して、楽ちんな暮らしを享受しよう。
パナソニック「NP-TCR5」
本体サイズ470(幅)×460(高さ)×300(奥行)mmの3人用モデル。分岐水栓タイプなので、取り付ける際には水道の工事が必要となる。食器18点が一度に入るのが特徴で、直径約24cmの大皿や、小さいまな板(18.5×18.5cm)も洗えるようになっている。洗浄全コースにおいて、50度以上の高圧水流で洗いながらしっかり除菌できる「ストリーム除菌洗浄」に対応。ドアは前開き式。
パナソニック「SOLOTA NP-TML1」
「ひとり暮らし向けのパーソナル食洗機」として開発されたモデルで、着脱可能なタンク式を採用し、分岐水栓工事が不要。食器点数は最大6点まで対応している。使用水量は約2.5Lで、高温高圧水流で洗い上げるだけでなく、「ストリーム除菌洗浄」機能も搭載。乾燥機能も付いており、そのまま食洗機内で保管できる。ドアは前開き式。
サンコー「ラクアmini Plus TK-MDW22B」
食器の対応数は11〜12点(1〜2人用)のタンク式モデル。庫内上部にもノズルを装備することで、Wノズルの上下囲み洗いを実現する。加えて、最高温度75度の高温洗浄機能を搭載しており、洗浄力を高めている。バケツでも排水できるので、シンク横だけでなくラックなどに置けるのもポイント。
AQUA「ADW-L4-W」
食器点数40点(約5人分)に対応する大容量モデル。食器を洗い上げて除菌もできる「クワトロシャワー除菌洗浄」機能を搭載する。また、食器を洗浄後にUV-C波長の紫外線ライトを当てる「UVライト」と、運転後に自然乾燥をうながす「自動ドアオープン」の2つのオプションモードに対応。
シロカ「SS-MH351」
タンク式と分岐水栓式のどちらにも対応する2ウェイタイプのモデル。対応する食器点数は36点で、4〜5人分だ。上かごを外せば27cmまでの大皿も入る。360度回転ノズルから最高75度の高温水流を高圧噴射する「トルネード除菌洗浄75」を採用。洗浄後に自動でドアが開く「オートオープン」機能に対応し、水を使わずにUVライト照射のみを行う「UV除菌専用コース」も搭載している。