パナソニックから60万円という価格のマウンテンバイクタイプのe-Bike(本格的なスポーツタイプの電動アシスト自転車)「XM-D2」が登場。100台の限定生産であるとはいえ、60万円とはなかなかプレミアムな価格設定だ。発表会で見てきたXM-D2の詳細を、試乗でチェックした走行性能と合わせてお伝えしよう。
何よりも、60万円という価格に度肝を抜かれた人は多いのではないだろうか。カーボンフレームを採用したハイグレードなマウンテンバイクタイプのe-Bikeでも45万円前後であり、日本国内で50万円を超えるe-Bikeは存在しない。しかし、XM-D2の車体を見ていくと、その高額な価格設定にも納得ができる。まず注目すべきは、XM-D2は日本国内では初となる前後にサスペンションを搭載した「フルサス」であること。前輪だけにサスペンションを配置した「ハードテイル」よりも路面から衝撃を吸収してくれるほか、タイヤを路面に押しつけやすくなるのですべりやすさも低減されるフルサスになっただけで10万円ほど高くなる。さらに、サスペンションのトラベル量が160mmであるのもポイントだ。前後160mmのトラベル量を持つフルサスのマウンテンバイクは、電動アシスト機能が装備されていなくても35〜40万円くらいはする(XM-D2と同等グレードのパーツを備えたモデルの場合)。フレームはアルミ製だが、車体はかなりハイグレードなパーツで構成されているため、おのずと価格も高くなってくるのだろう。
100台限定販売となる「XM-D2」の価格は60万円(税別)で2019年3月1日発売予定。サイズは1,895(全長)×750(全幅)mm
160mmのトラベルを持ったフロントサスペンションは、SR SUNTOUR製の「AURON」。太いタイヤに対応した最新のBOOST規格のものだ
リアのサスペンションはRockShox製。ホイールのトラベル量はフロントと同じ160mmとなっている
前後にシマノ製「XT」グレードの油圧ディスクブレーキを採用。ディスクローター径は180mmで、前後とも対抗4ポッドと高い制動力を確保している
前後とも27.5×2.8インチの太いタイヤを採用。近年のマウンテンバイクでは増えている「27.5+」サイズで、グリップがよくクッション性も高いため、オフロードではメリットが多い
単にタイヤを太くするだけでなく、リムも太いタイヤに対応した「27.5+」規格になっているところも好印象。チューブレス対応なので、より軽くしたければ専用シーラントを入れてチューブレスでも使用できる
ホイールの軸もスルーアクスルというより剛性が高い規格に。太いタイヤに対応したBOOST規格となっている
e-Bikeには車体の価格に加え、アシストユニットやバッテリーの価格が上乗せされてくる。スポーツ自転車用に開発されたe-Bikeのアシストユニットは、軽量・コンパクトであるだけでなく、ペダルの軸(クランク)に直接アシスト力を伝える方式のため、高いケイデンス(ペダルの回転数)にも対応するほど高性能。バッテリー容量も大きいため、おそらく10万円はくだらないだろう。さらに、XM-D2が採用している「マルチスピードドライブユニット」は、電子制御で変速する変速機構を内蔵したハイパフォーマンスなもの。このドライブユニットは2018年に発売された「XM2」と同じものだが、前2段×後10段の20段変速という幅広いシーンに対応するギア比を持っているのが魅力だ。正確な価格はわからないが、普通のアシストユニットよりもコストがかかるのは間違いない。
パナソニック独自の2段変速機構を搭載したアシストユニットを搭載
リアの変速機はシマノ製の「SLX」グレードで10段変速に対応
バッテリーは12AV(36V)で、最大約107kmのアシスト走行が可能。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで約4.5時間かかる
ここまで見てきた、車体(35〜40万円)+アシストユニット&バッテリー(10万円強)をざっくりと計算しても、50万円オーバー。では、残る約10万円のコストはどこにかかっているのかというと、フレームの塗装だ。単にパールの入った紫色が塗られているだけでなく、光源や見る角度によって異なる色に見える特殊な塗装が施されている。くわしい手法は定かではないが、塗装に手間がかかるため量産できないという。これらのことを総合すると、60万円という価格設定にも納得できる。
この角度から見るとブルーに見えるフレームだが……
少し斜めから見ると紫に見える
パナソニックは2017年に「XM1」、2018年に「XM2」という2車種のマウンテンバイクタイプのe-Bikeを発売しているが、「マルチスピードドライブユニット」を搭載していることから、今回発表された「XM-D2」と仕様が近いのは「XM2」となる。筆者はXM2にも試乗しており、マルチスピードドライブユニットによりギア比が増え、登坂性能がよりよくなったことを実感した。そんなXM2と大きく違うのが、ハンドル幅。XM-D2のハンドルは60mm広い740mmとなったのだ。路面の荒れた下り斜面などではハンドルに体重をかけて車体を押さえつけて走行するため、ハンドル幅が広くなったのはありがたい。
700mmを超えるハンドルが近年のマウンテンバイクの主流。740mmのハンドル幅は、車体が押さえつけやすく、それでいて木の間をすり抜ける際などにもじゃまにならない絶妙なサイズだ
改良されたハンドル幅と、e-Bike初のフルサスのマウンテンバイクというだけで、マウンテンバイク好きの筆者としては早く乗りたくて仕方がない。発表会が行われた開場には、そんなXM-D2の性能を試せる特設コースが用意されていた。短いコースではあるが、起伏に富み、大きめのギャップやきつい登りもある。実は、パナソニックが発表会でこのようなコースを走行させることは、これまでなかったこと。このことからも、XM-D2の走行性能に絶対的な自信があることがうかがえる。
30°近くの角度がある登りも! 細かいギャップがあるので、普通のマウンテンバイクで登るのはかなりきつそうだ
早る気持ちでペダルを踏み込むと、車体はグッと加速する。アシストがあるから当たり前と思われるかもしれないが、その加速感は従来のXM2よりも強く感じられた。もちろん、アシストユニットは同じものなので、アシスト力自体は同じはず。にもかかわらず、加速感を強く感じたのは、フルサスになった影響だろう。リアのサスペンションが沈み込むことでタイヤが地面に押し付けられ、ペダルを踏んだ力とアシスト力が余すことなく路面に伝えられているようだ。ギャップがある路面やちょっと荒れているようなカーブも気にすることなく高いスピードで通過していける。前後のサスペンションが路面からの衝撃を吸収してくれるので、不安なくスピードを出すことができた。
難しいはずの最後の登りも余裕でクリアできた。わざと後輪がすべりやすい立ち漕ぎをしてみたが、全然平気!
試乗スペースには既存のXM2も用意されていたので、同じコースを走ってみた。走破はできたものの、快適さとスピードがXM-D2は別次元。ギャップを乗り越えた際の衝撃を吸収してくれることはもちろんだが、登りでも下りでも常に路面にタイヤが押し付けられている安心感があるので、安心してペダルを踏んでいくことができるのだ。サスペンションはショックを吸収するだけでなく、路面にタイヤを押し付ける働きがあることは知っていたが、アシストのあるe-MTBだとその効果をより強く体感できる。もしかすると、e-MTBはフルサスとなることで、その本領を発揮するのかもしれない。
スピードを出すようになると、ハンドルにあるボタンを押すだけで変速ができるマルチスピードドライブユニットのありがたみを痛感した。後ろの外装式の変速は、ギアを換える瞬間にペダルを踏む力を少しゆるめなければならないが、内装ギアはそれほど力を抜かなくても変速できるのが便利
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。