ヤマハが展開するスポーツタイプの電動アシスト自転車「YPJ」シリーズに、新モデル4車種が登場。これまでのロードバイクとクロスバイクのラインアップに、本格的なマウンテンバイクタイプの電動アシスト自転車を投入してきたのが大きな注目ポイントだ。2018年3月6日に開催された発表会で見てきた新モデルの詳細を紹介するとともに、実際に乗った所感をたっぷりお伝えしよう。
会場外には自転車の性能をチェックできるように、いくつかのコースが用意されていた
今回発表されたのは、ヤマハとしては初となる本格的なマウンテンバイクタイプの電動アシスト自転車「YPJ-XC」と、ロードバイクタイプの「YPJ-ER」、そのYPJ-ERの車体にフラットなハンドルを備えた「YPJ-EC」、そしてサスペンションやフェンダーなど充実した装備を施した「YPJ-TC」の4モデル。同社がこれまでリリースしている2モデルのスポーツタイプはバッテリー容量を抑えて軽さを優先しているが、新モデルは大容量のバッテリー(36V/13.3Ah)を採用し、100kmを超えるアシスト距離を実現した。バッテリー容量が大きくなると車重が増すという課題は、車体を軽量化することで相殺を図っている。さらに、ドライブユニットもすでに海外で販売され、高い評価を得ているものに変更。アシスト制御の精度がアップするとともに、近年のトレンドである高ケイデンスのペダリングにも対応できるようになった「YPJ」シリーズは、よりパワフルで快適な仕上がりとなった。
左から、マウンテンバイクタイプ「YPJ-XC」、ロードバイクの車体にフラットなハンドルを備えた「YPJ-EC」、装備が充実している「YPJ-TC」、ロードバイクタイプ「YPJ-ER」。サイズのラインアップは従来の2種類から、「S」「M」「L」の3種類に拡充し、乗り手の体型に合った車体が選びやすくなった
バッテリー容量は、4モデルとも36V/13.3Ah。これまで展開されていた2モデル(YPJ-R、YPJ-C)は25.2V/2.4Ahだったので、かなり大容量化された
オフロードも走行できる「YPJ-XC」に搭載されるドライブユニットは「PW-X」。マウンテンバイク向けに軽量・コンパクト化されている
「YPJ-XC」以外の3モデルには、「PWseries SE」というドライブユニットを採用。パワフルなアシストを可能にし、電動アシスト自転車らしい走りを楽しめる
走行距離やスピード、バッテリー残量などを確認できるモニター上部には、選択している走行モードに合わせてカラーが変わるLEDライトを搭載
ここからは、各モデルの特徴を試乗の様子をあわせて紹介していく。トップバッターはもっとも注目度の高い、マウンテンバイクタイプの「YPJ-XC」。120mmストロークのサスペンションをフロントにのみ装備した「ハードテイル」のYPJ-XCには、ヤマハが独自開発したアルミ製フレーム、シマノ製「SLX」グレードの変速ギアやブレーキをはじめとするコンポーネントが採用されている。「SLX」はエントリーグレードよりも上位クラスで、一般的なマウンテンバイクでは本格的にオフロードを楽しめる20万円くらいのモデルに装備されているもの。さらに、軽量・コンパクトなドライブユニット「PW-X」を搭載したことにより、「Qファクター」(左右のペダル間の距離)は一般的なマウンテンバイクに近い数値まで詰められている。YPJ-XCの希望小売価格は378,000円(税込)だが、このグレードのパーツと電動アシストが付いていることを考えると比較的妥当な価格設定と言えるのではないだろうか。
サイズ(S/M/L)は1,810/1,835/1,865(全長)×740(全幅)mmで、重量は21.2(S、M)/21.3(L)kg。アシスト最大距離は225kmとなっている。2018年7月18日発売予定
タイヤサイズは前後ともに、昨今のMTBでは主流となっている27.5×2.25インチ。フロントフォークにはロックショックス製の「リーコン」を採用している
変速ギアも、最近のマウンテンバイクでトレンドとなりつつある前側1速、後側11速の仕様。後側の最大ギアは42T、前側は36Tで、チェーンが外れにくい「ナローワイド」と呼ばれるチェーンリングを装備している
シマノ製「SLX」グレードの油圧ディスクブレーキは、オフロードでも安定した制動力を発揮する
実際に用意されたオフロードコースを走ってみると、想像していたよりもずっと楽しい。アシストが強力なので結構な急坂でもスルスルと登れるのはもちろんだが、最大出力の「エクストラパワー」モードが秀逸で驚いた。エクストラパワーモードとはペダルを踏み込んだ瞬間にアシストが立ち上がり、ペダルを止めるとその瞬間にアシストがオフになるというもの。たとえば、障害物を乗り越えた直後にカーブを曲がるようなシーンでは、乗り越える時にはアシストを利用したいが、カーブでは減速したいのでアシストは不要となる。しかし、通常のアシスト機能では障害物を乗り越えた直後にペダルをこぐのを止めたとしてもアシスト力が残ってしまうのでカーブが曲がりきれないことがあるのだ。そんな細やかなコントロールができるのが、エクストラパワーモード。これまでのマウンテンバイクタイプの電動アシスト自転車は「登りはラクにして下りを楽しむ」スタイルだったのに対し、YPJ-XCは自転車としての“操るおもしろさ”をアシストを利用しながら実現しているのが画期的だ。
前日の雨でぬかるんでいて滑りやすい個所もあったが、トラクションを的確にコントロールできるので登りやすい
続いては、ロードバイクタイプの「YPJ-ER」。2015年に発売した「YPJ-R」の派生モデルで、バッテリー容量が25.2V/2.4Ahから36V/13.3Ahに大幅アップしたのが最大の特徴だ。最大242kmのアシスト走行が可能となったため(YPJ-Rは最大48km)、長距離ツーリングにも出かけられる。ただ、その分車量が3kgほど増してしまった。これは、「アシストが切れる24km/hを超えてもロードバイクらしい走行ができる」ことを目指したYPJ-Rとは異なり、「アシスト可能な速度で走り続けることができる」ことに重きを置いた結果。タイヤも700×35Cに太くなっており(YPJ-Rは700×250C)、ロードバイク初心者でもより乗りやすくなった印象だ。
サイズ(S/M/L)は1,745/1,760/1,770(全長)×440/Sサイズのみ420(全幅)mmで、重量は19.6(S、M)/19.8(L)kg。希望小売価格は345,600円(税込)で、2018年6月11日発売予定
ドロップハンドルは初心者でも握りやすいように、湾曲部分を小さくした設計となっている
コンポーネントはシマノ製の「ティアグラ」。変速段数は前2段、後10段の20段だ
試乗ではスペース上、あまりスピードを出すことはできなかったが、低速から強力なアシストを感じることができた。車体は若干重くなっているが、アシスト力がパワフルなので軽快に走行可能。アシストをオフにしても車体の軽さを生かして走れる現行モデル「YPJ-R」のほうがロードバイクらしさは味わえるが、初心者や体力に自信のない人は新モデル「YPJ-ER」のほうが楽しめるかもしれない。
20kg近い車体の重さは感じるものの、カーブを曲がる際の気持ちよさはロードバイクらしいものだった。油圧式のディスクブレーキもコントロールしやすい
ロードバイクの車体にフラットなハンドルを装備し、初心者でも気軽にスポーツタイプの自転車を楽しめるようにした「YPJ-EC」は、2016年に登場した「YPJ-C」と同じカテゴリーとなる。ロードバイクタイプの「YPJ-ER」とバッテリーやドライブユニットは同じなため、既存のYPJ-Cよりもアシスト可能な距離が長くなったのが特徴だ(アシスト最大距離はYPJ-C が48kmなのに対し、YPJ-ECは222km)。機械式ディスクブレーキを採用するなど、全体的にコストを抑えるパーツセレクトとなっており、今回発表された4モデルで唯一30万円以下の価格設定となっている。
サイズ(S/M/L)は1,745/1,760/1,770(全長)×590(全幅)mmで、重量は19.6/19.8/19.9kg。希望小売価格は28,0800円)(税込)で、2018年6月11日発売予定
「YPJ-ER」と同じ700×35Cのホイールとタイヤを装備。フェンダーなども取り付け可能なクリアランスを確保している
コンポーネントはシマノ製「SORA」グレードで、変速段数は前2段、後9段の18段
ディスクブレーキはワイヤー引きの機械式。スタンド(オプション)を取り付けられるステーのほか、キャリアやフェンダーを装着可能なダボも装備している
YPJ-ECはロードバイクのハンドルをフラット化した「フラットバーロード」と呼ばれるカテゴリーとなるため、実際に乗ってみるとライディングポジションは、初心者に人気の高いクロスバイクよりもやや前傾になる。しかし、ロードバイクに装備されるドロップハンドルに比べると、普通の自転車から乗り換えた際の違和感は圧倒的に少ない。低速から力強くアシストしてくれ、キレのあるコーナリングも楽しめる。
パーツのグレードが低いとはいえ、ハンドリングはかなり軽快。スポーツタイプの自転車としての気持ちよさはバッチリだ
最後に紹介する「YPJ-TC」は700×35Cのタイヤやフラットハンドルを装着しており、「YPJ-EC」に似ているように見えるかもしれないが、まったく別物。フロントにサスペンション、リアにはキャリア、そして前後にフェンダーを装備した車体は、荷物を積んでキャンプに出かけることもできることをコンセプトに開発された。その他3モデルとバッテリー容量は同じなので、長距離アシストも万全だ。
サイズ(S/M/L)は1,810/1,810/1,825(全長)×590(全幅)mmで、重量は22.3/22.6(M、L)kg。アシスト最大距離は237km。希望小売価格は324,000円(税込)で、2018年6月11日発売予定
65mmストロークのサスペンションとフェンダーを装備。タイヤは700×35Cだが、かなりオフロード寄りのパターンとなっており、軽くならアクティブに遊べそうだ
コンポーネントは「YPJ-EC」と同じシマノ製「SORA」を採用。変速段数は前2段、後9段の18段となっている
キャリアの耐重量は25kg。荷物を積んだ状態でも安定した制動力を発揮できるように車体が設計されている
キャリアに荷物を積んだ状態で試乗はできなかったが、自転車の性能は存分に堪能できた。フレーム設計が独自なので、同じフラットハンドルの「YPJ-EC」よりもハンドルがやや高く、ライディングポジションが少しラクな印象。特に違いを感じたのは、ハンドリング。安定感が強く、ゆっくりと曲がっていく設定のようで、荷物を積んで長距離ツーリングするのに適していると感じた。
アシストに関しては他モデル同様にパワフルなので、荷物をたくさん積んでいても軽快に走れそう
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。