安全、長寿命、小型軽量をうたう固体電池を使ったポータブル電源(ポタ電)、ヨシノ「B1200 SST」が発表された。次世代技術として注目される固体電池を家庭用製品に落とし込んだ……というわけだが、いろいろと気になることがありまくり。
1,085Wh容量のポータブル電源「B1200 SST」。296(幅)×204(奥行)×256(高さ)mmと同容量製品の中ではコンパクト。保管温度範囲が-18度から60度と広く、寒冷地や室温の上がりがちな倉庫などでも安心して使える
新製品説明会を機に、製品の輸入販売を行うヨシノパワージャパンに素朴な疑問をぶつけたところ、自宅用常設ポータブル電源選びに悩むこと数年の筆者にとって100%納得の答えが返ってきた。やはり固体電池のポータブル電源は、安全性、安定性が高く、これから選ぶならば指名買いすべきなのだ。
念のために確認しておくと、ヨシノパワージャパンは冒頭のとおりメーカーではない。アメリカに本拠を置くYoshino Technology社が発売する「ヨシノ」ブランドのポータブル電源を輸入販売する日本法人だ。
Yoshino Technology自体は2021年にアメリカで創業されたメーカー。この創業者とヨシノパワージャパンの代表を務める桜田徹氏は古くからの知り合い(留学中に知り合ったとのこと)で、日本展開に際して声をかけられたことから2023年に日本法人を設立。現在に至るという。つまり、ヨシノブランド製品は、別に「吉野さん」が作っているわけではなく、アメリカ由来ということ。
ヨシノパワージャパンは、Yoshino Technologyのカスタマーサポートやメンテナンス、ユーザーからの要望のフィードバックなどを幅広く行っている
また、Yoshino Technologyはバッテリーセルを製造する会社ではない。製品の生産自体は傘下の関連会社に委託する形とのことで、この関連会社は中国にあるようだ。この関連会社やヨシノパワージャパンをまとめて「ヨシノグループ」と呼んでいる。
中国生産という点に引っ掛かる人もいそうだが、ポータブル電源を大量生産するとなると、現在は技術的にもコスト的にも事実上中国生産に限られるというのが実情のようだ。
この点の評価はユーザーの“気持ち”に委ねられるが、テレビで言えば液晶パネル/有機ELパネルが中国や韓国生産のようなもの。ほかに選択肢がないので、ここに文句を言っても仕方がない。最終的にはアッセンブルされた製品のクオリティーが重要という点はテレビもポータブル電源も変わらないはずだ。
なお、バッテリーセルを製造する関連会社は、ポータブル電源向け固体電池をYoshino Technologyに対して独占供給しているという。
手前がヨシノの三元固体電池のバッテリーセル。中央がポータブル電源の主流と言えるリン酸鉄リチウム電池で、奥が以前よく使われていた三元系リチウムイオン電池
冒頭のとおり、ヨシノのポータブル電源は固体電池の技術を使っていることが何よりの特徴と言える。固体電池とは中の電解質が液体ではなく固体の電池のこと。電解質を難燃性の固体とすることで、液体電解質で懸念される問題(蒸発や発火)を避けられるというものだ。
発火などの危険性が低いという意味で安全性が高いだけでなく、耐熱性や安定性が高いため、エネルギー密度の高い材料を使うことが可能で、バッテリーセルを小型軽量化できるのがメリット。さらには長寿命も期待できるという。
表の左がヨシノの「三元固体電池」の特徴。現在主流のリン酸鉄リチウムイオン電池よりもサイクル寿命(充放電の回数)が長く、低温や高温の場所にも耐えられる。ただし、価格は高め
ここで、テクニカルなことを気にするマニアはヨシノの製品は「全固体電池」なのか? を気にしているようだ。固体電池と呼ばれるものの中には電解質の液体比率で「半固体電池」「固体電池」「全固体電池」という区分があるというのだ。
ヨシノパワージャパンによれば、上記の明確な区分(液体比率が何%以下を「全固体電池」と呼ぶか?)が業界団体などで定義づけられているものではないという。したがって、時代とともに(事実上の)定義が変わっていく可能性がある。そこで、ヨシノパワージャパンでは自社の製品を「三元固体電池」と呼ぶことにしたと説明してくれた。
「液体比率0%の『全固体電池』こそ至高」と主張する人がいるかどうかはわからないが、ヨシノ製品のこれまでの固体電池ポータブル電源は、すべて液体比率5%以下とのこと。0%ではないものの、誠実に数値を公表している。
左から「固体電池」「半固体電池」「(ヨシノの)固体電池」の特徴。内部での電子移動距離が短く、(エネルギーの)損失と発熱が少ないという
液体比率にこだわる理由は、安定性ひいては安全性を気にしてのことなのかもしれないが、その点、ヨシノでは安全性試験を入念に繰り返していることをアピールしている。ちゃんと安全性が確保されている、その事実こそ重要なのであって、5%以下の固体電池を「半固体」とするか「全固体」とするかは、いち末端ユーザーの筆者にとってはそれほど重要なことではないように思える。
落下テストのほか、過酷な状況下でも問題がないことを検証し、安全性を確保しているとのこと
釘を刺しても発火しない(30分)という検証もされている
固体電池は長寿命とされているが、製品上、本当にそうなのか?
ヨシノの固体電池の特徴がわかったところで、気になる製品スペックについて聞いてみた。まずは思ったより長寿命ではない、という点だ。「B1200 SST」の充電サイクルは4,000回とされている。「充電を使い切ってから100%の充電にチャージする」これを1サイクルとしたとき、4,000回以上使えますよ、ということだ(厳密には「充電を90%以上使い切ってから100%充電を繰り返したとしても、4000回以上の充放電を耐えます」としている)。
4,000回使うとどうなるかというと、バッテリーの容量が80%程度になる。スマートフォンのバッテリーが“へたった”状態と同じということだろう。急に製品を使えなくなるというわけではない。
確かに4,000サイクルという数字は大きい。1日1回の使用(放電)と充電を繰り返しても10年以上使える計算だ。しかし、現在主流のリン酸鉄リチウムイオン電池でも4,000サイクルをうたう製品は結構あるのだ。固体電池の長寿命に期待しているユーザーはいるはずだが、数値上では固体電池の優位性がないように見える。
そういう理解でよいのでしょうか? というストレートな疑問に、ヨシノパワージャパンはちゃんと答えてくれた。教えてくれたポイントは、固体電池は大電流に強いということ。
確かに「サイクル」の理解は上記で間違いないそうなのだが、ヨシノの製品では「Cレート」を「1」で検証しているという。「Cレート」とは電池の充電や放電の速度を表す数値のこと。「1C」は定格容量を1時間で充電(または放電)する電流値となる。
この「1C」というのは業界の一般的な数値よりも高めの設定だそうだ。たとえば、スペックを公開している他社製リン酸鉄リチウムイオン電池のシートを確認すると、確かに「0.33C」でサイクルを表示したデータもある。もし「0.33C」で3,000サイクル使うと容量が80%になるというデータがあった場合、約3時間かけて行う充電を3,000回繰り返すと容量が80%になりますよ、ということだ。あくまで一般論ではあるが、このスペックの製品で3,000回(約1時間で満充電になるような)急速充電をすると、残容量はもっと少なくなることが想定されるという。
「急速充電でこれほどのサイクル数を実現できるのはこの電池技術だけ」とされている
ややこしい話だが、重要なのはヨシノの「B1200 STT」は毎日急速充電しても4,000回以上使えるということ。よそ様はどうか知りませんが、ヨシノの製品は4,000回「急速充電」をできますよと(「B1200 SST」は0〜80%までの充電を1時間で行える)。そうであれば、確かに寿命の面でも固体電池に優位性があると思える。他社製品の「Cレート」は必ずしも開示されていないだろうが、気になる人は表示「サイクル」が急速充電を前提にしているか? 確認してみてもよいかもしれない。
しかし、「サイクル」のカウントの仕方に充電速度(電流の大きさ)が関わってくるとは考えたことがなかった。言われてみれば確かにそうなのだが……。これも業界の基準が定まっていない、発展途上のカテゴリーでの“あるある”なのかもしれない。ヨシノももっとアピールしてよ! なんなら「0.33C」で計測したデータも開示してくれればいいのに。
左が1,085Wh容量の「B1200 SST」で右が602Wh容量の「B600 SST」。容量を増やしながら基本本体サイズは同じ
安全性、安定性が高く、急速充電を4,000回繰り返しても大丈夫。この時点で固体電池やるじゃん! と感心しまくりだが、もっと小型化できないものなのだろうか。高エネルギー密度で、従来品よりも小型化できるとされているわりに、ヨシノの製品はそれほど小さくは感じられない。
そのあたりの不満を汲んだかどうかは知らないが、「B1200 SST」は従来品よりも小型軽量化を果たしている。サイズは296(幅)×204(奥行)×256(高さ)mm。1,085Wh容量のポータブル電源としてはかなり小さいという。ヨシノパワージャパン調べではあるが、2025年4月時点で1,000Wh帯のポータブル電源として「世界最小」をうたう。
「B600 SST」の両サイドには、肩掛けストラップ用のピンが付いていた。「B1200 SST」ではこれを省略。金型を変更してまで、とにかくコンパクトな使いやすさが追求されている
コンパクトさについては「TUV SUD(テュフ ズード)認証」のS級を取得。ポータブル電源のコンパクトさを証明する認証で、取得時点でのS級取得製品は「B1200 SST」のみとのこと
この点、ポータブル電源は固体電池のバッテリーセルだけで構成されるわけではないため、小型化できる範囲は現在これが限度ということのようだ。しかしながら、急速に研究が進む分野でもあるため、今後の固体電池はさらに高エネルギー密度になっていくはずとのこと。同じ容量でもさらなる小型化が当然に見えてくるそうなので、ここは次世代製品に期待したい。
ヨシノ製品は低温環境下でもすぐれた性能を発揮するという。では、保管に気を使う必要はないのだろうか?
最後に聞いたのは、「B1200 SST」を有事のために常備しておくとして、注意点はあるか? という話。これは一般的なリチウムイオンバッテリー製品と同様、充電せずに長期間放っておくのだけはNGとのこと。説明書には「3〜6ヶ月に一度、80%以上まで充電してください」と記載されている。これは現代のバッテリー製品の宿命らしい。
推奨保管温度が-18度から60度とのことだから、温度管理にあまり気を使わなくてよいのはありがたい。よほどの寒冷地でない限り、低温すぎることはないだろうし、保管場所の温度が上がりやすいとしても、ある程度は放っておける。非常時の備えとしてポータブル電源を購入する人にとっては重要なことだろう。
バッテリーの管理はスマートフォンのアプリで行う。充電が必要なタイミングで定期的にプッシュ通知もできるとのこと。ポータブル電源は完全に非常時用で基本的には使わない、という人は本機能を使うとよさそう
非常時のためにポータブル電源を買っておくとなると、「3〜6ヶ月に一度」の充電問題だけは悩ましいなと思う。それくらいの頻度ならば……という気もするが、低頻度のイベントだからこそ、忘れてしまいそうでもある。
つまり、いちばんよいのは普段使いできること。ポータブル電源は手の届く定位置に設置して、ノートPCやスマートフォンの充電ステーションのようにしている人もいらっしゃるとのこと。ポータブル電源本体を充電しながら外部機器へ電源供給する、いわゆる「パススルー充電」にも対応しているので、確かに妥当な方法に思える。ただし、常にタコ足配線された電源タップのようにしてしまうのは避けたほうがよいそうだ。
また、雨に降られたり、粉じんが内部に入り込んだりしてしまうと、やはり故障の原因になりやすいとのこと。一般的な家電と同様、何年か使えばどこかが故障するのは珍しいことではない。長く使いたいのであれば、基本的な使い方と注意事項は守るべきだろう。10年以上使えるとは、あくまでバッテリーの“へたり”の話。やはりほかの家電同様、10年も酷使すればどこかに“ガタ”がきて当然なのだから。
左から「B300 SST」「B600 SST」「B2000 SST」「B3300 SST」。既発売製品も含めて、すべて外観デザインは「Fuseproject」が担当する。ハーマンミラーのセイルチェアなども担当する工業デザイン会社だ
「三元固体電池」を使ったヨシノのポータブル電源は、安全に使えて長寿命。固体電池技術で実現するポータブル電源のメリットをしっかりと備えた製品だった。コンパクトさという意味では期待していたほどではないものの、有事の備えとして考えた場合の重要スペックで優位性が確保されていると思う。
もちろん、どう使いたいかによって「B1200 SST」の評価は変わるかもしれない。しかし、基本的にポータブル電源を非常用として検討している筆者にとって、固体電池を使ったヨシノの製品が購入の有力候補となったことは間違いない。
ネックになる部分があるとすれば、容量と価格だろう。価格については「B1200 SST」ではかなり頑張ったとのこと。先に紹介したとおり、外観はほぼ「B600 SST」と同じ。パーツをうまく転用しつつ、大量生産によるスケールメリットを出して価格を抑えた結果、メーカー直販価格は169,900円(税込)。さらに2025年5月26日までは予約販売価格として99,900円(税込)というキャンペーンを行っている。しかも特典としてコンパクトソーラーパネルも付属する(なくなり次第終了)。これはかなりお買い得に感じられる。
あとは必要な容量次第。普段使いのためにプロジェクターを接続しようか……と検討している筆者にとって、1,000Wh前後の容量はやや心もとない。しかし、容量1,326Whの「B2000 SST」は直販価格249,900円(税込)、容量2,611Whの「B3300 SST」は直販価格499,900円(税込)とやはりかなり高額だ。大容量モデルが「B1200 SST」並みのコストパフォーマンス(価格対容量比)になれば……というのは現時点では無謀なのか。むしろ悩みが深まっている。
「B1200 SST」の予約販売価格は99,900円(税込)