ダイソンから、これまでにないスタイルのコードレススティック掃除機「Dyson PencilVac(ペンシルバック) Fluffycones」が登場しました。本機はその名のとおり、「鉛筆」のようなスリムボディの中に、これまでダイソンが培ってきた独自技術、さらにいくつもの新技術を満載した、同社の集大成モデルにして革新モデル。このレビューを書いているのはまだ同機の発売前ですが、ダイソンファンはもちろん、多くの家電好きの目を釘付けにするのは間違いないでしょう。
掃除機の常識を覆す細身ボディの「Dyson PencilVac Fluffycones SV50 FC」は、見た目も機能もインパクト抜群! 公式サイト価格は84,920円(税込)
今回はそんな「Dyson PencilVac Fluffycones」をいち早くお試しレビュー。新技術がゴミ除去性能や掃除の快適性にどのように寄与しているか、そして実際のところ、このモデルは本当に“使える”のかを見極めたいと思います。
「Dyson PencilVac Fluffycones」の特徴はまずそのスリムさ。直径約3.8cmしかない筒状の筐体の中に、ダイソン最高速である毎分14万回転のモーターを搭載し、ゴミをパワフルに吸引します。とはいえ、本体がこの細さなので、ゴミを収容するシリンダー型のクリアビンの容積の小ささは気になるところ。
「Dyson PencilVac Fluffycones」の本体サイズはヘッド部が226(幅)×157(奥行)mm。本体の高さは1,160mmでハンドルの太さは38mm。本体質量は1.8kg。充電時間の目安は約3.5時間で、運転時間は最大30分間
新開発の「Dyson Hyperdymium 140k モーター」は、直径わずか2.8cm(500円硬貨とほぼ同じ大きさ!)ながらモーター回転数は同社史上最速の14万回転/分! 従来モデルのモーターと比べて出力密度は34%向上しているとか
同機が採用した超細型のクリアビン。中に長いメッシュフィルターが見えます
さらに、クリーナーヘッドの形状も大きく変わりました。
円錐型の4つのソフトローラーブラシを2つのモーターで駆動。前後のモーターとヘッドはそれぞれ正逆に回転し、ゴミを捕集する……ということは、ヘッドが浮いているような滑らかな使い心地が話題となった「Dyson Omni-glide」と同じ方式! 前後左右・自由自在にヘッドが動く独特の操作感を踏襲しているわけです。
ヘッド裏にはなんと4つのソフトローラーブラシがぎっしり
2021年発売の「Dyson Omni-glide」は、同社で初めてヘッドが“ホバリング”する軽い操作性を実現したモデル
ちなみに本機は、ダイソン掃除機の代名詞でもある「サイクロン機構」が非搭載。それがゴミの捕集性能に影響しないのかも気になります。
本機には気流からゴミやホコリを分離しながら、フィルターの目詰まりや吸引力の低下を防ぐために開発された「Dyson 二段階リニアダストセパレーションシステム」を搭載。0.3μmの微粒子を99.9%捕集するため、サイクロンなしでも高いゴミ除去性能を誇ります
以下では、そうした特徴を踏まえ、さらにそのほかのさまざまな新機能・新技術にも触れながら、本機のゴミ除去性能や使い勝手を検証します。
今回、「Dyson PencilVac Fluffycones」でチェックする項目は以下の通りです。
【1】ゴミ除去性能
【2】操作性
【3】ゴミ捨て・お手入れのしやすさ
【4】拡張性と静音性
【5】設置性
まずは本機のフローリング上でのゴミ除去性能をチェック。
床上に重曹、ドライペットフード、ホコリやペットの毛を想定した綿ゴミ、髪の毛を模した綿糸をセットし、ヘッドの往復1回でどれくらいゴミが取れるか見てみました。
本機は2つのモーターと4つのブラシバーを搭載、モーター回転も同社史上最速と言いつつも、モーター自体の直径はわずか約2.8cm。はたしてゴミをしっかりと取り除いてくれるか、気になるところです。
フローリングの上に、右から重曹、ドライフード、綿ゴミ(少しずつちぎったコットン)、綿糸を撒き、「強モード」「中モード」「エコモード」の3段階あるうち最も吸引力の弱い「エコモード」で吸引テストを行いました
その結果、重曹、綿ゴミ、綿糸は1往復で完璧に吸引・除去。ドライフードに関しては、フローリング上でツルツルと滑りやすいため何粒かが弾き飛ばされ、吸引できませんでした。弾き飛ばされたドライフードはその後の走行で難なく除去。フローリングなら「エコモード」でも十分掃除できることが証明できました。
フローリング上でのテスト動画。ドライフード以外の3つのゴミを「エコモード」1往復ですべて取り除きました
続いてカーペットでのゴミの除去性能をテスト。従来、ダイソンのソフトローラーヘッドは一般の掃除機が採用する毛ブラシが付いていないため、カーペットの繊維にからみ付いたホコリや毛ゴミ、繊維の奥に隠れたハウスダストをかき出すのは苦手としています。
カーペット上にもフローリングと同じく重曹、ドライフード、綿ゴミ、綿糸をまき、今回は「強モード」で吸引テスト
その結果は、やはり物足りないものに・・・・・・。滑りにくいカーペット上ではドライフードは1往復でしっかり除去できましたが、重曹はカーペットの繊維の奥に沈んだ分、かなり取り残しがあり、綿ゴミや綿糸もわずかに取り残しがありました。その後も何往復かしましたが、重曹は結局除去できず。
カーペット上での吸引テストの結果。特に重曹部分が白く残っていて、取り残しが多いことがわかります
ところで本機には、アタッチメントとして「毛絡み防止スクリューツール」が同梱されています。これは、布団や布張りのソファを掃除するのに適していますが、もちろんカーペットでも使用可能。そこで同じ検証を「毛絡み防止スクリューツール」でも行ってみました。
掃除モードは「強モード」で行いましたが、今度はすべてのゴミを除去! 念のためカーペットを裏から叩いてホコリの取り残しを確認したところ、ほんのわずか微粒子ゴミが落ちただけでした。
「毛絡み防止スクリューツール」を使うと、カーペット上でも4種類のゴミすべてをしっかり除去できました
ただ、「毛絡み防止スクリューツール」は小型な分、カーペットの隅から隅まで掃除するのは大変。特に、広いカーペットやじゅうたんが何枚もある家では、それらをすべて「毛絡み防止スクリューツール」で掃除するのは骨が折れます。やはり、カーペット上に落ちたゴミをピンポイントで掃除する、という使い方が適していると言えます。
さらに、掃除機がゴミを取り残ししやすい壁際でもテストを実施。壁際に重曹とドライペットフード、綿ゴミをまき、1往復で掃除機がけ。壁ギリギリに残っているゴミをチェックしました。
壁際に重曹とドライペットフード、綿ゴミをまいて取り残しがないか検証
結果は、ブラシバーが弾いたドライフードがわずかに残っただけで、綿ゴミも重曹も壁際まで完璧に除去。本機はナイロン製ヘッドが壁に密着するため、壁と床の境目の微細なゴミまで取り除けます。筆者はこれまで多くのダイソン掃除機で壁際掃除のテストを行ってきましたが、そのなかでも本機の壁際掃除性能は群を抜いていると実感しました。
綿ゴミも重曹も取り残しなし!「エコモード」の1回の走行で、壁際まできっちり掃除できています
壁際掃除中、ブラシバーの端が壁に密着しているのがわかります
本機の操作性を格段に高めているのが、「Fluffyconesクリーナーヘッド」。前後2つのモーターで4つの「円錐型ブラシバー」を駆動。前と後ろで逆方向に高速回転し、ヘッドが床上で浮いたような状態にして掃除します。特に、ヘッドを真横にスライドできるのは秀逸。まさに、ゴミやホコリを手で払うような、直感的な掃除ができます。
前2つと後ろ2つのブラシバーが逆向きに高速回転し、前後からゴミを捕集。同時にブラシバーと床面の摩擦が低減し、ヘッドが“ホバリング状態”に。左右への首振りに加え、横へのスライドも滑らかに行えます。ヘッドは左右に180度、つまり360度回転可能です
ブラシバーの逆回転に加え、ヘッド裏の4つのキャスターにより自由自在なヘッドの動きが可能に。ちなみに、円錐型ブラシバーの端のナイロン素材はヘッド部の外側にはみ出ているため、壁際でもしっかりと掃除できるわけです
また、本機にはダイソンの「Detect」シリーズが採用する緑色LEDライトが、なんとヘッドの前後2か所に搭載されています。本機のヘッドは前後同じ構造で、つまりは「前も後ろもない」のですが、LED2基搭載は贅沢。ともあれ、このLEDライトの効果で、暗い場所だけでなく、明るい場所でもフローリング上に落ちているホコリや微細なハウスダストがはっきりと見え、掃除後はゴミがなくなったことを視認できます。
ヘッドの前後2か所にLEDライトを搭載することで、ヘッドを往復させなくても「前にゴミがあること」と「ヘッド通過後にゴミが除去できたこと」を一度に確認できます
さらに本機は、本体ハンドル部分を床面に180度フラットに寝かせても、ヘッドが浮かずに掃除ができます。その際の高さは最大約9.5cm。筆者宅のスチールラックの下が高さ10cm前後なので試しに掃除しましたが、奥までスムーズに到達しました。さらに、ここでヘッドを左右にスライドできるメリットを実感。一度ヘッドを奥の壁際まで進めたら、そのまま横にずらすだけでラックの下の隅々まで掃除できました。
スチールラックの下を掃除。ラックの下でもヘッドは“ホバリング状態”なので、左右にスライドするのも力いらず。掃除の手間がまさに“半減”、いや“激減”しました!
以上のように、本機の操作性に関してはほぼ文句はないのですが、唯一本体をスタンドから外して掃除場所まで持ち運ぶ際に若干の重さを感じました。また、ヘッドは奥行が約15.7cmあり、一般のコードレススティック掃除機なら入るすき間に入らない場合が若干ありました。
ブラシバーが2列装備されているため、ヘッドの奥行はやや大きめ。とはいえ、ほかのコードレススティック掃除機が入れて本機が入れないすき間は、筆者の自宅では数か所しかありませんでした
連続稼働時間は、「Fluffyconesクリーナーヘッド」使用時の「エコモード」で約26分、「強モード」で約9分。「コンビネーション隙間ノズル」使用時の「エコモード」なら約34分掃除できます。本体にはそのモードで掃除できる時間がカウントダウン式に表示され、あとどれくらい掃除できるかわかりやすかったです。
電源マークの上の青いボタンがモード変更ボタン。「エコモード」「中モード」「強モード」と変えると、それぞれの掃除の残り時間が表示されます。アタッチメントをモーター非搭載の「コンビネーション隙間ノズル」に変えても、それに合った残り時間を表示
「Dyson PencilVac Fluffycones」を最初に見て気になったのは、ゴミ捨てをひんぱんにする必要がありそうだということ。確かに、本機のシリンダー式クリアビンの容積は0.08Lと少なめですが、本機ではゴミが圧縮されるので、その5倍のゴミが溜められます。
モーター吸引されたゴミは、空気圧縮されながらシリンダー式クリアビンの上側から溜まっていきます
また、本機のゴミ捨てはほかの製品と比べると圧倒的に簡単。本体(クリアビン)からヘッドを外し、クリアビンを一度前に押し出して戻すだけで中のゴミを排出できます。その際、クリアビンの先端をゴミ箱やゴミ袋の奥に突っ込んでおけば、ゴミ捨て時のホコリの舞い上がりも防げます。
本体の赤いボタンを押しながら(左上)、クリアビンを前に出すと(右上)、ゴミが前方に移動。クリアビンを戻す際にゴミだけが前方に留まり、そのまま外に捨てられます(左下)。細長いクリアビンはゴミ箱の奥に押し込んでゴミ捨てするとよいでしょう(右下)
ちなみに、ダイソンのほかの製品を含め、多くの掃除機はダストカップにゴミが溜まりすぎると、メッシュフィルターなどに毛ゴミが固まり、捨てにくくなるため、ある程度溜まったらゴミ捨てするほうがラクでした。
いっぽうで本機は、ゴミの圧縮機能に加え、ゴミ捨て時にクリアビン内のゴミをこそぎ取る仕組みが付いているため、クリアビン内にゴミがたくさん溜まってもしっかりと捨てられます。実際、筆者宅でのゴミ捨て頻度は2〜4日に1回程度。ほかの軽量コードレススティックと比べても、「ゴミ捨て回数がすごく増えた」感覚はありませんでした。
お手入れのしやすさに関しては、何より「Fluffyconesクリーナーヘッド」が毛がらみしないのが秀逸。筆者は本機を1週間以上使用しましたが、ブラシバーに毛がからむことはまったくありませんでした。
これには、毛がからみにくいナイロン製ブラシバーの材質に加え、円錐の先端が外に向けられている形状が大きく寄与しています。この形状により、吸引できずにブラシバーに巻きついた毛ゴミはブラシの回転により外側に移動。外に移るにつれてブラシの径が小さくなるため、毛ゴミのからまりがゆるんで、最後にはブラシバーの外側に押し出されるのです。
化学繊維の人工毛を床にまいて吸引テスト。ブラシバーにからんだ毛はまとまりながら外側に移動し、バーの端から外に出ていきます
また、布団掃除やカーペットの掃除に使う「毛絡み防止スクリューツール」も毛がらみはほとんどなし。ヘッドの毛がらみ除去の手間からは、ほぼ解放されました。
ソファとベッドを掃除した後の「毛絡み防止スクリューツール」。ブラシに毛はほとんど付いていません
掃除機本体のお手入れについて。フィルター付きクリアビンは水洗いできます。また、長く使っているうちにペットの毛やホコリがだんだん付いているメッシュフィルターは、定期的なお手入れが必要です。
クリアビンは細長く、中を掃除するのは面倒に見えますが、水で洗い流せるので助かりました
次に掃除の拡張性について。本機は「コンビネーション隙間ノズル」と「毛絡み防止スクリューツール」とが付属しています。
「コンビネーション隙間ノズル」(左)と「毛絡み防止スクリューツール」(右)
「毛絡み防止スクリューツール」を使ってベッドを掃除。長さがある分、遠くまで掃除できるのは便利ですが、小回りは利きません
「コンビネーション隙間ノズル」で天井掃除。長さがあって高い場所も掃除しやすいです
ただし、本機をハンディ掃除機として使うのにはやや問題あり。アタッチメントツールを接続する前の本体の長さがすでに約94cmあるため、棚の上や卓上を細々と掃除するのには向いていません。
「毛絡み防止スクリューツール」でソファを掃除。本体が長すぎて若干扱いにくかったです
やわらかいベッドの上では、「毛絡み防止スクリューツール」のベースプレートの角度を手動で変える必要がありました。本体が長いため、掃除中にベースプレートの角度が正しいかを確認しにくいのも残念・・・・・・
ちなみに、本機はBluetooth接続によりスマホアプリ「My Dyson APP」と連携。筆者が本機を試していた時点ではまだ発売前だったため、アプリ連携はできませんでしたが、メンテナンスの時期や方法をアプリ画面で確認したりできるようです。
アプリを通じて、運転モードを設定したり、メンテナンスの時期や方法を確認したりできます
静音性に関しては、本機の運転音は比較的静かな印象。デジタル騒音計で運転音を測定しましたが、掃除前の約34dBの環境で「エコモード」では65dB前後、「中モード」では66dB前後、「強モード」では69dB前後でした。特に「エコモード」や「中モード」では耳障りな高音が少なめだと感じました。
本機の充電スタンドは、幅約25×奥行約30cmと省スペース。2つのアタッチメントも本体と一緒にスタンドにセットしておけます。本体はスタンドに強力マグネットで固定する方式。フックに引っ掛ける必要がないため着脱がスムーズで、セット後はズレたり外れたりすることなく、安定していました。
スタンドには、本機に付属の2つのアタッチメントをセットするためのホルダーを同梱。ただ、このホルダーに少々ぐらつきがあるうえ、アタッチメントをホルダーにロックできるわけでなく、穴に挿す仕様なので外れやすいのが気になりました。
本体が細いうえにスタンドもシンプル。部屋置きしても圧迫感をあまり感じないのが好印象です
スタンドにセットした掃除機本体は、ハンドルを少し前に傾けるだけでマグネットが外れて取り出せます。収納時はスタンドに掃除機を近づければ、マグネットによって強力にロック!
アタッチメントをセットするホルダーがどうもグラグラして不安定。ちょっとぶつかるとすぐにアタッチメントごと倒れるので、改善を希望!
本機を試して感じたのは、何より「掃除が楽しい」ということ。ヘッドを滑るように動かし、LEDライトが照らし出すホコリを素早く掃除する感覚は、一度体験するとクセになります。特に、ラック下など高さのないスペースでもヘッドを自在に動かせるのには驚きました。ゴミ捨てが簡単なことも掃除が楽しいと思えた大きな理由のひとつです。
ゴミ除去性能に関しては、フローリング上ではほぼパーフェクト。個人的には壁際をほぼ完璧に掃除できたのが秀逸でした。
掃除機のメンテナンスでは、ヘッドの毛がらみ除去の大変さがしばしば問題になりますが、本機の「Fluffyconesクリーナーヘッド」はほぼ毛がらみがありません。
シンプルなスリムデザインも掃除するモチベーションを上げてくれる重要な要素。部屋置きして圧迫感がないのもうれしいポイントです。
以上のレビューを踏まえつつ、この掃除機はどんなユーザーにおすすめか考えてみました。
まず、連続稼働時間が短めであることや、クリアビン容積がそれほど大きくないことを考えると、本機は汚れが目立つ場所をその都度掃除したい、という人に最適。ただし、間取りが2LDKくらいまでの家なら、全部屋をしっかり掃除する目的にも対応できそう。いっぽう、カーペットが多めの家にはあまりおすすめできません。
さらに、本機はゴミ捨てやメンテナンスが面倒な人にも合います。筆者ももちろんゴミ捨ては好きではありませんが、本機に限ってはゴミが半分以上溜まったら捨てるという作業がまったく苦ではありませんでした。
かつてダイソンや他社から発売された“ホバリングする掃除機”は、当時は残念ながら十分な市民権を得られませんでした。今回、その自在な操作性に、高いゴミ除去性能やメンテナンス性、デザイン性を加えたことで、新たな掃除の楽しさをユーザーに提供できる一台に仕上がっていると思います。まずはその圧倒的にユニークなフォルムと独自の操作感を、量販店などで確認してみてはいかがでしょうか。